上 下
3 / 6

2話 ガールズトーク

しおりを挟む
 二階堂家でかぁくん達と美味しい久美ちゃんの手料理をを食べて、後片付けを終えてからバイト先の居酒屋に向かった。





「おはようございます」

 それに応えてバイト仲間の絵里から、挨拶が返ってきた。

「ねぇ知ってる? 津田高の女の子が複数の男にヤラれちゃって、抵抗して殴られて内臓破裂して山中で見つかったらしいよ。ちょー怖い」

 津田高とは私の家の最寄り駅から5つしか離れていない高校だ。

「まじで? 今日帰る時怖いよ」

 バイトが終わるのはいつも午後10時を過ぎる。普段ですら怖いのにこんな話を聞いたら帰れなくなる。私は一抹の不安を覚えた。





 ――――11時過ぎまで働いて上がると、1個上のバイトの先輩である板橋 拓海がタバコを吹かしながら居た。

「おっつー」と板橋さん。

「お疲れ様です」と返す私。

 着替え終わっても、まだ板橋さんが居る。

「まだ帰らないんですか? 」

 私はバイトの制服をロッカーに片付けながら尋ねた。

「途中まで一緒に帰ろうと思って」

 夜道はやっぱり暗く怖いので、いつもを自転車で飛ばして帰る私に、その申し出は有難かったけど、内心、げっ! とも思っていた。何故なら彼は私に気があるのでは無いかと思うから。その気がない私はいつも彼といる時、応えられないという思いに居心地が悪くなる。しかしさっきの絵里の話が有るので一緒に帰る事にした。





 帰り道、板橋さんと並んで歩きながら、映画の話で盛り上がった。

「『君の声は』すっごく良かったよ~」

「見に行こうと思っているんですけど、私、まだ見てないんですよ」

「じゃあ、一緒に見に行こうとよ。あれは何回見ても良いから」

「ごめんなさい、友達と行く約束してて……」

 観たいと思ってたのは本当だけど、そんな約束を友達とはしていなかった。
 大学デビューしたての私は、まさか自分が異性から好意を持たれるとは思わずに、気の合う異性の友達として気安く遊びに行っていた。男友達と思っていたのは私だけで、気を持たせて申し訳無いことしてしまってからは、無闇に男性と出かける事は無くなった。嘘をつくのは気が引けるが、一緒に行きたくないってはっきり言えないクズな私。

「そっか~、じゃあまた今度」

 少し残念そうに笑う板橋さん。

 大丈夫だと言うのに、遠回りして自宅まで送ってくれてお礼を言って別れた。板橋さんはとても良い人だと思う。バイト先でも面倒見が良い。でも、かぁくんが忘れられない私が彼の思いに応える事はない。

 自宅の鍵を探していると声をかけられた。

「今の彼氏?」

 そちらを見やるとりっくんがいた。スウェットにTシャツで手には、コンビニの袋を提げている。

「違うよ、バイト先輩」

「ふーん」

 りっくんはそう言って、家へ戻った。

 家に入ると今日はリビングが明るい。母がまだテレビを見ていた。家は父が単身赴任で母もたまにこの家に帰ってくるが、基本的は父と一緒に赴任先で暮らしていた。明日、父の元に帰る予定である。

 私はシャワーを浴びて、パジャマに着替え、早々に眠りについた。




 翌日、大学に行き講義を受けて昼休みになった。

 食堂でいつもの友達と昼食を取るため、学食へ向かった。

「ごめん、トイレ行くから、先に行ってて」

 そう言って別れてから、トイレの個室に入った。その直後に二人組が入ってきた。

「ねぇ、さっきのどうかと思うんだけど……」

「あぁ美玲? 」

「うん。二階堂くんが可哀想」

 んん”!?二階堂に美玲って……

「彼氏に言わないで元彼と食事行くのすらどうかと思うけど、ヤッちゃうなんて最悪じゃない!?」

 おいおい、どう言う事だよ!二階堂ってかぁくんの事じゃないだろうな。

 私は息を潜めて、耳を澄ました。

 「昨日、商社勤務の元彼がニューヨークから帰ってきててリッツでフレンチ食べたんだけど、料理は美味しいし景色は最高で極めつけはカルティエのネックレスをお土産で貰っちゃて、上に部屋取ってあるからって言うからつい……」

 美玲、殺す!美玲そっくりに真似た声に殺意を覚える。

「似てる、美玲そっくり」

「男にだらしなく無ければいい子なのにね」

 二人組は化粧を直して、トイレから出ていった。

 彼女達が、出ていった後こっそりトイレの入り口から廊下を覗くと、その二人組はかぁくんの彼女の美玲の友達だった。




 学食の友達の元へ急いで、入学以来の友達二人にさっきトイレで耳にした情報を話した。

「別に良いんじゃない!?」

 芹那はどうでも良さそうに色素の薄い髪を弄りながら言った。芹那は、色白の見かけだけはお嬢様風で、今日はアプワイザーリッシェのレーススカートにオフショルを合わせていて緩く巻いた髪はとても清楚だ。しかし中身は3人と交際している猛者だ。

「良くない‼あの清楚ビッチ……」

「でもビッチのくせに清純ぶってるのはどうかと、芹那もどうかと思う~」

「それはパッケージ詐欺やね、男って外見にすぐ騙されるから」

 あやねぇはストレートロングの髪をかきあげて言った。リブキャミからは谷間が見える。こう見えてあやねぇはお嬢様で、今日も靴はマノロでバックはCHANELのチェーンショルダーだ。羨ましい。

「あはっ、あやねぇそれ面白い」

「面白くなーい!誰も私の気持ちをわかってくれない……」

「私も浮気はどうかと思うよ。芹那みたいに同意の上で複数と付き合うならいいけど」

「だよね、浮気はダメだよね」

 私はあやねぇこと彩音の豊潤なメロンサイズの胸に抱きついた。うぅ柔らかい、癒される。大阪出身のあやねぇはサバサバしている姐御肌で、一浪してるから1つ年上の頼れるお姉さんだ。派手な見た目に反して情に厚いんだよね。

「みくりは二階堂王子にいわへんの? 」

「言わない」

「なんでやん? 」

「かぁくんの事に口を出したら最後、自分の気持ちも全てぶち撒けちゃいそうだから」

「ぶち撒けちゃえばええやん」

「……嫌われたくない。多分幼馴染の地位に固執しているの」

「幼馴染なんて二階堂くんの人生に何にも関われないよ。そんなのに固執するなんてバカみたい」

 芹那は嘘をつくのが嫌いで、私みたいにその場限りの言い訳や事実から目を逸らして相手の口当たりのいい言葉を言ったりしない。でもそのせいで高校時代にハブられたりした事がある様だった。でもだからこそ芹那の言う事はキツイけど、信頼できるんだ。

「でも前に『みぃはずっと幼馴染だよ』っていわれたの。怖くて告白なんて出来ないよ……」

「みくりはホント馬鹿。さっさと振られれば諦められるのに、中途半端な幼馴染なんてしてるから諦められないんだよ」

 芹那は言葉とは裏腹に優しく肩を撫でてくれた。

 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたのすべて

一条 千種
恋愛
"もし人生にTake2があるなら、あなたに2度目の初恋をしたい" 商社に勤める早川幸太は、30歳の同窓会で、初恋の相手である松永美咲に再会する。 初恋の人との、ささやかだが幸福な時間を噛みしめる幸太。 だが、幸太は既婚者だ。 大切な美咲を傷つけたくない、永遠の初恋を汚したくない思いで、想いを封じ込める。 そして、酔いつぶれ意識を失った幸太の前に、「監督」を名乗る男が現れる。 その男は、ジャ〇ーさん風にこう言ったのだ。 「さぁTake2いくよ、Youの本当の人生を見せて!」 目を開けると、まぎれもなく、そこは高校の頃に毎日を過ごしたあの教室。 隣では、美咲が天使のような微笑みを浮かべている。 (本当の人生を、やり直せるのか……?) 幸太は戸惑いつつ、12年の時を越えて、初恋のTake2を始める。

甘々に

緋燭
恋愛
初めてなので優しく、時に意地悪されながらゆっくり愛されます。 ハードでアブノーマルだと思います、。 子宮貫通等、リアルでは有り得ない部分も含まれているので、閲覧される場合は自己責任でお願いします。 苦手な方はブラウザバックを。 初投稿です。 小説自体初めて書きましたので、見づらい部分があるかと思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。 また書きたい話があれば書こうと思いますが、とりあえずはこの作品を一旦完結にしようと思います。 ご覧頂きありがとうございます。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

処理中です...