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1話 目覚めるとそこは……
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窓から燦々と降り注ぐ陽射しを受けて女は目覚めた。外ではチュンチュンと鳥の声が聴こえる。頭を鈍痛が襲い、彼女はこめかみを押さえた。女の名前はエリーゼ。17歳で成人したばかりのマクダウェル子爵令嬢だ。
「ここ何処?」
広く大きな部屋。サラサラと滑るように肌に馴染む上質なリネンとふかふかなベット。今は亡き巨匠の絵画まで飾ってあって、まるで王城の一室のようだ。子爵令嬢である彼女の家も貴族としては貧乏だが、平民に比べれば裕福ではある。しかし、この部屋は次元が違うほど贅を尽くされていた。
混乱したエリーゼは頭を振ると何やら隣で蠢く物が目に入り、悲鳴を上げた。
「ん……っ」
モゾモゾと動く物体から、顔を出したのは同世代の男だった。男の顔を見たエリーゼは、自分の状況を忘れて思わず見惚れた。閉じていた瞼が開いた。そして、長い睫毛に縁取られた優しさと哀愁と神秘を含む私と同じ色のヴァイオレットの瞳が私を捉えた。数秒見つめ合うと彼は瞳を細めて笑った。匂い立つようなほど耽美的で甘い笑みに、ドキリと胸が高鳴った。しかし、次の瞬間別のものに意識が持っていかれた。起き上がった男のシーツがはだけて、筋肉質な胸板が覗いた。エリーゼは再びけたたましい叫び声を上げ、起き上がった。
「ふっふ……服!は、裸ぁー‼」
エリーゼは男を指差した。
「ばっ、馬鹿か!お前も着てないだろう」
男は顔を赤くして怒鳴りつけた。
下を向いて自身の体をを見ると豊かな2つの双丘があり、三度目の悲鳴を上げて体を隠した。そこではた気がついた私は、この状況が物語る一つしか理由に至り、シーツを覗いて確認した。初めてが失われたらあるものを。そこには無残にも散らされた鮮やかな赤い花びらがあった。私のヴァイオレットの瞳から涙を零し、身も世もなく泣きじゃくった。
「う゛っ……ひっ…ひどいじゃない。初めてだったのに……グスン。初めては好きな人とって……うわーーーん!」
男がエリーゼに手を伸ばすと、エリーゼは喫驚して怯えるように肩を震わした。男は悔しそうに顔を歪めてそっぽを向き、伸ばした手を握り締め引っ込めた。
「はぁ? エリーゼは俺のこと好きじゃないのか? くっ……!なんだよ。俺だってお前なんて‼さっさと出てけ」
男は悔しさのあまり、あんまりな言葉を投げつけた。
「ひどいわ……うっ…なんとも思ってなくても、昨晩の君は素敵だったと言うのがマナーではないの?」
こんな私でも好きな人との初めての一夜を想像したことがある。
「俺をその辺の男と一緒にするな! 思ってもない事を言うタラシではない」
男はさらに顔を赤くした。
「……私の服は何処?」
男は私の顔を見ずにあさっての方向を見たまま、ソファを指差した。私はは身体にシーツを巻いて、隠してから向かった。ソファの上にある洋服は、昨晩着てきたドレスとは違っていた。
「これ、私のじゃないわ」
「あの汚れたドレスは処分した。代わりにこれを着ていけ。お前のドレスとは比べ物にならない程良い品だ。鏡台の上にアクセサリーがある。慰謝料代わりだ。持っていけ」
「着替えるから、こっち見ないでよ」
兎に角、逃げ出したい私は着替え始めた。
「誰が見るか! 俺は眠いから寝る。もう二度と金切り声を出すなよ」
男はベットにシーツを被って横になった。
「貴方なんてだいっきらい。二度と顔を見たくないわ」
私は急いで着替え終えると、怒りに身を任せ鏡台にあったジュエリーボックスを掴んでドアを乱暴に締めて出ていった。そして涙しながら玄関から出ていくと、老年の執事に声を掛けられる。
「お帰りですか?」
エリーゼは朝帰りなどいう恥ずかしい場面を見られ、疚しさから顔を上げられず閉口する。
「では、馬車でお送りいたしますね。今準備を整えますのでこちらでお待ち下さい」
老年の執事は穏やかで落ち着いた声音でそう言うと、応接室に案内した。エリーゼは促されてソファに座るととても良い香りがした。どうやら執事が紅茶を入れてくれらしい。
「大したもてなしも出来ずに申し訳ございません。主人がこのようなことをするのは初めてでして、私共の不手際でご不便な思いをされてないと良いのですが――」
最初は避難されると思っていたエリーゼはなんと答えればいいかわからず黙っていると、執事は話を続けた。
「その服も先代の奥様の物でダレン様はとても大切になさっておりました。ダレン様は不器用ですが、お嬢様のことをとても大切にされているのでしょう。宜しければ、朝食を食べていかれませんか?」
執事の言葉に驚いたエリーゼは思わず顔を上げると、老年の執事はそれはもう孫を見るような優しい顔で目を細めて笑っていた。
娼婦でも見るように蔑まれた目で見られると思ったエリーゼは驚き言葉を失いつつも、丁重に断り淑女の礼を取り辞去し、公爵家の馬車で丁重に送られ帰ったのだった。
「ここ何処?」
広く大きな部屋。サラサラと滑るように肌に馴染む上質なリネンとふかふかなベット。今は亡き巨匠の絵画まで飾ってあって、まるで王城の一室のようだ。子爵令嬢である彼女の家も貴族としては貧乏だが、平民に比べれば裕福ではある。しかし、この部屋は次元が違うほど贅を尽くされていた。
混乱したエリーゼは頭を振ると何やら隣で蠢く物が目に入り、悲鳴を上げた。
「ん……っ」
モゾモゾと動く物体から、顔を出したのは同世代の男だった。男の顔を見たエリーゼは、自分の状況を忘れて思わず見惚れた。閉じていた瞼が開いた。そして、長い睫毛に縁取られた優しさと哀愁と神秘を含む私と同じ色のヴァイオレットの瞳が私を捉えた。数秒見つめ合うと彼は瞳を細めて笑った。匂い立つようなほど耽美的で甘い笑みに、ドキリと胸が高鳴った。しかし、次の瞬間別のものに意識が持っていかれた。起き上がった男のシーツがはだけて、筋肉質な胸板が覗いた。エリーゼは再びけたたましい叫び声を上げ、起き上がった。
「ふっふ……服!は、裸ぁー‼」
エリーゼは男を指差した。
「ばっ、馬鹿か!お前も着てないだろう」
男は顔を赤くして怒鳴りつけた。
下を向いて自身の体をを見ると豊かな2つの双丘があり、三度目の悲鳴を上げて体を隠した。そこではた気がついた私は、この状況が物語る一つしか理由に至り、シーツを覗いて確認した。初めてが失われたらあるものを。そこには無残にも散らされた鮮やかな赤い花びらがあった。私のヴァイオレットの瞳から涙を零し、身も世もなく泣きじゃくった。
「う゛っ……ひっ…ひどいじゃない。初めてだったのに……グスン。初めては好きな人とって……うわーーーん!」
男がエリーゼに手を伸ばすと、エリーゼは喫驚して怯えるように肩を震わした。男は悔しそうに顔を歪めてそっぽを向き、伸ばした手を握り締め引っ込めた。
「はぁ? エリーゼは俺のこと好きじゃないのか? くっ……!なんだよ。俺だってお前なんて‼さっさと出てけ」
男は悔しさのあまり、あんまりな言葉を投げつけた。
「ひどいわ……うっ…なんとも思ってなくても、昨晩の君は素敵だったと言うのがマナーではないの?」
こんな私でも好きな人との初めての一夜を想像したことがある。
「俺をその辺の男と一緒にするな! 思ってもない事を言うタラシではない」
男はさらに顔を赤くした。
「……私の服は何処?」
男は私の顔を見ずにあさっての方向を見たまま、ソファを指差した。私はは身体にシーツを巻いて、隠してから向かった。ソファの上にある洋服は、昨晩着てきたドレスとは違っていた。
「これ、私のじゃないわ」
「あの汚れたドレスは処分した。代わりにこれを着ていけ。お前のドレスとは比べ物にならない程良い品だ。鏡台の上にアクセサリーがある。慰謝料代わりだ。持っていけ」
「着替えるから、こっち見ないでよ」
兎に角、逃げ出したい私は着替え始めた。
「誰が見るか! 俺は眠いから寝る。もう二度と金切り声を出すなよ」
男はベットにシーツを被って横になった。
「貴方なんてだいっきらい。二度と顔を見たくないわ」
私は急いで着替え終えると、怒りに身を任せ鏡台にあったジュエリーボックスを掴んでドアを乱暴に締めて出ていった。そして涙しながら玄関から出ていくと、老年の執事に声を掛けられる。
「お帰りですか?」
エリーゼは朝帰りなどいう恥ずかしい場面を見られ、疚しさから顔を上げられず閉口する。
「では、馬車でお送りいたしますね。今準備を整えますのでこちらでお待ち下さい」
老年の執事は穏やかで落ち着いた声音でそう言うと、応接室に案内した。エリーゼは促されてソファに座るととても良い香りがした。どうやら執事が紅茶を入れてくれらしい。
「大したもてなしも出来ずに申し訳ございません。主人がこのようなことをするのは初めてでして、私共の不手際でご不便な思いをされてないと良いのですが――」
最初は避難されると思っていたエリーゼはなんと答えればいいかわからず黙っていると、執事は話を続けた。
「その服も先代の奥様の物でダレン様はとても大切になさっておりました。ダレン様は不器用ですが、お嬢様のことをとても大切にされているのでしょう。宜しければ、朝食を食べていかれませんか?」
執事の言葉に驚いたエリーゼは思わず顔を上げると、老年の執事はそれはもう孫を見るような優しい顔で目を細めて笑っていた。
娼婦でも見るように蔑まれた目で見られると思ったエリーゼは驚き言葉を失いつつも、丁重に断り淑女の礼を取り辞去し、公爵家の馬車で丁重に送られ帰ったのだった。
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