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36話 建国記念日
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建国記念日当日、私は先日お父様に買ってもらった光沢のある淡い紫色のタフタ生地のオフショルダーのドレスに身を包んだ。張りのある生地でフリルにボリュームが出るので、それ以外に飾りはない。ブラックオパールアクセサリーは虹色に輝きを放ち、艶っぽい色香を放っている。
支度を整えて玄関ホールに向かうと、とても妙齢の娘が居るとは思えないお父様がいた。お父様の胸に私のドレスと同じ生地で作られたポケットチーフとシャツの袖にはブラックオパールのカフスボタンが輝いている。
!!私とオソロ!?……私は気づかない振りをした。
私とお父様と二人で馬車に乗り込んだ。どうやらアルトは別の馬車で行くらしい。キャロラインとかな。
帝都から少し離れた場所にある旧市街を通って王城へ向かった。建国記念日の夜会だけは、建国当初の都だった旧市街の王城で行われる。万が一戦争が起こった際には、砦の役割も担っている。現在の豪華絢爛に作られた王宮と違って、堅牢な石造りになっている王城の後ろは湖が広がっていて、更に奥には山が有りとても裏からは攻める入ることは出来ない造りになっている。
城門を抜けてお父様のエスコートで、赤い絨毯を歩いて大広間に向かった。中は歓談している貴族達で騒がしかったが、ラッパの音が会場内に響くと水を打ったように静まり返った。陛下、皇后陛下、第一皇子のクリフ様、第二皇子のエリク様が登場し玉座に座った陛下を中心に他の皇族が座した。後には国旗が飾られている。
皇族に準ずるノヴァ家のお父様と私が、一番初めに挨拶へ赴いた。次にその他の公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵、男爵と位が高い順に陛下の元へ伺った。
宮廷楽師が音楽を奏でると、陛下と皇后様が大広間の中央で仲睦まじく踊り始めた。
私もお父様に無言で手を引かれ踊った後、お父様と隣に控えた。
真っ赤なドレスに赤く染めた頬したアグネス様を見つけた。ひと目で想い人と判る表情で踊っているのを見て、羨ましくなった。
私は顔も知らないあの人想ったけど、あれから一度も会ってなかったし、もう会うつもりも無かった。
他にもキャロラインを見つけたが以前ほど気にならなかった。だって私は私、今自分に出来ることをやるしかない。他人ばかり気にしすぎて時間を浪費するのは、愚かだとしか言いようがない。
フィリップは年上の女性達に囲まれて、にこやかに会話を楽しんでいる。声を掛けようか迷ったけど、仕事の話の邪魔をしたら悪いと思ってやめておいた。
お父様と一緒に居ると若い男性には誰にもダンスに誘われなかった。お父様に挨拶へ来た恰幅のいいカイゼル髭の伯爵やオールドグレイの紳士などに誘われ、ダンスを踊ったりして時間が過ぎていく。
以前より痩せて、オドオドした感じが無くなったトニに声を掛けて一緒に踊った。自分にできる事を少しづつ増やして、自信をつけたトニは友達が出来たと喜んでいた。努力しているトニは以前より素敵になったと思う。
一人で部屋の隅にいるクロードを見つけて、足早に駆け寄った。
「クロードも来てたのね。一緒に踊ってくださらない?」
驚いた顔をした後、少し悲しげに笑った。
「僕、ダンスも上手に踊れません」
「私はダンスが上手に踊れる人と踊りたいんじゃない。クロードだから一緒に踊りたいだよ!それでもだめかしら?」
手を差し出すとクロードは私の手を掴んで、エスコートした。クロードとヒール履いた私の身長は同じ位で、頬が触れそうで少しどきまぎした。本当はもっと一緒に踊りたかった。けど、一緒にいてまたくだらない噂話をされるのは、クロードに迷惑がかかると思って我慢した。
「今日のドレス……とても素敵です」
あまりにも顔を赤くして恥ずかしそうにいうから、私のまで赤面が移りそうになった。
「クロードもかっこいい。ダンスも上手だったよ」
今日着ている赤の燕尾服は、いつもの制服より凛々しい。
クロードから会場へ視線をずらすと、他の男性と目が合った。声を掛けられそうだったので、クロードと別れて足早にお父様を探したが、見つからず大広間から外に出た。まだ追いかけてくる気配があったので、湖の方へ向かった。追ってこないかと後ろを振り返りながら、進んでいくと誰かにぶつかった。
「ごめんなさい」
「また会えた」
誰か声でわかった。彼だった。最後に会った日を思い出して、顔が熱くなるのを感じた。
「何で来なかったの?」
「あんなことお願いして、もう会わせる顔が無かったわ」
この人は絶対に貴族だから、傷物になる私とどうにかなる相手じゃないと……もう会うつもりは無かったから、あんなはしたないお願いしたのに。
「あんな事って?」
彼はクスッと笑った。恥ずかしさマックスでうわーっ!って叫んで逃げ出したい。
「貴方って意地悪だわ」
「もうしちゃだめなの?」
彼は私の返事を聞かないで、おでこ……そして瞼にキスをした。
「うう゛っ、もうだめ……もうだめです!」
もうキャパオーバーで立ち上がった私の手を彼は掴んだ。
「ふっ、もうしないからここにいなよ」
耳が熱い。全身が心臓みたいにドキドキしている。なんで彼はそんなに余裕なのか。ちょっと悔しい。
「誰にでもしてるの?」
「そんなことない!ほら……」
彼は握っていた私の手を胸に当てた。
「ほら、同じだよ」
彼の鼓動は速くて激しかった。
私達は暫く手を繋いだまま、黙っていた。沈黙を先に破ったのは彼だった。
「湖に月下美人が咲いてるんだ。この時期に一晩しか咲かない綺麗な花だよ」
立ち上がった彼に手を引かれて、歩きだした。彼が振り返ると、首に痛みを感じて意識が遠退いた。
次に目が覚めると両手足を縛られていた。目の前には月明かりに照らされて金色に煌めく髪をしたクリフ殿下の美しい相貌があった。
支度を整えて玄関ホールに向かうと、とても妙齢の娘が居るとは思えないお父様がいた。お父様の胸に私のドレスと同じ生地で作られたポケットチーフとシャツの袖にはブラックオパールのカフスボタンが輝いている。
!!私とオソロ!?……私は気づかない振りをした。
私とお父様と二人で馬車に乗り込んだ。どうやらアルトは別の馬車で行くらしい。キャロラインとかな。
帝都から少し離れた場所にある旧市街を通って王城へ向かった。建国記念日の夜会だけは、建国当初の都だった旧市街の王城で行われる。万が一戦争が起こった際には、砦の役割も担っている。現在の豪華絢爛に作られた王宮と違って、堅牢な石造りになっている王城の後ろは湖が広がっていて、更に奥には山が有りとても裏からは攻める入ることは出来ない造りになっている。
城門を抜けてお父様のエスコートで、赤い絨毯を歩いて大広間に向かった。中は歓談している貴族達で騒がしかったが、ラッパの音が会場内に響くと水を打ったように静まり返った。陛下、皇后陛下、第一皇子のクリフ様、第二皇子のエリク様が登場し玉座に座った陛下を中心に他の皇族が座した。後には国旗が飾られている。
皇族に準ずるノヴァ家のお父様と私が、一番初めに挨拶へ赴いた。次にその他の公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵、男爵と位が高い順に陛下の元へ伺った。
宮廷楽師が音楽を奏でると、陛下と皇后様が大広間の中央で仲睦まじく踊り始めた。
私もお父様に無言で手を引かれ踊った後、お父様と隣に控えた。
真っ赤なドレスに赤く染めた頬したアグネス様を見つけた。ひと目で想い人と判る表情で踊っているのを見て、羨ましくなった。
私は顔も知らないあの人想ったけど、あれから一度も会ってなかったし、もう会うつもりも無かった。
他にもキャロラインを見つけたが以前ほど気にならなかった。だって私は私、今自分に出来ることをやるしかない。他人ばかり気にしすぎて時間を浪費するのは、愚かだとしか言いようがない。
フィリップは年上の女性達に囲まれて、にこやかに会話を楽しんでいる。声を掛けようか迷ったけど、仕事の話の邪魔をしたら悪いと思ってやめておいた。
お父様と一緒に居ると若い男性には誰にもダンスに誘われなかった。お父様に挨拶へ来た恰幅のいいカイゼル髭の伯爵やオールドグレイの紳士などに誘われ、ダンスを踊ったりして時間が過ぎていく。
以前より痩せて、オドオドした感じが無くなったトニに声を掛けて一緒に踊った。自分にできる事を少しづつ増やして、自信をつけたトニは友達が出来たと喜んでいた。努力しているトニは以前より素敵になったと思う。
一人で部屋の隅にいるクロードを見つけて、足早に駆け寄った。
「クロードも来てたのね。一緒に踊ってくださらない?」
驚いた顔をした後、少し悲しげに笑った。
「僕、ダンスも上手に踊れません」
「私はダンスが上手に踊れる人と踊りたいんじゃない。クロードだから一緒に踊りたいだよ!それでもだめかしら?」
手を差し出すとクロードは私の手を掴んで、エスコートした。クロードとヒール履いた私の身長は同じ位で、頬が触れそうで少しどきまぎした。本当はもっと一緒に踊りたかった。けど、一緒にいてまたくだらない噂話をされるのは、クロードに迷惑がかかると思って我慢した。
「今日のドレス……とても素敵です」
あまりにも顔を赤くして恥ずかしそうにいうから、私のまで赤面が移りそうになった。
「クロードもかっこいい。ダンスも上手だったよ」
今日着ている赤の燕尾服は、いつもの制服より凛々しい。
クロードから会場へ視線をずらすと、他の男性と目が合った。声を掛けられそうだったので、クロードと別れて足早にお父様を探したが、見つからず大広間から外に出た。まだ追いかけてくる気配があったので、湖の方へ向かった。追ってこないかと後ろを振り返りながら、進んでいくと誰かにぶつかった。
「ごめんなさい」
「また会えた」
誰か声でわかった。彼だった。最後に会った日を思い出して、顔が熱くなるのを感じた。
「何で来なかったの?」
「あんなことお願いして、もう会わせる顔が無かったわ」
この人は絶対に貴族だから、傷物になる私とどうにかなる相手じゃないと……もう会うつもりは無かったから、あんなはしたないお願いしたのに。
「あんな事って?」
彼はクスッと笑った。恥ずかしさマックスでうわーっ!って叫んで逃げ出したい。
「貴方って意地悪だわ」
「もうしちゃだめなの?」
彼は私の返事を聞かないで、おでこ……そして瞼にキスをした。
「うう゛っ、もうだめ……もうだめです!」
もうキャパオーバーで立ち上がった私の手を彼は掴んだ。
「ふっ、もうしないからここにいなよ」
耳が熱い。全身が心臓みたいにドキドキしている。なんで彼はそんなに余裕なのか。ちょっと悔しい。
「誰にでもしてるの?」
「そんなことない!ほら……」
彼は握っていた私の手を胸に当てた。
「ほら、同じだよ」
彼の鼓動は速くて激しかった。
私達は暫く手を繋いだまま、黙っていた。沈黙を先に破ったのは彼だった。
「湖に月下美人が咲いてるんだ。この時期に一晩しか咲かない綺麗な花だよ」
立ち上がった彼に手を引かれて、歩きだした。彼が振り返ると、首に痛みを感じて意識が遠退いた。
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