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体育祭、開始ッ!(1/2改稿)
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…どさっ
「くそっ…!また1人倒れたか…」
「このままじゃ全滅だぞ…」
「…私も、そろそろ限界、かも…」
「「「早くなんとかしないと…!」」」
「…え~、であるからして、この体育祭において生徒の新たな成長を…」
「流石だぜ校長…。元帥の名は伊達じゃない…」
「なんて口撃力だ…」
更に3人が倒れたところでようやく話が締めくくられた。
「それでは、これより私立原村高校体育祭を開催いたします!」
盛大なファンファーレが鳴り響き、祝砲が轟く。
華やかな爆音に生徒達の安堵のため息が重なった。
ざわざわ…がやがや…
開会式から解き放たれた生徒の波をかき分け、仁村は自分の戦車小隊員を集めるべく車庫に向かっていた。
「隊長ー!こっちこっち!」
人混みを離れ、戦車の車庫近くまで来たところで仁村に声がかかった。仁村は声の主を捜して振り返る。そこには道路の片隅に停められた戦車の上で手を振るドライバーと戦車の前でうずくまって何かをしている整備士の姿があった。
「隊長!乗っていきます?」
屈託のない笑顔で呼びかけてきたのは仁村の車両で操縦手を務める星野翔2等軍曹だ。戦車の構造に詳しく、前線で故障した時の彼の対処の的確さには仁村も一目置いていた。
「…そりゃ無理だよ。ピンが完全に折れてる。コネクタもイカれてるし、履板ごと換えにゃいかんわ」
ため息混じりに告げたのは整備班の直杉支3等軍曹。兵器を語り出すと止まらないが、その愛ゆえに彼女の武器・車両の整備にはかなりの信頼性があると評判だ。
「あちゃー…そこまでいっちゃったかぁ。履帯外れた程度だと思ったんだけど…。もうちょっと動摩擦係数の低いとこなら…油撒こうかな「後始末大変よ?」…氷の上なら可能性「割れるわよ」ですよねー」
直杉に突っ込まれつつ考え込んでいる様子の星野に、仁村は恐る恐る尋ねた。
「翔…まさかまたドリフトに挑んだのか?」
「もちろん!今日はコイツの調子も良かったんで!」
星野は満面の笑みで戦車──レオパルト2A6──のフェンダーをコンコンと叩いた。
「…はぁ。今に始まった事じゃないが、今日の午後には1回戦が始まるんだぞ。そんな時に何やってるんだよ」
仁村は頭を押さえた。星野は戦車でドリフトをするのが夢だと公言してはばからないのだ。
「この程度なら小一時間で直せますよ。回収車呼ぶんで、ご心配なく~」
直杉はズレた眼鏡を直しつつ携帯端末を取り出し、電話をかけ始めた。
「それじゃあ宜しく頼むよ。足回りはもう一度点検しておいてくれ。翔、試合前にブリーフィングがしたい。みんながどこにいるか知らないか?」
「戦車小隊なら車庫に集まってますよ。隊長ならそう言うだろうと思って」
「そうか、読まれちゃってたか」
直杉にレオパルトを任せた仁村は星野の言葉に嬉しいような驚いたような複雑な笑みを返すと車庫の方に歩き出した。
空は徐々に分厚い雲に覆われつつあった。
少し歩くと整備工場を兼ねた車庫が見えてくる。
車庫のシャッターは完全に開かれ、生徒達が楽しげに話しているのが見えた。
「お!隊長だ!お~い!遅ぇぞー!」
「うるせぇ、耳元で吠えるなよ…」
仁村車で1番の体力自慢・装填手の米田剛伍長と、百発百中の皮肉屋・砲手の的場聡曹長だ。温度差の激しい2人に仁村は苦笑で応え、小隊全員に聞こえるよう声を張り上げた。
「みんな集まってるな!午後から始まる1回戦の戦車小隊の動きを示すぞ。作戦は簡単だ。俺達は当初陽動に徹し、歩兵・偵察の合同精鋭部隊の入り込む隙を作る。破壊工作が成功したならば、そのまま突撃・殲滅する!」
「Dクラス相手に陽動ってことは…」
誰かの不安そうな声が聞こえる。仁村は真剣な面持ちで答えた。
「そうだ。陽動中は砲火の雨に打たれるだろう。あいつらの補給パイプの太さと輸送量は一級品だからな。決して止まるなよ。常に動き続けて致命的な一撃を避けるんだ。
とは言え射撃が特別正確な訳でも火砲の威力が高い訳でもない。俺達の防御力なら耐えられるだろ。他に質問は?
…ないな。それじゃあ準備を始めてくれ!」
仁村の言葉で全員が一斉に動き出した。レオパルトも修理が始まっている。
「さて、弾を貰ってくるかな。剛!手伝ってくれ!」
「はいよ!」
仁村と米田はリアカーを牽いて弾薬庫へ向かった。
「遅い!何してたのよ!遅すぎて3回も弾数を数え直しちゃったじゃない!」
腕を組み頬を膨らませてご立腹なのは補給班の河本愛里1等軍曹だ。トレードマークのポニーテールもぴこぴこと腹を立てている。
「はは、悪い悪い。念入りな点検ありがとな」
「べっ、別に?暇だったから数えてただけよ」
仁村が笑って礼を言うと、河本はそっぽを向いてしまう。心なしか膨らませた頬が紅い。
「もう積んじまっていいのか?」
両脇に弾箱を抱えた米田が急かすように言う。流石と言うべきか、1つでも重たい弾箱を複数軽々と持ち上げている。
「いいぞ、とっとと積んで帰ろう」
仁村も積載を手伝い始めた。
高く積まれた弾薬の山はみるみるリアカーに積み替えられ、仁村と米田は車庫に戻るべく取手を掴んだ。
「あっ、仁村…あの、えっと…」
河本が歯切れ悪く呼び止める。ソワソワと落ち着かず視線が泳ぐ。頬は先ほどより明らかに紅くなっていた。
しばらく言いづらそうに言葉にならない声を呻いていた河本だったが、諦めたようにため息を1つつくと
「1回戦、負けたら承知しないんだから…」
と、小さく呟いた。
「おう、きっちり勝ってくるさ」
その不器用な応援に仁村は笑って応えた。
ガラガラ…ゴトッ…ガラガラ…
「なんで戦車は空砲なのかねぇ…」
米田はリアカーを牽きながら独り言のように仁村に話しかけた。空砲は実弾に比べ、かなり軽いので弾のこめがいがないのだと米田は言う。
「そりゃあいくらゴム製の非殺傷サブソニック麻酔弾とはいえ戦車砲級の弾が人に当たったらただじゃ済まないでしょ」
体育祭では小銃弾には亜音速の麻酔ゴム弾、爆発物は麻酔ガスを飛散させる特殊仕様、徹甲弾はレーザー交戦装置、通称バトラーを使用している。もちろん安全性は国のお墨付きだ。更にクラス毎の衛生班に加えプロの救急医療チームも待機しており、万全の状態で臨む。
「う~ん、それは分かるんだがよぉ、それなら最初っからバトラー使えばいいじゃんよ」
「バトラーじゃ最悪被弾した直後でも引き金引けちゃうし、撃たれた時の反動とかもあるしな。第一、全部バトラーじゃつまんないだろ?」
「うっ、それは確かに…」
仁村の説明に米田は納得したようだ。CQBが好きな米田にとっては痛いところだったのかもしれない。
____________________
『まもなく、第1試合が始まります。出場チームは所定の位置に集合して下さい。』
校内にアナウンスが流れる。
「全車!弾は積んだか?オイル点検は?異状のあった車両は報告!」
『タイガー2、異状なし』
『タイガー3、異状なし』
『タイガー4、異状なし』
仁村の呼びかけに2~4車の無線が返ってくる。
小隊は1車から順にレオパルト2A6、PL-01、メルカバMk4、10式戦車という世界に誇る各国の最新鋭主力戦車で構成されている。
「これより戦車小隊はスタート地点にて本隊と合流する。全車エンジン始動!」
ドルドルドル…ゴォゥルルルン!!
スターターの唸りに続いて4両分のエンジン音が車庫に轟く。
「全車、前進!!」
4匹の虎は仁村の号令で一斉に檻から飛び出した。
____________________
『それでは第1試合を始めます』
アナウンスに続いて状況開始のラッパが鳴る。
『全軍、作戦を開始せよ。繰り返す。全軍、作戦を開始せよ!』
無線から今村大佐の声が聴こえてきた。
「菱形隊形!気合入れてけ!」
『『『了解!』』』
仁村率いる戦車小隊は防御力の高いメルカバを先頭に前進を開始した。激しい攻撃が予想されることから、増加装甲やゲージアーマーで防御力を高めた特別仕様の4両がお互いの死角をカバーし合う様に走る。
『タイガー、こちらスカウト。前方の高台でデルタの奴らが待ち伏せてるみたいだ』
数分走った所で先行した偵察小隊から情報が入った。
「タイガー了解。そこで戦線を展開しよう。スカウトは側面を叩いて敵の気を散らしてくれ」
『スカウト了解』
「全車戦闘準備。警戒を密にしろ。陽動作戦開始だ!」
『『『了解!』』』
低く垂れ込めた雲は次第に雨を降らせ始めていた。
____________________
──一方その頃の偵察小隊
「俺達はゲリラで敵の注意を散らす役だ。あまり深入りはするな。生きて帰ろうぜ」
「「「おうっ!」」」
「みんなで勝って打ち上げだ!」
「「「おうっ!」」」
「どうせみんな暇なんだ、パーっと遊ぼう!」
「「もちろn」」「あ、ごめん。おれこの試合終わったら彼女に誕生日祝ってもらうんだ。その後でもいいかな?」
「「「…彼女いたの?」」」
雨が強くなり始めた。
「いや~、最近出来てさ!衛生の子なんだけど、こないだ怪我した時にさ~」
隊員の1人が「彼」の肩に手を置いた。
「お前に誕生日が来なかった事が非常に悔やまれるよ」
…パァン!
突如乾いた音が響く。
「…ぁっぶね!友軍誤射は有罪だぞ!」
「「「目撃者はいない」」」
3つの銃口が「彼」を指向していた。
「…撤退する!」
「「逃サン」」「全軍、コード【HIRIA】発令。獣ヲ逃スナ!」
…パパパパ!パパパパ!
「ハァ、ハァ…ゼェ…ゼェ…」
岩陰に隠れた「彼」は無線機に怒鳴る。
「どこか!どこか!応答してくれ!応援頼む!」
ザー…
「まさか全部隊に「奴ら」の仲間が潜り込んでるとは…」
コード【HIRIA】の発令は「彼」を孤独に追い込んでいた。囲まれた「彼」に為す術はない。
「ちくしょう…なんでこんな目に…」
呟いた瞬間、背後からの気配に「彼」はハッと顔を上げた。
「見~つけた…」
「…見つかっちゃっ、た…」
かちゃり、パァン!
その時見つけた「彼」の名を「奴ら」はまだ知らない。
「くそっ…!また1人倒れたか…」
「このままじゃ全滅だぞ…」
「…私も、そろそろ限界、かも…」
「「「早くなんとかしないと…!」」」
「…え~、であるからして、この体育祭において生徒の新たな成長を…」
「流石だぜ校長…。元帥の名は伊達じゃない…」
「なんて口撃力だ…」
更に3人が倒れたところでようやく話が締めくくられた。
「それでは、これより私立原村高校体育祭を開催いたします!」
盛大なファンファーレが鳴り響き、祝砲が轟く。
華やかな爆音に生徒達の安堵のため息が重なった。
ざわざわ…がやがや…
開会式から解き放たれた生徒の波をかき分け、仁村は自分の戦車小隊員を集めるべく車庫に向かっていた。
「隊長ー!こっちこっち!」
人混みを離れ、戦車の車庫近くまで来たところで仁村に声がかかった。仁村は声の主を捜して振り返る。そこには道路の片隅に停められた戦車の上で手を振るドライバーと戦車の前でうずくまって何かをしている整備士の姿があった。
「隊長!乗っていきます?」
屈託のない笑顔で呼びかけてきたのは仁村の車両で操縦手を務める星野翔2等軍曹だ。戦車の構造に詳しく、前線で故障した時の彼の対処の的確さには仁村も一目置いていた。
「…そりゃ無理だよ。ピンが完全に折れてる。コネクタもイカれてるし、履板ごと換えにゃいかんわ」
ため息混じりに告げたのは整備班の直杉支3等軍曹。兵器を語り出すと止まらないが、その愛ゆえに彼女の武器・車両の整備にはかなりの信頼性があると評判だ。
「あちゃー…そこまでいっちゃったかぁ。履帯外れた程度だと思ったんだけど…。もうちょっと動摩擦係数の低いとこなら…油撒こうかな「後始末大変よ?」…氷の上なら可能性「割れるわよ」ですよねー」
直杉に突っ込まれつつ考え込んでいる様子の星野に、仁村は恐る恐る尋ねた。
「翔…まさかまたドリフトに挑んだのか?」
「もちろん!今日はコイツの調子も良かったんで!」
星野は満面の笑みで戦車──レオパルト2A6──のフェンダーをコンコンと叩いた。
「…はぁ。今に始まった事じゃないが、今日の午後には1回戦が始まるんだぞ。そんな時に何やってるんだよ」
仁村は頭を押さえた。星野は戦車でドリフトをするのが夢だと公言してはばからないのだ。
「この程度なら小一時間で直せますよ。回収車呼ぶんで、ご心配なく~」
直杉はズレた眼鏡を直しつつ携帯端末を取り出し、電話をかけ始めた。
「それじゃあ宜しく頼むよ。足回りはもう一度点検しておいてくれ。翔、試合前にブリーフィングがしたい。みんながどこにいるか知らないか?」
「戦車小隊なら車庫に集まってますよ。隊長ならそう言うだろうと思って」
「そうか、読まれちゃってたか」
直杉にレオパルトを任せた仁村は星野の言葉に嬉しいような驚いたような複雑な笑みを返すと車庫の方に歩き出した。
空は徐々に分厚い雲に覆われつつあった。
少し歩くと整備工場を兼ねた車庫が見えてくる。
車庫のシャッターは完全に開かれ、生徒達が楽しげに話しているのが見えた。
「お!隊長だ!お~い!遅ぇぞー!」
「うるせぇ、耳元で吠えるなよ…」
仁村車で1番の体力自慢・装填手の米田剛伍長と、百発百中の皮肉屋・砲手の的場聡曹長だ。温度差の激しい2人に仁村は苦笑で応え、小隊全員に聞こえるよう声を張り上げた。
「みんな集まってるな!午後から始まる1回戦の戦車小隊の動きを示すぞ。作戦は簡単だ。俺達は当初陽動に徹し、歩兵・偵察の合同精鋭部隊の入り込む隙を作る。破壊工作が成功したならば、そのまま突撃・殲滅する!」
「Dクラス相手に陽動ってことは…」
誰かの不安そうな声が聞こえる。仁村は真剣な面持ちで答えた。
「そうだ。陽動中は砲火の雨に打たれるだろう。あいつらの補給パイプの太さと輸送量は一級品だからな。決して止まるなよ。常に動き続けて致命的な一撃を避けるんだ。
とは言え射撃が特別正確な訳でも火砲の威力が高い訳でもない。俺達の防御力なら耐えられるだろ。他に質問は?
…ないな。それじゃあ準備を始めてくれ!」
仁村の言葉で全員が一斉に動き出した。レオパルトも修理が始まっている。
「さて、弾を貰ってくるかな。剛!手伝ってくれ!」
「はいよ!」
仁村と米田はリアカーを牽いて弾薬庫へ向かった。
「遅い!何してたのよ!遅すぎて3回も弾数を数え直しちゃったじゃない!」
腕を組み頬を膨らませてご立腹なのは補給班の河本愛里1等軍曹だ。トレードマークのポニーテールもぴこぴこと腹を立てている。
「はは、悪い悪い。念入りな点検ありがとな」
「べっ、別に?暇だったから数えてただけよ」
仁村が笑って礼を言うと、河本はそっぽを向いてしまう。心なしか膨らませた頬が紅い。
「もう積んじまっていいのか?」
両脇に弾箱を抱えた米田が急かすように言う。流石と言うべきか、1つでも重たい弾箱を複数軽々と持ち上げている。
「いいぞ、とっとと積んで帰ろう」
仁村も積載を手伝い始めた。
高く積まれた弾薬の山はみるみるリアカーに積み替えられ、仁村と米田は車庫に戻るべく取手を掴んだ。
「あっ、仁村…あの、えっと…」
河本が歯切れ悪く呼び止める。ソワソワと落ち着かず視線が泳ぐ。頬は先ほどより明らかに紅くなっていた。
しばらく言いづらそうに言葉にならない声を呻いていた河本だったが、諦めたようにため息を1つつくと
「1回戦、負けたら承知しないんだから…」
と、小さく呟いた。
「おう、きっちり勝ってくるさ」
その不器用な応援に仁村は笑って応えた。
ガラガラ…ゴトッ…ガラガラ…
「なんで戦車は空砲なのかねぇ…」
米田はリアカーを牽きながら独り言のように仁村に話しかけた。空砲は実弾に比べ、かなり軽いので弾のこめがいがないのだと米田は言う。
「そりゃあいくらゴム製の非殺傷サブソニック麻酔弾とはいえ戦車砲級の弾が人に当たったらただじゃ済まないでしょ」
体育祭では小銃弾には亜音速の麻酔ゴム弾、爆発物は麻酔ガスを飛散させる特殊仕様、徹甲弾はレーザー交戦装置、通称バトラーを使用している。もちろん安全性は国のお墨付きだ。更にクラス毎の衛生班に加えプロの救急医療チームも待機しており、万全の状態で臨む。
「う~ん、それは分かるんだがよぉ、それなら最初っからバトラー使えばいいじゃんよ」
「バトラーじゃ最悪被弾した直後でも引き金引けちゃうし、撃たれた時の反動とかもあるしな。第一、全部バトラーじゃつまんないだろ?」
「うっ、それは確かに…」
仁村の説明に米田は納得したようだ。CQBが好きな米田にとっては痛いところだったのかもしれない。
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『まもなく、第1試合が始まります。出場チームは所定の位置に集合して下さい。』
校内にアナウンスが流れる。
「全車!弾は積んだか?オイル点検は?異状のあった車両は報告!」
『タイガー2、異状なし』
『タイガー3、異状なし』
『タイガー4、異状なし』
仁村の呼びかけに2~4車の無線が返ってくる。
小隊は1車から順にレオパルト2A6、PL-01、メルカバMk4、10式戦車という世界に誇る各国の最新鋭主力戦車で構成されている。
「これより戦車小隊はスタート地点にて本隊と合流する。全車エンジン始動!」
ドルドルドル…ゴォゥルルルン!!
スターターの唸りに続いて4両分のエンジン音が車庫に轟く。
「全車、前進!!」
4匹の虎は仁村の号令で一斉に檻から飛び出した。
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『それでは第1試合を始めます』
アナウンスに続いて状況開始のラッパが鳴る。
『全軍、作戦を開始せよ。繰り返す。全軍、作戦を開始せよ!』
無線から今村大佐の声が聴こえてきた。
「菱形隊形!気合入れてけ!」
『『『了解!』』』
仁村率いる戦車小隊は防御力の高いメルカバを先頭に前進を開始した。激しい攻撃が予想されることから、増加装甲やゲージアーマーで防御力を高めた特別仕様の4両がお互いの死角をカバーし合う様に走る。
『タイガー、こちらスカウト。前方の高台でデルタの奴らが待ち伏せてるみたいだ』
数分走った所で先行した偵察小隊から情報が入った。
「タイガー了解。そこで戦線を展開しよう。スカウトは側面を叩いて敵の気を散らしてくれ」
『スカウト了解』
「全車戦闘準備。警戒を密にしろ。陽動作戦開始だ!」
『『『了解!』』』
低く垂れ込めた雲は次第に雨を降らせ始めていた。
____________________
──一方その頃の偵察小隊
「俺達はゲリラで敵の注意を散らす役だ。あまり深入りはするな。生きて帰ろうぜ」
「「「おうっ!」」」
「みんなで勝って打ち上げだ!」
「「「おうっ!」」」
「どうせみんな暇なんだ、パーっと遊ぼう!」
「「もちろn」」「あ、ごめん。おれこの試合終わったら彼女に誕生日祝ってもらうんだ。その後でもいいかな?」
「「「…彼女いたの?」」」
雨が強くなり始めた。
「いや~、最近出来てさ!衛生の子なんだけど、こないだ怪我した時にさ~」
隊員の1人が「彼」の肩に手を置いた。
「お前に誕生日が来なかった事が非常に悔やまれるよ」
…パァン!
突如乾いた音が響く。
「…ぁっぶね!友軍誤射は有罪だぞ!」
「「「目撃者はいない」」」
3つの銃口が「彼」を指向していた。
「…撤退する!」
「「逃サン」」「全軍、コード【HIRIA】発令。獣ヲ逃スナ!」
…パパパパ!パパパパ!
「ハァ、ハァ…ゼェ…ゼェ…」
岩陰に隠れた「彼」は無線機に怒鳴る。
「どこか!どこか!応答してくれ!応援頼む!」
ザー…
「まさか全部隊に「奴ら」の仲間が潜り込んでるとは…」
コード【HIRIA】の発令は「彼」を孤独に追い込んでいた。囲まれた「彼」に為す術はない。
「ちくしょう…なんでこんな目に…」
呟いた瞬間、背後からの気配に「彼」はハッと顔を上げた。
「見~つけた…」
「…見つかっちゃっ、た…」
かちゃり、パァン!
その時見つけた「彼」の名を「奴ら」はまだ知らない。
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