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94話

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「兵力は……ららが戦時中女神の力行使による治癒で負傷兵を直したのは1度だけです。すると倍の兵力があれば勝てると思います。敵は国境線を必ず突破するはずです。でも方法がわからないんです。乙女ゲームではなんの前触れもなく突然現れた感じでした」

 そうなのだ。流石に乙女ゲーでも物語に戦争が関わってるのであれば、『東域で戦争が始まった』の一文ぐらい無いとおかしい。それもなくいきなり兵が攻めて来るのだ。朝、ヒロインが外が騒々しいのに気づき、目覚める。窓を開けるとそこには見慣れない兵士戦っている街の人や帝国騎士が戦っていて、いきなり帝都が戦場と化すのだ。そして愛しい者の元へ駆けつけ、攻略対象者が死にかける所をヒロインが救うんだ。そして、祈りを捧げたヒロインの体が光り輝き、負傷した自国の兵を癒すのだ。

 少し修正したので載せておきます。

___________________________________________________________________

 今日は学院は休日でハサンの家で作戦会議だ。出かけようとアルトと一緒馬車に乗り込む。女性と一緒に馬車に乗る場合は、手を差し伸べるのが礼儀でも、アルトは私にそんなことはしない。腰掛けて外を見た。お父様専用の馬車がまだ馬車置き場に止められていた。
 ――あれ? 珍しいお父様、まだ登城してないんだ。確か先週も休んでたような……。仕事人間のお父様も寄る年波には勝てないのね。

 帝都の中心部を通ってルエーイェ王家所有の家へ向かう。つまりハサンのお家ってことだ。時々、ボウガンを持った人を見かける。狙いをつけて引き金を引くだけでだけで射れるボウガンはたちまち人気となった。最近、鳥や兎などの小さな動物を自身で狩るのが流行っているらしい。フィリップの商会から流通してもらってそこそこの売り上げがある。
 自衛が出来て、戦争には付きものの略奪などの行為から民が守られるといいなと思う。



 
「お祖父様に話したわ」

 お祖父様との話の内容を話した。

「偉かったね」

 ららが私の頭を撫でた。顔を上げて彼女を見るととても優しい目をしている。

「話して良かった?」
「うん……真剣に話を聞いてくれたわ。本当に私って進歩ないわ。また人のこと騙すような真似するところだった。ありがとう、らら」
「この世界は乙女ゲーなんだから、正直者は報われるのよ」
「えーホント?」

 私達は顔を見合わせて、笑った。

「ん゛んっ!いいかな?」
「あ゛っ……」
「ここ俺んちだって忘れてたでしょ?」

 ……ハサン邸で作戦会議していたの忘れていた。

「「ごめんなさい、あっ」」
「「ハモった!」」

 クスクス笑い合う。

 ハサンが呆れたように息を吐いた。

「これどうするの?」

 傭兵団、盗賊団の契約書を出した。契約には前金と署名が必要になる。

「私が……」
「――俺がする。金も俺が調達した」

 以外にも、アルトが名乗り出た。契約書を受け取り、流れる動作でサインをした。書類は私が預かった。

 その後、お茶をしてからルエーイェ邸を出た。寒さに身震いする。空のオレンジ色と紫のグラデーションが綺麗だった。無紋の馬車に乗ってクロードのパン屋さんで様子を見る。クロードは看板を片付けている。気持ち悪いかもしれないが、街の出ると必ずこの道を通って、クロードの様子を見てしまうんだ。

――元気そうでよかった。

 再び馬車を走らせて歓楽街へ向かった。黒いマントを羽織って、馬車を降りた。吐く息は白くて、肌を指すような冷気に寒いを通り越して、痛い。
 酒場からは陽気な人の声がして、私の心の重さと反対に快活笑声が聞こえる。雪の積もった道を進んだ。フードを深く被りなおして繁華街の終わりにある裏路地へ入った。すると先ほどまでの喧騒は遠くに聞こえ、別の世界みたいだ。花売りの女が並んでいる。
 フードを深く被り直した。化粧品と香水の匂いが混ざって不協和音のように不快な香りを放っている。

「ちっ! 女か。はぁー寒い」

 私は視線を落として歩を進めた。更に奥の人気のない道を進み、看板のない店のドアを開けた。中は薬屋だった。束になった草が干すように壁にかかっている。カウンターには一人の小柄な人が黙座している。黒い髪は長いがフードが邪魔で男か女か伺い知れない。迷いがある私は、口を開いて声を出すのに時間を要した。

「あ、あの……人を、殺せる薬をください。」

 声が震えた。それを言葉にするだけで緊張して、手に汗をかいた。

「一重に人を殺せる薬と言っても、多々ある。大きく分けて二つある。苦しませて殺すのか、楽に殺すのか。はたまた、人間の尊厳を奪って、廃人にする薬とかもある」

 言葉が出てこなかった。

「例えばこれ。四日もがき苦しんで殺す薬だ」

 赤い小瓶を取ってカウンターに置いた。

「どれだけの苦しみだろうか?死体には全身掻きむしった跡が残る。その表情は目は血走り、窶れ、この世の全ての苦しみを味わったような死に顔になるらしい。次はこれだ。」

 紫色の小瓶をコトリと置いた。

「これを飲むと全身が壊死してから死ぬ。指先、足先から段々と黒くなり、赤く腫れあがった己の体に助からないと恐怖しながら死んでいく。多分、痛いだろう。”もうさっさと殺してくれ”と懇願するらしい」

「も、もういいです。やめて!楽に死ねるやつがいい、一番楽に死ねるやつがいいです」

 早口で言葉を吐いた。
 青の小瓶を置いた。中には玉薬が入っている。

「ふふっ……なんの覚悟もないんだな……じゃあこれだな。仮死状態になる薬だ。これを一口飲めば、1日意識も五感も奪われ何も感じなくなる。2口飲めば、2日、3口飲めば……口粒飲んで7日分意識を奪えば、衰弱死する」
「もっと楽に死ねるものはないんでしょうか?」
「筋肉の動きを停止させる薬がある。全ての筋肉の動きを止める。例えば心臓も筋肉で動いているし、肺だって筋肉の働きで息をしている。筋肉が動かなければ死ぬな」
「じゃ、じゃあそれにします」

 もう嫌だ。この世界は乙女ゲームのゆるっとふわっとした世界じゃないの!? こんな思いするなら……
――私はららに死んでほしくない!

「あの、やっぱりこれもください」

ポケットしまった2つの小瓶が、重い。
 
 帰路に着く。さっき通った道を戻った。街灯が照らす大通りが見えて自然と歩調が速まる。いきなり、手を捕まれ、首と口を押さえつけられて、混乱し、呼吸が出来なくなった。

「あまりおいたするといけませんでちゅよー!」

 恐怖に引き攣った内心とは裏腹に、明るく楽しげな声音だった。状況と声合っていない。混乱極まり、フリーズする私の首筋に生暖かい物が這う。口づけだと気づいた時には、明るい街灯照らす大通り平凡押し出された。湿った首を押さえて振り返るとそこには誰もいない。暗闇があるだけだった。
 急いで息を切らして、家路についた。
 無事家について、安堵の息漏らす。
 走ったからじゃない。嫌な汗が張り付いていた。
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