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28話 ガーデンパーティ③
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ブレンダ侯爵令嬢頬を叩かれ、私は後から痛んだ頬を押さえて彼女を呆然と見た。
「不愉快ですわ! 私、帰りますわ」
そう言って足早に歩く彼女の腕を取った。
「待ってください」
――ゴトッ……
何か陶器のような硬いものが床に落ちた音がした。音の様子からから割れてなさそうだと思った。ブレンダ侯爵令嬢のドレスのスカート辺りから何か見覚えのある物が見えた。
彼女は顔を蒼くして固まっていたので、私は拾い上げた。それは私のジュモー社製のアンティークドールだった。そして……それは――高価だからと遠慮したのだが――アリスがくれた物だった。
手を振払われて、ブレンダ侯爵令嬢は走って去
って行った。
後に残され呆然とする私とクラスメイト。暫しの静寂。それを破ってリーナ子爵令嬢が声を上げた。
「あ、あのー……そろそろ皆さんのところに戻りませんか?」
「えっええ、そうね。お茶でも飲んでゆっくりしましょう」
私の先導でパーティ会場である庭に戻ってきた。その間、会話らしい会話はなく、皆、どこか上の空だった。
先程のアンティークドールを見に行かず、ブレンダ侯爵令嬢の暴挙を知らないクラスメイトが楽しそうに歓談している。戻ってきた私達の微妙な表情を見て、訝しげに一瞬表情を変えたが、すぐに笑って話しかけて来た。その後は、楽しく過ごした。
「お姉ちゃん、何があったの?」
「うーん、なんだろう? ちょっと言~えないかな。アンネに関わり合いのない事だから」
もしかしたら誤解かもしれない。そう思いたいのかもしれない。でも、モヤモヤとして気分が晴れない。
アンネはガーデンパーティが終わっても帰らなかった。ディナーを食べて帰るつもりなんだろうか?
アンネはコミュ力が高く、使用人にも気さくに挨拶するため、家の使用人達ともいつの間にか仲良くなっていた。それに私の初めての女友だちだからか、皆、アンネに優しい。
「ふーん。……クローゼット見ていい?
「いいけど……」
「お母様の形見もあるから盗らないでね」
先程のことがあったから、思わず出た言葉だった。失言だった。一瞬のうちに後悔した。だから頭を下げた。
「ごめんなさい」
「とらないよ。後でちゃんと返すしー。そういえば、姉のもの勝手に借りてちょー怒られたな。懐かしいなぁ。あの頃は家も学校も楽しかったなぁ~」
「なんで妹って姉ものを勝手に借りるのかしら……!? 使おうとした時ないのは、もの凄く腹が立つのよね。しかもこっちが言うまで返さないのよ。どこの家でも妹ってそんな感じなのかしら?」
「そうだよ。そういうもんだよ」
「あなたの姉が怒る姿が目に浮かぶわ」
「宝石箱見ていい?」
「いいけど、勝手に持ってかないでね」
「わかった~」
アンネは宝石箱を開けて感嘆の声を洩らした。
先程、生まれた時からいる執事に手紙を貰った。王家の薔薇と棘と剣の紋章の封蝋が押されている。きっとアリスからだ。開けると爽やかで中性的なコロンの匂いがした。馴染みのあるアリスの匂いだ。内容は、本日の夕方遊びに来ると言うことだった。
「悪いけど、これからアリスが来るの。だから帰ってもらえる?」
「えぇ~ご飯食べて帰ろうと思ってたのに~! でもいいや。さっきパーティで余ったお菓子貰ったから……」
「貴方……凄いわね。きっと何処でも生きていけそうね」
私は呆れた声を出した。そして、少し前から考えてたことを口にした。
「私……今日こそ、アリスにキスしてみるわ。それぐらいならなんとか出来るかもしれない」
「えぇっ! あの奥手なお姉ちゃんが!? 頑張って」
本当は自信ない。だから、逃げられないようにアンネに決意を宣言した。
「わかった。後で報告してね」
アンネが可愛くウィンクをして、帰った。私の心臓は今からソワソワしていた。
「今日はどうしたの?」
「う~ん……なんとなく」
アリスが私の顔を数秒見つめた。
クラスの女子とガーデンパーティをしたのは知っているはずだ。
「何かあった?」
あったといえばあったが、今はそれどころじゃない。普段かかない汗で手が湿っぽい。唾を飲んだだけで不自然に喉がなってしまった。
アンネが帰った後、アリスが来て、応接室でお茶を飲んでいた。外はガーデンパーティを開いた庭が見える。これから庭に散歩でもして、そこでキスをするわ、絶対に。
「何もないよ」
「アルちゃんは嘘が下手なのを自覚したほうがいいよ」
クスリと笑ってアリスが言った。
「そんなに顔に、出るタイプかしら?」
私はアンネみたいに、そんなに表情が豊かなタイプではないはずだが……。
「顔じゃないよ。目とか、緊張すると手を強く握る癖とか……」
膝に置かれた手を見れば、確かに重ねられた手をしっかり握っていた。
「アリスだって素直すぎるわ。そんなところが好きだけど、アリスは国王になるのよ。そんないい子じゃ心配だわ」
アリスみたいないい子が、宰相の言いなりなったり、他国の国王にいいようにされないか心配だわ。
アリスは曖昧に笑って、紅茶を飲んだ。
「ごめんね。僕、用事が出来たから行かないと……」
アリスがソファから立ち上がった。
「えぇっ! もう?」
―まだキスしてないわ! 絶対するんだから。
私も立ち上がって、アリスの後を追いかけた。そして扉に向かうアリス進行方向を手で遮った。アリスが私の方を驚いて見た。そしてアリスの頬に両手を添えて、少し背伸びをしてキスをした。アリスの柔らかで温かい唇が私の唇と重なる。ファーストキスだ。キス初心者の私は、唇を合わせればキスぐらいしか考えていなくて、この後どうすればいいか全くわからなくて、そのまま重ねただけだった。けど、ヌルリとしたものが唇を割って入ってきて、私は尻もちをついて床に転んで、アリスを見上げた。アリスは今まで見たことのない顔で笑っていて、喫驚した私は走って逃げた。
「不愉快ですわ! 私、帰りますわ」
そう言って足早に歩く彼女の腕を取った。
「待ってください」
――ゴトッ……
何か陶器のような硬いものが床に落ちた音がした。音の様子からから割れてなさそうだと思った。ブレンダ侯爵令嬢のドレスのスカート辺りから何か見覚えのある物が見えた。
彼女は顔を蒼くして固まっていたので、私は拾い上げた。それは私のジュモー社製のアンティークドールだった。そして……それは――高価だからと遠慮したのだが――アリスがくれた物だった。
手を振払われて、ブレンダ侯爵令嬢は走って去
って行った。
後に残され呆然とする私とクラスメイト。暫しの静寂。それを破ってリーナ子爵令嬢が声を上げた。
「あ、あのー……そろそろ皆さんのところに戻りませんか?」
「えっええ、そうね。お茶でも飲んでゆっくりしましょう」
私の先導でパーティ会場である庭に戻ってきた。その間、会話らしい会話はなく、皆、どこか上の空だった。
先程のアンティークドールを見に行かず、ブレンダ侯爵令嬢の暴挙を知らないクラスメイトが楽しそうに歓談している。戻ってきた私達の微妙な表情を見て、訝しげに一瞬表情を変えたが、すぐに笑って話しかけて来た。その後は、楽しく過ごした。
「お姉ちゃん、何があったの?」
「うーん、なんだろう? ちょっと言~えないかな。アンネに関わり合いのない事だから」
もしかしたら誤解かもしれない。そう思いたいのかもしれない。でも、モヤモヤとして気分が晴れない。
アンネはガーデンパーティが終わっても帰らなかった。ディナーを食べて帰るつもりなんだろうか?
アンネはコミュ力が高く、使用人にも気さくに挨拶するため、家の使用人達ともいつの間にか仲良くなっていた。それに私の初めての女友だちだからか、皆、アンネに優しい。
「ふーん。……クローゼット見ていい?
「いいけど……」
「お母様の形見もあるから盗らないでね」
先程のことがあったから、思わず出た言葉だった。失言だった。一瞬のうちに後悔した。だから頭を下げた。
「ごめんなさい」
「とらないよ。後でちゃんと返すしー。そういえば、姉のもの勝手に借りてちょー怒られたな。懐かしいなぁ。あの頃は家も学校も楽しかったなぁ~」
「なんで妹って姉ものを勝手に借りるのかしら……!? 使おうとした時ないのは、もの凄く腹が立つのよね。しかもこっちが言うまで返さないのよ。どこの家でも妹ってそんな感じなのかしら?」
「そうだよ。そういうもんだよ」
「あなたの姉が怒る姿が目に浮かぶわ」
「宝石箱見ていい?」
「いいけど、勝手に持ってかないでね」
「わかった~」
アンネは宝石箱を開けて感嘆の声を洩らした。
先程、生まれた時からいる執事に手紙を貰った。王家の薔薇と棘と剣の紋章の封蝋が押されている。きっとアリスからだ。開けると爽やかで中性的なコロンの匂いがした。馴染みのあるアリスの匂いだ。内容は、本日の夕方遊びに来ると言うことだった。
「悪いけど、これからアリスが来るの。だから帰ってもらえる?」
「えぇ~ご飯食べて帰ろうと思ってたのに~! でもいいや。さっきパーティで余ったお菓子貰ったから……」
「貴方……凄いわね。きっと何処でも生きていけそうね」
私は呆れた声を出した。そして、少し前から考えてたことを口にした。
「私……今日こそ、アリスにキスしてみるわ。それぐらいならなんとか出来るかもしれない」
「えぇっ! あの奥手なお姉ちゃんが!? 頑張って」
本当は自信ない。だから、逃げられないようにアンネに決意を宣言した。
「わかった。後で報告してね」
アンネが可愛くウィンクをして、帰った。私の心臓は今からソワソワしていた。
「今日はどうしたの?」
「う~ん……なんとなく」
アリスが私の顔を数秒見つめた。
クラスの女子とガーデンパーティをしたのは知っているはずだ。
「何かあった?」
あったといえばあったが、今はそれどころじゃない。普段かかない汗で手が湿っぽい。唾を飲んだだけで不自然に喉がなってしまった。
アンネが帰った後、アリスが来て、応接室でお茶を飲んでいた。外はガーデンパーティを開いた庭が見える。これから庭に散歩でもして、そこでキスをするわ、絶対に。
「何もないよ」
「アルちゃんは嘘が下手なのを自覚したほうがいいよ」
クスリと笑ってアリスが言った。
「そんなに顔に、出るタイプかしら?」
私はアンネみたいに、そんなに表情が豊かなタイプではないはずだが……。
「顔じゃないよ。目とか、緊張すると手を強く握る癖とか……」
膝に置かれた手を見れば、確かに重ねられた手をしっかり握っていた。
「アリスだって素直すぎるわ。そんなところが好きだけど、アリスは国王になるのよ。そんないい子じゃ心配だわ」
アリスみたいないい子が、宰相の言いなりなったり、他国の国王にいいようにされないか心配だわ。
アリスは曖昧に笑って、紅茶を飲んだ。
「ごめんね。僕、用事が出来たから行かないと……」
アリスがソファから立ち上がった。
「えぇっ! もう?」
―まだキスしてないわ! 絶対するんだから。
私も立ち上がって、アリスの後を追いかけた。そして扉に向かうアリス進行方向を手で遮った。アリスが私の方を驚いて見た。そしてアリスの頬に両手を添えて、少し背伸びをしてキスをした。アリスの柔らかで温かい唇が私の唇と重なる。ファーストキスだ。キス初心者の私は、唇を合わせればキスぐらいしか考えていなくて、この後どうすればいいか全くわからなくて、そのまま重ねただけだった。けど、ヌルリとしたものが唇を割って入ってきて、私は尻もちをついて床に転んで、アリスを見上げた。アリスは今まで見たことのない顔で笑っていて、喫驚した私は走って逃げた。
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