30 / 65
24.『策士』は雨上がりと共に⑨
しおりを挟む
彼らが食している間、仕分けしなかった場所についてのメモを見せてもらっていた。学園来てから六年経つが、知らないスポットがまだまだあると分かり、目を通すだけでも発見があった。街の情報も多く、先ほどいたバルシュミーデ通りのこともあったが、学園内にもまだ見るべき場所があると分かり、今日一日だけでかなり多くの発見があった気がする。地図と照らし合わせながらエミリオと話していると、
「――来たか。」
窓の外に馬車が来たようだった。
「時間になったらここに来るよう伝えていたんだ。」
既に一息ついており空になったティーカップを置いたフィフスがそう説明した。――二人ともひと口が大きかったのか、すでに食べ終わっている。味わうというよりも腹を満たしているだけのように見えたが、馬車の時間を気にして急いでいたのかもしれない。
大事なメモを無くさないよう慎重に片付け、身支度を整え席を立つ。――個人情報が載っているものだ。フィフスがなにか落としたものはないか周囲を確かめていると、左翼がその紙袋を手に外へ出ていく。カランカランと乾いた鐘の音が響く。
「本日はありがとうございました。皆さま、またお気軽にお立ち寄りくださいませ」
店主が退出しようとする我々の元へやってきて丁寧に礼をした。
「ご馳走さまでした! またお父様のお話など教えてくださると嬉しいです」
「いい場所だった。また来よう」
「――恐悦至極にございます」
二人の王子から礼を言われ、静かに喜びを表していた。その様子にフィフスも満足そうだった。店を出ると、馬車の前で左翼が待機していた。支払いを済ませたフィフスが最後に店の外に出ると、何かに気付いたのか足を止め、道の先を見ていた。
「あれはなんだ……?」
少し険しい表情をしているようだった。つられて視線の先を見ると、
「――猫?」
「猫ですか」
「野良猫、でしょうか」
「黒猫ですが、――それ以外に何かありますか?」
一斉に声が上がる。道の真ん中に黒猫がおり、こちらに顔をむけて座っているようだった。長いしっぽを何度か揺らすと、横に道があるようでそちらに姿を消していった。
「猫? ――あれが? 小さくないか?」
一斉にひとつの答えをもらうも、納得いかないようだった。小さいというが、普通のサイズに見えるので、弟も侍従たちも不思議そうにフィフスを見た。
「……まさか西方天のとこにいるのが猫だと思ってないよな」
ずっと口を開かなかった左翼の声が静かに届く。
「猫じゃないのか? アイツも猫だって……。え? まさか違うのか?」
「……あの人が飼ってるのは虎だ」
「本当に……? おい、なんで今まで教えてくれなかったんだ?」
愕然とするフィフスに、彼がなんで驚いていたのか明らかになる。虎と猫を間違えていたとは。――実物は見たことがないがどのようなものかは知っている。
「望外のバカ……。サイズが全然違だろ」
「……道理で、猫とやらを飼ってるやつらの話がよくわからなかった訳だ。」
「――西方天さま、って虎を飼ってるんですか?」
生き物が好きな弟には嬉しい話題だったようだ。
「あぁ、どうやらそうらしい……。本人が猫だと言ってたし、周りの人間もそう言っていたから、あれが猫だと思っていた……。」
衝撃の事実に打ちのめされているようで、元気が少なくなっているようだった。
「フィフスは見たことがないのですか? ――聖都にいないとか?」
「私は動物には嫌われやすくてな。――あれくらいのサイズの動物は逃げてしまうから見たことがない。ペットを飼っているやつはいるから聖都にも動物はいるはずだ。」
「――昨日狼を野犬と言っていましたが、もしかして犬も狼も見たことが……?」
アイベルがおずおずと尋ねた。
「狼はあるが、――あれがそうだったか。街中にいるからあれが犬かと思った。」
動物に嫌われる人というのは聞いたことがあるが、ここまで避けられてしまうものなのか。アイベルもさすがになんと言葉をかけるべきか詰まっているようだった。
「……猫に九生というが、まさか本当なのか。」
「迷信で聞いたことがありますが、猫もそんなに長生きしないと思いますよ」
末弟の心配そうな眼差しがフィフスに向けられる。既に姿を消している猫の後を追っているのか、先ほどいた場所をまだ見ている。
「そうか。」
「……あの、良かったら後で博物館へ行きませんか? このあたりの動物について展示があるので、――本物じゃないですけど動物が見れますよ。詳しく見れないかもですが、一通りみることはできるかと!」
これから向かうスーシェン教会の後、どこへ行くか先ほど店内で話したのだが、行きたい場所として博物館と歌劇場が上がったのだが、博物館は時間が足りないということで一度却下になった。歌劇場は上演時間が決まっているので気軽に立ち寄れないと断っており、その時は姉たちと合流するかと話が一度まとまっていた。
「いいのか? ――なら時間内でどれだけ見れるか楽しみだな。」
「兄さまもいいですよね? ――知りたい事を学べる機会は貴重です。あそこなら僕も兄さまも行ったことがあるので、きっと案内はできると思います!」
張り切った様子の弟に、気を取り直したようでフィフスに少し笑みが戻った。
「気遣いに感謝する。――案内は頼んだ。」
「はい!」
キールが馬車の扉を開け、次の目的地へ向かうことにした。
「――来たか。」
窓の外に馬車が来たようだった。
「時間になったらここに来るよう伝えていたんだ。」
既に一息ついており空になったティーカップを置いたフィフスがそう説明した。――二人ともひと口が大きかったのか、すでに食べ終わっている。味わうというよりも腹を満たしているだけのように見えたが、馬車の時間を気にして急いでいたのかもしれない。
大事なメモを無くさないよう慎重に片付け、身支度を整え席を立つ。――個人情報が載っているものだ。フィフスがなにか落としたものはないか周囲を確かめていると、左翼がその紙袋を手に外へ出ていく。カランカランと乾いた鐘の音が響く。
「本日はありがとうございました。皆さま、またお気軽にお立ち寄りくださいませ」
店主が退出しようとする我々の元へやってきて丁寧に礼をした。
「ご馳走さまでした! またお父様のお話など教えてくださると嬉しいです」
「いい場所だった。また来よう」
「――恐悦至極にございます」
二人の王子から礼を言われ、静かに喜びを表していた。その様子にフィフスも満足そうだった。店を出ると、馬車の前で左翼が待機していた。支払いを済ませたフィフスが最後に店の外に出ると、何かに気付いたのか足を止め、道の先を見ていた。
「あれはなんだ……?」
少し険しい表情をしているようだった。つられて視線の先を見ると、
「――猫?」
「猫ですか」
「野良猫、でしょうか」
「黒猫ですが、――それ以外に何かありますか?」
一斉に声が上がる。道の真ん中に黒猫がおり、こちらに顔をむけて座っているようだった。長いしっぽを何度か揺らすと、横に道があるようでそちらに姿を消していった。
「猫? ――あれが? 小さくないか?」
一斉にひとつの答えをもらうも、納得いかないようだった。小さいというが、普通のサイズに見えるので、弟も侍従たちも不思議そうにフィフスを見た。
「……まさか西方天のとこにいるのが猫だと思ってないよな」
ずっと口を開かなかった左翼の声が静かに届く。
「猫じゃないのか? アイツも猫だって……。え? まさか違うのか?」
「……あの人が飼ってるのは虎だ」
「本当に……? おい、なんで今まで教えてくれなかったんだ?」
愕然とするフィフスに、彼がなんで驚いていたのか明らかになる。虎と猫を間違えていたとは。――実物は見たことがないがどのようなものかは知っている。
「望外のバカ……。サイズが全然違だろ」
「……道理で、猫とやらを飼ってるやつらの話がよくわからなかった訳だ。」
「――西方天さま、って虎を飼ってるんですか?」
生き物が好きな弟には嬉しい話題だったようだ。
「あぁ、どうやらそうらしい……。本人が猫だと言ってたし、周りの人間もそう言っていたから、あれが猫だと思っていた……。」
衝撃の事実に打ちのめされているようで、元気が少なくなっているようだった。
「フィフスは見たことがないのですか? ――聖都にいないとか?」
「私は動物には嫌われやすくてな。――あれくらいのサイズの動物は逃げてしまうから見たことがない。ペットを飼っているやつはいるから聖都にも動物はいるはずだ。」
「――昨日狼を野犬と言っていましたが、もしかして犬も狼も見たことが……?」
アイベルがおずおずと尋ねた。
「狼はあるが、――あれがそうだったか。街中にいるからあれが犬かと思った。」
動物に嫌われる人というのは聞いたことがあるが、ここまで避けられてしまうものなのか。アイベルもさすがになんと言葉をかけるべきか詰まっているようだった。
「……猫に九生というが、まさか本当なのか。」
「迷信で聞いたことがありますが、猫もそんなに長生きしないと思いますよ」
末弟の心配そうな眼差しがフィフスに向けられる。既に姿を消している猫の後を追っているのか、先ほどいた場所をまだ見ている。
「そうか。」
「……あの、良かったら後で博物館へ行きませんか? このあたりの動物について展示があるので、――本物じゃないですけど動物が見れますよ。詳しく見れないかもですが、一通りみることはできるかと!」
これから向かうスーシェン教会の後、どこへ行くか先ほど店内で話したのだが、行きたい場所として博物館と歌劇場が上がったのだが、博物館は時間が足りないということで一度却下になった。歌劇場は上演時間が決まっているので気軽に立ち寄れないと断っており、その時は姉たちと合流するかと話が一度まとまっていた。
「いいのか? ――なら時間内でどれだけ見れるか楽しみだな。」
「兄さまもいいですよね? ――知りたい事を学べる機会は貴重です。あそこなら僕も兄さまも行ったことがあるので、きっと案内はできると思います!」
張り切った様子の弟に、気を取り直したようでフィフスに少し笑みが戻った。
「気遣いに感謝する。――案内は頼んだ。」
「はい!」
キールが馬車の扉を開け、次の目的地へ向かうことにした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる