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38話
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アリスのことが心配で心配で、もどかしくてどうにかしたくて、とりあえず現状維持ではどうにもならないと思った私はアリスに会おうと王城にやってきた。応接室で座り、アリスを待っていた。紅茶はもう冷めていて、随分前から湯気があがっていない。テーブルの上には手つかずのサンドイッチのパンの角が乾燥して固くなっている。
ドアをノックする音が聞こえて……
入ってきたのは壮年の侍女だ。
「申し訳ございません。ただいま手を離せず、お会いになることは出来ないそうです」
「いくらでも待ちますが、お会い出来ないでしょうか?」
王族の決定にこのような事を申して無礼なのは承知だ。でも、もう何度目かの登城で、一度も会えていない。どうしても元気な姿をひと目だけでも見たかった。侍女にやんわりと断られて、それでも訪ねた。返ってくる答えが何度も繰り返されたわかっていた答えでも。
「このような事を申し上げるのは大変恐縮ですが、殿下のご決定にそのようなことをなされても、かえって印象を悪くするのではないかと思います」
「……わかりました、帰ります」
私は肩を落してゆっくりと廊下を歩き始めた。アリスにばったりでも会えないかと思ったから。今まで会いに行って会えないことなど無かったのに。
侍女が出口まで丁寧に付き添ってくれたが、気落ちしていつものように笑ってにこやかに挨拶出来なかった。
来たときより大分翳った太陽を……夕日を見ながら家路についた。
今日もアリスが学校を休んでいる。もう1週間も会えていない。空席になった場所にアリスの姿を思い出した。
アリスは授業中でも、私がアリスを見ると必ず振り返って、笑ってくれた。そんな日々がさほど時間が、経ってないのに恋しい。
異母弟のヨハイムならアリス様子を知っているかもしれない。彼を見た。…………話しかけるタイミングも、話しかける間柄でもない。今までほぼ挨拶しかしたことがない。アリスとヨハイムは仲は悪くないが、特にいい訳でもないみたいだったし……あっ今の一瞬の表情、アリスに似てる。憂愁が胸中を占めた。
今、王城は近隣国のバーレミオン国の使節団がいらしている。そこは切り立った山脈に囲まれた殆ど外交をしない国で、貴重な魔道具を輸出している。魔道具の秘密保持のためかわからないが、外国人は殆ど入ることが出来ない。そのためアリスは忙しいのかもしれない。だから……だからここしばらく会えなかったのかもしれないと不安な心を慰めた。ホントのところはわかってはいるのだけれど。
明日は、ミスコンが開催される。生徒会は大忙しで、最近は毎日その準備に追われている。
うちのクラスからはアンネとブレンダ侯爵令嬢が出場する。私にも他の生徒から何通も推薦状が来たけど断った。あまり注目を集める行為は苦手だし、アリスのことが気がかりでミスコン対策する余裕がない。それに社交界での影響力を考えれば、有用だけど、私のような家柄の娘が優勝しないなんてあり得ないから、かえって優勝出来なければ、評判が落ちてしまう。
アンネは目立つのが好きらしい。一応、地位のある女性を淫らに調教するのが好きなロバート(生徒会長)のイベントである。これをクリアしないと攻略出来ない。もう、アリスが……魔王因子を持ってるだろうから、攻略する必要は無いんだけど。
視界が滲んでよく見えない。
――アリスに会いたいな。
離れてみて大切さがより浮き彫りされた。
少なくとも、バーレミオン王国に歓迎パーティが開かられるので、あと数日で会える。内心は複雑で、それでもアリスに会えることを楽しみに感じている。
夜、ベットで本を読んでいる。最近、あまり寝れなくて、眠くなるまで本を読むのが日課になりつつあった。
ドアを叩く音がしたので、入室の許可をすれば入ってきたのはエバンだ。手にしたトレーにの上には湯気の登ったマグカップとおにぎりがあった。
「どうしたの?」
「眠れないんじゃないかと思いまして」
「別に敬語じゃなくていいから、気楽に話して。二人きりのときは特に」
ゲームを知ってる私は、普段はこんな丁寧話す人物じゃないことを知っていた。伯爵家長男という間柄でも親しく話して問題ない。令嬢とそれに仕える騎士として、礼儀を弁えた態度をしているだけだ。
「俺が敬意を払いたいのは、姫だけで、敬語は俺が貴方にそうしたいからです。でも今は遠慮なくはっきりと言わせてもらいます。今日もご飯を残していたでしょう。食べてください」
「あまりお腹が減らないの」
無論、腹が減れば食べるけど今はお腹が減ったと感じないのだ。
「周りのことを思ってるくれるなら、食べてください!」
「その言い方……ずるいなぁ……」
まだ、出会った期間は短いのに、エバンは私がなんて言えば食べるか分かっていた。
そして私におにぎりの乗った皿を押し付けてきた。そして2つ乗ったおにぎりを一つおずおずと食べた。塩加減がちょうどいい塩梅だ。これも私が前世知識で料理長に教えたものだ。海苔の風味もいい。中身は洋風でベーコンチーズにしてある。梅干しや昆布よりも、馴染みある具のほうが食べやすいと思ったからだ。それが功を奏してか、今や気軽に食べれると冒険者や、肉体労働者に大人気だ。
「殿下なら心配ないですよ。あの男は殺しても死なないのではと思うほど、しぶといですから」
「そんな……」
「事実、何度も殺そうと本気で切りかかりましたが、私のほうが剣技で上回っていても殺すことは叶いませんでした。王国一、死なない男です」
エバンがあまりにも物騒なことをいうので、目を見開いてまじまじとエバンの顔を見るが、どうやら本気で言っているようだった。
私がなんとか頑張っておにぎりを半分食べて、皿に戻すと、彼は“華奢な腕ですね”と呟いて寂しげに眉根を寄せて笑った。
「あぁそういえば、騎士団にこないだホロホロ鳥を254匹も食べた大食漢がいまして、その後……」
エバンは騎士団であった面白い出来事を、たくさん私に話してくれた。彼は寡黙でもないが、口数が多いわけでもないから、私を元気づけようとしてくれたのだろう。その気持ちが嬉しかった。
ドアをノックする音が聞こえて……
入ってきたのは壮年の侍女だ。
「申し訳ございません。ただいま手を離せず、お会いになることは出来ないそうです」
「いくらでも待ちますが、お会い出来ないでしょうか?」
王族の決定にこのような事を申して無礼なのは承知だ。でも、もう何度目かの登城で、一度も会えていない。どうしても元気な姿をひと目だけでも見たかった。侍女にやんわりと断られて、それでも訪ねた。返ってくる答えが何度も繰り返されたわかっていた答えでも。
「このような事を申し上げるのは大変恐縮ですが、殿下のご決定にそのようなことをなされても、かえって印象を悪くするのではないかと思います」
「……わかりました、帰ります」
私は肩を落してゆっくりと廊下を歩き始めた。アリスにばったりでも会えないかと思ったから。今まで会いに行って会えないことなど無かったのに。
侍女が出口まで丁寧に付き添ってくれたが、気落ちしていつものように笑ってにこやかに挨拶出来なかった。
来たときより大分翳った太陽を……夕日を見ながら家路についた。
今日もアリスが学校を休んでいる。もう1週間も会えていない。空席になった場所にアリスの姿を思い出した。
アリスは授業中でも、私がアリスを見ると必ず振り返って、笑ってくれた。そんな日々がさほど時間が、経ってないのに恋しい。
異母弟のヨハイムならアリス様子を知っているかもしれない。彼を見た。…………話しかけるタイミングも、話しかける間柄でもない。今までほぼ挨拶しかしたことがない。アリスとヨハイムは仲は悪くないが、特にいい訳でもないみたいだったし……あっ今の一瞬の表情、アリスに似てる。憂愁が胸中を占めた。
今、王城は近隣国のバーレミオン国の使節団がいらしている。そこは切り立った山脈に囲まれた殆ど外交をしない国で、貴重な魔道具を輸出している。魔道具の秘密保持のためかわからないが、外国人は殆ど入ることが出来ない。そのためアリスは忙しいのかもしれない。だから……だからここしばらく会えなかったのかもしれないと不安な心を慰めた。ホントのところはわかってはいるのだけれど。
明日は、ミスコンが開催される。生徒会は大忙しで、最近は毎日その準備に追われている。
うちのクラスからはアンネとブレンダ侯爵令嬢が出場する。私にも他の生徒から何通も推薦状が来たけど断った。あまり注目を集める行為は苦手だし、アリスのことが気がかりでミスコン対策する余裕がない。それに社交界での影響力を考えれば、有用だけど、私のような家柄の娘が優勝しないなんてあり得ないから、かえって優勝出来なければ、評判が落ちてしまう。
アンネは目立つのが好きらしい。一応、地位のある女性を淫らに調教するのが好きなロバート(生徒会長)のイベントである。これをクリアしないと攻略出来ない。もう、アリスが……魔王因子を持ってるだろうから、攻略する必要は無いんだけど。
視界が滲んでよく見えない。
――アリスに会いたいな。
離れてみて大切さがより浮き彫りされた。
少なくとも、バーレミオン王国に歓迎パーティが開かられるので、あと数日で会える。内心は複雑で、それでもアリスに会えることを楽しみに感じている。
夜、ベットで本を読んでいる。最近、あまり寝れなくて、眠くなるまで本を読むのが日課になりつつあった。
ドアを叩く音がしたので、入室の許可をすれば入ってきたのはエバンだ。手にしたトレーにの上には湯気の登ったマグカップとおにぎりがあった。
「どうしたの?」
「眠れないんじゃないかと思いまして」
「別に敬語じゃなくていいから、気楽に話して。二人きりのときは特に」
ゲームを知ってる私は、普段はこんな丁寧話す人物じゃないことを知っていた。伯爵家長男という間柄でも親しく話して問題ない。令嬢とそれに仕える騎士として、礼儀を弁えた態度をしているだけだ。
「俺が敬意を払いたいのは、姫だけで、敬語は俺が貴方にそうしたいからです。でも今は遠慮なくはっきりと言わせてもらいます。今日もご飯を残していたでしょう。食べてください」
「あまりお腹が減らないの」
無論、腹が減れば食べるけど今はお腹が減ったと感じないのだ。
「周りのことを思ってるくれるなら、食べてください!」
「その言い方……ずるいなぁ……」
まだ、出会った期間は短いのに、エバンは私がなんて言えば食べるか分かっていた。
そして私におにぎりの乗った皿を押し付けてきた。そして2つ乗ったおにぎりを一つおずおずと食べた。塩加減がちょうどいい塩梅だ。これも私が前世知識で料理長に教えたものだ。海苔の風味もいい。中身は洋風でベーコンチーズにしてある。梅干しや昆布よりも、馴染みある具のほうが食べやすいと思ったからだ。それが功を奏してか、今や気軽に食べれると冒険者や、肉体労働者に大人気だ。
「殿下なら心配ないですよ。あの男は殺しても死なないのではと思うほど、しぶといですから」
「そんな……」
「事実、何度も殺そうと本気で切りかかりましたが、私のほうが剣技で上回っていても殺すことは叶いませんでした。王国一、死なない男です」
エバンがあまりにも物騒なことをいうので、目を見開いてまじまじとエバンの顔を見るが、どうやら本気で言っているようだった。
私がなんとか頑張っておにぎりを半分食べて、皿に戻すと、彼は“華奢な腕ですね”と呟いて寂しげに眉根を寄せて笑った。
「あぁそういえば、騎士団にこないだホロホロ鳥を254匹も食べた大食漢がいまして、その後……」
エバンは騎士団であった面白い出来事を、たくさん私に話してくれた。彼は寡黙でもないが、口数が多いわけでもないから、私を元気づけようとしてくれたのだろう。その気持ちが嬉しかった。
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