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6話 お茶会
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「申し訳ございませんでした」
エリーゼは手土産のチョコレートを渡し、雲の上の人物であるヒルトクライス公爵に平伏した。手には貰った指輪が輝いていた。
(う゛ぅ、沈黙が辛い)
「そんな言葉が聞きたいんじゃない」
ダレンは物憂げ表情をして目を伏せた。
(怒っているのだわ)
ダレンが溜息を吐くとエリーゼは恐怖で胸がドキドキした。エリーゼは顔を上げられずにいると抱き起こされ、ダレンの隣に座らせられた。二人の間は隙間がなく、恋人同士の距離でエリーゼは気にはなっていたがこれ以上怒らせたくない為、黙っていた。
エリーゼはダレンの横顔を盗み見れば、美しい彫刻のように表情一つ動かさずにお茶を飲んでいた。彼のあまりにも完璧な美しさに見惚れそうになった。
(ご令嬢が騒ぐのもわかるわ)
ダレンは社交界で大人気でパーティに出れば、女性が群がった。その事は、同じレベルのパーティーに参加できない下級貴族令嬢のエリーゼも聞いたことがあったのだった。
「お茶、飲まないのか?」
「いただきます」
テーブルの上にはティーカップとティースタンドがある。カップを持つと花の匂いがした。口つけようとカップを寄せれば、中には花が咲いていた。
「わぁ~すごい! 花が咲いてます。とっても可愛いですねぇ」
中には薄っすらと赤い花が紅茶の中に沈んでいた。この花が咲く工芸茶は今、王都でも大変人気で手に入らず、一つ一つ職人が茶葉を糸で縛り作る為、手間がかかる分とても高価だった。
エリーゼは予想外の出来事に顔を綻ばせ、ダレンを見た。至近距離で目が合うとすぐさまダレンは目を逸した。
「近い」
(自分が座らせたんじゃない!)
エリーゼは横柄なダレンの物言いに少し腹が立ったが、向かいのソファに移動しようと立ち上がろうとしたが、ダレンにドレスのドレープを捕まれ阻まれた。
「いい、座ってろ」
ダレンは立ち上がり長い脚で歩み、向かいのソファに腰掛けた。
「エリーゼはどんなお菓子が好きなんだ?」
エリーゼは正直名前を呼び捨てにされるのは嫌だった。なぜなら、ファーストネームを敬称無しで呼ぶのは恋仲に限らず親しさを表すからだ。美しいエリーゼは知っていた。女の嫉妬は醜く怖いことを。何故なら勝手に男性に惚れられ、女性から『泥棒猫』呼ばわりをされた事は1度や2度では済まなかったからだ。この目の前の美しい男と親しくして嫉妬を買わない訳がないとそう思った。
恋なんてくだらないとお菓子を眺めながら思ったエリーゼは、この場を社交辞令的に愛想よくしてさっさと帰ろう心に決めたのだった。
「甘い物は何でも大好きですよ」
エリーゼは愛想よく笑った。ダレンの顔が朱に染まる。
「そ、そうか、じゃあ……手違いで大量のお菓子が来てしまってな、よかったらあっちの部屋にあるから行こう」
俯き肩を震わす執事が笑いを堪えているとは気づかず、それを見たエリーゼは頭に疑問符が浮かんだ。
そこには大量のお菓子が並んでいた。
「ヘンゼルとグレーテルみたいですわね。ふふふっ、これだけあったらお菓子の家出来そうですね」
エリーゼは心行くままお菓子を食べた。
「温室を歩かないか? 今はリラがきれいなんだ」
「まぁ楽しみだわ。リラはとても香りが良いのよね」
二人はガラス張りの小さなお城のようなデザインの温室を並んで歩いた。
「そこは段差があるから気をつけろ」
「ありがとうございます」
暫く一緒にいるが相変わらず無表情なままの公爵がエリーゼを気遣う様を見て、表情は冷たいが怒っている訳じゃないかもしれないと言うことに思い至った。
白や薄紫や赤紫色のリラ――別名ライラックが葉はハートの形をしており、花は葡萄のように房咲きで咲いている。
エリーゼは花に顔を寄せ、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「いい匂い」
「あぁ、とても愛らしい……」
見惚れた様に息を吐いたダレンを見て、エリーゼはよほど花が好きなのかと思った。だが、ダレンがみているのは花ではない。
「えぇ、この小さな花が可愛らしいですね」
「ち、違う」
「何がですか? お花以外に愛らしい物など……」
「……お、お前が……」
「私が……ですか?」
エリーゼは首を傾げた。
「いや! 何でもない!」
ダレンはエリーゼを置いて先を歩いた。
「お母様~!」
遠くで幼子の声がした。そこには貴婦人を追いかける少年――少年と言うにはまだ幼い男の子が居た。
「見てください! 綺麗でしょう。お母さんにあげます」
男の子は黄色い花を持った手をを差し出したが……それは母親に届くことなく弾かれて花は地面に落ちた。
エリーゼは手土産のチョコレートを渡し、雲の上の人物であるヒルトクライス公爵に平伏した。手には貰った指輪が輝いていた。
(う゛ぅ、沈黙が辛い)
「そんな言葉が聞きたいんじゃない」
ダレンは物憂げ表情をして目を伏せた。
(怒っているのだわ)
ダレンが溜息を吐くとエリーゼは恐怖で胸がドキドキした。エリーゼは顔を上げられずにいると抱き起こされ、ダレンの隣に座らせられた。二人の間は隙間がなく、恋人同士の距離でエリーゼは気にはなっていたがこれ以上怒らせたくない為、黙っていた。
エリーゼはダレンの横顔を盗み見れば、美しい彫刻のように表情一つ動かさずにお茶を飲んでいた。彼のあまりにも完璧な美しさに見惚れそうになった。
(ご令嬢が騒ぐのもわかるわ)
ダレンは社交界で大人気でパーティに出れば、女性が群がった。その事は、同じレベルのパーティーに参加できない下級貴族令嬢のエリーゼも聞いたことがあったのだった。
「お茶、飲まないのか?」
「いただきます」
テーブルの上にはティーカップとティースタンドがある。カップを持つと花の匂いがした。口つけようとカップを寄せれば、中には花が咲いていた。
「わぁ~すごい! 花が咲いてます。とっても可愛いですねぇ」
中には薄っすらと赤い花が紅茶の中に沈んでいた。この花が咲く工芸茶は今、王都でも大変人気で手に入らず、一つ一つ職人が茶葉を糸で縛り作る為、手間がかかる分とても高価だった。
エリーゼは予想外の出来事に顔を綻ばせ、ダレンを見た。至近距離で目が合うとすぐさまダレンは目を逸した。
「近い」
(自分が座らせたんじゃない!)
エリーゼは横柄なダレンの物言いに少し腹が立ったが、向かいのソファに移動しようと立ち上がろうとしたが、ダレンにドレスのドレープを捕まれ阻まれた。
「いい、座ってろ」
ダレンは立ち上がり長い脚で歩み、向かいのソファに腰掛けた。
「エリーゼはどんなお菓子が好きなんだ?」
エリーゼは正直名前を呼び捨てにされるのは嫌だった。なぜなら、ファーストネームを敬称無しで呼ぶのは恋仲に限らず親しさを表すからだ。美しいエリーゼは知っていた。女の嫉妬は醜く怖いことを。何故なら勝手に男性に惚れられ、女性から『泥棒猫』呼ばわりをされた事は1度や2度では済まなかったからだ。この目の前の美しい男と親しくして嫉妬を買わない訳がないとそう思った。
恋なんてくだらないとお菓子を眺めながら思ったエリーゼは、この場を社交辞令的に愛想よくしてさっさと帰ろう心に決めたのだった。
「甘い物は何でも大好きですよ」
エリーゼは愛想よく笑った。ダレンの顔が朱に染まる。
「そ、そうか、じゃあ……手違いで大量のお菓子が来てしまってな、よかったらあっちの部屋にあるから行こう」
俯き肩を震わす執事が笑いを堪えているとは気づかず、それを見たエリーゼは頭に疑問符が浮かんだ。
そこには大量のお菓子が並んでいた。
「ヘンゼルとグレーテルみたいですわね。ふふふっ、これだけあったらお菓子の家出来そうですね」
エリーゼは心行くままお菓子を食べた。
「温室を歩かないか? 今はリラがきれいなんだ」
「まぁ楽しみだわ。リラはとても香りが良いのよね」
二人はガラス張りの小さなお城のようなデザインの温室を並んで歩いた。
「そこは段差があるから気をつけろ」
「ありがとうございます」
暫く一緒にいるが相変わらず無表情なままの公爵がエリーゼを気遣う様を見て、表情は冷たいが怒っている訳じゃないかもしれないと言うことに思い至った。
白や薄紫や赤紫色のリラ――別名ライラックが葉はハートの形をしており、花は葡萄のように房咲きで咲いている。
エリーゼは花に顔を寄せ、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「いい匂い」
「あぁ、とても愛らしい……」
見惚れた様に息を吐いたダレンを見て、エリーゼはよほど花が好きなのかと思った。だが、ダレンがみているのは花ではない。
「えぇ、この小さな花が可愛らしいですね」
「ち、違う」
「何がですか? お花以外に愛らしい物など……」
「……お、お前が……」
「私が……ですか?」
エリーゼは首を傾げた。
「いや! 何でもない!」
ダレンはエリーゼを置いて先を歩いた。
「お母様~!」
遠くで幼子の声がした。そこには貴婦人を追いかける少年――少年と言うにはまだ幼い男の子が居た。
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