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六章
一
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扇屋での女中生活二日目三日目、そして四日目は、初日の破天荒な展開は鳴りを潜め、掃除、洗濯、炊事や繕い物といった忙しくも女中らしい、すずめにとってはほっとする日夜を送ることができた。
その三日の間、夢一は店をほっぽらかし、ほぼ一日中帰って来なかったので、すずめにとっては居心地がよかった。なのでわずかな暇を見つけては、はちみつとお手玉やおはじきで遊んだり、ましろと食材の買出しに行った折に、こっそり冷やし飴を買って、それを舐めながらおしゃべりしたりと、扇屋生活にすずめは順調に慣れ親しんでいった。
が、そんな、他の厳格なお店の女中からは妬まれそうな生活も、五日目の朝早く、鉈ですっぱり断ち切られるようにして終わった。
そりゃそうよね。日当八十文でこんな楽しちゃいけないって話だわ。
すずめはなかば諦め模様。鼻白んだ笑みを浮かべつつ、前方をずかずか歩く我聞と夢一のあとを追う。
でもさあ、どうしたって思うのよ。ただの女中のわたしが、なにゆえ岡っ引きの親分さんに付いて歩かないといけないのかって。そう考えるのはおかしい? おかしくないよね?
嘆くすずめの脳裏に、先程の扇屋でのやりとりが浮かぶ。
「またやりやがったぜ」
ぎろっと目を剥きながら、本当に赤鬼のような顔色で我聞は扇屋を訪れ、どかどかと勝手に上がりこみ、朝餉を食べ終えたばかりの夢一の前にどっかと腰を下ろした。
そんな我聞をひと目見て察したのか、夢一は表情を曇らせ、我聞にお茶を用意しようと立ち上がったすずめを重々しく呼び止めた。
「すずめ」
ええ、承知しております。のっぴきならない話だからこの場を外せって言うのでしょ? ではお茶はのちほどということで。
「おめえもここにいて話を聞いてろ」
逆かい。
「あの、でも難しい話とか物騒な話はわたしには――」
「殺されたのは高処一蔵。骨董屋の旦那だ」
もう話してるし。しかも物騒だし。
「殺しの手口は矢鱈屋と同じだ。仏は菊川町の自分の店で凍ってやがった」
「高処一蔵と矢鱈屋との接点は?」
自分だけ茶を啜りながら、夢一は怜悧な面差しで我聞に訊く。
「それを今、からたちに探らせてるところだ。とにもかくにもこれから現場に向かう。行かねえなんて言わせねえぞ」
「俺が叔父上に逆らえるわけないでしょう?」
夢一はため息をつくと、腰を上げた。
「すずめ」
ええ、承知しております。店番をしっかりやれと言うんでしょ?
「おめえも一緒に来い」
やっぱり逆かい。
すずめは悲壮感溢れる半笑いで答えるのが精一杯だった。
その三日の間、夢一は店をほっぽらかし、ほぼ一日中帰って来なかったので、すずめにとっては居心地がよかった。なのでわずかな暇を見つけては、はちみつとお手玉やおはじきで遊んだり、ましろと食材の買出しに行った折に、こっそり冷やし飴を買って、それを舐めながらおしゃべりしたりと、扇屋生活にすずめは順調に慣れ親しんでいった。
が、そんな、他の厳格なお店の女中からは妬まれそうな生活も、五日目の朝早く、鉈ですっぱり断ち切られるようにして終わった。
そりゃそうよね。日当八十文でこんな楽しちゃいけないって話だわ。
すずめはなかば諦め模様。鼻白んだ笑みを浮かべつつ、前方をずかずか歩く我聞と夢一のあとを追う。
でもさあ、どうしたって思うのよ。ただの女中のわたしが、なにゆえ岡っ引きの親分さんに付いて歩かないといけないのかって。そう考えるのはおかしい? おかしくないよね?
嘆くすずめの脳裏に、先程の扇屋でのやりとりが浮かぶ。
「またやりやがったぜ」
ぎろっと目を剥きながら、本当に赤鬼のような顔色で我聞は扇屋を訪れ、どかどかと勝手に上がりこみ、朝餉を食べ終えたばかりの夢一の前にどっかと腰を下ろした。
そんな我聞をひと目見て察したのか、夢一は表情を曇らせ、我聞にお茶を用意しようと立ち上がったすずめを重々しく呼び止めた。
「すずめ」
ええ、承知しております。のっぴきならない話だからこの場を外せって言うのでしょ? ではお茶はのちほどということで。
「おめえもここにいて話を聞いてろ」
逆かい。
「あの、でも難しい話とか物騒な話はわたしには――」
「殺されたのは高処一蔵。骨董屋の旦那だ」
もう話してるし。しかも物騒だし。
「殺しの手口は矢鱈屋と同じだ。仏は菊川町の自分の店で凍ってやがった」
「高処一蔵と矢鱈屋との接点は?」
自分だけ茶を啜りながら、夢一は怜悧な面差しで我聞に訊く。
「それを今、からたちに探らせてるところだ。とにもかくにもこれから現場に向かう。行かねえなんて言わせねえぞ」
「俺が叔父上に逆らえるわけないでしょう?」
夢一はため息をつくと、腰を上げた。
「すずめ」
ええ、承知しております。店番をしっかりやれと言うんでしょ?
「おめえも一緒に来い」
やっぱり逆かい。
すずめは悲壮感溢れる半笑いで答えるのが精一杯だった。
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