11 / 83
10.『再会』と『新来』⑤
しおりを挟む
フィフスが前に進むのに合わせて、見慣れない人影がちらほらと彼の側に集まる。彼がこれから何をするか、わかっているのだろう。てきぱきとスペースを確保し、フィフスのトランクから現れた金糸で細かい文様があしらわれた白い布を持出し広げていた。
「ディアス、大丈夫?」
準備の様子に見入っていると、いつの間にか傍に人がいた。声をかけてきたのは同い年の従妹にあたるコレットだ。フリルがふんだんにあしらわれた可憐なドレスに身を包み、線の細い眉尻が精いっぱい下がっている。
「なかなか帰ってこないから心配してたのよ……。まさかそんな大変な目にあってたなんて……」
愛らしい大きな瞳に涙が溢れそうになっており、見ているだけで罪悪感でいっぱいになる。そばにいた弟もコレットの言葉を聞き、不安が込み上げたのかもう一度抱き着いてきた。
「本当に申し訳ない……」
「まーた謝ってばかりなんだから。でも本当に無事でよかった」
困ったような笑みを浮かべた姉も傍に現れ、彼女の侍女二人が飲み物と椅子を持ってきてくれた。ちょうどこの場にいる人数分用意してくれたようだ。促されるままに座り、
「その、軽率な行動で申し訳ないとしか言えず……」
「ただいまって言えばいいのよ。――それにいつもよりもすっきりした顔してるけど、少しはいい気分転換になったのかしら?」
「……そう、ですか?」
自覚がないことを言われ面食らう。姉の温和な笑顔に釣られ、不安げにしていた弟も従妹もしげしげと顔を覗き込んできて、気恥ずかしさから居心地が非常によろしくない。
その様子にくすりと笑われ、目線が泳いだ。――何気なく中央を見ると、敷かれた布の上に立ち、手にした水の入ったグラスを大きく傾け、中身を落としているフィフスの姿が目に入った。彼の奇行に周囲から声があがり、また衆目の視線を集める。
零された透明な液体は床に落ちることなく宙にとどまり、そのまま膨張していく。明らかに彼が零した液体よりも多い質量の何かが、敷かれた布の上でどんどん広がっていった。――広がりに合わせて彼は後ずさると、液体だったものは意思を持っているかの如く、何かを形作ろうと蠢めき、虚空を求めて広がっていく。
得体のしれないものに恐怖で短く声を上げる者もいたが、その形が明らかになると次第に別の声となってざわめきが戻ってくる。
「これって、もしかして――、」
無色透明だが細かなディテールにシャンデリアの眩い光が反射しきらきらと輝いている。ここにいる誰もが見たことのある形だった。
「『学園都市』ですか!」
慣れ親しんだものが目の前に現れたことが嬉しいのか、近くにいたエミリオがたまらず近くに駆け寄った。
弟の到来に彼が気付くと、彼の目線の高さにあった都市を形どったそれを、手をかざし下げるような動作をした。すると宙に浮かぶそれが手に合わせて動き、弟の目にも届く位置に動かしてくれたようだった。
「ただの水だから触れても問題ない。」
好奇心でいっぱいになったエミリオにそう伝えると、たまらず手を伸ばしてどうなっているのか確認していた。
弟とフィフスが並んでいる。――見た目は違うが、昔の友人だった人がここにいるということがいまだ信じられず、ディアスも立ち上がり傍で確認しようと移動した。
弟たちの様子に釣られ、姉もフィフスのそばへとやって来た。――姉も末弟と同じよう手を伸ばし、感触を楽しんでいるようだ。好奇心旺盛な姉弟の様子に、危険なものではないと分かったのか、少しずつ人が無色透明なピオニールの周りへと集まって来た。
「さて、まずは王子を見つけた場所だが、――ここだ。」
言いながら片手を後ろに伸ばすと、後ろに控えていた左翼が何かを手渡し、顔も視線も向けることなく受け取っていた。それを水でできた学園都市の上にかざすと、手のひらから何かが零れ落ちる。――鮮やかな赤色のインクだろうか――それが四つの粒になって、己の在るべき場所に戻ろうとするかのように、とある場所に向かう。無色透明の都市と交じり合うことなく、それは赤く丸い形となって、ある場所に留まった。
「え? なんでそこに……」
誰かのつぶやきが聞こえた。
城壁の側ということくらいしか分からないが、恐らくここに来る前にいた場所なのだろう。少し嫌な記憶が少し蘇り、寒気が走る。
「我々が到着したころ、――16時を回ったくらいだったか。このあたりで人が襲われていることに気が付いた。」
「待て待て! なんでわかるんだ!? 到着してすぐに、しかもそんな離れた場所でだと――? 人が襲われているなんてお前たちが計略でもしてなきゃ分からないだろう……!」
また先ほども聞いた金切り声が割り込んできた。その男は小柄で小太りの男、ジュール・フォン・ハイデルベルク。――クライゼル警邏隊という街の警備を担っている組織があり、そこの総監督をしている男だ。160センチ半ばほどで、赤色を基調とした派手な衣装に身を包んでいるが、彼も学生で、ディアスの二つ上の学年に在籍していたはずだ。
彼が何に対し異議を唱えているのかわからなったが、あたりを見回すととジュールと同じように困惑している様子だ。『そんなに離れた場所』とは、どういう意味だろう――。
「あの、どうしてわかったんですか? そこに、兄さまがいるって……」
弟の素朴な疑問に皆が耳を傾けている。
「北の正門からずっと離れていますよね? そんな遠い場所で、なにが起こっているかなんて、わかるものでしょうか」
周囲がざわめいていた理由がわかり、その異様さにぞっとした。改めて目の前に広がる学園都市の全体像を見ると、学園の西部に位置する廃墟群に自分たちはいたらしい。この学園に外から出入りするには基本的に北に位置する正門のみ。そこから直線でも二、三キロは離れていただろうか。――来たばかりというなら、なぜわかったのだろうか。
「誰がいるなんて知らなかった。分かったのはこのあたりで襲われている者が二名いるということだけだ。」
「だ、だから何故それがわかったと聞いているんだッ!」
事も無げに言うフィフスにイライラしてる様子のジュールが『学園都市』を挟んだ対岸にいる。近くには女王と叔父の姿があり、事の成り行きを見ているようだ。
「教えてやろう――」
人差し指を天に向け、ジュールを見据えている。
「神は遍く万象を見ており、神命によって我々が差し向けられた。ただそれだけだ。――逆に尋ねるが、こちらの助力に応じず、事実を蔑ろにする権利がなぜお前にあるんだ。お前は神か、それとも王なのか? ――なぁ、ジュール・フォン・ハイデルベルク。」
「な、なぜ、俺の……」
「クライゼル警邏隊の責任者でありながら、市中の警備を疎かにし、下級の者を虐げ、救うべき人間を選別していることか? ――それとも、もっと別のことだろうか?」
ずっと落ち着いた声色だが、厳しい眼差しがジュールの腹の底まで見通しているのか彼が身じろいだ。
「それで――、ディアスを襲ったやつらはどこにいるんだ小童」
今の話に関心がないのか、話題に触れることなく女王が顎で続きを促した。
「この赤い点が王子たちを襲った連中だ。テオ、今の時間まで進めてくれ。」
最初自分たちの姿かと思っていたそれは、襲撃者のしるしだったようだ。狼男に変身したものはひとりだったが、周りにもまだ人がいたとは――。相手の用意周到な様子に、あの場から軽率に立ち去らなくてよかったと心底思った。
東方軍の者だろうか、名を呼ばれたであろうその人は懐中時計を持っており、手中で時計の針を動かしはじめた。すると赤い点が移動を始める。
逃走経路、というものだろうか。廃墟群を通り抜け、途中で止まったり進んだりを繰り返し、ある場所に到達した。
「校内にいるのか――?」
方々で驚愕した様子の声が上がる中、叔父の声がひときわ響く。
「これじゃ見ずらいな。拡大してくれ。――誰かこの場所がわかるか?」
フィフスの指示にまた近くにいる人物が動くと、校舎が拡大された。――学園が拡大されるも、下に敷かれた布以上のサイズにはならないようで、不要とされた部分は枠外から消え、赤い点が示すあたりが大きく人々の前に現れる。
「今すぐ出られるものは準備しろ」
場所を確認した女王の命が飛ぶ。いまこの会場には近しい身内と、数名の貴族と警備関係者が集っており、自分の役割を命じられた兵たちが隊列を組もうと集まっている。
「ここは、三階の学生食堂――? まさか犯人がここにいるのか……?」
叔父が独り言ちるも、誰もその声を拾えずにいた。まさか王子を襲った連中があろうことか学園内、しかも学生が多くいる場所にしれっと混じりこんでいたと分かり、会場に動揺が走っている。
「坊ちゃん、目印つけてるんでしょ? なら俺らも出張んなきゃっすよね。――誰か行けるやつはいるか?」
「頼んだ。」
ガレリオが自分の部下だろうか、に声をかけると四名が前に出た。彼らは一様に胸元から小さなケースを取り出した。中には眼鏡が入っており、慣れた手つきでかけていた。
「陛下、犯人には精霊術で目印がつけれられており、彼らならば見分けがつきます。――なのでご一緒させていただけないでしょうか」
恭しく進言するガレリオにうなずきで許可が与えられると、またひどい金切り声があがった。
「この者たちの妄言を信じるのですか?! も、もしかしたらでっち上げかも――」
「でっち上げであれば、小童どもを締め上げるだけだ。今は疑わしき者に事実を確認する。――歓迎会は仕舞だ。我ら王家に弓引く者を決して許すな!」
容赦のない号令と共に、兵士たちは部屋を後にした。
「ジュール・フォン・ハイデルベルク。貴様等の今回の怠慢について、後程ヨアヒムに報告書を提出するように。用がなければ下がれ」
取り付く島をなくした警邏隊の責任者は、虚空を何とか掴もうとするも言葉が出ないようで、忌々し気に退出した。彼に続いて同じ警邏隊に所属する者たちも同様に下がった。――パーティ会場は一気に寂しい場所へと転じてしまった。
とはいえ、まだ水できた学園都市の周りには、連絡を取り合うために残っている者と東方軍の人間がちらほらおり、犯人を逃がすまいと監視を続けていた。
「ディアス、大丈夫?」
準備の様子に見入っていると、いつの間にか傍に人がいた。声をかけてきたのは同い年の従妹にあたるコレットだ。フリルがふんだんにあしらわれた可憐なドレスに身を包み、線の細い眉尻が精いっぱい下がっている。
「なかなか帰ってこないから心配してたのよ……。まさかそんな大変な目にあってたなんて……」
愛らしい大きな瞳に涙が溢れそうになっており、見ているだけで罪悪感でいっぱいになる。そばにいた弟もコレットの言葉を聞き、不安が込み上げたのかもう一度抱き着いてきた。
「本当に申し訳ない……」
「まーた謝ってばかりなんだから。でも本当に無事でよかった」
困ったような笑みを浮かべた姉も傍に現れ、彼女の侍女二人が飲み物と椅子を持ってきてくれた。ちょうどこの場にいる人数分用意してくれたようだ。促されるままに座り、
「その、軽率な行動で申し訳ないとしか言えず……」
「ただいまって言えばいいのよ。――それにいつもよりもすっきりした顔してるけど、少しはいい気分転換になったのかしら?」
「……そう、ですか?」
自覚がないことを言われ面食らう。姉の温和な笑顔に釣られ、不安げにしていた弟も従妹もしげしげと顔を覗き込んできて、気恥ずかしさから居心地が非常によろしくない。
その様子にくすりと笑われ、目線が泳いだ。――何気なく中央を見ると、敷かれた布の上に立ち、手にした水の入ったグラスを大きく傾け、中身を落としているフィフスの姿が目に入った。彼の奇行に周囲から声があがり、また衆目の視線を集める。
零された透明な液体は床に落ちることなく宙にとどまり、そのまま膨張していく。明らかに彼が零した液体よりも多い質量の何かが、敷かれた布の上でどんどん広がっていった。――広がりに合わせて彼は後ずさると、液体だったものは意思を持っているかの如く、何かを形作ろうと蠢めき、虚空を求めて広がっていく。
得体のしれないものに恐怖で短く声を上げる者もいたが、その形が明らかになると次第に別の声となってざわめきが戻ってくる。
「これって、もしかして――、」
無色透明だが細かなディテールにシャンデリアの眩い光が反射しきらきらと輝いている。ここにいる誰もが見たことのある形だった。
「『学園都市』ですか!」
慣れ親しんだものが目の前に現れたことが嬉しいのか、近くにいたエミリオがたまらず近くに駆け寄った。
弟の到来に彼が気付くと、彼の目線の高さにあった都市を形どったそれを、手をかざし下げるような動作をした。すると宙に浮かぶそれが手に合わせて動き、弟の目にも届く位置に動かしてくれたようだった。
「ただの水だから触れても問題ない。」
好奇心でいっぱいになったエミリオにそう伝えると、たまらず手を伸ばしてどうなっているのか確認していた。
弟とフィフスが並んでいる。――見た目は違うが、昔の友人だった人がここにいるということがいまだ信じられず、ディアスも立ち上がり傍で確認しようと移動した。
弟たちの様子に釣られ、姉もフィフスのそばへとやって来た。――姉も末弟と同じよう手を伸ばし、感触を楽しんでいるようだ。好奇心旺盛な姉弟の様子に、危険なものではないと分かったのか、少しずつ人が無色透明なピオニールの周りへと集まって来た。
「さて、まずは王子を見つけた場所だが、――ここだ。」
言いながら片手を後ろに伸ばすと、後ろに控えていた左翼が何かを手渡し、顔も視線も向けることなく受け取っていた。それを水でできた学園都市の上にかざすと、手のひらから何かが零れ落ちる。――鮮やかな赤色のインクだろうか――それが四つの粒になって、己の在るべき場所に戻ろうとするかのように、とある場所に向かう。無色透明の都市と交じり合うことなく、それは赤く丸い形となって、ある場所に留まった。
「え? なんでそこに……」
誰かのつぶやきが聞こえた。
城壁の側ということくらいしか分からないが、恐らくここに来る前にいた場所なのだろう。少し嫌な記憶が少し蘇り、寒気が走る。
「我々が到着したころ、――16時を回ったくらいだったか。このあたりで人が襲われていることに気が付いた。」
「待て待て! なんでわかるんだ!? 到着してすぐに、しかもそんな離れた場所でだと――? 人が襲われているなんてお前たちが計略でもしてなきゃ分からないだろう……!」
また先ほども聞いた金切り声が割り込んできた。その男は小柄で小太りの男、ジュール・フォン・ハイデルベルク。――クライゼル警邏隊という街の警備を担っている組織があり、そこの総監督をしている男だ。160センチ半ばほどで、赤色を基調とした派手な衣装に身を包んでいるが、彼も学生で、ディアスの二つ上の学年に在籍していたはずだ。
彼が何に対し異議を唱えているのかわからなったが、あたりを見回すととジュールと同じように困惑している様子だ。『そんなに離れた場所』とは、どういう意味だろう――。
「あの、どうしてわかったんですか? そこに、兄さまがいるって……」
弟の素朴な疑問に皆が耳を傾けている。
「北の正門からずっと離れていますよね? そんな遠い場所で、なにが起こっているかなんて、わかるものでしょうか」
周囲がざわめいていた理由がわかり、その異様さにぞっとした。改めて目の前に広がる学園都市の全体像を見ると、学園の西部に位置する廃墟群に自分たちはいたらしい。この学園に外から出入りするには基本的に北に位置する正門のみ。そこから直線でも二、三キロは離れていただろうか。――来たばかりというなら、なぜわかったのだろうか。
「誰がいるなんて知らなかった。分かったのはこのあたりで襲われている者が二名いるということだけだ。」
「だ、だから何故それがわかったと聞いているんだッ!」
事も無げに言うフィフスにイライラしてる様子のジュールが『学園都市』を挟んだ対岸にいる。近くには女王と叔父の姿があり、事の成り行きを見ているようだ。
「教えてやろう――」
人差し指を天に向け、ジュールを見据えている。
「神は遍く万象を見ており、神命によって我々が差し向けられた。ただそれだけだ。――逆に尋ねるが、こちらの助力に応じず、事実を蔑ろにする権利がなぜお前にあるんだ。お前は神か、それとも王なのか? ――なぁ、ジュール・フォン・ハイデルベルク。」
「な、なぜ、俺の……」
「クライゼル警邏隊の責任者でありながら、市中の警備を疎かにし、下級の者を虐げ、救うべき人間を選別していることか? ――それとも、もっと別のことだろうか?」
ずっと落ち着いた声色だが、厳しい眼差しがジュールの腹の底まで見通しているのか彼が身じろいだ。
「それで――、ディアスを襲ったやつらはどこにいるんだ小童」
今の話に関心がないのか、話題に触れることなく女王が顎で続きを促した。
「この赤い点が王子たちを襲った連中だ。テオ、今の時間まで進めてくれ。」
最初自分たちの姿かと思っていたそれは、襲撃者のしるしだったようだ。狼男に変身したものはひとりだったが、周りにもまだ人がいたとは――。相手の用意周到な様子に、あの場から軽率に立ち去らなくてよかったと心底思った。
東方軍の者だろうか、名を呼ばれたであろうその人は懐中時計を持っており、手中で時計の針を動かしはじめた。すると赤い点が移動を始める。
逃走経路、というものだろうか。廃墟群を通り抜け、途中で止まったり進んだりを繰り返し、ある場所に到達した。
「校内にいるのか――?」
方々で驚愕した様子の声が上がる中、叔父の声がひときわ響く。
「これじゃ見ずらいな。拡大してくれ。――誰かこの場所がわかるか?」
フィフスの指示にまた近くにいる人物が動くと、校舎が拡大された。――学園が拡大されるも、下に敷かれた布以上のサイズにはならないようで、不要とされた部分は枠外から消え、赤い点が示すあたりが大きく人々の前に現れる。
「今すぐ出られるものは準備しろ」
場所を確認した女王の命が飛ぶ。いまこの会場には近しい身内と、数名の貴族と警備関係者が集っており、自分の役割を命じられた兵たちが隊列を組もうと集まっている。
「ここは、三階の学生食堂――? まさか犯人がここにいるのか……?」
叔父が独り言ちるも、誰もその声を拾えずにいた。まさか王子を襲った連中があろうことか学園内、しかも学生が多くいる場所にしれっと混じりこんでいたと分かり、会場に動揺が走っている。
「坊ちゃん、目印つけてるんでしょ? なら俺らも出張んなきゃっすよね。――誰か行けるやつはいるか?」
「頼んだ。」
ガレリオが自分の部下だろうか、に声をかけると四名が前に出た。彼らは一様に胸元から小さなケースを取り出した。中には眼鏡が入っており、慣れた手つきでかけていた。
「陛下、犯人には精霊術で目印がつけれられており、彼らならば見分けがつきます。――なのでご一緒させていただけないでしょうか」
恭しく進言するガレリオにうなずきで許可が与えられると、またひどい金切り声があがった。
「この者たちの妄言を信じるのですか?! も、もしかしたらでっち上げかも――」
「でっち上げであれば、小童どもを締め上げるだけだ。今は疑わしき者に事実を確認する。――歓迎会は仕舞だ。我ら王家に弓引く者を決して許すな!」
容赦のない号令と共に、兵士たちは部屋を後にした。
「ジュール・フォン・ハイデルベルク。貴様等の今回の怠慢について、後程ヨアヒムに報告書を提出するように。用がなければ下がれ」
取り付く島をなくした警邏隊の責任者は、虚空を何とか掴もうとするも言葉が出ないようで、忌々し気に退出した。彼に続いて同じ警邏隊に所属する者たちも同様に下がった。――パーティ会場は一気に寂しい場所へと転じてしまった。
とはいえ、まだ水できた学園都市の周りには、連絡を取り合うために残っている者と東方軍の人間がちらほらおり、犯人を逃がすまいと監視を続けていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
下っ端から始まる創造神
夏菜しの
ファンタジー
創造神はひとりきり。
世界から見た場合、それは正しい。しかし神から見た場合は正しくない。
神は多数に存在しておりそれらはすべて、世界を創造している。神々は世界を創造し【信仰】を手に入れる。【信仰】は力。だから世界はいくつも創造される。
長かった研修も終わり、神を名乗ることを許された新人にして下っ端の創造神は、信仰重視の利益主義なことが災いし、神性が闇に傾いていく。
しかし光なき闇はただの邪神だ。
一番上の姉が光の神性持ちだってのに、末端とは言えその妹が邪神になるのはさすがに恥ずかしすぎる。
闇からの回帰を目指し奮闘が始まった。
下っ端見習いから始まる創造神の世界のお話です。
※月木更新
※以下 ネタバレ 含む解説です※※※※※※※※※※※
階位
上一位『熾』
上二位『智』
上三位『座』一姉さま
中一位『主』
中二位『力』二姉さま
中三位『能』
下一位『権』三姉さま
下二位『大』四姉さま
下三位『無』主人公
【神性とは】
神性はその神が司るもの大まかには下記の通り
元素(風・火など)
概念や思想(愛・正義、知恵・運勢など)
技巧(鍛冶・酒・商業・音楽など)
現象や存在(大地・稲妻、太陽など)
【権能とは】
権能は神性に含まれている能力を指す
※主人公の『月』を例とする
月の持つ権能は【月・闇・死・聖】の四つ
神性を発現する前に所持していた【水・金運】は神性の発現時に『月』に合わずに消失している
逆に常闇は月が闇の権能を持つため、合致しそのまま内封されている。
結果、主人公は【月・常闇(闇+闇or夜+闇)・死・聖】を持っている
他の月神が常闇を持っていない場合、主人公は月神の中ではもっとも闇が強い神となる
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる