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39話 ミスコン

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 ミスコン当日、今日は天気がいい。春よりも陽差しが強い日差しが、まだ色づいていない紫陽花の花弁を照らしている。
 校舎前の広場には出店が並んでいて、肉を焼く炭火の匂いや、甘い菓子やフルーツの匂いが漂っている。会場は校庭に設置してあり、今は吹奏楽部が舞台で演奏している。ミスコンはトリある。その前に演劇部や合唱部の催し物がある。

「お姉ちゃん! どお?」

 アンネはいつもはすっぴんだが、今日は薄く化粧をしている。

「あれ? そんなの持ってたっけ?」

 アンネの胸元に黒地に虹色がかった宝石が輝いていた。とても平民には買えそうに見えない。

「彼に貰ったの」

 嬉しそうに微笑んだアンネはとても可愛らしい。

「誰?」
「うひひっ、ひみつ~」

 ニヤけるアンネはちょっとキモい。なんか、面倒ごとが舞い込んで来そうな気がするから、それ以上聞くのは止めた。

「早く行きなさい」

 出場者アンネは控室へ向かった。私は生徒会執行部を設置した1階の空き教室へ向かった。
 廊下を歩きながら、中庭を見やった。

 心臓が脈打つ。嬉しくて切なくて泣きたくなった。アリスが目を閉じ、腕を組み中庭のベンチに座っているからだ。アリスと声をかけようと口を開けた瞬間、黒髪の同じ年瀬の女性がアリスの前に現れた。遠目からでも、整った感じのする美少女で黒いゴシック風ドレスが似合っている。
 彼女がアリスにキスをしようと目を閉じ唇を近づけた。唇が触れ合う寸前、アリスは目を開け物凄い嫌そうな顔をして払いのけた。それをからかうように、美少女が笑っている。こんなに気安く話すアリスを私は知らない。いつも誰に対しても笑顔で、私対しては、嬉しそうに天使な笑顔をいつも見せてくれていたから。1番親しいつもりでいたから、なんかショックだった。

 アリスが私に気づいて目が合った。けど、それはすぐに逸らされてしまった。

――ズキンッ!

 痛い。心臓が怪我したみたい。私は、逃げるように早歩きで生徒会執行部に向かった。




「優勝おめでとう」
「いやー、私って可愛いし、魔法も勉強も出来るし、ミスコンで優勝までしちゃうなんてすごいでしょ!? いやはや天はニ物も三物も与えちゃうなんて……神を愛し、神に愛された女。アンネリース・フロリアン!」

 アンネの頭上には、優勝者に送られる小さなクラウンが乗っている。

「そういう所嫌いじゃないけど、せっかくの可愛らしい容姿がもったいないと思うわよ」

 どっかの大声で絶叫するピン芸人のセリフと仕草を真似て言うアンネはとても可愛らしい容姿の無駄遣いだ。でもだからアンネはクラスで誰とでも仲良くできるのだろう。

「まぁ、あまり完璧すぎるのもね。お姉ちゃんはもうちょっとスキがあったらとっつきやすくなるのに」
「え゛、あなたみたいに残念な人間になれと?」
「そうじゃないけど、いろいろあるでしょ?」
「例えば?」
「お姉ちゃんから、相手のドレスとか髪型とか褒めるとか……」
「恥ずかしいじゃない」
「お姉ちゃんに憧れてる子たくさんいるんだよ」
「そんなことないわよ。けっこう陰口叩かれてるわ」
「ホントなのにー」

 アンネ唇を尖らせた。

「今日、アリスに会ったの」
「来てたんだ。どうだった?」
「まだ魔王にはなってなさそうで、実体はあったわ。……でも無視されちゃった」
「あの男がお姉ちゃんを無視って有り得なくない?
執着心の権化なのに?」
「それって愛する人だからでしょ? それに、ゲーム内のアリスとは性質は違うわよ。天使の笑顔はそのままだけど……」
「う゛うーん、見えてる部分だけじゃないからね」
「そうね、ゲームでもわからない所はあるもの」
「そういうことにしておく」
「美少女と一緒だったわ」
「へー」
「なんで嬉しそうなのよ……」
「いやー、面白くなってきたなって」
「ちょっとそんな場合じゃないでしょう」

 私はジトッとした目で睨んだ。




 学校から帰宅して、今はベット入って寝ようとしたけど昼間のアリスと美少女のこと思い出して寝れない。とても嫌な気持ちが湧き出てくる。アリスの隣は私の場所なのに! なんて傲慢なんだろうか。いつも当然のように思っていたアリスの隣は、当然じゃなかった。それが悲しく、腹立たしい。でもそれは自分への怒りだ。もっとアリスを大切にしていれば、まだアリス一緒に入れたのかもしれない。後悔してる。

「アリス……」

 名を呼んだ声が夜に溶ける。その切ない響きに涙が滲む。

「会いたいな……」

――夢でもいいから……

 そっと瞳閉じた。
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