上 下
54 / 70
第二部

53話 【閑話】兄の想い【sideルーフェン】

しおりを挟む
「……殿下、申し訳ないですが私もそれでは反対させてもらいたいです」

 俺の反対意見に賛同したのはフリックお父様だ。

 おそらくその気持ちは同じだ。

「私たち家族は特に愛情深い絆で結ばれております。ルーラはこんなおてんばな娘ですが、それでも私たちにとって大切な家族なのです」

「被せる様で申し訳ねえっすけど、俺もフリックお父様と同意見っす。殿下は多くの婚約者がいるかもしれねえけど、ルーラにとっちゃパートナーは大事な大事なひとりしかいない。ルーラが寂しい時、頼りたい時に殿下が他の女のところでうつつを抜かしているような事があると考えるだけで俺は、ハラワタ煮えくり返りそうなんすよ」

 王家にとって、女性は何人でもいた方が良いに決まっているかもしれない。
 けれどそれによってルーラが辛い思いをするのだけは許せない。

 その気持ちは俺もお父様も同じだった。

「……とはいえ殿下はエリシオン王国の王太子です。ルーラを側室として将来妃に迎える事を強制すると言われてしまえば俺たちには逆らいようがありません」

「ルーフェン殿……」

「だから気持ち的には殿下とルーラの結婚は認めたくないです。これだけははっきり言っときます」

 俺はあくまで自分の気持ちを殿下に伝えたかった。
 ルーラには……いや、ルーラにもリフィル姉様みたいな世界でたったひとりの素晴らしいパートナーを持って欲しかったんだ。

「ルーラは本当に素晴らしいご家族に恵まれているんだね」

 レオガルド殿下は優しく微笑む。

「安心して欲しい。私はルーラ以外の婚約者との関係は断ち切る事に決めたんだ」

「「え!?」」

 俺とフリックお父様が同時に声をあげた。

「私はルーフェン殿やフリック殿と同じく、真に愛すべきパートナーはひとりだけで十分だと考えている。これまで、私は心から他者を愛した事はなかった。だから父上や母上の決めたレールに従って生きればそれで良いと思っていた。今、私と婚約関係にある5名の婚約者たちは私の意思とは別に作られた、政治の為だけの政略結婚だ。私はそれらを全て断ち切ろうと思う」

「そ、そんな事をしたら大変なんじゃないですか?」

「大変かもしれない。けれど、私もやはり愛のない結婚などしたくはないんだ。昨年の英傑シュバルツ殿とリフィル嬢の関係を見て、特に強くそう思わされたんだ」

 殿下にここまで言わせるなんて……。

「だからねルーラ」

 レオガルド殿下は隣にいるルーラの方を向き直し、

「私はルーラ・アルカード。キミを、キミだけを私の婚約者としたいんだ」

 真剣な眼差しでルーラへとそう告げた。

「ルーラだけを? ルーラだけでいいんです?」

「ああ。以前私はキミに、私の婚約者は他にもいるけど、キミにもそのひとりになってもらえないかと頼んだ。その時、キミは頷いてくれたよね」

「はい! レオガルド様、優しいし、仲良くしたいと思ったからです!」

「今思うとまるで誠意がなかったと猛省している。今日、アルカード家に連れてこられて、そしてキミのご家族の話しを聞いてようやく決心がついたよ。私はルーラ、キミだけを私の妃にしたいと思う」

「レオガルド様いいんですか? だって他のこんやくしゃさんは他国のお金持ちの人とか、えらい人なんですよねー?」

「いいんだよルーラ。私はそんな付随したものよりもルーラだけを、ルーラというひとりの女性だけを一途に愛したいと思い直したんだ」

「そうなんですか。ルーラは別にレオガルド様に何人こんやくしゃさんがいてもいいと思いましたですけど、レオガルド様がそう言うのなら、それで全然構わないです!」

「……というわけで、ルーフェン殿、フリック殿、リアナ殿。私たちの交際、婚約を認めてくださるだろうか」

 殿下は屈託の無い笑顔をそのまま俺たちの方へと向けて来た。

 うーん……。
 なんか俺たちの意見はおいてけぼりにされてる感が否めないが。

 いや、その前にルーラに再確認だ。

「なあ、ルーラ。お前昨日、俺とお父様が持って来たお見合いの話、一回は受けるって言ったよな。それって、殿下と婚約関係でありながら、他の奴とも婚約関係になって、んで殿下の事はほっといて他の奴が金持ちだったらそいつと結婚する気だったって事か……?」

「そうです!」

 あれ……。
 なんかこうなると、誠意がないのはうちの妹のような気がする……。
 と言うかうちの妹の方が失礼な気がするぞ……?

「実は私が今日、覚悟を持ってここには来たのはそれが原因なんだ」

 と、再び殿下が語り出す。

「ルーラが早朝から宮殿に来てね。他の人と婚約してもいいか、他の人と試しに結婚してみてもいいか、などと言い出すものだから私はびっくりしてしまって」

 なんてこった。
 ルーラは昨日の話しをそのまま殿下に伝えたのか。
 しかも試しにって……。

「私の正妃には政治的観点から東の隣国ソリドフォンの姫君が予定されていた。そしてルーラの事はルーフェン殿の言う通り側妃とする予定で考えていたんだ。しかしいざルーラが私と同じような事をすると考えたら、どうしようもない気持ちにかられてしまってね。それで今日、考え直してみたんだ。相手の立場になってよくよく考え直してみたら、とても嫌な気分になった……。自分の愛する者が他の男といると考えると……どうしようもない気持ちになった。それを私は今日、ルーラに教えられたんだよ」

 俺は今心の底から安堵で胸を撫で下ろしている。そして感謝した。レオガルド殿下が……このお方が実に寛大で寛容な人格者である事に。

 何故ならこれ、場合によっちゃルーラは超絶不敬によって処罰されてもおかしくなかったからだ。

 王族は国の決まり上、妃を何人迎えても良い事になっているが国民には一夫一妻制が基本として定められ、不貞行為が認められた場合は裁判沙汰になる。
 つまりルーラは殿下と婚約しているのだから他の男と付き合うなど当然許されない事で、試しに一回結婚してみるなどもっての他だ。
 その婚約が例え、俺たち家族には何も知らされていない口約束であろうともだ。

「だから私はもうルーラ以外の女性と交際するつもりも結婚するつもりもない。父上と母上にも、これから帰って私の婚約者たちについて正式に協議するつもりだ」

 なんてありがたい話なんだ。
 うちの妹がエリシオン王国の正妃になるなんて、まるで夢のようだ。

 しかしそれでもまだ解せない。

 一体こいつの……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

なんでそんなに婚約者が嫌いなのかと問われた殿下が、婚約者である私にわざわざ理由を聞きに来たんですけど。

下菊みこと
恋愛
侍従くんの一言でさくっと全部解決に向かうお話。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

処理中です...