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1.uno
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(これなら……薫さんの横に並んでも、少しはマシに見える?)
今日はもう、パーティー当日。一昨日決めた衣装と、昨日決めた靴とアクセサリーを身につけ、ヘアメイクを施された私は、鏡に映る自分を、他人を眺めるような気持ちで眺めていた。
光沢のある黒のロングドレスは、光の当たりかたで輝きが変わり動くたびにライトを反射しキラキラと輝いている。胸元はレースが施され、下はたっぷりとしたドレープがきいている。靴は金糸の刺繍がされた美しいもので、アクセサリーはプラチナにダイアモンドあしらわれている。染めたことのない、背中まで届く真っ黒な髪は結い上げられ、とてもフォーマルな雰囲気になっていた。
「お~! すっげ~! 亜夜ちゃん似合うじゃん! やっぱ美人だよなぁ。井上さんもそう思うでしょ?」」
安藤さんに煽てられ、なんだか面映ゆい。これは全て衣装とメイクの力なのに。
「確かに。亜夜さんは目鼻立ちのくっきりした美しいかただとは思います」
抑揚のない淡々とした口調なのに、なんだか照れているようにも見える。けれど、いくらなんでも私のことを褒めすぎたと思う。
「そんなことないですよ。確かに目鼻立ちはくっきりしてるかも知れませんが、よくキツそうとか冷たそうって言われるんですから!」
恥ずかしくなりながらそう返すと、安藤さんは納得したように頷いた。
「確かに。けどクールビューティーって感じでいいじゃん。けど中身は、クールじゃなくてキューティだよね」
「はぁ……」
安藤さんがあまり楽しそうにそう言うものだから、私は逆に居た堪れなくなっていた。
「用意はできましたか?」
その声にハッとして振り返る。薫さんがこちらに歩みを寄せていた。その姿はパーティーに合わせた黒のタキシードで、私は思わず見惚れてしまっていた。
「薫さん。いかがでしょう?」
井上さんが淡々と薫さんに尋ねると、彼は私を一瞥したあと、澄ました表情を崩すことなく「えぇ。いいでしょう」と返していた。
「では、行こうか」
薫さんは私に投げかけ自分の腕を曲げる。何を意図しているのか分からず、呆けた顔で彼の顔を見上げていると、安藤さんが横で笑いだした。
「亜夜ちゃん。腕、組んでってこと」
「あ。あぁ……」
我に返り私はおずおずとその腕に触れる。タキシードの生地越しなのにほんのりと温かくて、一気に緊張感が高まってきた。そんな自分と裏腹に、安藤さんは満面の笑みをたたえていた。
「お、いいじゃん! そうだ。写真、撮る? 記念に」
確かにこんな姿になることなど、もう二度とないかも知れない。これも思い出の一つになるだろう。
「じゃあ……。せっかくなんで」
携えていた小さなバッグからスマートフォンを出し、カメラを起動させると差し出した。安藤さんはそれを受け取ると数歩下がりスマートフォンを構えた。
「ニ人とも、こっち見て」
安藤さんにそう言われ、思わず薫さんを見上げる。
「あの、薫さんも一緒でいいんですか?」
「ああ。もちろん」
薫さんはほんの少し口角を上げる。きっと嫌がってはいない。そう伝わってきた。
こんな素敵な人と並んだ写真なんて、きっと友だちに見せても誰も信用してくれないだろうな……なんて思いながら、その美しい横顔を盗み見ていた。
私のスマートフォンで写真を撮り終わると、今度は薫さんが上着の内ポケットから自分のものを取り出し「せっかくなので私も」と言い出す。
「薫さん、写真撮るなんて珍しいじゃん。あとで見られて浮気疑われないでよ?」
「浮気でないことは、君たちが証人だろう?」
「ま。確かにね」
茶化すような安藤さんとそれを涼し気に受け流す薫さんのやり取りを見ながら、写真を撮ってもらう。薫さんもいつかこの写真を見て懐かしんでくれるのだろうか。そんなことが心の中に浮かんだ。
それから私たちはパーティー会場に移動する。同じホテル内だけれど、井上さんと安藤さんが一緒に来てくれたのは途中まで。ニ人きりにされ、緊張は最高潮に達したまま薫さんに連れ添った。
美しい柄の絨毯が敷かれた廊下を進むと、同じようにパーティーに向かう華やかに着飾った人々が、会場らしき場所に吸い込まれていく。進むたびざわめきが耳に届き、ふと疑問を口にしてみた。
「薫さん。今日はいったい、何のパーティーですか?」
「あぁ。今日はこのホテルのオーナーの誕生日パーティーです。ほら、そこにいるでしょう?」
大勢が歓談する煌びやかな会場にはいるとすぐ、古いマフィア映画に出てきそうな恰幅のよい60代くらいの男性が、大勢のゲストに囲まれているのが見えた。
今日はもう、パーティー当日。一昨日決めた衣装と、昨日決めた靴とアクセサリーを身につけ、ヘアメイクを施された私は、鏡に映る自分を、他人を眺めるような気持ちで眺めていた。
光沢のある黒のロングドレスは、光の当たりかたで輝きが変わり動くたびにライトを反射しキラキラと輝いている。胸元はレースが施され、下はたっぷりとしたドレープがきいている。靴は金糸の刺繍がされた美しいもので、アクセサリーはプラチナにダイアモンドあしらわれている。染めたことのない、背中まで届く真っ黒な髪は結い上げられ、とてもフォーマルな雰囲気になっていた。
「お~! すっげ~! 亜夜ちゃん似合うじゃん! やっぱ美人だよなぁ。井上さんもそう思うでしょ?」」
安藤さんに煽てられ、なんだか面映ゆい。これは全て衣装とメイクの力なのに。
「確かに。亜夜さんは目鼻立ちのくっきりした美しいかただとは思います」
抑揚のない淡々とした口調なのに、なんだか照れているようにも見える。けれど、いくらなんでも私のことを褒めすぎたと思う。
「そんなことないですよ。確かに目鼻立ちはくっきりしてるかも知れませんが、よくキツそうとか冷たそうって言われるんですから!」
恥ずかしくなりながらそう返すと、安藤さんは納得したように頷いた。
「確かに。けどクールビューティーって感じでいいじゃん。けど中身は、クールじゃなくてキューティだよね」
「はぁ……」
安藤さんがあまり楽しそうにそう言うものだから、私は逆に居た堪れなくなっていた。
「用意はできましたか?」
その声にハッとして振り返る。薫さんがこちらに歩みを寄せていた。その姿はパーティーに合わせた黒のタキシードで、私は思わず見惚れてしまっていた。
「薫さん。いかがでしょう?」
井上さんが淡々と薫さんに尋ねると、彼は私を一瞥したあと、澄ました表情を崩すことなく「えぇ。いいでしょう」と返していた。
「では、行こうか」
薫さんは私に投げかけ自分の腕を曲げる。何を意図しているのか分からず、呆けた顔で彼の顔を見上げていると、安藤さんが横で笑いだした。
「亜夜ちゃん。腕、組んでってこと」
「あ。あぁ……」
我に返り私はおずおずとその腕に触れる。タキシードの生地越しなのにほんのりと温かくて、一気に緊張感が高まってきた。そんな自分と裏腹に、安藤さんは満面の笑みをたたえていた。
「お、いいじゃん! そうだ。写真、撮る? 記念に」
確かにこんな姿になることなど、もう二度とないかも知れない。これも思い出の一つになるだろう。
「じゃあ……。せっかくなんで」
携えていた小さなバッグからスマートフォンを出し、カメラを起動させると差し出した。安藤さんはそれを受け取ると数歩下がりスマートフォンを構えた。
「ニ人とも、こっち見て」
安藤さんにそう言われ、思わず薫さんを見上げる。
「あの、薫さんも一緒でいいんですか?」
「ああ。もちろん」
薫さんはほんの少し口角を上げる。きっと嫌がってはいない。そう伝わってきた。
こんな素敵な人と並んだ写真なんて、きっと友だちに見せても誰も信用してくれないだろうな……なんて思いながら、その美しい横顔を盗み見ていた。
私のスマートフォンで写真を撮り終わると、今度は薫さんが上着の内ポケットから自分のものを取り出し「せっかくなので私も」と言い出す。
「薫さん、写真撮るなんて珍しいじゃん。あとで見られて浮気疑われないでよ?」
「浮気でないことは、君たちが証人だろう?」
「ま。確かにね」
茶化すような安藤さんとそれを涼し気に受け流す薫さんのやり取りを見ながら、写真を撮ってもらう。薫さんもいつかこの写真を見て懐かしんでくれるのだろうか。そんなことが心の中に浮かんだ。
それから私たちはパーティー会場に移動する。同じホテル内だけれど、井上さんと安藤さんが一緒に来てくれたのは途中まで。ニ人きりにされ、緊張は最高潮に達したまま薫さんに連れ添った。
美しい柄の絨毯が敷かれた廊下を進むと、同じようにパーティーに向かう華やかに着飾った人々が、会場らしき場所に吸い込まれていく。進むたびざわめきが耳に届き、ふと疑問を口にしてみた。
「薫さん。今日はいったい、何のパーティーですか?」
「あぁ。今日はこのホテルのオーナーの誕生日パーティーです。ほら、そこにいるでしょう?」
大勢が歓談する煌びやかな会場にはいるとすぐ、古いマフィア映画に出てきそうな恰幅のよい60代くらいの男性が、大勢のゲストに囲まれているのが見えた。
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