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10話
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今日新しい舞台のヒロイン役のオーディションの日だ。。控え室には、沢山若手からベテランまでの女優が大勢居る。もちろん、劇団主の姪のアンジェラもいる。
「わぁ、エリーゼさんだ。キレイ......」
彼女は黒髪に赤目の可愛らしい顔をしている。
「どうも」
「私、ファンなんです。エリーゼさんみたいになりたくて、女優目指しているんです」
「ありがとう」
エリーゼは彼女に手を取られ、握手した。
「私はソフィアです。宜しくお願いいたします」
「こちらこそ。よろしくね。お互い頑張りましょう」
「わぁっ! エリーゼさんからの激励嬉しすぎる。エリーゼさんも頑張ってください」
ソフィアは終始笑顔で、無邪気に手を振って離れていった。まだ幼さのソフィアをエリーゼは愛らしいと思った。
オーディションが終わった。ソフィアが挨拶に来て帰って行った。
「どうだった?」
女優仲間のオデットが声を掛けられた。
「結構イケてると思う。準主役ぐらいは取れると思う」
「自信満々じゃん」
「それだけ頑張ってきたから。オデットもそうでしょ!?」
「まあね。役のひとつぐらいは貰えると思う」
会話をしながら、劇場の外にでた。陽が傾いている。沢山のトンボが空を飛んでいる。前方には男性がいる。先程の服装とは違い、簡素な服に着替えている。服だけ見れば、とても高位貴族には見えないが、手入れされた美しい頭髪と端正な顔のせいで気高さが隠しきれていない。彼が近づいてきた。
「お疲れ様」
エリーゼにダレンは声を掛けた。
「まさかここで待っていたんですか?」
「ああ」
既に三時間は過ぎている。
「馬鹿じゃないですか? それになんでそんな服に着替えたんですか?」
「イマイチか。リゼが派手な服装は好きじゃないかと思って着替えた」
自分のためにしてくれた事を想ったら、何も言えなくなったエリーゼは黙って俯く。
「すまない......」
ダレンは自嘲と感傷の籠った笑いを零した。
「いえ、怒ってないんですよ」
「俺は人を不愉快にさせる天才らしい。好きな人を喜ばすことも出来ない」
「そんな事はありません。私が声を荒らげたのは、憂慮したからです。公爵様もお忙しいのに、そこまでしてくださらなくても大丈夫だと思ったからです」
「ダレンだ」
「............?」
エリーゼはいきなり言ったダレンが意味不明だと思った。
「ダレンと呼んでくれ」
「............」
「ダレン」
ーーまさか呼べってこと?
「ダレン」
エリーゼが名前を呼ぶと、ダレンは満足そうに頷いて、話し始めた。
「おかしいだろうが、何故かいつも君のことを心配してしまう。朝起きれば具合は悪くないか、お昼時にはご飯をちゃんと食べただろうか、夕暮れになれば無事家に家に帰ることができただろうかと気がかりが尽きない」
「ふふふっ、ダレンはまるでお母さんみたいですね」
「違う、俺は男だ。家まで送らせてくれ。仕事が手につかない」
「しょうがないですね。ところでそれはどうしたんですか?」
「エリーゼにと贈り物だ。最近人気らしい」
「まさかずっと並んでたんですか?」
ダレンは頷いた。最近、王都で人気の行列のできるショコラティエの紙袋だった。
「ありがとございます」
エリーゼはチョコレートの入った紙袋を受け取った。エリーゼはダレンのことを不器用で可愛い人だと思った。
「指輪を送って迷惑そうだったから、あまり高価な物は負担かと思ったんだ」
エリーゼは図星を疲れて気まずくて俯いた。
「ただの感想だ。責めてるわけじゃない。ただ喜んで欲しいと思っただけだから、笑顔を見せてくれるだけで充分だ」
ダレンはエリーゼが俯いたので、慌てて言い募った。それならと、エリーゼは笑ってありがとうと言った。
目抜き通りを繁華街に向かって歩く。二人には会話らしい会話もなかった。街は帰宅前の客で混雑していて、ダレンとエリーゼの距離が近くなり、時折、肩がぶつぶつかる。人に押されて距離が離れる。ダレンはエリーゼの自宅とは逆方向にいっていた。はぐれないように、エリーゼはダレンの手を握り、進行方向に引き寄せた。ダレンの体温の高い手にも、ゴツゴツした指先も、その全てにエリーゼは意識し、恥ずかしさから、急いで目抜き通りを抜けた。
人混みを抜けたエリーゼは手をすぐに離した。何故か顔を見れず、俯いたまま着いてきてくださいと言った。目抜き通りと繁華街の中間にある酒場がエリーゼの住居だ。
「ここです」
「こんな所に住んでいるのか?」
ダレンは不機嫌そうに眉根を寄せた。酒場の上階に行く階段を登る。
「治安がいい所は(家賃が)高いですし、ここはうるさいけど、夜まで下の酒場が空いているので、誰かしらの目があり、治安がいいんです」
「酔っ払いに絡まれたりしないのか?」
「しますけど、酒場の旦那さんも、女将さんも庇ってくれるので心配いりません。時々、お二人の子供の世話を頼まれるんですが、代わりに食事をいただいたりと助かっています」
心配性なダレンを気遣いい、エリーゼは詳しく離した。ドアの前に人影あった。
「ステファン!」
灰色の髪に長身で筋肉質の男は男爵家の三男で、王都で第二騎士団に所属しているエリーゼの幼馴染だった。第二騎士団は王都の警備を担っている。
「母さんが、エリーゼ持ってけって送ってきたんだ」
ステファンはエリーゼに葡萄が沢山入った籠を渡した。
「わぁ、エリーゼさんだ。キレイ......」
彼女は黒髪に赤目の可愛らしい顔をしている。
「どうも」
「私、ファンなんです。エリーゼさんみたいになりたくて、女優目指しているんです」
「ありがとう」
エリーゼは彼女に手を取られ、握手した。
「私はソフィアです。宜しくお願いいたします」
「こちらこそ。よろしくね。お互い頑張りましょう」
「わぁっ! エリーゼさんからの激励嬉しすぎる。エリーゼさんも頑張ってください」
ソフィアは終始笑顔で、無邪気に手を振って離れていった。まだ幼さのソフィアをエリーゼは愛らしいと思った。
オーディションが終わった。ソフィアが挨拶に来て帰って行った。
「どうだった?」
女優仲間のオデットが声を掛けられた。
「結構イケてると思う。準主役ぐらいは取れると思う」
「自信満々じゃん」
「それだけ頑張ってきたから。オデットもそうでしょ!?」
「まあね。役のひとつぐらいは貰えると思う」
会話をしながら、劇場の外にでた。陽が傾いている。沢山のトンボが空を飛んでいる。前方には男性がいる。先程の服装とは違い、簡素な服に着替えている。服だけ見れば、とても高位貴族には見えないが、手入れされた美しい頭髪と端正な顔のせいで気高さが隠しきれていない。彼が近づいてきた。
「お疲れ様」
エリーゼにダレンは声を掛けた。
「まさかここで待っていたんですか?」
「ああ」
既に三時間は過ぎている。
「馬鹿じゃないですか? それになんでそんな服に着替えたんですか?」
「イマイチか。リゼが派手な服装は好きじゃないかと思って着替えた」
自分のためにしてくれた事を想ったら、何も言えなくなったエリーゼは黙って俯く。
「すまない......」
ダレンは自嘲と感傷の籠った笑いを零した。
「いえ、怒ってないんですよ」
「俺は人を不愉快にさせる天才らしい。好きな人を喜ばすことも出来ない」
「そんな事はありません。私が声を荒らげたのは、憂慮したからです。公爵様もお忙しいのに、そこまでしてくださらなくても大丈夫だと思ったからです」
「ダレンだ」
「............?」
エリーゼはいきなり言ったダレンが意味不明だと思った。
「ダレンと呼んでくれ」
「............」
「ダレン」
ーーまさか呼べってこと?
「ダレン」
エリーゼが名前を呼ぶと、ダレンは満足そうに頷いて、話し始めた。
「おかしいだろうが、何故かいつも君のことを心配してしまう。朝起きれば具合は悪くないか、お昼時にはご飯をちゃんと食べただろうか、夕暮れになれば無事家に家に帰ることができただろうかと気がかりが尽きない」
「ふふふっ、ダレンはまるでお母さんみたいですね」
「違う、俺は男だ。家まで送らせてくれ。仕事が手につかない」
「しょうがないですね。ところでそれはどうしたんですか?」
「エリーゼにと贈り物だ。最近人気らしい」
「まさかずっと並んでたんですか?」
ダレンは頷いた。最近、王都で人気の行列のできるショコラティエの紙袋だった。
「ありがとございます」
エリーゼはチョコレートの入った紙袋を受け取った。エリーゼはダレンのことを不器用で可愛い人だと思った。
「指輪を送って迷惑そうだったから、あまり高価な物は負担かと思ったんだ」
エリーゼは図星を疲れて気まずくて俯いた。
「ただの感想だ。責めてるわけじゃない。ただ喜んで欲しいと思っただけだから、笑顔を見せてくれるだけで充分だ」
ダレンはエリーゼが俯いたので、慌てて言い募った。それならと、エリーゼは笑ってありがとうと言った。
目抜き通りを繁華街に向かって歩く。二人には会話らしい会話もなかった。街は帰宅前の客で混雑していて、ダレンとエリーゼの距離が近くなり、時折、肩がぶつぶつかる。人に押されて距離が離れる。ダレンはエリーゼの自宅とは逆方向にいっていた。はぐれないように、エリーゼはダレンの手を握り、進行方向に引き寄せた。ダレンの体温の高い手にも、ゴツゴツした指先も、その全てにエリーゼは意識し、恥ずかしさから、急いで目抜き通りを抜けた。
人混みを抜けたエリーゼは手をすぐに離した。何故か顔を見れず、俯いたまま着いてきてくださいと言った。目抜き通りと繁華街の中間にある酒場がエリーゼの住居だ。
「ここです」
「こんな所に住んでいるのか?」
ダレンは不機嫌そうに眉根を寄せた。酒場の上階に行く階段を登る。
「治安がいい所は(家賃が)高いですし、ここはうるさいけど、夜まで下の酒場が空いているので、誰かしらの目があり、治安がいいんです」
「酔っ払いに絡まれたりしないのか?」
「しますけど、酒場の旦那さんも、女将さんも庇ってくれるので心配いりません。時々、お二人の子供の世話を頼まれるんですが、代わりに食事をいただいたりと助かっています」
心配性なダレンを気遣いい、エリーゼは詳しく離した。ドアの前に人影あった。
「ステファン!」
灰色の髪に長身で筋肉質の男は男爵家の三男で、王都で第二騎士団に所属しているエリーゼの幼馴染だった。第二騎士団は王都の警備を担っている。
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ステファンはエリーゼに葡萄が沢山入った籠を渡した。
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