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12.『再会』と『新来』⑦
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会場を後にすれば、応接の間に移動した。そこにはいくつかの机と、装飾が華美なクッションのよく効いた椅子が並べられていた。
姉弟含め五人で揃って並んで座ると、先ほどフィフスと親し気に話していた女性たちと、二人よりかは少し大人びた女性を含めた三人も机を挟んだ向かい側に並び腰掛けた。彼女らの後ろにガレリオと名乗った青年が後ろ手を組み立ち、聖国の使者と姉弟たちの間を仲介するため中央に叔父が腰掛けると、その後ろにヴァイスが立った。
「どうぞ皆さんお楽に。――今回聖国からお越しいただいた玄家のミラ嬢、リタ嬢、エリーチェ嬢。後ろに立っているのはガレリオ・ブランディくん、東方天でもある僕の姪っこクリスくんの直属の部下で、東方軍第三師団を率いている隊長さんだ」
それぞれが名を呼ばれ軽く会釈をした。
「そしてこちらが現王グライリヒ陛下の御子である第一王女のアストリッド姫、第二王子のディアス殿下、第三王子のエミリオ殿下。あとこちらにおわすヨアヒム王弟殿下のご息女のレティシア姫、コレット姫。――何かと顔を合わせることもあるだろうから、どうかみんな仲良くね」
「遠路はるばる聖国よりお越しくださりありがとうございます。無事に――とはあまり言えないかもしれないが、皆さんをお迎えできたことを喜ばしく思う」
「我々も来るべき締結式に向けて、このような素晴らしい機会を設けていただき感謝しております、ヨアヒム王弟殿下。また、皆さまには何かとお力添えいただければ幸いです」
ミラと紹介されていた女性がどうやら代表のようで、叔父と和やかに挨拶をしている。こげ茶色の髪色とセピア色の瞳を持っており、大人の女性といった落ち着きと、銀縁の線の細い眼鏡が知的な印象を強めている。向こうの正装なのか三人とも縦襟の、刺繍がふんだんにあしらわれたダークカラーのシンプルなロングドレスに身を包んでいる。いとこたちに比べると質素で露出が少ないデザインだ。
「さて、先ほどの二人――フィフスくんと左翼くんですが、彼らは玄家の皆さんが締結式関係のお仕事をするなら、表向きは警備チェックを主に担当してもらいます」
「表向き……?」
姉のアストリッドがいぶかし気に尋ねた。またここでも裏表があるのだろうか。
「青龍商会という機関は個人の依頼を受けて、個人で対処できない物事を解決することを生業にしているんだ。ざっくり言うと傭兵業みたいなものだね。――大小問わずいろんな相談を受けているんだけど、ラウルスに関する相談があると兄のセーレ経由で陛下の耳に入るんだ」
セーレはクリスくんの父親だからね、と軽い説明を入れるが、ここにいる者たちにとって既に周知のことだった。ただ、聖国まで依頼がわざわざ届くほど困っている者がいるという事実に、一同神妙な面持ちになる。心優しい叔父の表情も始終曇りっぱなしだ。
「別に王家と青龍商会が何か契約しているとかじゃなく、クリスくんが情報をくれるんだ。そういう問い合わせを受けても蒼家は手が出せないからね。必要のない限り四家の人間はラウルスに入国することを制限しているみたいなんだ」
四家とは四神を奉る一族の総称だ。朱家、蒼家、白家、玄家と四つの家のことを示している。聖国でも特別な意味を持つ一族だからなのか、それとも過去大戦に関わってきた一族だからかわからないが、両国間が平和となった今でも、この国で見かけることはまずない。
黒以外の見た目を持つ者も、王都など聖国と行き来しやすい場所であれば見かけるかともあるが、この地では会場にいた色とりどりな特徴を持つ聖国の兵士たちが物珍しい部類に入るだろう。
「以前からピオニールについての依頼が届いているそうで、――連続学徒失踪事件について君たちも耳にしたことはあるよね?」
思わぬ事件名をここで聞くことになり、誰かの息をのむ音が聞こえてきた。
連続学徒失踪事件――ここ一、二年の内で、下流の学生が何人も行方不明になっている事件だ。被害者は10人近くにのぼり、誰もが何の痕跡も残さずこの学園から消えてしまった。
「我々も全力を尽くして調査しているが、残念ながらいまだ何の痕跡も見つかっていない。正直藁でもつかみたい気分だ……。そこで、国王陛下が今回の締結式に合わせて玄家の者が来ることに合わせ、内密に調査をしてもらうよう青龍商会に頼んだそうだ」
為す術なく学生を危機にさらしていることが耐えられない、といった心痛な思いが叔父からにじみ出ていた。
「ちょうどいいと言ったら不謹慎だけど、さっきの追走劇を見て分かったでしょ。彼らは人探しのプロだ。それも尋常じゃない速さで駆け付ける、頼もしい子たちだよ」
フィフスが二、三キロも離れた場所から駆けつけてくれた。――しかもその犯人も逃さまいと情報を持ち帰り、犯人確保に大いに貢献してくれたことを考えれば、誰もが納得だろう。
「あの二人のお仕事内容は分かったけれど、それは内密にする必要があることなのかしら? 大々的に探していただいた方が情報も集まりやすいのでは?」
「大々的に調べてうまくいかなかったので、内密に調べてもらうんですよアストリッド様。――じゃないとこの街の警備を担当している者たちから反発があるでしょ?」
「……さっき、だいぶ挑発していなかったかしら」
「ふふっ、多分ガレリオくんたちが蔑ろにされて怒ったんじゃないかな。あとはまぁ、牽制かもね。きちんと仕事しろって」
「確かにそうね。――彼らが早く向かってくれればディアスもこんなに帰りが遅くならなかったはずよ。おばあ様にもあんなに怒られずに済んだかもしれないのに」
何があったかは分からないが、理不尽を思い出したようで姉は怒りながら、よしよしと隣に座る大きな弟の背を撫でた。少し居たたまれない気持ちになりつつも、姉にされるがままに任せた。
「それでヴァイス卿、私たちはは何を協力すればよいの? 何か頼みがあるからこのような話をしているのでしょう?」
「さすがレティシア姫。できるだけ学園になじんでもらうため、なるべく悟られないようにするために――こちらにいるリタ嬢、エリーチェ嬢は月末まで、フィフスくんは二週間程、留学生として受け入れることになりました。その彼らのサポートをお願いしたく、ここに集まっていただきました。――といっても、後期はいろいろと行事が目白押しで授業なんてほとんどないけどね」
『留学生として』――、胸の中で跳ねたなにかが緊張をもたらした。もう縁がないと思った人が同じ空間で、しかも学園生活を共に送ることになるなどと思ってもみなかった。
「まぁ、素敵なお話ね。でもなぜ期間が違うのかしら」
「蒼家から言い渡された期限が二週間だからです。――学内の調査をフィフス様が、学外を左翼様が担当します。調査の進捗状況によって多少前後はするかもですが、それくらいであれば何かしらの成果は上げられるだろうと」
ガレリオが補足のために説明する。確実に彼らならばやり遂げてくれるだろうという信頼が言葉の端々から伝わる。――その力強さに隠されるように、約二名が表情を曇らせていることに気づかなかった。
「我々も微力ながら調査に協力しますし、もし足りないものがあればあの二人か我々からも皆さんになにかお願いすることがあるかもしれません。その時はご協力いただければ僥倖です」
「……そんな短期間でも、もし問題が解決できるならこれ以上嬉しいことはない。どのようなことでも協力しよう」
弱々しく笑う叔父のヨアヒムと、力強いガレリオの様子に、解決の糸口さえ見つけられなかった事件になにか解決できそうな予感までしてくる。先ほど目が合ったときのフィフスの、いや、クリスの自信に満ちた笑みを思い出す。
「…………あの、ヴァイス様、……本当にあの子を学校に入れるつもりですか?」
恐る恐るといった声のミラが、顔の横で手を上げた。
「うん? フィフスくんのことかな? 学内の様子をさりげなく調べるなら、学生になった方がいろいろと便利でしょ。そうしてくれって陛下からも聞いてるけど、なにか心配事かな?」
「……そうですね、少し心配です。わざわざ殿下たちにこのお話をしたということは、どなたかと授業をご一緒させていただくということでしょうか?」
「お~鋭いねぇ。そこをディアス殿下とコレット姫にお願いしようかと考えてたよ。みんな同い年だし、同学年の方が他の子とも仲良くなれていいかなって」
なにか悪いものでも見たかのように、ミラの表情が苦悶の表情に変わった。
「いえ、確かにあの子なら早々に解決できるでしょうけど……」
「ふむ。なにか不安なことがあるなら、早めに共有してくれるとありがたいね、ミラくん」
「フィフスが――、学園の秩序を乱さないか気がかりなんです」
リタと紹介のあった女性がその場で立ち上がった。――大人っぽい印象から年上かと思っていたが、どうやら同い年のようだ。ミラよりも黒味の強い髪をハーフアップでまとめており、きりっとした眼が意志の強さを覗かせている。先ほどフィフスの腕を引っぱっていた人物でもあった。
「悪い子ではないんですが、……殿下たちにご迷惑をおかけしてしまうんじゃないかと」
「……秩序と調和の神の国の人間が、秩序を乱すの?」
レティシアが驚きから大きく目を見開き、面白いものでも見るようにリタの言葉の続きを待っていた。なんと言葉を紡ごうか悩んでいるのか、彼女から続きが出ないことを察したのか、後ろに立つガレリオが補足した。
「なんて言いますか、こちらの女性って積極的ですよね。――あの人そういうのに慣れてないから、始終絡まれてて。お二人が追い払ったり庇ったり注意したりと、振り回されてて大変だったというか」
呆れた笑いと共に説明するガレリオに、思ったより深刻な内容でなかったことに安堵する。
「こっちは女性に逆恨みされるし、私たちを庇うからより一層泥沼化して大変だったです……。しまいに手が付けられないと思ったのか、絡んできた女性を片っ端から縛っては警備兵に突き出すから毎回説明するのが大変だったというか……。使者の方がいなかったら、ここまでたどり着けなかったかもしれません」
道中の苦労を思い出しているのか、こめかみを抑え眉間を寄せているミラ。
「それだけならいいんですけど、悪目立ちすぎて因縁までつけられる始末……。腕の立ちそうな相手なら喜んで喧嘩しに行くし、詐欺師に絡まれるわ、近くで強盗なり野盗が出れば捕まえに行くしと、優先順位も関係なしになにかと首を突っ込んでしまう性格なので、ここで規則正しく共同生活が送れるか……」
「なるほど。いつも通りだね」
にこにこと変わらぬ様子のヴァイスにリタが脱力した。
「……絡まれやすいということ以外は、腕は立つ人物だということがよくわかる話だな。正義感が強いのかね」
話を優しくかみ砕いた叔父が自分の短いあごひげを触りながら、先ほど会ったフィフスという人物について理解を深めている。
「真面目な性格なので、つい相手してしまうんですよね」
ガレリオが苦笑しながら言った。――普段の立場であれば、神の代行者たる『方天』になど軽率に近寄る者もなく、このような雑事に悩むこともないのかもしれない。立場や身分を隠すということは、思っている以上に面倒に巻き込まれるものなのだろう。それでも伏せて欲しいと頼んでいた姿を思い出すと、道中の苦労などあの人には取るに足らないものだったのだろうか。
「なんだか血の気も多い方なのね。――ふふっ、コレットとディアスに荷が重そうなら私が引き受けてもよろしくてよ」
レティシアが面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりに申し出た。
「うっ、それもやめた方がよいかと……。デリカシーがないので、それで女性ともめがちというか……。なんでも思ったことを口にするので、それがまた混乱を生むというか……」
「そうなの? でもどの程度かお話してみないとわからないし、ね? それにコレットとは気が合わないタイプでしょうし」
レティシアが隣に座る小柄な妹をちらりと見ると、どうやらその通りのようで、不機嫌オーラが言葉にせずとも伝わってくる。――同じクラスになどなりたくないと言外に伝わってくる。
「――それなら僕と一緒のクラスになるのはどうでしょうか?」
自分の隣に座る小さな弟がすっと間を割った。
「一年クラスではフィフスはつまらないかもしれませんが、男の僕と一緒にいる方が女性問題もないですし、不安が少ないのではないでしょうか。――それに兄さまを助けてくださった方です。今のお話を聞いてても悪い方ではなさそうなので、ぜひお仲良くしたいです」
理路整然と意見を述べるエミリオに向かいでリタとミラが息をのんでいた。末弟から後光でも見えているかのような、全ての苦しみから解消されたかのような表情へと徐々に変わっていき、「……なんと慈悲深い」「神はここに……?」などと小さなつぶやきが聞こえた気がする。
堂々たる振る舞いの小さな弟に、姉のアストリッドが誇らしげに微笑んでいた。
「ディアス殿下はどう? それでいい?」
末弟は小さいながらもしっかりしており、自慢の弟でもある。だが、さすがにこのような場面で、小さな弟に任せるのはこれ以上情けないところを見せるだけになる。
「……エミリオの申し出はありがたいが、フィフスは俺の命の恩人だ。弟に大事なことを任せるわけにはいかない。責任をもって引き受けよう」
弟を見ると少し驚いていたものの、すぐに尊敬する兄を見つめる眼差しへと変わった。
「コレットが苦手なタイプなら、無理して付き合わなくていい。彼のことは俺が預かるから」
ディアスの申し出が意外だったのか、コレットが大きく困惑した表情を浮かべていた。
「……そうか。少し話が脱線してしまったが、最初の予定通りディアスと同じ7年クラスへ皆さんには編入していただこう。――コレットもそれでいいか?」
自分の父に確認を促されて、承服しかねる様子はありつつもこくんと頷き同意を示した。さすがにここでわがままを言うほど彼女も子供ではない。
「他に言いたいことがある人はいるかな? ――特になければお開きにしましょうか」
用は済んだ。さすがに疲れた、今度こそ部屋に帰ろうと一番に席を立った。
姉弟含め五人で揃って並んで座ると、先ほどフィフスと親し気に話していた女性たちと、二人よりかは少し大人びた女性を含めた三人も机を挟んだ向かい側に並び腰掛けた。彼女らの後ろにガレリオと名乗った青年が後ろ手を組み立ち、聖国の使者と姉弟たちの間を仲介するため中央に叔父が腰掛けると、その後ろにヴァイスが立った。
「どうぞ皆さんお楽に。――今回聖国からお越しいただいた玄家のミラ嬢、リタ嬢、エリーチェ嬢。後ろに立っているのはガレリオ・ブランディくん、東方天でもある僕の姪っこクリスくんの直属の部下で、東方軍第三師団を率いている隊長さんだ」
それぞれが名を呼ばれ軽く会釈をした。
「そしてこちらが現王グライリヒ陛下の御子である第一王女のアストリッド姫、第二王子のディアス殿下、第三王子のエミリオ殿下。あとこちらにおわすヨアヒム王弟殿下のご息女のレティシア姫、コレット姫。――何かと顔を合わせることもあるだろうから、どうかみんな仲良くね」
「遠路はるばる聖国よりお越しくださりありがとうございます。無事に――とはあまり言えないかもしれないが、皆さんをお迎えできたことを喜ばしく思う」
「我々も来るべき締結式に向けて、このような素晴らしい機会を設けていただき感謝しております、ヨアヒム王弟殿下。また、皆さまには何かとお力添えいただければ幸いです」
ミラと紹介されていた女性がどうやら代表のようで、叔父と和やかに挨拶をしている。こげ茶色の髪色とセピア色の瞳を持っており、大人の女性といった落ち着きと、銀縁の線の細い眼鏡が知的な印象を強めている。向こうの正装なのか三人とも縦襟の、刺繍がふんだんにあしらわれたダークカラーのシンプルなロングドレスに身を包んでいる。いとこたちに比べると質素で露出が少ないデザインだ。
「さて、先ほどの二人――フィフスくんと左翼くんですが、彼らは玄家の皆さんが締結式関係のお仕事をするなら、表向きは警備チェックを主に担当してもらいます」
「表向き……?」
姉のアストリッドがいぶかし気に尋ねた。またここでも裏表があるのだろうか。
「青龍商会という機関は個人の依頼を受けて、個人で対処できない物事を解決することを生業にしているんだ。ざっくり言うと傭兵業みたいなものだね。――大小問わずいろんな相談を受けているんだけど、ラウルスに関する相談があると兄のセーレ経由で陛下の耳に入るんだ」
セーレはクリスくんの父親だからね、と軽い説明を入れるが、ここにいる者たちにとって既に周知のことだった。ただ、聖国まで依頼がわざわざ届くほど困っている者がいるという事実に、一同神妙な面持ちになる。心優しい叔父の表情も始終曇りっぱなしだ。
「別に王家と青龍商会が何か契約しているとかじゃなく、クリスくんが情報をくれるんだ。そういう問い合わせを受けても蒼家は手が出せないからね。必要のない限り四家の人間はラウルスに入国することを制限しているみたいなんだ」
四家とは四神を奉る一族の総称だ。朱家、蒼家、白家、玄家と四つの家のことを示している。聖国でも特別な意味を持つ一族だからなのか、それとも過去大戦に関わってきた一族だからかわからないが、両国間が平和となった今でも、この国で見かけることはまずない。
黒以外の見た目を持つ者も、王都など聖国と行き来しやすい場所であれば見かけるかともあるが、この地では会場にいた色とりどりな特徴を持つ聖国の兵士たちが物珍しい部類に入るだろう。
「以前からピオニールについての依頼が届いているそうで、――連続学徒失踪事件について君たちも耳にしたことはあるよね?」
思わぬ事件名をここで聞くことになり、誰かの息をのむ音が聞こえてきた。
連続学徒失踪事件――ここ一、二年の内で、下流の学生が何人も行方不明になっている事件だ。被害者は10人近くにのぼり、誰もが何の痕跡も残さずこの学園から消えてしまった。
「我々も全力を尽くして調査しているが、残念ながらいまだ何の痕跡も見つかっていない。正直藁でもつかみたい気分だ……。そこで、国王陛下が今回の締結式に合わせて玄家の者が来ることに合わせ、内密に調査をしてもらうよう青龍商会に頼んだそうだ」
為す術なく学生を危機にさらしていることが耐えられない、といった心痛な思いが叔父からにじみ出ていた。
「ちょうどいいと言ったら不謹慎だけど、さっきの追走劇を見て分かったでしょ。彼らは人探しのプロだ。それも尋常じゃない速さで駆け付ける、頼もしい子たちだよ」
フィフスが二、三キロも離れた場所から駆けつけてくれた。――しかもその犯人も逃さまいと情報を持ち帰り、犯人確保に大いに貢献してくれたことを考えれば、誰もが納得だろう。
「あの二人のお仕事内容は分かったけれど、それは内密にする必要があることなのかしら? 大々的に探していただいた方が情報も集まりやすいのでは?」
「大々的に調べてうまくいかなかったので、内密に調べてもらうんですよアストリッド様。――じゃないとこの街の警備を担当している者たちから反発があるでしょ?」
「……さっき、だいぶ挑発していなかったかしら」
「ふふっ、多分ガレリオくんたちが蔑ろにされて怒ったんじゃないかな。あとはまぁ、牽制かもね。きちんと仕事しろって」
「確かにそうね。――彼らが早く向かってくれればディアスもこんなに帰りが遅くならなかったはずよ。おばあ様にもあんなに怒られずに済んだかもしれないのに」
何があったかは分からないが、理不尽を思い出したようで姉は怒りながら、よしよしと隣に座る大きな弟の背を撫でた。少し居たたまれない気持ちになりつつも、姉にされるがままに任せた。
「それでヴァイス卿、私たちはは何を協力すればよいの? 何か頼みがあるからこのような話をしているのでしょう?」
「さすがレティシア姫。できるだけ学園になじんでもらうため、なるべく悟られないようにするために――こちらにいるリタ嬢、エリーチェ嬢は月末まで、フィフスくんは二週間程、留学生として受け入れることになりました。その彼らのサポートをお願いしたく、ここに集まっていただきました。――といっても、後期はいろいろと行事が目白押しで授業なんてほとんどないけどね」
『留学生として』――、胸の中で跳ねたなにかが緊張をもたらした。もう縁がないと思った人が同じ空間で、しかも学園生活を共に送ることになるなどと思ってもみなかった。
「まぁ、素敵なお話ね。でもなぜ期間が違うのかしら」
「蒼家から言い渡された期限が二週間だからです。――学内の調査をフィフス様が、学外を左翼様が担当します。調査の進捗状況によって多少前後はするかもですが、それくらいであれば何かしらの成果は上げられるだろうと」
ガレリオが補足のために説明する。確実に彼らならばやり遂げてくれるだろうという信頼が言葉の端々から伝わる。――その力強さに隠されるように、約二名が表情を曇らせていることに気づかなかった。
「我々も微力ながら調査に協力しますし、もし足りないものがあればあの二人か我々からも皆さんになにかお願いすることがあるかもしれません。その時はご協力いただければ僥倖です」
「……そんな短期間でも、もし問題が解決できるならこれ以上嬉しいことはない。どのようなことでも協力しよう」
弱々しく笑う叔父のヨアヒムと、力強いガレリオの様子に、解決の糸口さえ見つけられなかった事件になにか解決できそうな予感までしてくる。先ほど目が合ったときのフィフスの、いや、クリスの自信に満ちた笑みを思い出す。
「…………あの、ヴァイス様、……本当にあの子を学校に入れるつもりですか?」
恐る恐るといった声のミラが、顔の横で手を上げた。
「うん? フィフスくんのことかな? 学内の様子をさりげなく調べるなら、学生になった方がいろいろと便利でしょ。そうしてくれって陛下からも聞いてるけど、なにか心配事かな?」
「……そうですね、少し心配です。わざわざ殿下たちにこのお話をしたということは、どなたかと授業をご一緒させていただくということでしょうか?」
「お~鋭いねぇ。そこをディアス殿下とコレット姫にお願いしようかと考えてたよ。みんな同い年だし、同学年の方が他の子とも仲良くなれていいかなって」
なにか悪いものでも見たかのように、ミラの表情が苦悶の表情に変わった。
「いえ、確かにあの子なら早々に解決できるでしょうけど……」
「ふむ。なにか不安なことがあるなら、早めに共有してくれるとありがたいね、ミラくん」
「フィフスが――、学園の秩序を乱さないか気がかりなんです」
リタと紹介のあった女性がその場で立ち上がった。――大人っぽい印象から年上かと思っていたが、どうやら同い年のようだ。ミラよりも黒味の強い髪をハーフアップでまとめており、きりっとした眼が意志の強さを覗かせている。先ほどフィフスの腕を引っぱっていた人物でもあった。
「悪い子ではないんですが、……殿下たちにご迷惑をおかけしてしまうんじゃないかと」
「……秩序と調和の神の国の人間が、秩序を乱すの?」
レティシアが驚きから大きく目を見開き、面白いものでも見るようにリタの言葉の続きを待っていた。なんと言葉を紡ごうか悩んでいるのか、彼女から続きが出ないことを察したのか、後ろに立つガレリオが補足した。
「なんて言いますか、こちらの女性って積極的ですよね。――あの人そういうのに慣れてないから、始終絡まれてて。お二人が追い払ったり庇ったり注意したりと、振り回されてて大変だったというか」
呆れた笑いと共に説明するガレリオに、思ったより深刻な内容でなかったことに安堵する。
「こっちは女性に逆恨みされるし、私たちを庇うからより一層泥沼化して大変だったです……。しまいに手が付けられないと思ったのか、絡んできた女性を片っ端から縛っては警備兵に突き出すから毎回説明するのが大変だったというか……。使者の方がいなかったら、ここまでたどり着けなかったかもしれません」
道中の苦労を思い出しているのか、こめかみを抑え眉間を寄せているミラ。
「それだけならいいんですけど、悪目立ちすぎて因縁までつけられる始末……。腕の立ちそうな相手なら喜んで喧嘩しに行くし、詐欺師に絡まれるわ、近くで強盗なり野盗が出れば捕まえに行くしと、優先順位も関係なしになにかと首を突っ込んでしまう性格なので、ここで規則正しく共同生活が送れるか……」
「なるほど。いつも通りだね」
にこにこと変わらぬ様子のヴァイスにリタが脱力した。
「……絡まれやすいということ以外は、腕は立つ人物だということがよくわかる話だな。正義感が強いのかね」
話を優しくかみ砕いた叔父が自分の短いあごひげを触りながら、先ほど会ったフィフスという人物について理解を深めている。
「真面目な性格なので、つい相手してしまうんですよね」
ガレリオが苦笑しながら言った。――普段の立場であれば、神の代行者たる『方天』になど軽率に近寄る者もなく、このような雑事に悩むこともないのかもしれない。立場や身分を隠すということは、思っている以上に面倒に巻き込まれるものなのだろう。それでも伏せて欲しいと頼んでいた姿を思い出すと、道中の苦労などあの人には取るに足らないものだったのだろうか。
「なんだか血の気も多い方なのね。――ふふっ、コレットとディアスに荷が重そうなら私が引き受けてもよろしくてよ」
レティシアが面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりに申し出た。
「うっ、それもやめた方がよいかと……。デリカシーがないので、それで女性ともめがちというか……。なんでも思ったことを口にするので、それがまた混乱を生むというか……」
「そうなの? でもどの程度かお話してみないとわからないし、ね? それにコレットとは気が合わないタイプでしょうし」
レティシアが隣に座る小柄な妹をちらりと見ると、どうやらその通りのようで、不機嫌オーラが言葉にせずとも伝わってくる。――同じクラスになどなりたくないと言外に伝わってくる。
「――それなら僕と一緒のクラスになるのはどうでしょうか?」
自分の隣に座る小さな弟がすっと間を割った。
「一年クラスではフィフスはつまらないかもしれませんが、男の僕と一緒にいる方が女性問題もないですし、不安が少ないのではないでしょうか。――それに兄さまを助けてくださった方です。今のお話を聞いてても悪い方ではなさそうなので、ぜひお仲良くしたいです」
理路整然と意見を述べるエミリオに向かいでリタとミラが息をのんでいた。末弟から後光でも見えているかのような、全ての苦しみから解消されたかのような表情へと徐々に変わっていき、「……なんと慈悲深い」「神はここに……?」などと小さなつぶやきが聞こえた気がする。
堂々たる振る舞いの小さな弟に、姉のアストリッドが誇らしげに微笑んでいた。
「ディアス殿下はどう? それでいい?」
末弟は小さいながらもしっかりしており、自慢の弟でもある。だが、さすがにこのような場面で、小さな弟に任せるのはこれ以上情けないところを見せるだけになる。
「……エミリオの申し出はありがたいが、フィフスは俺の命の恩人だ。弟に大事なことを任せるわけにはいかない。責任をもって引き受けよう」
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「コレットが苦手なタイプなら、無理して付き合わなくていい。彼のことは俺が預かるから」
ディアスの申し出が意外だったのか、コレットが大きく困惑した表情を浮かべていた。
「……そうか。少し話が脱線してしまったが、最初の予定通りディアスと同じ7年クラスへ皆さんには編入していただこう。――コレットもそれでいいか?」
自分の父に確認を促されて、承服しかねる様子はありつつもこくんと頷き同意を示した。さすがにここでわがままを言うほど彼女も子供ではない。
「他に言いたいことがある人はいるかな? ――特になければお開きにしましょうか」
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でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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