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8話 執事は主人を見て嘆息する
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「お兄様!」
頑張って家庭教師との勉強を早く終らせたジョシュアが、急いでやってきた。
「なんだ? そんなに慌てて……」
執務室のデスクで書類を処理していたダレンが顔を上げた。ジョシュアが部屋を見渡すが、目当ての人物が居らず、しょんぼりと肩を落とした。
「お姉ちゃん、帰っちゃったんだ」
「そうだな」
「また遊びに来てくれるかな?」
「どうかな。また誘ってみよう」
「うん!約束だよ」
ジョシュアはダレンに小指を出した。ダレンはジョシュアの小指に自身の小指を絡ませ、指切りして約束する歌を一緒に歌った。
「「指切った」お兄様、絶対に約束ですよ」
「あぁ、明日誘ってみよう」
「うん」
二人は再びエリーゼに会える事を願って、ジョシュアは満面の笑みで、ダレンは優しく笑った。
今日は朝から元トップ女優の演技指導の日だった。彼女の屋敷は庶民の家にしては豪華な家である。何でも伯爵の愛人だとかいう噂である。
エリーゼはドアノッカー叩いた。この家唯一のメイドが出迎えてくれた。案内された稽古場につくと……
「いらっしゃい」
元トップ女優のシャーマルさんはとても儚げな美人で守ってあげたい雰囲気がある。彼女はエリーゼが少女の時、憧れた女優さんだった。
「貴方、才能……あるわ。でも……才能だけじゃこの世界やってはいけないの」
稽古が終わって彼女はそう言った。そして儚く笑うシャーマルさんに、頷くエリーゼ。
「それでも、私は才能だけを頼りにこの世界やって行きたいんです」
真っ直ぐシャーマルさんを見つめるエリーゼ。そう……とシャーマルさんは力無く呟いた。そして、私はこの家を後にした。
一度、帰ることにしたエリーゼは、家があるアパートの前に豪華な黒塗りの馬車が留まっているのを発見した。
――あれはヒルトクライス公爵家の馬車
馬車の前には年若い執事が立っていた。エリーゼが馬車の前に着くと、執事がドアを開けた。そしてダレンが中から降りてきた。何故、ダレン直々にわざわざ会いに来るのかとエリーゼは迷惑がっていた。
「エリーゼ……また、遊びに来い」
上から見下ろされる形で威圧的言われて、エリーゼは内心不愉快だった。然し、ダレンはただ緊張していただけだった。その事に気づいている執事のジュリオは彼の不器用さに嘲笑いを堪えて見ていた。
「なぜですか?」
この幼い公爵は女性に冷たくされた事など皆無だったため、二つ返事で了承を貰えると思っていた。だから狼狽えた。
「な、なぜって……ジョッ、ジョシュアが会いたいと言っていて……わ、私も」
会いたかったなどと恥ずかしくて言えないダレンは顔を赤くする。
――断られて怒っているのね。傲慢だわ
それを可笑しく見ていた執事は助け舟を出してやることにした。
「ダレン様は、女性を誘ったことがないので緊張しているだけですよ。顔は無愛想ですが、寛大な御方です。ジョシュア様も貴方に会ったことをとても楽しそうに話しておりました。ジョシュア様が仰る通りとても美しい御方ですね」
ジュリオは人好きする笑顔を浮かべた。エリーゼはダレンがとても寛大な御方には見れなかったが、そうですかと取りあえず言っておいた。
「お時間がある時で構いませんので、是非いらしてください。貴方の身の安全は保証致しますので」
「それなら……ジョシュア様に、是非お会いしたいです」
ダレンは全く興味がなかったが、エリーゼも可愛らしいジョシュアを気にいってたため、再び訪れることを約束した。
「はぁー……」
「ダレン様鬱陶しいです」
ダレンは何度目かわからない溜息を吐いた。
「俺は嫌われているのだろうか……」
「間違っても好かれてないでしょうね。ってかダレン様の好意にすら気づいてないですよ」
ダレンは自分なりに精一杯愛情を示したつもりだったのでとてもショックを受けていた。
「家の嫁に代々受け継がれている家宝の指輪もあげたし、大事な母の形見のドレスもあげた。わかるだろ?」
「わかりませんよ。どちらもクソ重くて、負担です。今日が、初めては会ってから3度目ですよね……?」
「ああ」
「これだから恋愛初心者は……。だから適度に遊んで女慣れしとけって言ったんです」
主人のポンコツ具合に呆れたジュリオは、幼馴染の砕けた口調になる。
「馬鹿野郎! 俺は絶対に父のような女関係にだらしが無い男にはならん。一人の人を生涯愛するんだ」
女慣れしたジュリオは嘆息する。エリーゼに気がないのがわかったからだ。そしてこの調子じゃ振られるなとも思った。更に振られてヤケになったダレンが変な女に引っかからないか不安が過ぎった。
頑張って家庭教師との勉強を早く終らせたジョシュアが、急いでやってきた。
「なんだ? そんなに慌てて……」
執務室のデスクで書類を処理していたダレンが顔を上げた。ジョシュアが部屋を見渡すが、目当ての人物が居らず、しょんぼりと肩を落とした。
「お姉ちゃん、帰っちゃったんだ」
「そうだな」
「また遊びに来てくれるかな?」
「どうかな。また誘ってみよう」
「うん!約束だよ」
ジョシュアはダレンに小指を出した。ダレンはジョシュアの小指に自身の小指を絡ませ、指切りして約束する歌を一緒に歌った。
「「指切った」お兄様、絶対に約束ですよ」
「あぁ、明日誘ってみよう」
「うん」
二人は再びエリーゼに会える事を願って、ジョシュアは満面の笑みで、ダレンは優しく笑った。
今日は朝から元トップ女優の演技指導の日だった。彼女の屋敷は庶民の家にしては豪華な家である。何でも伯爵の愛人だとかいう噂である。
エリーゼはドアノッカー叩いた。この家唯一のメイドが出迎えてくれた。案内された稽古場につくと……
「いらっしゃい」
元トップ女優のシャーマルさんはとても儚げな美人で守ってあげたい雰囲気がある。彼女はエリーゼが少女の時、憧れた女優さんだった。
「貴方、才能……あるわ。でも……才能だけじゃこの世界やってはいけないの」
稽古が終わって彼女はそう言った。そして儚く笑うシャーマルさんに、頷くエリーゼ。
「それでも、私は才能だけを頼りにこの世界やって行きたいんです」
真っ直ぐシャーマルさんを見つめるエリーゼ。そう……とシャーマルさんは力無く呟いた。そして、私はこの家を後にした。
一度、帰ることにしたエリーゼは、家があるアパートの前に豪華な黒塗りの馬車が留まっているのを発見した。
――あれはヒルトクライス公爵家の馬車
馬車の前には年若い執事が立っていた。エリーゼが馬車の前に着くと、執事がドアを開けた。そしてダレンが中から降りてきた。何故、ダレン直々にわざわざ会いに来るのかとエリーゼは迷惑がっていた。
「エリーゼ……また、遊びに来い」
上から見下ろされる形で威圧的言われて、エリーゼは内心不愉快だった。然し、ダレンはただ緊張していただけだった。その事に気づいている執事のジュリオは彼の不器用さに嘲笑いを堪えて見ていた。
「なぜですか?」
この幼い公爵は女性に冷たくされた事など皆無だったため、二つ返事で了承を貰えると思っていた。だから狼狽えた。
「な、なぜって……ジョッ、ジョシュアが会いたいと言っていて……わ、私も」
会いたかったなどと恥ずかしくて言えないダレンは顔を赤くする。
――断られて怒っているのね。傲慢だわ
それを可笑しく見ていた執事は助け舟を出してやることにした。
「ダレン様は、女性を誘ったことがないので緊張しているだけですよ。顔は無愛想ですが、寛大な御方です。ジョシュア様も貴方に会ったことをとても楽しそうに話しておりました。ジョシュア様が仰る通りとても美しい御方ですね」
ジュリオは人好きする笑顔を浮かべた。エリーゼはダレンがとても寛大な御方には見れなかったが、そうですかと取りあえず言っておいた。
「お時間がある時で構いませんので、是非いらしてください。貴方の身の安全は保証致しますので」
「それなら……ジョシュア様に、是非お会いしたいです」
ダレンは全く興味がなかったが、エリーゼも可愛らしいジョシュアを気にいってたため、再び訪れることを約束した。
「はぁー……」
「ダレン様鬱陶しいです」
ダレンは何度目かわからない溜息を吐いた。
「俺は嫌われているのだろうか……」
「間違っても好かれてないでしょうね。ってかダレン様の好意にすら気づいてないですよ」
ダレンは自分なりに精一杯愛情を示したつもりだったのでとてもショックを受けていた。
「家の嫁に代々受け継がれている家宝の指輪もあげたし、大事な母の形見のドレスもあげた。わかるだろ?」
「わかりませんよ。どちらもクソ重くて、負担です。今日が、初めては会ってから3度目ですよね……?」
「ああ」
「これだから恋愛初心者は……。だから適度に遊んで女慣れしとけって言ったんです」
主人のポンコツ具合に呆れたジュリオは、幼馴染の砕けた口調になる。
「馬鹿野郎! 俺は絶対に父のような女関係にだらしが無い男にはならん。一人の人を生涯愛するんだ」
女慣れしたジュリオは嘆息する。エリーゼに気がないのがわかったからだ。そしてこの調子じゃ振られるなとも思った。更に振られてヤケになったダレンが変な女に引っかからないか不安が過ぎった。
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