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22話 カフェにて
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真っ白なアリスの馬車。天使の様なアリスに似合っている。
そしてブレザーの制服も似合っている。
アリスが差し出した手に自身の手を重ねて馬車に乗り込んだ。当然に差し出される手に、いつもよりきもちゆっくりと自身の手を載せるのは少し緊張しているからだろうか。ドキドキしながら、座席に座る。するといつもは向かいに座っていた彼が隣に座る。思わず照れくさくて、俯く。少しの沈黙。
「きゃっ!」
触れられ慣れていない腰を触られ、小さく悲鳴を上げた。私の肩から太ももまで全てアリスにくっついている。隙間を開けるのが惜しいほど求めあっている恋人みたいな距離に慣れず、身の置き場のない気持ちになる。
アリスはどう思っているのか気になり、目線だけ動かし盗み見れば、上機嫌だった。
「楽しみだね!」
こちらを向いたアリスとパチリと視線が合うが、思わず逸してしまう。バツが悪く感じて、そうねと言った声が吃ってしまう。
もう一緒の空間にいるのが限界だった私は”馬車を降りて歩かない?”と提案した。
アリスはそれに是を示した。
やっとこの緊張した空間から開放されると、座席から立ち上がるとき、安堵の息を洩らす。降車の際、アリスから手を出された。然し手を離して貰えず、彼は指を絡ませしっかりと繋いで無邪気に笑う。
「行こっ!」
「えっ、手……離して」
「僕、一人で歩くの怖いな……」
彼は優しい陽光に照らされた黄金の長く美しい睫毛を伏せた。エメラルドのような目は煌めいて、まるで縁取られた睫毛が金の細工で宝石が瞳で……宝飾品ようだ。美しさに息を吐く。私、アリスの顔好きだな。
「綺麗だわ」
もっとよく見たくて顔を寄せた。肌はシミ一つなく滑らかでシルクのようだ。神様がお創りになった天使の様だ。滑らかな頬を指でなぞる。すべすべで気持ちがいい。アリスの頬が桃色の色づく。
「やっぱりアリスは綺麗ね。本物の天使なんじゃないかしら」
至近距離で笑った。こんなに綺麗な顔見たことない。
「そんなわけないでしょ……僕が天使になんてなれるわけないよ」
アリスに肩を押され、離された。
「えーそんなことないのに……」
頬を膨らまし異を唱えた私の手を引き、アリスは歩き始めた。
お肉の焼けたいい匂いがする。露店で串焼き肉を焼いている。なんと、フェニックスの焼き鳥まで……伝説級の鳥のお味はどうなんだろうか?
「あんなの嘘っぱちだよ」
エスパー!? と思って目を見開き見つめると、”心なんて読めないから”と微苦笑する。
「アルちゃんは自分で思っているよりも、顔に出てるからね。……今日は楽しいねっ」
それはもう笑ったアリスが可愛くて可愛くて、自分に出来ることなら何でもしてあげたくなってしまう。
「私もアリスが一緒で楽しい」
手を繋いで並んで歩く。護衛の人は遠くから見ている。第一王子なのに昔から護衛が少ないのは、アリス自身が治癒魔法の使い手だからだろうか……。
「あっあそこだよ」
カフェは可愛いというより、無駄な装飾のないお洒落で落ち着いた雰囲気だ。可愛すぎるのは苦手な私にはとても好ましい。店内に入ると香芳ばしい匂いがする。私の好きなコーヒーの香り。客は誰も居ない。マスターがあの隣国のパティシエなのだろうか?意外に年配で、ガタイがいい。
「アルちゃん好きでしょ!?」
得意なアリスに首肯した。カウンターに寄っていっぱいあるコーヒー豆を眺める。色々な産地名や、酸味の強さなどが書いてある。その上にはサイフォンが並んでいる。席に案内され座った。あまり得意じゃないデザートを選ぶためメニューを眺める。
「ここはチョコ系のケーキが美味しいよ」
店員に注文を頼んだ。楽しみ過ぎてそわそわしてしまう。
「ぷっ……ぶはっ。ほら、やっぱり顔に書いてるって。すっごい楽しみなんでしょう」
アリスが声を上げて笑う。”そんなことない”って言ってみても無駄だった。アリスが手を伸ばし、私の手を上から握り込んで真剣な眼差しで見つめる。かつてこんなに真剣に見られた事があっただろうか……心臓が跳ねてしまう。そしてアリスはいつもの笑みを浮かべた。
「アルちゃん大好きだよ。ねぇ結婚しようか?」
それは何でもない普段と変わりない声音で一瞬聞き間違いをしたのかと思考を巡らすが、間違いなく結婚しようと言っていた。今まで考えたことがないとは言えないけど、あり得ないと思ってた。でも決して嫌じゃなかった。否、嬉しかったと思う。然し、私は公爵家の後嗣で、王族の第一王子が婿入りなど聞いたことがなく、非常識だから……無……その次の言葉は脳内でも言いたくなかった。でもだからそれはあまりに予想外でなんて言っていいかわからず、言葉に詰まってしまう。
「僕はただこうやって執務の合間に、毎日一緒にお茶出来たら、それはそれは幸せな人生になりそうだと思っただけだよ」
天真爛漫に笑うアリスは、ただただそう思っただけだという様子で、子供が結婚の約束をする様なそんな無邪気な感じで、だから私もそうねと素直に笑った。
でも――なんだか残念な気持ちも薄っすら漂っていたけど、多分この時の私はまだこのままの関係でいたいから気づかない振りをしたんだと思う。
ちょうどコーヒーとケーキが来た。いい匂い。アリスの前のケーキの量が尋常じゃない。10個はあると思う。おいしいと破顔して平らげている。私は食べれない程ではないけど、甘いものが得意じゃないので、ブラックでコーヒーを飲んだ。コーヒー特有の酸味と苦みが広がる。ガトーショコラを食べる。ほろ苦いのと甘いのが口に広がって……私これ好きかも。一口、二口と食べて、一気に半分食べてしまった。
「前にそのガトーショコラ食べたことがあるんだ。隣国の王宮で。僕には少し苦かったけど、アルちゃんは好きだろうなって思って……そう思うだけで苦手な味も美味しいくなるから不思議だよね」
天使がいる。間違いない、私の目の前のニコニコと笑うこの世の者とは思えない可愛い生き物は天使だ。うん、天使だからこんなに可愛いのは納得だと思った。
そしてブレザーの制服も似合っている。
アリスが差し出した手に自身の手を重ねて馬車に乗り込んだ。当然に差し出される手に、いつもよりきもちゆっくりと自身の手を載せるのは少し緊張しているからだろうか。ドキドキしながら、座席に座る。するといつもは向かいに座っていた彼が隣に座る。思わず照れくさくて、俯く。少しの沈黙。
「きゃっ!」
触れられ慣れていない腰を触られ、小さく悲鳴を上げた。私の肩から太ももまで全てアリスにくっついている。隙間を開けるのが惜しいほど求めあっている恋人みたいな距離に慣れず、身の置き場のない気持ちになる。
アリスはどう思っているのか気になり、目線だけ動かし盗み見れば、上機嫌だった。
「楽しみだね!」
こちらを向いたアリスとパチリと視線が合うが、思わず逸してしまう。バツが悪く感じて、そうねと言った声が吃ってしまう。
もう一緒の空間にいるのが限界だった私は”馬車を降りて歩かない?”と提案した。
アリスはそれに是を示した。
やっとこの緊張した空間から開放されると、座席から立ち上がるとき、安堵の息を洩らす。降車の際、アリスから手を出された。然し手を離して貰えず、彼は指を絡ませしっかりと繋いで無邪気に笑う。
「行こっ!」
「えっ、手……離して」
「僕、一人で歩くの怖いな……」
彼は優しい陽光に照らされた黄金の長く美しい睫毛を伏せた。エメラルドのような目は煌めいて、まるで縁取られた睫毛が金の細工で宝石が瞳で……宝飾品ようだ。美しさに息を吐く。私、アリスの顔好きだな。
「綺麗だわ」
もっとよく見たくて顔を寄せた。肌はシミ一つなく滑らかでシルクのようだ。神様がお創りになった天使の様だ。滑らかな頬を指でなぞる。すべすべで気持ちがいい。アリスの頬が桃色の色づく。
「やっぱりアリスは綺麗ね。本物の天使なんじゃないかしら」
至近距離で笑った。こんなに綺麗な顔見たことない。
「そんなわけないでしょ……僕が天使になんてなれるわけないよ」
アリスに肩を押され、離された。
「えーそんなことないのに……」
頬を膨らまし異を唱えた私の手を引き、アリスは歩き始めた。
お肉の焼けたいい匂いがする。露店で串焼き肉を焼いている。なんと、フェニックスの焼き鳥まで……伝説級の鳥のお味はどうなんだろうか?
「あんなの嘘っぱちだよ」
エスパー!? と思って目を見開き見つめると、”心なんて読めないから”と微苦笑する。
「アルちゃんは自分で思っているよりも、顔に出てるからね。……今日は楽しいねっ」
それはもう笑ったアリスが可愛くて可愛くて、自分に出来ることなら何でもしてあげたくなってしまう。
「私もアリスが一緒で楽しい」
手を繋いで並んで歩く。護衛の人は遠くから見ている。第一王子なのに昔から護衛が少ないのは、アリス自身が治癒魔法の使い手だからだろうか……。
「あっあそこだよ」
カフェは可愛いというより、無駄な装飾のないお洒落で落ち着いた雰囲気だ。可愛すぎるのは苦手な私にはとても好ましい。店内に入ると香芳ばしい匂いがする。私の好きなコーヒーの香り。客は誰も居ない。マスターがあの隣国のパティシエなのだろうか?意外に年配で、ガタイがいい。
「アルちゃん好きでしょ!?」
得意なアリスに首肯した。カウンターに寄っていっぱいあるコーヒー豆を眺める。色々な産地名や、酸味の強さなどが書いてある。その上にはサイフォンが並んでいる。席に案内され座った。あまり得意じゃないデザートを選ぶためメニューを眺める。
「ここはチョコ系のケーキが美味しいよ」
店員に注文を頼んだ。楽しみ過ぎてそわそわしてしまう。
「ぷっ……ぶはっ。ほら、やっぱり顔に書いてるって。すっごい楽しみなんでしょう」
アリスが声を上げて笑う。”そんなことない”って言ってみても無駄だった。アリスが手を伸ばし、私の手を上から握り込んで真剣な眼差しで見つめる。かつてこんなに真剣に見られた事があっただろうか……心臓が跳ねてしまう。そしてアリスはいつもの笑みを浮かべた。
「アルちゃん大好きだよ。ねぇ結婚しようか?」
それは何でもない普段と変わりない声音で一瞬聞き間違いをしたのかと思考を巡らすが、間違いなく結婚しようと言っていた。今まで考えたことがないとは言えないけど、あり得ないと思ってた。でも決して嫌じゃなかった。否、嬉しかったと思う。然し、私は公爵家の後嗣で、王族の第一王子が婿入りなど聞いたことがなく、非常識だから……無……その次の言葉は脳内でも言いたくなかった。でもだからそれはあまりに予想外でなんて言っていいかわからず、言葉に詰まってしまう。
「僕はただこうやって執務の合間に、毎日一緒にお茶出来たら、それはそれは幸せな人生になりそうだと思っただけだよ」
天真爛漫に笑うアリスは、ただただそう思っただけだという様子で、子供が結婚の約束をする様なそんな無邪気な感じで、だから私もそうねと素直に笑った。
でも――なんだか残念な気持ちも薄っすら漂っていたけど、多分この時の私はまだこのままの関係でいたいから気づかない振りをしたんだと思う。
ちょうどコーヒーとケーキが来た。いい匂い。アリスの前のケーキの量が尋常じゃない。10個はあると思う。おいしいと破顔して平らげている。私は食べれない程ではないけど、甘いものが得意じゃないので、ブラックでコーヒーを飲んだ。コーヒー特有の酸味と苦みが広がる。ガトーショコラを食べる。ほろ苦いのと甘いのが口に広がって……私これ好きかも。一口、二口と食べて、一気に半分食べてしまった。
「前にそのガトーショコラ食べたことがあるんだ。隣国の王宮で。僕には少し苦かったけど、アルちゃんは好きだろうなって思って……そう思うだけで苦手な味も美味しいくなるから不思議だよね」
天使がいる。間違いない、私の目の前のニコニコと笑うこの世の者とは思えない可愛い生き物は天使だ。うん、天使だからこんなに可愛いのは納得だと思った。
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