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7話 ハラハラと黄色い花が落ちた
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男の子は母親である貴婦人に扇子で手を弾かれ、花を落としたのだ。
「汚い」
そう一瞥して去っていった。残された男の子は泣き出した。そしてその瞬間、ダレンは少年に向かって走った。全力で。そしてダレンは男の子を抱きしめた。ダレンの後を小走りで追ったエリーゼが、二人の元へ辿り着くと散らばった黄色い花を拾い、ダレンの顔を見た。ダレンが貴婦人を睨み付けるその鋭く氷より冷たい表情を見て、今までダレンが本気で怒ってないことを悟った。
「おかぁさまぁ~」
先ほどの貴婦人はこの男の子の母親だった。その事実を知ったエリーゼはとても寂しく感じた。
「ジョシュア……俺がいる。俺はジョシュアが大好きだから」
「あ~ん、お兄さまぁ~」
ダレンはジョシュアの背を優しく何度も撫でた。ジョシュアはダレンの上衣を固く握りしめた。
落ち着いたジョシュアはエリーゼに気づき、恥ずかしそうに俯いた。
「とっても可愛くて綺麗な花ですね」
エリーゼは髪からリボンを取り、花を結わいて纏めてからジョシュアに差し出した。ジョシュアはそれを受け取り両手で握りしめ寂しそうに呟いた。ジョシュアは目に涙がじんわりと溜ったが、零れないように堪えていた。
「お母さま、お花嫌いだったのかな」
ジョシュアの目のアンバーから中心にかけて緑色になる目の色に懐かしさを感じた。なぜならエリーゼの母の瞳の色にそっくりだったからだ。エリーゼはジョシュアに対する母親の仕打ちに怒りを感じていた。
「――そうだな。今度は宝石でも買いに行こう。それならきっと受け取ってくれるから」
エリーゼはダレンの言葉を聞いて悲しくなった。宝石という価値のある物しか受け取らない人間が……これが母親のなのかと。
「お姉さんはお花大好きだよ」
ジョシュアは無言でエリーゼを見た。
「お姉さんは舞台女優をやってるんだけど、いつか花束をファンから貰うのが夢なの」
「お姉様は女優さんなの!? すごいです!」
悲しみに満ちたジョシュアの目が瞬く。
「まだまだ端役しか貰えないのだけれど、いつかは主演張れるような女優になるわ」
「僕、今度見に行きます! お兄様、いいですか??」
上目遣いに探るようにダレンを見たジョシュアをエリーゼは憂いを帯びた目で見ていた。
「ああ」
素っ気なく答えるダレンを見かねて、エリーゼは最大限優しく見えるように、そして安心出るように笑った。
「来てくれたら、私も嬉しいわ。ねぇダレン様、是非いらしてくださいな」
その笑顔のままダレンに向き直るとダレンは顔を赤くした。
「お前はしょうがないやつだな。行くからその笑顔はやめてくれ。気分が悪くなる」
ダレンは胸がざわつき、苦しかった。そのせいで益々、眉間に皺を寄せた。
――本当は私の舞台など見たく無いのだわ
エリーゼは悲しくなったが、それならいい舞台にしてダレンをあっと言わせようと意気込んだ。
しばらく、ジョシュアとエリーゼは太陽の下で手を繋ぎ、散歩をした。家庭教師がジョシュアを迎えに来て、ジョシュアは屋敷に笑顔で戻って行った。エリーゼは手を振るジョシュアに手を振って応えた。
「ほれ」
ダレンはエリーゼを睨めつけながら、手を出した。訳がわからす、呆然とするエリーゼの手を顎で指した。
――何かしら? はっ、指輪をやっぱり返してほしいのかも……
エリーゼは差し出された手の上に、先日貰ったパープルダイヤの指輪を乗せた。
「違う、そうじゃない。そ、そんなに手を繋ぐのが好きなら、俺が手を繋いでやる」
ダレンはエリーゼの手を強引に奪い、指を絡ませた。その手は力強く熱かった。
「手をだせ」
エリーゼが左手を出すとその薬指に指環を嵌めた。
「絶対に外すなよ」
エリーゼはダレンが笑った気がして、それが物珍しくてじっくりとダレンの顔を見た。
「そんなに見るな……帰るぞ」
ダレンは顔を赤くして先導する様に半歩先に屋敷に向かって歩きだした。だからエリーゼからは顔は見えなかった。それでもダレンは強く握った手を決して離さなかった。
「汚い」
そう一瞥して去っていった。残された男の子は泣き出した。そしてその瞬間、ダレンは少年に向かって走った。全力で。そしてダレンは男の子を抱きしめた。ダレンの後を小走りで追ったエリーゼが、二人の元へ辿り着くと散らばった黄色い花を拾い、ダレンの顔を見た。ダレンが貴婦人を睨み付けるその鋭く氷より冷たい表情を見て、今までダレンが本気で怒ってないことを悟った。
「おかぁさまぁ~」
先ほどの貴婦人はこの男の子の母親だった。その事実を知ったエリーゼはとても寂しく感じた。
「ジョシュア……俺がいる。俺はジョシュアが大好きだから」
「あ~ん、お兄さまぁ~」
ダレンはジョシュアの背を優しく何度も撫でた。ジョシュアはダレンの上衣を固く握りしめた。
落ち着いたジョシュアはエリーゼに気づき、恥ずかしそうに俯いた。
「とっても可愛くて綺麗な花ですね」
エリーゼは髪からリボンを取り、花を結わいて纏めてからジョシュアに差し出した。ジョシュアはそれを受け取り両手で握りしめ寂しそうに呟いた。ジョシュアは目に涙がじんわりと溜ったが、零れないように堪えていた。
「お母さま、お花嫌いだったのかな」
ジョシュアの目のアンバーから中心にかけて緑色になる目の色に懐かしさを感じた。なぜならエリーゼの母の瞳の色にそっくりだったからだ。エリーゼはジョシュアに対する母親の仕打ちに怒りを感じていた。
「――そうだな。今度は宝石でも買いに行こう。それならきっと受け取ってくれるから」
エリーゼはダレンの言葉を聞いて悲しくなった。宝石という価値のある物しか受け取らない人間が……これが母親のなのかと。
「お姉さんはお花大好きだよ」
ジョシュアは無言でエリーゼを見た。
「お姉さんは舞台女優をやってるんだけど、いつか花束をファンから貰うのが夢なの」
「お姉様は女優さんなの!? すごいです!」
悲しみに満ちたジョシュアの目が瞬く。
「まだまだ端役しか貰えないのだけれど、いつかは主演張れるような女優になるわ」
「僕、今度見に行きます! お兄様、いいですか??」
上目遣いに探るようにダレンを見たジョシュアをエリーゼは憂いを帯びた目で見ていた。
「ああ」
素っ気なく答えるダレンを見かねて、エリーゼは最大限優しく見えるように、そして安心出るように笑った。
「来てくれたら、私も嬉しいわ。ねぇダレン様、是非いらしてくださいな」
その笑顔のままダレンに向き直るとダレンは顔を赤くした。
「お前はしょうがないやつだな。行くからその笑顔はやめてくれ。気分が悪くなる」
ダレンは胸がざわつき、苦しかった。そのせいで益々、眉間に皺を寄せた。
――本当は私の舞台など見たく無いのだわ
エリーゼは悲しくなったが、それならいい舞台にしてダレンをあっと言わせようと意気込んだ。
しばらく、ジョシュアとエリーゼは太陽の下で手を繋ぎ、散歩をした。家庭教師がジョシュアを迎えに来て、ジョシュアは屋敷に笑顔で戻って行った。エリーゼは手を振るジョシュアに手を振って応えた。
「ほれ」
ダレンはエリーゼを睨めつけながら、手を出した。訳がわからす、呆然とするエリーゼの手を顎で指した。
――何かしら? はっ、指輪をやっぱり返してほしいのかも……
エリーゼは差し出された手の上に、先日貰ったパープルダイヤの指輪を乗せた。
「違う、そうじゃない。そ、そんなに手を繋ぐのが好きなら、俺が手を繋いでやる」
ダレンはエリーゼの手を強引に奪い、指を絡ませた。その手は力強く熱かった。
「手をだせ」
エリーゼが左手を出すとその薬指に指環を嵌めた。
「絶対に外すなよ」
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「そんなに見るな……帰るぞ」
ダレンは顔を赤くして先導する様に半歩先に屋敷に向かって歩きだした。だからエリーゼからは顔は見えなかった。それでもダレンは強く握った手を決して離さなかった。
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