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29話
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アリスとキスをした翌朝、学校に行く支度を終えて、制服姿を姿見で確認しているとき、メイドに声を掛けられた。昨日、アリスにはあの後、会っていない。帰るとメイドに言付けて彼は帰っていった。
「アリス様が迎えにきました」
アリスという単語だけで顔が熱くなるのを感じた。恥ずかしくて行き淀む足。然し、このまま邸宅で蟄居する訳にはいけないと、諦念し、歩を進めた。まだ頬の熱が冷めぬまま、玄関まで辿り着き、
歩みを止め、手で顔を扇いだ。そして冷めた気がした頬の熱。深呼吸して冷静さを取り戻そうと試みる。心中は無。そして、一歩一歩進んだ。王家の紋章の入った馬車を見た瞬間、再び頬の熱が再燃する。然し、後には引けぬ。昨日も逃げたばかりだ。矜持もあるし、踵を返せば不自然だ。
御者の手を借り、ステップを登り馬車の中に入るといつもより機嫌の良いアリスが笑っていた。
「おはよう、アルちゃん」
思わず後ずさりしそうになり、後ろに体制を崩した。が、転ばず手を引かれ訪れたのは……アリスの腕の中。胸が高鳴る。そして唇と唇が重なる。人目が気になり、ドアを見ればそっと閉じられた。アリスの暖かな舌が唇を割って入り、私の舌を絡めとる。
「ん゛~!」
唇離そうと抵抗するが、しっかりと掴まれた手と腰で身じろぎ一つ出来なかった。心臓はドアを強く叩いたみたいに煩く耳の奥で鳴り響く。それはもう破裂するんじゃないかという程に。
口内を余すとこなく蹂躙され、もう息苦しさが限界達して渾身の力でアリスの胸板を叩いた。そしてやっと離してもらい、肩で息をした。
「ん~、死んじゃう!」
――窒息死するかと思った……
「そんなによかった!?」
「違うよ……息、出来なかったのよ」
「な~んだ。残念」
意気揚々と輝いていた翠緑色の瞳が、私の回答に暗くなった。
私を膝の上に座らせて、再度アリスは顔を近づける。
「ちょっと待って!」
「え? なんで? アルちゃんは僕にキスしたよね。自分がするのは良くて、されるのは駄目なの? まるで痴女のようだね」
「え゛っ!! ちっ、痴女……」
痴女。確かに間違いじゃない。
楽しそうに言うアリスと反対に私の表情曇った。天使を汚す、まるで性犯罪者のようだと。
「じゃなかったら、してもいいよね」
「で、でもでもでも……心臓が持たないの。爆発しちゃうわ」
「ふふっ。そんなにドキドキしちゃったの?」
彼は可笑しそうに笑って、軽いキスをして、私を強く抱きしめた。アリスが私の背を撫でれば、ゾクゾクとしたけど、もう恥ずかしくていたたまれなくてそれどころじゃなかった。
馬車が止まり、学校に着いた。やっと唇を離して貰えた。アルちゃんと声を掛けて、アリスが手を差し出したが、断っ。
「ちょっと落ち着いてから行くわ」
「わかったよ。先に行ってるね」
頬に手を当てる。私の顔は、絶対に真っ赤になっているだろう。それに鼓動も煩い。さっきの事を考えないように頭を真っ白にして、深呼吸を繰り返した。
「ん……」
居城にあるアリスの私室でアリスが覆いかぶさるようにキスをしてきた。最初にキスをしてから一週間。アリスは放課後、真っ直ぐ家に返してくれない。そういえばブレンダ侯爵令嬢も学校に来ていなかった。
“クリマスタ公爵家と外とホテルと僕の部屋どこがいい?”と聞かれ、私はアリスの部屋を選択した。家はもういたたまれないし、外なんて恥ずかしくて論外。ホテルは醜聞が気になるので、消去法でアリスの部屋を選択した。
支えきれず、ソファに押し倒され何度もキスをされる。時に優しく、時に貪るように。いつも彼が満足するまで何度もキスをされ、私は拙いながらも舌を絡ませ応えた。どちらかのか、口から雫が溢れた。
満足した表情で彼が雫を舐めとった。私は逆上せた頭でそれをながめた。
そんな時だった。アリス付きの事務官がノックをし、やってきた。慌てて居ずまいを正す。
「失礼します。ルカイラ民族戦争が終戦しました。我が国の勝利です」
嬉しそうにそう言って、万歳三唱をしたが、何故かアリスがそれを忌々しげに眺めているように見えるのは何故だろうか? そんな筈はないのに……。彼の元護衛のエバンも帰ってくる。もしかしたら彼に何かあったんだろうか?
「エバン様は、ご無事でしょうか?」
「ああ、やつを倒せるやつなんてこの世界中探しても師匠ぐらいだから大丈夫だろう。――チッ……忌々しい」
いつもよりワントーン低い声、最後に舌打ちをした気がしたが、聞き間違いだろう。天使のアリスが、そんなことするはずがないので、喉でも鳴ってしまったのかもしれない。その後の言葉は聞き取れなかった。どうして? 今まで1番怖い顔をしている。
「どうしたの? 大丈夫?」
アリスが強く強く抱きしめ、再び口づけを繰り返した。それを見てそっと事務官は下がって行った。私はもう羞恥心に心が折れそうだった。
――――――――――――――
“泥水を啜る鼠”にて
「なぁー、どうして“泥水を啜る鼠”か知ってるか? もっとかっこいい名前があるじゃねーか」
ピンク色の髪の男が訪ねた。この娼館のNo.1の娼婦が“さぁ”と言って首を降った。
「俺が前に聞いたら“お前らのことだ。薄汚れた犯罪者に大層な名前などいらんだろ”って言ってましたね。最近、ボス機嫌いいですね。この平和が続けばいいですね」
「本当に神様、アルセナ嬢様様だな」
娼婦が紅茶を飲みつつ頷いた。
ドアをノックする音がした。下働きがボスの到着を知らせた。3人は慌てて玄関まで走った。No.1娼婦はこんな時でも気品と女を忘れない。優雅に腰をくねらせ、急いだ。
「おはようございます」
従業員一同が一斉に挨拶をして、深くお辞儀をしたが、どす黒いオーラを纏ったボスの気配に誰もが顔を上げるのを戸惑った。
「アリス様が迎えにきました」
アリスという単語だけで顔が熱くなるのを感じた。恥ずかしくて行き淀む足。然し、このまま邸宅で蟄居する訳にはいけないと、諦念し、歩を進めた。まだ頬の熱が冷めぬまま、玄関まで辿り着き、
歩みを止め、手で顔を扇いだ。そして冷めた気がした頬の熱。深呼吸して冷静さを取り戻そうと試みる。心中は無。そして、一歩一歩進んだ。王家の紋章の入った馬車を見た瞬間、再び頬の熱が再燃する。然し、後には引けぬ。昨日も逃げたばかりだ。矜持もあるし、踵を返せば不自然だ。
御者の手を借り、ステップを登り馬車の中に入るといつもより機嫌の良いアリスが笑っていた。
「おはよう、アルちゃん」
思わず後ずさりしそうになり、後ろに体制を崩した。が、転ばず手を引かれ訪れたのは……アリスの腕の中。胸が高鳴る。そして唇と唇が重なる。人目が気になり、ドアを見ればそっと閉じられた。アリスの暖かな舌が唇を割って入り、私の舌を絡めとる。
「ん゛~!」
唇離そうと抵抗するが、しっかりと掴まれた手と腰で身じろぎ一つ出来なかった。心臓はドアを強く叩いたみたいに煩く耳の奥で鳴り響く。それはもう破裂するんじゃないかという程に。
口内を余すとこなく蹂躙され、もう息苦しさが限界達して渾身の力でアリスの胸板を叩いた。そしてやっと離してもらい、肩で息をした。
「ん~、死んじゃう!」
――窒息死するかと思った……
「そんなによかった!?」
「違うよ……息、出来なかったのよ」
「な~んだ。残念」
意気揚々と輝いていた翠緑色の瞳が、私の回答に暗くなった。
私を膝の上に座らせて、再度アリスは顔を近づける。
「ちょっと待って!」
「え? なんで? アルちゃんは僕にキスしたよね。自分がするのは良くて、されるのは駄目なの? まるで痴女のようだね」
「え゛っ!! ちっ、痴女……」
痴女。確かに間違いじゃない。
楽しそうに言うアリスと反対に私の表情曇った。天使を汚す、まるで性犯罪者のようだと。
「じゃなかったら、してもいいよね」
「で、でもでもでも……心臓が持たないの。爆発しちゃうわ」
「ふふっ。そんなにドキドキしちゃったの?」
彼は可笑しそうに笑って、軽いキスをして、私を強く抱きしめた。アリスが私の背を撫でれば、ゾクゾクとしたけど、もう恥ずかしくていたたまれなくてそれどころじゃなかった。
馬車が止まり、学校に着いた。やっと唇を離して貰えた。アルちゃんと声を掛けて、アリスが手を差し出したが、断っ。
「ちょっと落ち着いてから行くわ」
「わかったよ。先に行ってるね」
頬に手を当てる。私の顔は、絶対に真っ赤になっているだろう。それに鼓動も煩い。さっきの事を考えないように頭を真っ白にして、深呼吸を繰り返した。
「ん……」
居城にあるアリスの私室でアリスが覆いかぶさるようにキスをしてきた。最初にキスをしてから一週間。アリスは放課後、真っ直ぐ家に返してくれない。そういえばブレンダ侯爵令嬢も学校に来ていなかった。
“クリマスタ公爵家と外とホテルと僕の部屋どこがいい?”と聞かれ、私はアリスの部屋を選択した。家はもういたたまれないし、外なんて恥ずかしくて論外。ホテルは醜聞が気になるので、消去法でアリスの部屋を選択した。
支えきれず、ソファに押し倒され何度もキスをされる。時に優しく、時に貪るように。いつも彼が満足するまで何度もキスをされ、私は拙いながらも舌を絡ませ応えた。どちらかのか、口から雫が溢れた。
満足した表情で彼が雫を舐めとった。私は逆上せた頭でそれをながめた。
そんな時だった。アリス付きの事務官がノックをし、やってきた。慌てて居ずまいを正す。
「失礼します。ルカイラ民族戦争が終戦しました。我が国の勝利です」
嬉しそうにそう言って、万歳三唱をしたが、何故かアリスがそれを忌々しげに眺めているように見えるのは何故だろうか? そんな筈はないのに……。彼の元護衛のエバンも帰ってくる。もしかしたら彼に何かあったんだろうか?
「エバン様は、ご無事でしょうか?」
「ああ、やつを倒せるやつなんてこの世界中探しても師匠ぐらいだから大丈夫だろう。――チッ……忌々しい」
いつもよりワントーン低い声、最後に舌打ちをした気がしたが、聞き間違いだろう。天使のアリスが、そんなことするはずがないので、喉でも鳴ってしまったのかもしれない。その後の言葉は聞き取れなかった。どうして? 今まで1番怖い顔をしている。
「どうしたの? 大丈夫?」
アリスが強く強く抱きしめ、再び口づけを繰り返した。それを見てそっと事務官は下がって行った。私はもう羞恥心に心が折れそうだった。
――――――――――――――
“泥水を啜る鼠”にて
「なぁー、どうして“泥水を啜る鼠”か知ってるか? もっとかっこいい名前があるじゃねーか」
ピンク色の髪の男が訪ねた。この娼館のNo.1の娼婦が“さぁ”と言って首を降った。
「俺が前に聞いたら“お前らのことだ。薄汚れた犯罪者に大層な名前などいらんだろ”って言ってましたね。最近、ボス機嫌いいですね。この平和が続けばいいですね」
「本当に神様、アルセナ嬢様様だな」
娼婦が紅茶を飲みつつ頷いた。
ドアをノックする音がした。下働きがボスの到着を知らせた。3人は慌てて玄関まで走った。No.1娼婦はこんな時でも気品と女を忘れない。優雅に腰をくねらせ、急いだ。
「おはようございます」
従業員一同が一斉に挨拶をして、深くお辞儀をしたが、どす黒いオーラを纏ったボスの気配に誰もが顔を上げるのを戸惑った。
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