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10話 理事長邸宅にて
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予想よりこじんまりとした家だった。せいぜい部屋は4つか5つぐらいしか無いだろう。護衛も使用人も見当たらない。庭には花壇と2頭程入る厩があるだけだ。
――本当にここであっているのかしら?
学園の理事長であり、この国の公爵の地位にある人が住むには平凡すぎる家だった。
門からたった徒歩5歩で玄関まで到着する。ドアノッカーを鳴らした。
――コンコンコン
暫く待ったが誰も出てこない。部屋の明かりはついている。
――もしかして何かあったのかしら? こんな警備の薄そうな家に王弟が住んでいては……まさか強盗でも!?
不躾であるが出窓から室内を覗けば、薄布のカーテンの向こうに人影が見えた。四つん這いになった人に小さな人間が何かを振りかざしている。私は何か良くない事でもされてると思い、焦って大きな窓がある庭の方に回り込んでドアを叩いた。
「大丈夫ですか?」
返事はない。急いで花壇の石垣から漬物石程の石を抱え窓に投げつけた。
――ガシャーーーン!!!
特大の硝子の割れた音が響き渡る。鍵を開けて中に入ると四つん這いになった理事長と金髪でピンクの目をした少女が乗馬用の短鞭を持ってあ然とした表情で私を見ている。
「女王様……」
「何やっているの? 私の下僕の癖に……」
「申し訳ございません」
浮気が見つかった男みたいに表情をなくした顔で目が泳ぐエドモンド。少女を睨めば、自身を鼓舞するように頷き、私を睨み返したが、短鞭を持った手が固く結ばれ、震えている。恐れと虚勢が少女には見えた。
私はソファに腰掛け足を組んだ。
「お茶」
もちろんいつもはこんな無礼な事はしないが、なにぶん女王様たる私は偉そうにしなきゃいけない。演技が見えれば、萎えてしまうだろうから。よくわからないが性癖とはきっとそんなものだろう。
エドモンドは、私の声にすぐさま反応して立ち上がり、台所へ向かった。彼がここを離れたら、少女は不安げに瞳を揺らした。今にも泣き出しそうである。そして沈黙。台所でお茶を用意する音がやけに響く。
彼は人数分のティーカップを用意した。目の前のテーブルに置かれたお茶を優雅に飲んだ。
「いつものようにお菓子がないわ。すぐさま買って来てちょうだい」
「かしこまりました」
「アルマンドの焼き菓子が食べたいわ」
「仰せの通りに…………どうかラミをお願いします」
ラミという少女に視線を寄越し、恭しく礼を取りエドモンドは外出した。
「さぁ座ってちょうだい。私はアルセナ・ベアテ・クリマスタ公爵令嬢です。どうぞ宜しくね」
「私はラミエールと申します」
少女は向かいのソファに座り、サーモンピンクのエプロンドレスのスカートを固く握った。美しい少女だった。大きなピンクの瞳は透き通るようで、金髪も艶が少しないが、綺麗な色である。鼻は子供らしくちょこんとしているのがまた愛らしい。
――まだ八つ歳ぐらいかしら。こんな少女になんてこと……それにどこかで見たことがある気がするわ
「ここにはどうしてきたの?」
「て、天使がつれてきてくれたのです」
――意味不明。この世界に天使は実在しない。
「彼の女王様なの?」
「はい」
「なら、気丈になさい……彼と共にあるのがどういうことかわかっている?」
「わかっているつもりです」
「欲望のはけ口なるということよ。純潔ではいられないこかもしれないのよ」
「えぇ、望んで自分からきました」
「まだこんなに幼いわ。いくつなの?」
「多分、10歳ぐらいかと」
「え!?」
「路上生活者は、満足に食事も取れませんから総じて小さいのです」
「ご両親はどうされたの?」
「さぁ、気がついたときは道端におりました」
「………………」
「でも、孤独ではなかったです。同じような子供がおりましたから。みんなで時に肩を寄せ合い、時に出し抜き生きてきましたから」
私は何も言えなかった。沈黙。そして俯いたまま少女は涙を流した。
「わた、わた……し、ここにいたいんです。…ヒック……」
「でも……こんな幼い子に無体なことさせるの見過ごす訳にがいかない」
「そ、そんなの大したことじゃありません。貴方は、真冬にボロ切れに身を包んで、厩で糞にまみれて馬に寄り添い、腹を空かせて木の根を囓った経験はございますか?ズズッ」
「今まで……一度もありません」
「そうでしょうね。他人に施しできる程ですものね。私もお世話になりました。実は私達以前お会いしたことがあるんですよ。貴方はおぼえていないようですが……」
そうか、彼女は月に一度の教会で路上生活者の為の炊き出しに来ていた子だと思う。ピンクの瞳は珍しいから朧気ながら記憶にあった。
彼女は涙を零しながらそれでも気丈な声で淡々と話した。
「私のこれまでの日常は3日食べられないなど常なんです。でもここでは、3食食べれて、お風呂に毎日入れて、清潔でふかふかなベットで寝れる。私にはこれ以上の幸福はありません」
「彼は少女にしか興味ないわ。18になったらし捨てられるかもしれないわよ」
「構いません。エドモンドは私に約束のしてくださいました。私に暴力は振るわない。教育を受けさせること。もし君に欲情しなくなっても、暇を頂きこの屋敷をさることになっても、一生生活に困ることなき給金を支払うことを……こんな事がこの身におこるなど奇跡なのです。それに私は彼の事を……すきになりはじめているのです」
――本当にここであっているのかしら?
学園の理事長であり、この国の公爵の地位にある人が住むには平凡すぎる家だった。
門からたった徒歩5歩で玄関まで到着する。ドアノッカーを鳴らした。
――コンコンコン
暫く待ったが誰も出てこない。部屋の明かりはついている。
――もしかして何かあったのかしら? こんな警備の薄そうな家に王弟が住んでいては……まさか強盗でも!?
不躾であるが出窓から室内を覗けば、薄布のカーテンの向こうに人影が見えた。四つん這いになった人に小さな人間が何かを振りかざしている。私は何か良くない事でもされてると思い、焦って大きな窓がある庭の方に回り込んでドアを叩いた。
「大丈夫ですか?」
返事はない。急いで花壇の石垣から漬物石程の石を抱え窓に投げつけた。
――ガシャーーーン!!!
特大の硝子の割れた音が響き渡る。鍵を開けて中に入ると四つん這いになった理事長と金髪でピンクの目をした少女が乗馬用の短鞭を持ってあ然とした表情で私を見ている。
「女王様……」
「何やっているの? 私の下僕の癖に……」
「申し訳ございません」
浮気が見つかった男みたいに表情をなくした顔で目が泳ぐエドモンド。少女を睨めば、自身を鼓舞するように頷き、私を睨み返したが、短鞭を持った手が固く結ばれ、震えている。恐れと虚勢が少女には見えた。
私はソファに腰掛け足を組んだ。
「お茶」
もちろんいつもはこんな無礼な事はしないが、なにぶん女王様たる私は偉そうにしなきゃいけない。演技が見えれば、萎えてしまうだろうから。よくわからないが性癖とはきっとそんなものだろう。
エドモンドは、私の声にすぐさま反応して立ち上がり、台所へ向かった。彼がここを離れたら、少女は不安げに瞳を揺らした。今にも泣き出しそうである。そして沈黙。台所でお茶を用意する音がやけに響く。
彼は人数分のティーカップを用意した。目の前のテーブルに置かれたお茶を優雅に飲んだ。
「いつものようにお菓子がないわ。すぐさま買って来てちょうだい」
「かしこまりました」
「アルマンドの焼き菓子が食べたいわ」
「仰せの通りに…………どうかラミをお願いします」
ラミという少女に視線を寄越し、恭しく礼を取りエドモンドは外出した。
「さぁ座ってちょうだい。私はアルセナ・ベアテ・クリマスタ公爵令嬢です。どうぞ宜しくね」
「私はラミエールと申します」
少女は向かいのソファに座り、サーモンピンクのエプロンドレスのスカートを固く握った。美しい少女だった。大きなピンクの瞳は透き通るようで、金髪も艶が少しないが、綺麗な色である。鼻は子供らしくちょこんとしているのがまた愛らしい。
――まだ八つ歳ぐらいかしら。こんな少女になんてこと……それにどこかで見たことがある気がするわ
「ここにはどうしてきたの?」
「て、天使がつれてきてくれたのです」
――意味不明。この世界に天使は実在しない。
「彼の女王様なの?」
「はい」
「なら、気丈になさい……彼と共にあるのがどういうことかわかっている?」
「わかっているつもりです」
「欲望のはけ口なるということよ。純潔ではいられないこかもしれないのよ」
「えぇ、望んで自分からきました」
「まだこんなに幼いわ。いくつなの?」
「多分、10歳ぐらいかと」
「え!?」
「路上生活者は、満足に食事も取れませんから総じて小さいのです」
「ご両親はどうされたの?」
「さぁ、気がついたときは道端におりました」
「………………」
「でも、孤独ではなかったです。同じような子供がおりましたから。みんなで時に肩を寄せ合い、時に出し抜き生きてきましたから」
私は何も言えなかった。沈黙。そして俯いたまま少女は涙を流した。
「わた、わた……し、ここにいたいんです。…ヒック……」
「でも……こんな幼い子に無体なことさせるの見過ごす訳にがいかない」
「そ、そんなの大したことじゃありません。貴方は、真冬にボロ切れに身を包んで、厩で糞にまみれて馬に寄り添い、腹を空かせて木の根を囓った経験はございますか?ズズッ」
「今まで……一度もありません」
「そうでしょうね。他人に施しできる程ですものね。私もお世話になりました。実は私達以前お会いしたことがあるんですよ。貴方はおぼえていないようですが……」
そうか、彼女は月に一度の教会で路上生活者の為の炊き出しに来ていた子だと思う。ピンクの瞳は珍しいから朧気ながら記憶にあった。
彼女は涙を零しながらそれでも気丈な声で淡々と話した。
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