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結
一
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昼前までに掃除も洗濯も済ませ、昼御飯の下ごしらえまでしてしまったすずめは、少し早いけど、と思いながらも、夕餉用の買い物に行こうと腰を上げた。
「おめえ、なんだか張り切ってやがるな?」
玄関の土間に下りようとしたすずめに、訝しげに夢一が声を掛けてくる。
「そりゃそうですよ、旦那様。今日ばっかりは早めに仕事を終えて、日が傾く頃には出掛けないと。そうしないといい場所が取れなくなっちゃいますからね」
履物を足に突っ掛けながら答えたすずめに、夢一はさらに不思議そうに首をかしげた。
「いい場所?」
その反応にすずめは呆れて目を丸くした。
「今日がなんの日か忘れちゃったんですか?」
「なにかって……なにか……あったか?」
それに答えたのは、玄関先からの朗らかな声だった。
「花火大会ですよ、夢一殿」
振り返ると、風呂敷包みを両手で抱えたからたちが戸口に立っている。
「あら、こんにちは、からたちさん」
「こんにちは、すずめ殿」
和やかに挨拶を交わすふたりをよそに、夢一は拍子抜けしたように「なんだ、花火大会か」と、ひとり、声を落とした。
「そう言やあ、おめえ、ここんとこ、ましろやはちみつたちとそんなことばっか話してたな」
「楽しみにしてたんです、今日の花火大会。ましろさんやはちみつちゃんたちとの夏祭り。だからほんとは仕事なんかしてる場合じゃないんです」
「いや、仕事はしろよ」
びしっと言い放つ夢一に、まあまあ、とからたちが口を挟んでくる。
「今日ぐらいは大目に見てもばちは当たらないでしょう。楽しむときはとことん楽しむのが江戸っ子。そのためにわたしもこんなものを用意させてもらいました」
からたちはそう言うと、抱えていた風呂敷包みを上がり框に置き、その結びを解いた。
「わあ~」
すずめは目を輝かせた。中から出てきたのは、涼やかな白地に睡蓮の模様をあしらった浴衣であった。
「すずめ殿に似合うのではと思いまして」
「え? わ、わたしに? だって……でも、どうして?」
すぐにでも手を伸ばして、やったあ! と浴衣を抱きしめたい衝動を堪えつつ、すずめは涼やかに微笑むからたちを窺う。
「これはお礼ですよ」
「お礼?」
「すずめ殿のおかげでこの江戸は救われましたからね。ですからこれは僭越ながら、わたしが江戸の民を代表して贈らせていただく、すずめさんへのお礼なんです」
「俺もかなり救ったと思うんだが、俺にはなんかねえのか?」
物欲しげに身を乗り出してきた夢一を無視して、すずめは手渡された浴衣を抱きしめ素直に喜んだ。
「ありがとうございます、からたちさん。わたし、お祭りに着ていく着物なんてなかったから、本当に嬉しいです」
「すずめ殿は可愛らしい顔立ちをしておられるから、きっと白が似合うと思いまして」
「か、可愛い? ……」
面と向かってそんなことを言われたすずめは、ぽっと頬を赤らめ俯いた。
「どうした? 厠に行きてえなら我慢しねえで行って来い」
失礼にもほどがある夢一に、すずめは肘打ちを食らわせた。
「う~ん、待ちきれないなあ、花火大会。浴衣、今から着ちゃおこうかな」
はしゃぐすずめをよそに、夢一は不機嫌そうに口を曲げつつ、からたちに冷ややかな視線を向けた。
「おめえ、ちっとばかりすずめに甘いんじゃねえのか?」
からたちは、否定するでも困惑するでもなく「そりゃあ、もちろん」と、あっさりと首肯した。
「わたしには責任がありますから」
「おめえ、なんだか張り切ってやがるな?」
玄関の土間に下りようとしたすずめに、訝しげに夢一が声を掛けてくる。
「そりゃそうですよ、旦那様。今日ばっかりは早めに仕事を終えて、日が傾く頃には出掛けないと。そうしないといい場所が取れなくなっちゃいますからね」
履物を足に突っ掛けながら答えたすずめに、夢一はさらに不思議そうに首をかしげた。
「いい場所?」
その反応にすずめは呆れて目を丸くした。
「今日がなんの日か忘れちゃったんですか?」
「なにかって……なにか……あったか?」
それに答えたのは、玄関先からの朗らかな声だった。
「花火大会ですよ、夢一殿」
振り返ると、風呂敷包みを両手で抱えたからたちが戸口に立っている。
「あら、こんにちは、からたちさん」
「こんにちは、すずめ殿」
和やかに挨拶を交わすふたりをよそに、夢一は拍子抜けしたように「なんだ、花火大会か」と、ひとり、声を落とした。
「そう言やあ、おめえ、ここんとこ、ましろやはちみつたちとそんなことばっか話してたな」
「楽しみにしてたんです、今日の花火大会。ましろさんやはちみつちゃんたちとの夏祭り。だからほんとは仕事なんかしてる場合じゃないんです」
「いや、仕事はしろよ」
びしっと言い放つ夢一に、まあまあ、とからたちが口を挟んでくる。
「今日ぐらいは大目に見てもばちは当たらないでしょう。楽しむときはとことん楽しむのが江戸っ子。そのためにわたしもこんなものを用意させてもらいました」
からたちはそう言うと、抱えていた風呂敷包みを上がり框に置き、その結びを解いた。
「わあ~」
すずめは目を輝かせた。中から出てきたのは、涼やかな白地に睡蓮の模様をあしらった浴衣であった。
「すずめ殿に似合うのではと思いまして」
「え? わ、わたしに? だって……でも、どうして?」
すぐにでも手を伸ばして、やったあ! と浴衣を抱きしめたい衝動を堪えつつ、すずめは涼やかに微笑むからたちを窺う。
「これはお礼ですよ」
「お礼?」
「すずめ殿のおかげでこの江戸は救われましたからね。ですからこれは僭越ながら、わたしが江戸の民を代表して贈らせていただく、すずめさんへのお礼なんです」
「俺もかなり救ったと思うんだが、俺にはなんかねえのか?」
物欲しげに身を乗り出してきた夢一を無視して、すずめは手渡された浴衣を抱きしめ素直に喜んだ。
「ありがとうございます、からたちさん。わたし、お祭りに着ていく着物なんてなかったから、本当に嬉しいです」
「すずめ殿は可愛らしい顔立ちをしておられるから、きっと白が似合うと思いまして」
「か、可愛い? ……」
面と向かってそんなことを言われたすずめは、ぽっと頬を赤らめ俯いた。
「どうした? 厠に行きてえなら我慢しねえで行って来い」
失礼にもほどがある夢一に、すずめは肘打ちを食らわせた。
「う~ん、待ちきれないなあ、花火大会。浴衣、今から着ちゃおこうかな」
はしゃぐすずめをよそに、夢一は不機嫌そうに口を曲げつつ、からたちに冷ややかな視線を向けた。
「おめえ、ちっとばかりすずめに甘いんじゃねえのか?」
からたちは、否定するでも困惑するでもなく「そりゃあ、もちろん」と、あっさりと首肯した。
「わたしには責任がありますから」
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