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33話

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 突然のお父様からの呼び出しで明日、領地にあるお母様のお墓参りに行く運びとなった。もう少し早く言ってくれてもいいと思うけど、お父様は多忙なので仕方ない。まぁ出立の用意はメイド任せですけど。今回、領地に帰るのは視察も兼ねているのでアルトも同行するらしい。家の中にいても避けられているのか食事の時ぐらいで会話は無い。こっちも話す事思い浮かばないからいいんだけどね。こないだ、保健室で会ってからすれ違っても挨拶しても見もせず無視されていたが、こちらを見て少し頷くような仕草をする様になった。キャロラインに何か言われたのかな!?あんまりヤンデレってすきじゃないいんだよね。漫画とかにいる分は良いけど愛してるからって監禁したりする男ってどーよ。リアルにいたらホラーだよ。アルトはヒロインに任せましょう。




 領地に帰る馬車の中、お父様と私とアルトの三人。話す事無い。本でも読みたいけど、酔うし寝よ。
 帝都から5日かけてノヴァ公爵領の最大ので都市でカタトルキア帝国の南部最大の貿易都市だ。温和な気候、肥沃で平坦な大地、近くには海があり港湾都市から海外からの品々が届き、この都市だけでも莫大な利益を産んでいる。流石初代王弟の土地である。そう思うと感慨深いな。ずっとこの国が出来てから私の代まで、受け継がれてきた。責任がある。そう思うと死亡フラグがあるからって自分の危険が迫っているからって逃げようとしているのは、仕方ないそう思う。けど正しいのかと問われれば、首を縦に振れない。でも……だって……でももだっても言い訳する時の言葉だ。まだ時間ある。自分が納得出来ると答えを見つけよう。

 街を見下ろす丘の上のノヴァ公爵邸に着くと、家礼ずらりと並んで迎えてくれた。ジークと離れてから数年暮らしたが、なんの懐かしさも感じない。思い出せるのも家庭教師と勉強をしたぐらいで、楽しかった思い出も無ければ、特別辛かった思い出もなかった。私は薄情なのかな、それともそれ程独りぼっちだったんだろうか。昔のことはなんの思い出もないから、ぼんやりとしか思い出せなかった。





 翌日、お父様とアルトと私の家族3人で無言の朝食の後、お父様が玄関で芦毛の馬を一頭伴って待っていてくれた。

「お父様、馬一頭で行きますの?」

「ああ、リリーの所までは舗装されていないから、馬車が使えない」

「私、馬乗れますよ」

「……そうだったか」

 僅かに瞠目したお父様。

 ……自宅に馬術の家庭教師頼んでますよね。これで知らないなんてどんだけ……

「私に興味ないいですかね」

 最後だけ心の声が漏れる。

「済まない、今から手配する」

 お父様がそう言い切る前に、執事が厩舎に走った。




 執事が持ってきてくれた馬に横乗りで乗って、お父様の後を付いていく。お父様は私の様子を見る為に、時々後ろを振り返りながら走った。1時間ほど馬を走らせるとお花畑に到着し、お父様が馬から降りて木に繋いだのをみて、同じようにした。花畑をずんずん進んでいくお父様の後を追っていくと、辺り一面のピンク色の景色の中心にお母様のお墓があった。

「凄くきれいですね」

「……あぁ、リリーが気に入ってな」

 ほんのちょっぴり表情が柔らかくなった気がした。

「お父様とお母様が恋愛結婚だったなんて意外でした」

「そうか」

 聞きたかった事が喉の奥に引っかかって、なかなか出てこなかった。

 お父様は私の持っていた花をお墓に添えて、手を合わせた。私もそれに倣った。

「お父様はお母様の何処が好きだったんしょうか?」

「真っ直ぐな所だ。病気で長く生きられないのに、それを悲観せずに一生懸命生きている所も好きだ」

 過去形で話してない。お父様はまだお母様を愛してるのかもしれない。

 肝心の聞きたいことを言えずが時が流れた。自分の欲しい答えしか聞きたくなくて、聞けない。意を決して口を開いた。

「お父様とお母様は私を産んだこと後悔していますか?」

「二人ともしていない」

「では何故、お母様は体が弱く出産が難しいと言われていたのに命を賭けて私を産んだんでしょうか?」

「…………」

「教えてください。私は知りたいのです」

 たとえ望んだ答えでは無くても。

「……リリーに子供が欲しいと言われた時、私は反対した。でも、彼女は私が独りになる事を心配して、譲らなかった。でも結局、心臓が持たなくてその日のうちに亡くなった。まだ後、数年は生きていた筈だった……」

 お父様は目を伏せた。やっぱり、私のせいで…………

「お父様は……私が、お母様を…………こ、殺したと……思ってい…ますか?」

 お父様は下を向いたまま、首を降った。

「子供を産むと言われた時点で覚悟はしていた。彼女は日々大きなるお腹を愛おしそうに撫でていたよ。リリーも後悔などしていない……」

「じゃあ……何故あんなにお父様は私に冷たかったんでしょうか?」

「別に冷たくしたつもりなど無い。貴族の子弟などそんなものだろう」

「嘘よ、酷いわ!!一度で良いから笑いかけて欲しかった。頭を撫でて……抱っこして欲しかった。でも、お父様は私の目すら見てくれなかった。本当は心のそこで私さえ産まなければって思っていたんじゃないの?」

「断じて違う。私自身も最愛の女性を喪って、今も立ち直れていないんだ。リリーにそっくりなエリカを見ると彼女を思い出して辛い……」

 ……なんか、思ってた感じのお父様と違うな。

「それでも親でしょう!?私は幼少の頃、ちやほやするしかない自分より下の身分の人間に囲まれて、わがままで思い上がった人間に育ちました。こないだまで自分の思い通りにならない事は無いと思ってました。世間知らずな私は友達と称した私の事などなんとも思ってない人の傀儡になり、己の人生を棒に振ることに成りそうでした」

「…………」

「それを聞いてなんとも思いませんか?周りにはクズの烙印を押されて、挽回しようと努力してますが、それでも報われないこともあってとても苦しい時」

「それを聞いても親としての責務を果たしたと、そんな娘に育てて、命をかけて産んでくれたお母様に申し訳がたつと思いますか?」

 私は何も言うことの出来ないお父様に腹がたってきて、怒声を孕んだ声音になった。

 そんな娘に育ってしまった事は私自身の責任もあるけど、親としての責任もある。

「もう、もういいです」

 私はお母様のお墓に自身の事を報告し、これからも見守っていてほしいと胸の中で言った後、公爵邸に一人で帰った。
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