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閑話 待ち遠しいお茶会
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男は夜明けと共に起きて、今日着る服を選んでいた。朝食の準備が整いヒルトクライス公爵家に長年勤めた老執事は主人であるダレン・ヒルトクライス公爵を呼びに行った。
執事は部屋の惨事を見て驚いたが、表情は変わらなかった。
「ダレン坊っちゃん、何をなさっているのですか?」
クローゼットの中身をひっくり返したように山積みなった洋服が、キングサイズのベットの上に置かれていた。
「坊っちゃんはやめろと言っているだろう! 丁度よい所に来たな。どっちがいいと思う?」
ダレンは右手に黒い燕尾服を左手には黒いタキシードを持っていた。老執事はどちらも大差ないと思った。
「どちらもお似合いですよ。ダレン様。ただ私では若者センスと女性の好みなどわかりかねます。マルティナやジュリオに聞いてみてはいかがでしょうか?」
「うむ……そうだな。今すぐ連れてきてくれ」
「承知しました」
少しして、マルティナとジュリオがやってきた。
「どうかしましたか? ダレン様」
「今日、彼女が……」
ダレンは彼女の姿を想像しただけで赤くなった。
これだから、適度に遊んでおけば良かったのに……とジュリオは思った。
「わ、私に会いに来るのだ。きっと私の事を好きなのかもしれない……」
ジュリオは、ダレンが阿呆になったと思った。彼程の権力者に来いと言われて断れる者などごく僅かなのに。ジュリオの怪訝な表情に気づいても無いのか、関係なしにダレンは尋ねた。
「どちらがいいと思う」
「どちらもお似合いですよ」
「おまえ……適当に応えたな」
ダレンがジュリオを睨んだが、主人と執事という関係意外にも、ダレンと幼馴染であるジュリオは睨むだけ何もしないとわかっている為、どこ吹く風とばかりに飄々としている。
「しかしながらダレン様。どちらも大差ないじゃないですか」
「頼りにならん奴め。もういい。マルティナ、どちらが似合うと思う?」
マルティナは大差ない双方の服を見て、困って眉を下げた。
「どちらも素敵ですが、気張りすぎな気もいたします。女性も緊張してしまうのではないでしょうか?」
「顔が怖いから?」
軽口を叩くジュリオにマルティナはぎょっとして慌てて言葉を付け足した。
「決してそのような事はないのですが……」
マルティナが言い淀んでいると、ジュリオが言葉を付け足した。
「いつも眉間に皺を寄せているから、怒っているように見えるんですよ。本当は困ってるだけですのに」
言われたそばからダレンは眉根を寄せた。
「ほら、またですよ」
「うっ……癖だからしょうが無いじゃないか」
「もう、面倒くさいから早く着てください。お菓子も買いに行かなければいけないんでしょう」
マルティナは仕事のせいにして真っ先に逃げ出した。
洋服の山から普段着のスラックスとシャツとシャツをジュリオに手渡したされてダレンはやっと着替えた。
ジュリオはため息を零して、クラバットを渡した。そして、二人は食堂へ向かった。
「よし! 用意ができたぞ」
「……こんなに客人がいらっしゃるのでしょうか?」
サロンには明らかにおかしい量のお菓子が並んでいた。一目するだけでお菓子のタワーが幾つもある。パステルカラーが可愛いマカロンタワーに山のように盛られた3段重ねのイチゴの生クリームのケーキはまるでミニュチュアのウェンディケーキみたいだ。ピンクや白や黄色の薔薇のタワーにはペロペロキャンディや動物の形のチョコが刺さっている。他にはサンドイッチやスコーンにシャルロットケーキなどが部屋を囲むように置かれたテーブルに並べられていた。
「一人だ」
「…………」
ジュリオはダレンのバカさ加減に言葉が出なかった。ジュリオが知ってるダレンは合理的で冷静沈着で、決してこんなことをする男ではない。
「我ながら完璧な出来栄えだ。よし、マルティナの意見も聞いてみよう」
サロンにやって来たマルティナは大量のお菓子を見て固まった。
「こ、これは……」
「これだけあれば彼女の好きな物の一つぐらいあるだろう」
正直に感想を述べるには恐れ多いマルティナはジュリオの名前を呼んだ。正気に戻ったジュリオは言った。
「ダレン様を想って正直に言います。普通にお茶会に誘われて来てこんなにお菓子あったらドン引きです」
いつもははっきり言われないメイドに事実を突き付けられて隅で凹んでいた。
「そんなにはっきり言わなくても良いだろう……。じゃあどうしたらもう一度笑ってくれるのだろうか」
憂いを含んだ目を伏せたダレンの色気に当てられ、その場にいるジュリオ以外の全員が顔を赤くして見ていた。
執事は部屋の惨事を見て驚いたが、表情は変わらなかった。
「ダレン坊っちゃん、何をなさっているのですか?」
クローゼットの中身をひっくり返したように山積みなった洋服が、キングサイズのベットの上に置かれていた。
「坊っちゃんはやめろと言っているだろう! 丁度よい所に来たな。どっちがいいと思う?」
ダレンは右手に黒い燕尾服を左手には黒いタキシードを持っていた。老執事はどちらも大差ないと思った。
「どちらもお似合いですよ。ダレン様。ただ私では若者センスと女性の好みなどわかりかねます。マルティナやジュリオに聞いてみてはいかがでしょうか?」
「うむ……そうだな。今すぐ連れてきてくれ」
「承知しました」
少しして、マルティナとジュリオがやってきた。
「どうかしましたか? ダレン様」
「今日、彼女が……」
ダレンは彼女の姿を想像しただけで赤くなった。
これだから、適度に遊んでおけば良かったのに……とジュリオは思った。
「わ、私に会いに来るのだ。きっと私の事を好きなのかもしれない……」
ジュリオは、ダレンが阿呆になったと思った。彼程の権力者に来いと言われて断れる者などごく僅かなのに。ジュリオの怪訝な表情に気づいても無いのか、関係なしにダレンは尋ねた。
「どちらがいいと思う」
「どちらもお似合いですよ」
「おまえ……適当に応えたな」
ダレンがジュリオを睨んだが、主人と執事という関係意外にも、ダレンと幼馴染であるジュリオは睨むだけ何もしないとわかっている為、どこ吹く風とばかりに飄々としている。
「しかしながらダレン様。どちらも大差ないじゃないですか」
「頼りにならん奴め。もういい。マルティナ、どちらが似合うと思う?」
マルティナは大差ない双方の服を見て、困って眉を下げた。
「どちらも素敵ですが、気張りすぎな気もいたします。女性も緊張してしまうのではないでしょうか?」
「顔が怖いから?」
軽口を叩くジュリオにマルティナはぎょっとして慌てて言葉を付け足した。
「決してそのような事はないのですが……」
マルティナが言い淀んでいると、ジュリオが言葉を付け足した。
「いつも眉間に皺を寄せているから、怒っているように見えるんですよ。本当は困ってるだけですのに」
言われたそばからダレンは眉根を寄せた。
「ほら、またですよ」
「うっ……癖だからしょうが無いじゃないか」
「もう、面倒くさいから早く着てください。お菓子も買いに行かなければいけないんでしょう」
マルティナは仕事のせいにして真っ先に逃げ出した。
洋服の山から普段着のスラックスとシャツとシャツをジュリオに手渡したされてダレンはやっと着替えた。
ジュリオはため息を零して、クラバットを渡した。そして、二人は食堂へ向かった。
「よし! 用意ができたぞ」
「……こんなに客人がいらっしゃるのでしょうか?」
サロンには明らかにおかしい量のお菓子が並んでいた。一目するだけでお菓子のタワーが幾つもある。パステルカラーが可愛いマカロンタワーに山のように盛られた3段重ねのイチゴの生クリームのケーキはまるでミニュチュアのウェンディケーキみたいだ。ピンクや白や黄色の薔薇のタワーにはペロペロキャンディや動物の形のチョコが刺さっている。他にはサンドイッチやスコーンにシャルロットケーキなどが部屋を囲むように置かれたテーブルに並べられていた。
「一人だ」
「…………」
ジュリオはダレンのバカさ加減に言葉が出なかった。ジュリオが知ってるダレンは合理的で冷静沈着で、決してこんなことをする男ではない。
「我ながら完璧な出来栄えだ。よし、マルティナの意見も聞いてみよう」
サロンにやって来たマルティナは大量のお菓子を見て固まった。
「こ、これは……」
「これだけあれば彼女の好きな物の一つぐらいあるだろう」
正直に感想を述べるには恐れ多いマルティナはジュリオの名前を呼んだ。正気に戻ったジュリオは言った。
「ダレン様を想って正直に言います。普通にお茶会に誘われて来てこんなにお菓子あったらドン引きです」
いつもははっきり言われないメイドに事実を突き付けられて隅で凹んでいた。
「そんなにはっきり言わなくても良いだろう……。じゃあどうしたらもう一度笑ってくれるのだろうか」
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