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21.『策士』は雨上がりと共に⑥
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「ふっふっふっ。見てくれ左翼、大量だ。」
道行く人々に次々と囲まれてなかなか戻ってこなかったフィフスが、二つ目の飲み物に手を付けていた左翼に自慢した。小さな切れ端からノートのページなど大小さまざまな紙を、誰に貰ったのか紙袋に入れて持って帰ってきた。ちらりと中を見ると言葉の通り大量と表現するに適していた。
待っている間、一緒に雑誌を読んでいたエミリオが、顔を上げて心配そうに尋ねた。
「……それって本当に全員に電話するんですか?」
「もちろんだ。じゃなきゃ貰った意味がない。」
先ほど座っていた自分の席に戻る。――自分が頼んでいた物がなくなっていることに気付いたようで、左翼をもの言いたげな目で睨んでいる。
彼のどこ吹く風な様子に取り合うのはやめたのか、気を取り直しこちらに向き合った。――残念ながら待っている間にグラスはどれも空になってしまった。
「皆も待たせて悪かったな。次に行こうか。何か別の形でお詫びしよう。」
先ほどの悪戯っぽい態度はすぐに鳴りを潜め、元の真面目な様子に変わり、そのまま席を立った。
「少し行ったところに本屋がひとつあるらしい。軽く店内を覗いたらそのまま次の目的地に行こう。」
つられて立ち上がり、
「――休まなくて大丈夫か?」
「ありがとう。でもまだ余裕があるから安心しろ。」
結局ひとりだけ休んでいなかったことが気になったが、楽し気に笑って返された。――言葉の通りまだ余力がありそうだった。
全員が立ち上がると、先ほどの給仕も緊張がなくなったようで、にこやかに近付きあとは片付けると申し出てくれたので任せることとなる。少し気になって振り返ると彼女たちはご機嫌そうに手を振っており、フィフスも軽く手を振って応えると、あちこちから手があがる。人当たりの良さか、思わせぶりな対応のせいか、あっという間に人気者になったようだ。
「――もしかしてこれがファンサービス?」
「あぁ。――こういうことはお前たちはやらないのか?」
「……勘違いされると困るからないな」
「そうか。なんだか大変なんだな。」
自分とは無縁そうな顔をしているが、昨日やたら女性に絡まれたという話を聞いたので、自分の行動に自覚がないのかもしれない。――もしかしたら大変な役目を負ってしまったかと思い、つい苦笑が漏れた。
賑やかな道をしばらく歩くと、小さな本屋が現れた。イルマシェ書店と看板があったのできっとこれの事だろう。本屋というのはそれなりに大きく広い敷地を有しているという認識だったので、これだけ小さな本屋には何が置いてあるのか想像がつかなかった。入口は広く開け放たれており、見たことのない本がいくつも掲示されていた。3階まで窓があるので、上の階にも何か置いているのかもしれない。
「ずいぶん可愛らしい本屋さんですね。フィフスは何か欲しいものがあるんですか?」
「そうだな――。とりあえず中を見てから考える。新聞なんかもあるといいんだが……。」
店頭に並ぶ本を眺めているようだ。――個人作成のものだろうか。よく見る本とは違い、シンプルなデザインだったり、手書きの文字だったり、味わい深い表紙が並んでいる。表紙の雰囲気から並んでいるのはファッション、オカルト、グルメ情報に歴史書の類に見える。
目的の物がないのか、フィフスは中に入ると歩いて棚に並ぶ本を眺めている。店内に人はあまりいないようで、彼の独壇場だ。
「……あまり趣味の良い場所ではなさそうですね」
アイベルが難色を示している。
「なにか『変なもの』がありましたか?」
小声でエミリオが尋ねていた。馬車の中で話していたことを思い出したようで、確かに侍従が反応したため興味が出たようだ。
「よし。とりあえず用は済んだ。――残念だが気になるものはなかった。さっさと次に行こうか。」
もう見て回ったのか、フィフスが出て来た。
「道はこっちだ。この辺よりかは落ち着いた場所だと思う。――迷わず行けるといいんだが。」
大股で店を後にする。
「アイベルの言う通り、あまり趣味の良い場所じゃなかった。――あれでよく店が潰れないもんだ。」
店から離れたからだろう、苦笑交じりの言葉に、エミリオが振り返って店を見ようとするが左翼に遮られた。
「……なにががあったんですか?」
「こちらでは情報統制はしていないんだったか。――知らずに手に取った者を悪徳に導くものは店に置いてはいけないんだが、あそこは普通に置いていたな。聖国なら摘発ものだ。」
「……この国では特にそういう制限はありませんが、人道に悖るものはあのように店頭に並べるようなのはさすがにないかと」
アイベルがフィフスと同じ本を指して話しているようだが、どの本について言っているのかは分からなかった。明言を避け、詳細は教えて貰えなさそうな雰囲気が歯がゆかった。
「あの場所のことは早く忘れよう。――次の場所は喜んでもらえるといいんだが。」
道行く人々に次々と囲まれてなかなか戻ってこなかったフィフスが、二つ目の飲み物に手を付けていた左翼に自慢した。小さな切れ端からノートのページなど大小さまざまな紙を、誰に貰ったのか紙袋に入れて持って帰ってきた。ちらりと中を見ると言葉の通り大量と表現するに適していた。
待っている間、一緒に雑誌を読んでいたエミリオが、顔を上げて心配そうに尋ねた。
「……それって本当に全員に電話するんですか?」
「もちろんだ。じゃなきゃ貰った意味がない。」
先ほど座っていた自分の席に戻る。――自分が頼んでいた物がなくなっていることに気付いたようで、左翼をもの言いたげな目で睨んでいる。
彼のどこ吹く風な様子に取り合うのはやめたのか、気を取り直しこちらに向き合った。――残念ながら待っている間にグラスはどれも空になってしまった。
「皆も待たせて悪かったな。次に行こうか。何か別の形でお詫びしよう。」
先ほどの悪戯っぽい態度はすぐに鳴りを潜め、元の真面目な様子に変わり、そのまま席を立った。
「少し行ったところに本屋がひとつあるらしい。軽く店内を覗いたらそのまま次の目的地に行こう。」
つられて立ち上がり、
「――休まなくて大丈夫か?」
「ありがとう。でもまだ余裕があるから安心しろ。」
結局ひとりだけ休んでいなかったことが気になったが、楽し気に笑って返された。――言葉の通りまだ余力がありそうだった。
全員が立ち上がると、先ほどの給仕も緊張がなくなったようで、にこやかに近付きあとは片付けると申し出てくれたので任せることとなる。少し気になって振り返ると彼女たちはご機嫌そうに手を振っており、フィフスも軽く手を振って応えると、あちこちから手があがる。人当たりの良さか、思わせぶりな対応のせいか、あっという間に人気者になったようだ。
「――もしかしてこれがファンサービス?」
「あぁ。――こういうことはお前たちはやらないのか?」
「……勘違いされると困るからないな」
「そうか。なんだか大変なんだな。」
自分とは無縁そうな顔をしているが、昨日やたら女性に絡まれたという話を聞いたので、自分の行動に自覚がないのかもしれない。――もしかしたら大変な役目を負ってしまったかと思い、つい苦笑が漏れた。
賑やかな道をしばらく歩くと、小さな本屋が現れた。イルマシェ書店と看板があったのできっとこれの事だろう。本屋というのはそれなりに大きく広い敷地を有しているという認識だったので、これだけ小さな本屋には何が置いてあるのか想像がつかなかった。入口は広く開け放たれており、見たことのない本がいくつも掲示されていた。3階まで窓があるので、上の階にも何か置いているのかもしれない。
「ずいぶん可愛らしい本屋さんですね。フィフスは何か欲しいものがあるんですか?」
「そうだな――。とりあえず中を見てから考える。新聞なんかもあるといいんだが……。」
店頭に並ぶ本を眺めているようだ。――個人作成のものだろうか。よく見る本とは違い、シンプルなデザインだったり、手書きの文字だったり、味わい深い表紙が並んでいる。表紙の雰囲気から並んでいるのはファッション、オカルト、グルメ情報に歴史書の類に見える。
目的の物がないのか、フィフスは中に入ると歩いて棚に並ぶ本を眺めている。店内に人はあまりいないようで、彼の独壇場だ。
「……あまり趣味の良い場所ではなさそうですね」
アイベルが難色を示している。
「なにか『変なもの』がありましたか?」
小声でエミリオが尋ねていた。馬車の中で話していたことを思い出したようで、確かに侍従が反応したため興味が出たようだ。
「よし。とりあえず用は済んだ。――残念だが気になるものはなかった。さっさと次に行こうか。」
もう見て回ったのか、フィフスが出て来た。
「道はこっちだ。この辺よりかは落ち着いた場所だと思う。――迷わず行けるといいんだが。」
大股で店を後にする。
「アイベルの言う通り、あまり趣味の良い場所じゃなかった。――あれでよく店が潰れないもんだ。」
店から離れたからだろう、苦笑交じりの言葉に、エミリオが振り返って店を見ようとするが左翼に遮られた。
「……なにががあったんですか?」
「こちらでは情報統制はしていないんだったか。――知らずに手に取った者を悪徳に導くものは店に置いてはいけないんだが、あそこは普通に置いていたな。聖国なら摘発ものだ。」
「……この国では特にそういう制限はありませんが、人道に悖るものはあのように店頭に並べるようなのはさすがにないかと」
アイベルがフィフスと同じ本を指して話しているようだが、どの本について言っているのかは分からなかった。明言を避け、詳細は教えて貰えなさそうな雰囲気が歯がゆかった。
「あの場所のことは早く忘れよう。――次の場所は喜んでもらえるといいんだが。」
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