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41話 さよならなんて言わせない

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 お父様の執務室からの帰り、絨毯の敷かれた廊下を自室に向かって歩いていく。アルトの私室の扉が少し開いていた。あの神経質な男が珍しいと思う。好奇心に負けて隙間から覗いてみると、アルトは不在で、部屋にはキャロラインの大きな肖像画があった。美しい桜の花を背景に、桜吹雪の中微笑む可愛いキャロラインがいた。
 ……キャロラインの事大好きなんだなぁ、ちょいキモ怖いけど。肖像画はOKだけど大きすぎる。せめてノートサイズにして引き出しにしまってください。
 デスクの上には本や教科書の他に、作りかけの造花と髪留め用の金具があった。もしや前に見た髪飾りは……アルトの自作か!すごい。こいつマメ男(お)だ!前世だったら、間違いなく朝のおはようから始まりおやすみのL○NEを、更に昼ごはんの内容まで、L○NEとか送りそうな男である。私はずぼら女子だから多分面倒くさいかも……否、好きな人が毎日メールくれたら嬉しいだろうな。私は心の中で義兄の幸せを願って、合掌しながらそっとドアを閉めた。そして再び自室に向かって歩き出した。




 誘拐事件から数日経ってだいぶ傷も言えた頃、陛下から手紙で呼び出され、王宮へ向かった。

 王宮門の衛兵に御者が陛下からの手紙を見せると、王宮門を開錠した。王宮へ続く石畳を進む度、緊張が増していく。正面玄関に辿り着くとドアが開き、中で待っていた衛兵の後に続いて、回廊を歩いて謁見の間まで案内された。現在、陛下と謁見中。私、膝混付いてます。陛下は存在感抜群の玉座に座っていて、横にはこの国の宰相のお父様が控えていた。謁見の間の後ろにはこの国と王家の紋章がそれぞれかかっていて、天井は見上げるほど高い。

「いいから顔を上げて」

 陛下は金髪碧眼で、クリフ殿下より甘々な甘口イケメンだ。目元のホクロがちょっと艶っぽい。かっこいい、眼福だ。攻略対象者じゃなければ、ただの目の保養です。お父様?確かにかっこいいけど、父親相手にトキメキは1ミクロンもないです。

「エリカ、君の活躍は聞いたよ。クリフの父として礼を言う。ありがとう。残念ながら、誘拐犯は実行犯しか捕縛できなかったんだ。力が足らず申し訳ない」

 ぎゃっ!皇帝様に頭を下げられた。違う意味で心拍数が上がる。デコから汗が!

「いえ、当然の事をしたまでです。私になんか、そんなに頭を下げないでください」

「ありがとう」ニコって笑う陛下、ちょっと可愛い。ファンになっちゃう。

「陛下は人たらしですから……うちの娘を誘惑するのは辞めて頂きたい」

 すかさずそう言うお父様が、陛下を横目でじろりと見た。


「人聞き悪いなぁ。あとは……この件は口外しない事と褒美をあげようと思うんだけど、何か欲しいものあるかな」

 陛下は考える様に顎に手を当てた後、小首を傾げた。

 欲しい物は一つだけ、永久恩赦です。なんて言ったら何かする気満々だろって感じで言えないし、欲しい物も大抵手に入るし、なんもないなぁ。

「少し考えさせて下さい」

「欲しい物が決まったら、君の父君に言ってくれればいいから」

 恭しく礼をして、謁見の間を後にした。




 翌日、クロードから手紙が来た。内容は家の都合で帝都を離れると言う内容だった。私は混乱した。ゲームにない内容だったから。誘拐事件にクロードは一切出てこなかった。バタフライエフェクト……私のせいかもしれない。レディメイドを呼んで急いで外出用のドレスに着替えた。貴族のこう言う所は面倒くさい。馬車も面倒くさいから、馬に横乗りで向かった。

 ヘルブラム邸は、貴族の住む区画から外れた所にある。華美でも地味でもない一般的な貴族の邸宅で、特徴といえばドーム天井がある位だ。ヘルブラム邸の前で馬を降りると声をかけられた。

「エリカ様……どうしてここに?」

 誰?この茶髪の男の子……パッと見誰かわからなかったが、聞き覚えのある声と赤い瞳でわかった。

「もしかして、クロード?」

 彼は頷いた。街に馴染むような平民が着るような、装飾が一切ないシンプルな装いに、マントを着ている。後ろには、麻袋のような者を背負っていた。

 凄い!存在感がない。私も声かけられるまで、クロードの存在感自体見過ごしてた。印象に残らない平凡な感じだ。

「どうして……此処に?」

「もちろん、貴方に会いに来たに決まっている!何処に行くのよ」

 責めるつもりはないが、真剣な気持ちについ顔と口調が強くなる。

「父の命令で行かなくては行けなくて……場所は言えません」

「何しに行くの?」

「それも言えません」

 きっと任務だ。

「ダメよ!何処にも行かせない。大切なら一緒にいてよ!」

「僕は……ヘルブラム家の一員で、ご当主様の命令は絶対なんです」

「貴方はどうしたいの?クロードの気持ちを話してほしいの……」

 私はクロードの手をとって、懇願した。

「僕は…………行きたくありません」

「じゃあやる事は一つね。行くわよ!」

 私は不敵な笑みを浮かべ、クロードの手首を握って歩き出した。

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