半分本当にあった怖い話

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半分本当にあった怖い話

ブラック

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[今日も講義、マジだりー(´д`|||)]
 今日も今日とて教授の長話を聞き流しながらスマホをつつく。
 SNSに呟くと友達からリプが来る。中には同じ講義を受けている者もいた。
[お前ら暇しすぎかよwww]
 続けて呟く。リプが来る。
 その繰返し。
 しかし、今日は珍しい友人からもリプが届く。
[今の内に勉強しとけよー?]
 それは進学せず、就職を選んだ高校の友人からだった。
[お前はいいよなー。勉強しなくていいし、金もあるもんなー]
 万年金欠の大学生には社会人の経済力は魅力的だった。
[お前もその内こっち側だから]
 それっきりリプは返ってこなかった。

 時は流れ、大学生活も終わりを迎える。
 特にやりたい事もなく、資格も持たず、努力もせず、片っ端から採用試験を受けた結果、下請けの下請けの様な小さな会社に勤めることになった。
 小規模とはいえ流行りのIT企業に勤めることになり、人生勝ち組コースだと意気揚々と出勤する。
 これからは大学で退屈な講義を聞いて、レポートに追われ、単位に怯える生活をしなくて済む。
 仕事さえこなせば土日も休みを貰えると聞いているし、お金だって入ってくる。
 やりたいことが次々と浮かんできた。
 時間は8時。出勤時間ちょうど。バッチリのスタートダッシュだ。
 第一印象は大切。元気よく、ドアを開ける。
「おはようございます!」
「「遅い!」」「なにやってんだ!!」
 いきなりの罵声。
「え?遅刻はしてない……」
「8時には仕事が始められるようにするのが当たり前だろ!」
 教育係を名乗る男が目をつり上げて怒鳴る。
(なんだなんだ、しょっぱなから……)
 いきなり怒鳴られ、テンションが下がる。
「君、パソコンは使える?」
「使えますよ」
「じゃあ簡単なプログラムからね。これ仕様書」
 意味が分からない。
「プログラム?パワポっすか?それともネット?」
「はぁ!?パソコン使えるんじゃないのか!?」
 呆れたような言い方にムッとする。
 その様子を知ってか知らずか、付箋の沢山ついた分厚い本をデスクにやや乱暴に置く。
「プログラム出来ないんじゃ仕事にならないよ。これ、明後日までに付箋のついた所は出来るようにしといてね。質問は私に訊くように」
 教育係は、早口でまくし立てると足早に書類の山のなかに消えていった。
 《プログラム 入門編》と書かれた古びた参考書を開いてみる。
 難しい用語がちりばめられ、全く頭に入らない。
(なんで会社に入ってまで勉強しなきゃならないんだ……)
 理想とのギャップに衝撃を受けた。
(とにかく分からない事だらけだし、訊きに行くか)
 C言語の最初のページを開いて、教育係のデスクに向かう。
「さーせん、これ全然分かんないんですけど」
 教育係は参考書を見るなり、驚きから怒りへ表情をぐにゃぐにゃと変えて怒鳴りだした。
「それくらい自分で調べて自分で考えろ!しかもなんだその口の利き方は!!」
「は?いや、分からなかったら訊きに来いって言ったじゃないすか!」
「自分で考えようともせん奴に教えても分かるわけないだろ!」
 結局追い返されてしまった。
 やむなくインターネットで検索しながら読んでみる。
 付箋のついた箇所は存外に多く、3日間は勉強漬けであった。

 3日後、簡単な仕事を任された。
 参考書を開いたまま、たどたどしくプログラムを打ち込む。
 何度も失敗を繰り返すうちに、完成に近づいていった。
(なんか達成感あるな、これ)
 徐々に楽しくなってきた矢先、教育係がデスクに訪れた。
「なんだ、まだやってたのか。遅いぞ、他の仕事が詰まってるんだからな」
 刺々しく言いはなった教育係は新しい仕様書を「次はこれな」と言わんばかりにデスクに置く。
 そしてパソコンのモニターを覗き込むと
「こことここ、それとここ。綴りが違う。それからこの命令は先に持ってこないとエラー起こす。やり直し」
 と、モニターを指でつついて帰っていった。

 それ以降も次々と仕事が届き、そのくせ書き込んだプログラムはエラーを頻発して完成しないという作業を繰返して、着実に仕事を溜めていった。
 そして17時になる頃にはデスクに小さな山が出来ていた。
 しょぼしょぼする目を擦りながら、皆と一緒にタイムカードを切る。
「お疲れさまでしたー」
 そう一声かけて帰ろうとする。
「おい、何帰ろうとしてるんだ?仕事がまだ終わってないだろう」
 呼び止められて振り返ると、さっきまでタイムカードを切っていた人達は既に自分のデスクで仕事を再会していた。
「え?でももう17時……」
「だからタイムカードは切っただろ。とっとと席につけ!お前が終わらんと他の人の仕事も終わらないんだぞ!」
 そう言われては帰れない。
 やっとの思いで仕事を終えて帰ると日付が変わっていた。
 そのまま倒れるように眠り、そして出勤する。
 金曜日はデスクで日を跨いだ。
(仕事ってこんなに大変だったのか……)
 大学の講義中にリプを送ってきた友人を思い出す。
(ひとまず明日、というか今日は土曜日だ。ゆっくり寝よう……)
 そう思いながら、泥のように眠った。

~♪~♪
 携帯の着信で目を覚ます。
 画面には教育係の名前が表示されていた。
「はい、もしもし……」
 電話に出ながら時計を確認する。
 朝の8時過ぎ。一体休日に何だというのか。
『お前今どこにいるんだ!何時だと思ってる!』
 朝っぱらから怒鳴られた。
「……家ですけど」
 眠い目を擦る。
『はぁ!?とっとと出勤してこい!』
「……はい?今日、土曜日ですよね?」
 何を寝ぼけているのか。
『だからどうした!仕事もこなせてないのに休めるわけないだろう!』
 その瞬間、募集要項に書いてあった休養のトリックに気づいた。
 そんなの詐欺だ!と思いながらも着替えて部屋を飛び出す。
 本当に休日が来たのは次の週の日曜日だった。

 そんな生活を続けて3ヶ月。
 納期が迫っているという理由で、事務所に泊まり込みになった。
 机の上には書類と強壮剤のビンが増えていく。
 1日の内の数時間を仮眠と食事に費やし、それ以外はキーボードを叩き続ける日々。
 参考書は実用編になっていた。
 バグは一向になくなる気配を見せず、いつまで泊まり込みで働けばいいのか分からない。

 急激に襲ってきた眠気を払うために屋上へ向かう。目の前が歪んで真っ直ぐ歩けない。
 壁を伝って屋上へ這い出る。
 梅雨のじっとりとした夜風は眠気を吹き飛ばしてはくれなかった。
 摩天楼を見下ろしながら昔をふと振り返る。
 大学生活は楽しかった。
 なぜあんなに無為に過ごしてしまったのか、今では勿体無く思える。
[お前もその内こっち側だから]
 あれから連絡の取れない友人の最期のリプを思い出す。
「そろそろそっち側だな……」
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