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61話 

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 生徒会に入って一ヶ月、クリフ様にも大分慣れてきた。肩身の狭い思いも気まずさもない。キャロルもいい子だ 
 廊下では浮かれた生徒が、思い思いの衣装を身に着けてはしゃいでいる。普段なら、クリフ様が通れば、女子生徒のみならず男子生徒も色めき立つが、今日は少し静かだ。どうやら変装は完璧で、バレていないのだろうけど、イケメンは隠せずに女子生徒のみ騒いでいる。私の方も見てる人が居るから、私も中々カッコイイのでは無いかと思う。フッ、僕は罪な男だ。
 然し、慣れたと言えども、会話には困る。私はクリフ様の好きな食べ物すら知らないのだ。クリフ様の半歩後ろを歩きながら、緊張に手を握りしめた。

「何処から回ろうか?」

「去年は巡回はどうしてたんですか?」

「真面目に巡回してたんだけど、王族の俺に恐縮して会う人全て祭りどころじゃないと言った感じだったな……。でも、警備の者もいるから大丈夫だろう。……変装良いと思うよ。俺がいると気遣って楽しめないだろし、普段の取り繕ってないそのままが見える」

 ”確かに”と納得したが、それは胸に留めておいて、曖昧に笑った。

「お疲れ様です」

 クリフ様はため息をついた。

「偶に王宮が巨大な鳥檻で、玉座は磔にする椅子のような気がするんだ」

「私も似たようなことを思ってました。クリフ様よりも軽いですが、ちょっと息苦しいなって……」

「息苦しいってピッタリだ。取り入ろうとする者、王家の権力を削ごうとする者、信頼出来る気の置けない友人を作るのも大変だ……すまん、女性に話すようなことじゃないな」

 王族も大変だなぁと思う。私でさえ一人で出歩くなど出来ずに息苦しいのに、きっとクリフ様はもっと不自由なんだろうな。一時いっときだけでも良いから、身分を忘れて心を軽くしてあげたいと思った。

「話して楽になるならどうぞ。私には聞く事しかできませんが…………ごっこ遊びをしませんか?」

 何だか、誰とも知れず話してた事を思い出した。

「ごっこあそびか?」

「はい。貴方は商家の子息で、私は……僕は平民でこの学院に通っている男の子です。二人はマブダチなんです」

「マブダチってなんだ?」

 マブダチってこの世界じゃ通じなかった。

「本物の友達という意味です。今日は友人として一緒に過ごしましょう」

「あぁ、構わない。ちょっと面白そうだし」

 クリフ様は結構ノリがいいんだよね。普段から新しい事が好きで、遣りたがる。最近はウノにハマっている。

「マブダチなんで、今は無礼講でお願いしますね!?」

「もちろん」

 とは言ったものの、何をしたらいいか全くわからない。今世は友達あんまり居ないし、前世はこうやって一緒に遊ぶような男友達なんて居なかったし、何をしていいか悩む。
 今はもう校舎前の、普段は馬車止めに使っている広場を歩いている。広場の中心には噴水があり、その周りを石畳を敷き詰めた馬車道になっていて、ロータリーみたい感じになっている。そこから、厩舎へ行く道や校門や学生寮に行く道などに別れているが、今日は道の両端に出店などが連なっている。辺りには色々な食べ物の匂いが空気を

「どこ行こうか?」

「とりあえず、腹ごしらえとか?」

 私は今、男の子だから喋り方に気をつけよう。

「普段そういう喋り方なのか?」

「今は男の子だからね」

「お前、結構食い意地張ってるよな」

 バレてる。

「だってさ、美味しい食べ物ってすごいでしょ⁉怒ってた人も不幸だと嘆いていた人も皆、美味しい物を食べたら笑顔になって幸せ気持ちになれるんだよ。こんなに簡単にそんなことが出来るのは美味しい食べ物だけだよ」

 私は真面目に力説した。

「そっか、一理あるなぁ」

 むぅ、子供扱いされてる。子供にするみたいに頭を撫でながら、微笑むクリフ様。あんまりにも優しく愛おしそうに微笑むから、心臓張り裂けそうに高鳴る。そんな顔するなんてずるい。私は頭を避けて、クリフ様の掌から逃れた。

「もぉー馬鹿にしてますね!?食べ物を軽んじる人は、食べ物に泣きますよ」

 頬を膨らました。
 この人とは顔も知らず夜会で会った時からそうだけど、何故か前世みたいにきおわないで話せる。

「馬鹿にしてないって。澄まして食べてるより、美味しそうに食べる子の方が可愛い。あれ食べてみようぜ」

 小麦粉を薄く伸ばして揚げて粉糖をまぶしたビューニュと言うお菓子が山積みになっている。その隣にはドライフルーツをたっぷり練り込んだ焼き菓子等が並んでいる。

「どれにする?」

「私はやっぱりビューニュにしようかな」

 食べ歩きやすそだもんね。

「すみま……」
「これふたつ」

 ワタシの声に被せるように、クリフ様の声が重なる。

「はーい」

 クリフ様はお金を払って、紙袋入ったビューニュを受け取り、一つ私に差し出した。

「……ありがとうございます」

 この世界では女性働く習慣も少ないから、男性払うのは常識なので有り難く頂戴した。断ったら”甲斐性がないと思われている”と思われて、プライドを傷つけることになりかねない。然し、家族でもない人にご馳走して貰うのは気が引けるが、クリフ様に
を立てる為、グッと我慢した。

「僕、飲み物買ってきます」

 クリフ様は手で制して”あそこで待っててくれ”と言ってベンチを指さした。私は断念してベンチに座って待つと、手にドリンクを持った彼が戻って来た。

「アップルジュースとアイスティーどっちがいい?」

 両方を差し出すクリフ様からアイスティーを受け取った。彼が私の隣に座った。
 ちょっと距離が近くて、左側だけ熱い。気にしない様に意識を通行人に向けて、ビューニュを食べた。薄くて軽い食感についつつ手が次から次へと伸びて、あっという間に半分以下になってしまった。これでは食い意地が張ってると言われても致し難ない。

「美味しいのか?俺のも食べる?」

 私は首を振った。

「付いてるぞ」

 クリフ様は私の頬に付いた粉糖を親指でぬぐって、”可愛い”と呟いて、砂糖より甘く微笑んだ。
 私は赤く染まった頬をクリフ様から見えないように、アイスティーを壁のようにして頬を冷やした。

 もう背けていた自分の気持ちからは逃げられないと思った。

 その後、巡回したけど、クリフ様ばかり気になってそれどころでは無かった。
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