16 / 111
15話
しおりを挟む
家に帰った私は、悩んでいた。フィリップの妹を助けたい、そう思う。
彼の妹はどんな病気なんだろうか……?たしか、不治の病では無かった筈。
悩んでいてもわからないことだらけでどうすればいいか判断がつかないわ。兎に角、医者に見せよう。ノヴァ家の主従医であれば、国内トップクラスだ。きっと病気の治療法について何か解ると思う。年嵩の執事に医者の手配をお願いし、フィリップの身辺調査をお願いした。
翌日、執事からフィリップの報告書を受け取り内容を確認すると、ゲームの情報と一致していた。私は医師を伴って彼の家に、向かった。
フィリップの家は平民の住まう区画にあった。飾り気の無い長屋の集合住宅の一戸だった。とても貴族が住むような代物ではない。部屋の前に立ちドアノッカーを鳴らした。
「……はい」
訝しげな女の子の声がドア越しに聞こえた。
「私はエリカ・ノヴァ公爵令嬢です。フィリップ様とは同じ学院に通っておりまして、先日お近づきになりました。怪しいものでは有りません」
……しまった。自分で怪しくないと言うなんて、逆に怪しいかも。
「兄はいま不在ですので、申し訳ございませんが後ほどお越しください」
……だよね。
――――程なくしてフィリップが戻ってきた。
「何やってんですか?」
フィリップの表情は険しい。
「あ、あの妹さんが病気だって聞いていても立っても居られず……」
なんとなく決まりが悪い気持ちになって、発した声が尻すぼみになる。
「同情?」
「わからない」
「じゃあなに?」
フィリップの顔にも声にもなんの感情も読み取れない。
「たぶん……自分が後悔しそうだからだと思う。助けられたかも知れないのに無視したら、きっとこの先堂々と生きていけなくなる。だから妹さんに会わせて欲しい」
フィリップは私の隣に立つ背の高い白衣の男性に視線を移して水を向けた。
「彼は家の主治医なの」
フィリップは無言で玄関のドアを開けた。
フィリップの自宅は古びているけど綺麗に掃除がされていた。1DKの部屋は簡素でベットとテーブルセットとチェストと本棚しかなかった。
部屋の奥の窓際のベットには、フィリップと同じ瞳の少女が起き上がって私をみている。呼吸をする度、苦しそうに喘鳴が聞こえる。自己紹介をし医師を紹介して診察をお願いした。
結論から言うと、難病の一種で肺の機能がどんどん低下して動かなくなり、最後は呼吸が出来なくなる病気だ。フィリップの妹エランちゃんはもう末期状態で、いつ発作が起きて肺が止まるかわからない状態のようだ。治療法は確立されていて、クミンという花から抽出されたエキスから取れる成分は万能で、多数の病気に効果があるらしい。それを飲めば完治するそうだ。ただその花はカタトルキア帝国3番目に高いルクレーティウス山脈の山頂付近でしか取れない希少な花で、貴族の家が傾くくらい高価なんだとか。それ以外だと発作を抑える対処療法しか無いのだそうだ。呼吸がし易い様に気管を広げる薬と、発作を抑える薬を出して貰った。そちらも平民には高価だけど、このくらいであれば私に払えない額では無い。それでも一人で払っているフィリップは本当に凄いと思う。
帰り際、玄関まで送ってくれたフィリップが複雑そうな顔をして、ありがとうと呟いた。
「貴方の為じゃない。自分がやりたいからやってるだけ。だから礼など不要よ」
私は馬車に乗り込んで、家路に着いた。
執事にクミンから取れるニゲラという薬を用意してほしいと頼んだが、高価過ぎるため父の許可が必要だと断られた。であれば無論、私にも無理だ。
次にクレーティウス山脈を保有しているガリターノ伯爵領について執事に尋ねると、ここ最近伯爵領を手に入れて子爵から伯爵に格上げしたんだとか。三人兄弟で末弟はなんと同じ学園に通っているらしい。明日、接触してみよう。
エランちゃんの猶予がどれ程あるか判らないので、翌日の昼休みに訪ねた。
「はじめまして。私は、エリカ・ノヴァと申します」
彼はガリターノ伯爵家三男のトニ・ガリターノは、机に座ってノートを取っていた。声を掛けると、ぷっくりとしたえくぼが浮かんだ幼児の様な手を止めて丸い顔を上げた。
「君も兄を紹介して欲しいの?それとも万能薬が欲しいの?悪いけどどっちも無理だし、兄が好きならやめたほうがいい」
彼の茶色の瞳は闇かったけど、逸らさず真実を答えた。
「薬を手に入れたいのです」
「はっ、僕なんかに声を掛ける人などそれしかないからな」
彼はブルネットの髪を揺らして自嘲した。私にはわからなかった。どうして彼が自分を嘲笑うのか。
「薬が必要なんです。それを飲まなきゃ死んじゃう人が居るの。貴方が助ける義理など無いのは承知しているが、藁にも縋る思いで訪ねたわ。私も貴方の力になるから、どうか力を貸してください」
私は深く頭を下げた。
彼の妹はどんな病気なんだろうか……?たしか、不治の病では無かった筈。
悩んでいてもわからないことだらけでどうすればいいか判断がつかないわ。兎に角、医者に見せよう。ノヴァ家の主従医であれば、国内トップクラスだ。きっと病気の治療法について何か解ると思う。年嵩の執事に医者の手配をお願いし、フィリップの身辺調査をお願いした。
翌日、執事からフィリップの報告書を受け取り内容を確認すると、ゲームの情報と一致していた。私は医師を伴って彼の家に、向かった。
フィリップの家は平民の住まう区画にあった。飾り気の無い長屋の集合住宅の一戸だった。とても貴族が住むような代物ではない。部屋の前に立ちドアノッカーを鳴らした。
「……はい」
訝しげな女の子の声がドア越しに聞こえた。
「私はエリカ・ノヴァ公爵令嬢です。フィリップ様とは同じ学院に通っておりまして、先日お近づきになりました。怪しいものでは有りません」
……しまった。自分で怪しくないと言うなんて、逆に怪しいかも。
「兄はいま不在ですので、申し訳ございませんが後ほどお越しください」
……だよね。
――――程なくしてフィリップが戻ってきた。
「何やってんですか?」
フィリップの表情は険しい。
「あ、あの妹さんが病気だって聞いていても立っても居られず……」
なんとなく決まりが悪い気持ちになって、発した声が尻すぼみになる。
「同情?」
「わからない」
「じゃあなに?」
フィリップの顔にも声にもなんの感情も読み取れない。
「たぶん……自分が後悔しそうだからだと思う。助けられたかも知れないのに無視したら、きっとこの先堂々と生きていけなくなる。だから妹さんに会わせて欲しい」
フィリップは私の隣に立つ背の高い白衣の男性に視線を移して水を向けた。
「彼は家の主治医なの」
フィリップは無言で玄関のドアを開けた。
フィリップの自宅は古びているけど綺麗に掃除がされていた。1DKの部屋は簡素でベットとテーブルセットとチェストと本棚しかなかった。
部屋の奥の窓際のベットには、フィリップと同じ瞳の少女が起き上がって私をみている。呼吸をする度、苦しそうに喘鳴が聞こえる。自己紹介をし医師を紹介して診察をお願いした。
結論から言うと、難病の一種で肺の機能がどんどん低下して動かなくなり、最後は呼吸が出来なくなる病気だ。フィリップの妹エランちゃんはもう末期状態で、いつ発作が起きて肺が止まるかわからない状態のようだ。治療法は確立されていて、クミンという花から抽出されたエキスから取れる成分は万能で、多数の病気に効果があるらしい。それを飲めば完治するそうだ。ただその花はカタトルキア帝国3番目に高いルクレーティウス山脈の山頂付近でしか取れない希少な花で、貴族の家が傾くくらい高価なんだとか。それ以外だと発作を抑える対処療法しか無いのだそうだ。呼吸がし易い様に気管を広げる薬と、発作を抑える薬を出して貰った。そちらも平民には高価だけど、このくらいであれば私に払えない額では無い。それでも一人で払っているフィリップは本当に凄いと思う。
帰り際、玄関まで送ってくれたフィリップが複雑そうな顔をして、ありがとうと呟いた。
「貴方の為じゃない。自分がやりたいからやってるだけ。だから礼など不要よ」
私は馬車に乗り込んで、家路に着いた。
執事にクミンから取れるニゲラという薬を用意してほしいと頼んだが、高価過ぎるため父の許可が必要だと断られた。であれば無論、私にも無理だ。
次にクレーティウス山脈を保有しているガリターノ伯爵領について執事に尋ねると、ここ最近伯爵領を手に入れて子爵から伯爵に格上げしたんだとか。三人兄弟で末弟はなんと同じ学園に通っているらしい。明日、接触してみよう。
エランちゃんの猶予がどれ程あるか判らないので、翌日の昼休みに訪ねた。
「はじめまして。私は、エリカ・ノヴァと申します」
彼はガリターノ伯爵家三男のトニ・ガリターノは、机に座ってノートを取っていた。声を掛けると、ぷっくりとしたえくぼが浮かんだ幼児の様な手を止めて丸い顔を上げた。
「君も兄を紹介して欲しいの?それとも万能薬が欲しいの?悪いけどどっちも無理だし、兄が好きならやめたほうがいい」
彼の茶色の瞳は闇かったけど、逸らさず真実を答えた。
「薬を手に入れたいのです」
「はっ、僕なんかに声を掛ける人などそれしかないからな」
彼はブルネットの髪を揺らして自嘲した。私にはわからなかった。どうして彼が自分を嘲笑うのか。
「薬が必要なんです。それを飲まなきゃ死んじゃう人が居るの。貴方が助ける義理など無いのは承知しているが、藁にも縋る思いで訪ねたわ。私も貴方の力になるから、どうか力を貸してください」
私は深く頭を下げた。
0
お気に入りに追加
1,526
あなたにおすすめの小説
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる