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31.隣の部屋②

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 医務室に到着すると、昨日さくじつ怪我を見てくれた医務と看護師たちが驚いた顔で出迎えてくれた。――それもそうだ。王弟殿下に殿下達が総出で来てしまったのだ。何事かと驚くのも仕方がないというものだ。
 居たたまれない気持ち、申し訳ない気持ち、罪悪感が混ざり合い息苦しくなる。
 だが殿下達に謝っていただくわけにはいかない。
「手当をして頂いたのに、勝手に抜けて申し訳ございませんでした」
 深くお辞儀をする。
「彼は俺のためにお前たちを蔑ろにしてしまった。申し訳ない――」
「皆さんどうかアイベルを許してあげてください……」
「彼のために手を尽くしてくれたのに、迷惑をかけてしまってごめんなさいね」
「この子たちに免じて、どうか今朝の非礼を許してくれないだろうか」
 ああぁ……。お優しい皆さまのお心遣いが今は重い。二度とこのような目に合わせてはいけないと、もうひとつ深く頭を下げた。
「は、はい……、もちろんです。――無理をしていないかと心配していたので、また戻ってきてもらえて安心しました」
 苦笑交じりの医務が呆れた様子だった。ここまでされて許さない訳にはいかないだろう。今朝のアドバイス通りになったとにこにこしたエミリオ殿下が顔を覗きにきた。
「許してもらえてよかったですね、アイベル。今度は怪我をしてもムリはしちゃだめですからね」
「……はい、二度とこのような真似まねいたしません」
 小さな殿下は満足そうに微笑んだ。
「痛みがあったでしょう。どうしていたんですか?」
 医務が自分の近くの椅子に座るよう呼びながら問いかけた。その間周りの看護師たちが殿下たちに椅子を用意し座っていただいている。
「……朝は痛め止めを。その後、フィフス殿からお守りを頂いてからは不思議と傷みがなく、今も違和感いわかんがありません」
「お守り? 痛覚を遮断しゃだんさせるなにかか……? ――患部かんぶを見せていただけますか」
 衝立ついたてを用意され、姫様たちに見えないように服を脱ぎ包帯を取っていく。――すると痛みがなかった理由が分かった。
「どうして……?」
「そんな馬鹿な……。誰かに治癒なおしてもらったのか?」
「……どうかしたのか?」
 ヨアヒム様が衝立ついたての向こうから様子を見に来られた。
「治ってるのか……? 治療ちりょうしてもらったということか?」
 不思議そうに医務が包帯をほどいた腕をあれこれといじっている。怪我をしたあとすらない。触っても押しても違和感なく、痛覚も無事だ。異常がないか動きを確認してもらっているが、どれも問題がなさそうだった。
「――怪我が治っているのですか?」
 ディアス様とエミリオ様が顔を出し、様子を見に来た。――ディアス様主人は昨日の怪我を見ていたのもあり、驚いている様子だった。
「怪我の跡も残らず治癒ちゆされている……。そのお守りというのを見せてくれないか」
「はい、たしか上着に……」
 シャツを羽織はおり、ジャケットに入れていた紙を探すも出てこない。紙をしまっていたところを見ていた二人も不思議がっていた。
「……申し訳ありません、どうやら無くしてしまったようです」
 お守りと言っていたが、返すべきものだったろうか。紛失ふんしつしたことに血の気が引く。
「もしかしたら、消えたのかもしれない。……教会でも精霊術の札が消えたように見えた」
 何か思い当たる節があったようで、ディアス様が補足してくれた。もしそうであればと、願うばかりだ。
「精霊術……。もしかして今来ていると噂の?」
「あぁ……、今朝、アイベルの怪我を早く治すためと言って渡してくれたものだ」
「僕も見ました。紙に水筆で何か書いて、アイベルに渡していましたよ。ポケットからなくなっているなんて不思議ですね」
 大事がなくてよかったとエミリオ殿下は嬉しそうにしていたが、周りの人間はまだ何が起こったか理解できていなかった。
「……もしかして今朝来た方でしょうか?」
「そういえば……、様子を見に来たと言っていた。恐らくその彼だろう」
「なるほど……。それは……納得です……」
 脱力したように、医務が深く座り込んだ。
「噂には聞いていましたが……、蒼家が使う術はどんな怪我でも病でも跡すら残さず治すと聞いたことがあります。特に医療技術も進んでいるそうで、わざわざ向こうへ渡航し治療する人も多いそうですよ」
 もう一度その奇跡を確認するかのように、医務が怪我のあった部分を触診している。
「他に不調はないですか? こちらの治癒術は再生能力を活性化させて行われるのですが、向こうの技術はどのような原理なのでしょう……。まるで時間が戻ったかのようだ――」
 衝立ついたての向こうで、仲間に入れないアストリッド様の影が忙しなく動いている。気になるけれど見れないためだろう。
(――また殿下のお傍にいられる)
 怪我が治ったことよりも、己の役割を果たせることに大きく感謝と喜びを感じた。
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