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第一部

48話 愚か者の末路。そして大団円

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 決着はあっという間だった。

 私から膨大な魔力が注がれたシュバルツ様は、すぐにその身体を立て直すや否や、残りのマジックデトネイターたちを屠る為に、再び【ライトニングボルト】からの【ライトニング・スパーク】を発生させた。

 そしてついに、全ての自爆コア付きの魔物、マジックデトネイターたちをこの王都へと近づけさせる前に完全討伐し終えたのである。

「は、はは。シュ、シュバルツ兄様……とんでもねえな。マジでやりやがったッ!」

 隣でルーフェンが笑う。

「ふふ、ルーフェンったら、シュバルツ様を疑っていたんですの?」

 私も釣られて笑みを溢した。

「……いや、全てはリフィルさんの力だ。キミからの愛が私を何倍も強くしてくれた」

「かーーーっ! シュバルツ兄様はそればっかりだな! いい加減聞き慣れ過ぎて、俺も恥ずかしくなくなってきたわッ!」

 ルーフェンが呆れたように言う。

「い、いやルーフェン殿。それはただのノロケとかではなくな、現実に……」

 シュバルツ様は本気で私の力だと言い張ったが、ルーフェンはそれをまともに聞こうとはしなかった。

「とにかく……やったな……あー、俺ぁもう動けねえぞ」

 バタリっと、ルーフェンはその場で仰向けに倒れ込んだ。

「私もだ。さすがに……もう立てん」

 と言って、シュバルツ様も同じように倒れ込んだ。

「んもう、貴族ともあろう人たちが、みっともないですわよ」

 私もその場で座っていたのだが、本当はもう緊張の糸が解けてしまい腰を抜かしていたので、同じく立ち上がれそうもないのである。

「へへ……」

「っふ……」

「うふふ……」

 私たちは三人で笑い合った。

 これで全てが終わったんですわ。

 そう思った時。

「「っ!?」」

 地べたに座り込んでいたから、私たちはすぐに異変に気づいた。

 ズズズ、っという大きな地鳴りが地面から響いて来ている事を。

「な、なんだ……?」

 シュバルツ様と私が周囲を警戒していると、

「や、やべえッ! アレを見ろッ!」

 ルーフェンが森の方面の地面を指差す。

 そこに見えたのは、大きな地面のヒビ割れだった。

「地割れだッ! クソッ! さっきのマジックデトネイターたちの爆発で地盤沈下でも起こしやがったかッ!?」

「不味いですわっ! こっちの方まで地割れが続いてきて……! このままでは私たちも飲まれてしまいますッ!」

「だ、だが……」

 シュバルツ様が悔しそうな顔をする。

「ああ……俺たちゃ限界だ……。ここからせめて王都の城塞、外壁にまで逃げられりゃあなんとかなりそうだが、とてもそんな距離まで走れねえ」

 ルーフェンも、もはや万策尽きたと言った表情で瞳を閉じていた。

「リフィルさん。せめてキミだけでも逃げてくれ。キミだけならまだ走れば間に合う」

「そんなッ! そんなの絶対に嫌ですッ!!」

「頼む、キミだけでも生き残って欲しいんだ。私たちはもう……」

「シュバルツ様! 私は言いました! 私より先に死なないで、と! 約束を破るのですか!?」

「リフィルさん……約束は……」

「私は何があっても貴方と共にあります。死ですら私たちを別つ事など、ありえませんッ!!」

「リフィルさん……キミには……もっと生きて欲しいんだ……頼む……」

 シュバルツ様が困り果てた顔でそう言った直後。

 ブォンッ!

 と、鈍い音が私たちのすぐ近くで響き、

「兄様! 姉様ッ! 迎えに来たですよッ!」

 【空間転移トランスポート】にて現れた、私の最愛の妹、ルーラが私たちを救い出してくれたのであった。



        ●○●○●



 ――私たちはルーラの助けにより窮地を脱し、私の家族は誰一人欠ける事なく、無事生還する事ができた。

 王都の外壁の上まで転移した私たちは、ルーラと共に地割れの様子を見守ったが、どうやら王都の外壁にまでは届かなかったらしく、大きな被害とはならなかったみたいで一安心した。

 その後、満身創痍だった私たちはルーラや他の仲間たちに支えられ王都の中心部へと戻った時、出迎えてくれたのは大勢の王国騎士様や衛兵さん、宮廷魔導師、それだけではなく多くの貴族や平民、果てはギルドの冒険者たちまでがそこには居た。

 更にはそれだけではなく、エリシオン王国の両陛下と殿下たちも私たちの帰還を待ち侘びていたようで、静かに私たちを見据えている。

 しん、っと鎮まり返ったこの状況に私たちが不安そうな表情を見せるや否や、国王陛下は私たちを見て、こう告げた。

「エリシオン王国暦、史上最強にして最高の英傑の称号をシュバルツ・フレスブルグ、貴公に与えようッ!」

 それと同時に大歓声が沸き起こり、同時に嵐のような拍手も巻き起こる。

「シュバルツ様! バンザーイ!」

 騎士様や衛兵たちがシュバルツ様を讃え、

「あの類い稀なる魔力! 間違いなくシュバルツ様こそ、真の英傑にして、真の英雄だッ!」

 上流貴族たちもその魔法力に感服し、

「エリシオン王国にこんな勇者が生まれるなんて、予想もしなかったわ!」

 平民たちもシュバルツ様に敬意を評した。

 そして両陛下は私たちの……いえ、英傑、シュバルツ様の前まで歩み寄ると、

「へ、陛下!?」

 なんと両陛下がシュバルツ様にこうべを垂れたのである。

「ありがとう、英傑シュバルツ殿。貴公がいてくれなければ、我が国は良くて半壊、下手をすればこの王都自体が無くなっていたやもしれぬ。本当にありがとう」

「あ、頭をあげてください、陛下! 私はただ当たり前の事をしただけで……それに私だけの力ではございません!」

「うむ、わかっておる」

 エリシオン国王陛下はそう言うと、今度は私とルーフェンの顔を見て、

「話は聞き及んでいる。アルカード領の領主、ルーフェン殿、その妹君のルーラ殿、そしてルーフェン殿の姉上であられるリフィル殿、だったな」

 そう言ったので、私は、

「陛下、私はシュバルツ様の婚約者ですわ。そして本来なら今日、彼と正式に結ばれる日でしたのよ?」

 と、少し嫌味に答える。

「なんと、そうであったのか。それでは最強の英傑の最愛の女性だったのだな。これは……実に惚れ惚れするような美男美女が、この英傑選で優秀な美を飾ってくれたものだ」

 そう言って、国王陛下は笑った。

「あなた方には感謝してもしきれませんわ。あの凶悪な悪魔に魔物の大群……私たちも可能な限りの手を打とうとまさに準備を整えている間に、全てを片付けてしまったのですから」

 と、今度は王妃様がそう告げた。

 その後も殿下や宮廷貴族たちが入れ代わり立ち代わり、私たちの前で深謝の気持ちを述べて言った。

 そんな最中。

「陛下ッ! 私、ダリアス・マクシムスも獅子奮闘の活躍にて、彼らを補佐致しておりましたッ! ハッキリ申し上げれば、私がいたからこそ、彼は活躍できたのです! 私があの場にいなければおそらくこのシュバルツも、田舎貴族のリフィルも……」

 と、ダリアス様が大きく下品な声で割り込んできたのである。

 その様子を見ていた陛下は、笑顔でこう言った。

「そうか、やはり貴様がダリアスだったのだな。マクシムス家の嫡男とは聞いていたが、これほどまでとはな」

「さすがは陛下! 私めの事、父からよくお聞きになられていらっしゃるのですね!?」

「うむ。貴様の父からもよく聞いている」

「それでは私にも此度の活躍を評して、英傑の称号を……」

「いや、ダリアス。貴様には私ではなく、こやつらから改めて話がある」

 陛下はそう言うと、数名の騎士様たちに手で合図を送る。

「なんでございましょう!? あ! なるほど、騎士の剣を私にも授けてくださるのですね!? いや、それでしたら私は……」

 陛下は小さく溜め息を吐き、返事をしない。

 すると代わりに一人の騎士様が、

「ダリアス。貴様には国家転覆罪の嫌疑が掛けられている。このまま王国裁判所まで連行する」

 と告げ、

「え、え? え!? ええええッ!? ちょ、待って、違う! 何かの間違いだ! 私が国家転覆など……陛下! 陛下ぁ! セシリア! こっちに来て私の活躍を説明してやってくれ! おい!? リ、リフィル! シュバルツも! 私のおかげでなんとかなったところもあっただろう!? なあ、おい!? だ、誰か助け、助けて! だ、誰か説明を、説明ぉおおおおっーーーッ!」

 ダリアス様は半狂乱気味に多くの人の名を呼びつけたが、誰ひとりとして彼に反応を示す者などいなかった。

「黙れダリアス! 貴様のこれまでの行ないに多くの者から通告を受けている! しばらくは独房に入れられる事を覚悟するんだなッ!」

 ダリアス様の腕をがっしりと掴む一人の騎士様はあまりにもうるさい彼を怒鳴りつけ、頭をパカンっ! と、強めに殴っていた。

 そして彼はそのまま半泣きで、騎士様たちに連れて行かれてしまったのだった。

「……すまぬな、シュバルツ殿、リフィル殿。詳しい事情は全て、シュバルツ殿のお父上に聞き及んだ。これまでのダリアスの所業についても、な」

 陛下がそう言うと、

「実はそれだけではなく、此度の英傑選で、あなた方を見ていた他の選手たちからもダリアスの問題行動をたくさん申告頂いているのです」

 王妃がそう続け、

「更に言うと、此度の深刻な襲撃の元凶となったあの召喚師をこのエリシオン王国にまで招き入れたのは、あのダリアスであったのです」

 と、まさかの事実を告げた。

「そ、それはまことでございますか、王妃様!?」

 シュバルツ様が聞き返す。

「ええ。ルヴァイク共和国は南部の関所を越える為に、密かにダリアスに女性やお金という賄賂を送り続け、こちらの情報を横流ししていたようなのです」

「そんな……いくらダリアス様が馬鹿だからって国まで売るなんて……」

 私が信じられないと言った顔をしていると、

「いえ、ダリアス本人は上手く口車に乗せられていただけのようです。なので本人はそんなつもりはなかったのでしょう。ただ、上手く利用されてしまった」

 王妃がそう答える。

「なるほど。しかし一体その事を誰が陛下たちに知らせてくれたのですか?」

 今度はシュバルツ様が尋ねると、

「それは、奴の父、ギリアム・マクシムス侯爵だ」

 王陛下がそう答えた。

「え!? ダリアスの父上が!?」

「うむ。少し前に婚約者に手酷く婚約破棄を申し渡してから、彼の魔力が突然日々衰え出したのをギリアムは見逃さなかったらしく、それから口煩く魔法力を鍛えよと指南したが、一向に魔法の鍛錬はせず、遊び呆けてばかりで堕落していく息子に我慢ならなかったらしい。そこに来て、息子が何やらよからぬ者たちに唆されている事を知り、直接私のところへ申し出た、というわけだ」

 婚約破棄……私の事だ。

 陛下はそれが私だと知らないのだろうか。

 それとも黙ってくれているのだろうか。

「魔法とは想いの力だ。そんな事は魔法を学んだ者なら誰でも知っている。人の気持ちを蔑ろにし、つくしてきたはずの女性を軽んじて一方的に婚約破棄をした男の魔力が下がるなど、自明の理。そんな事も知らぬ者に、貴族を名乗る資格はない」

「それではダリアスはどうなるのでしょう?」

「ギリアムは縁を切ると言っておった。私たちも彼には十分な罰を与える。その後の事は彼次第だな」

 ダリアス様……。

 凄く馬鹿で愚か者だったけれど、お父上に親子の縁まで切られてしまうなんて、少しだけ可愛そうだな、と思ってしまった。

「話が逸れたな。なんにせよ、今、この国の英雄、英傑はキミだ、シュバルツ殿! 改めて礼をさせて欲しい。ありがとう」

「「ありがとうございます」」

 両陛下や殿下、他貴族たちが再び頭を深く下げて私たちに深謝を告げた。

 私たちはそれからも英雄扱いをされたまま、国を挙げての祝福をされたのだった。


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