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第一部
32話 初めての夜
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「やあ! キミがリフィルくんか! はじめまして、私がシュバルツの父でありフレスベルグ家当主のリドル・フレスベルグだ」
「はじめまして、リフィルさん。うふふ、こんな可愛らしい彼女を連れてくるなんて、シュバルツさんも隅に置けませんわね。私が母のマリーナですわ。よろしくお願い致しますわね」
シュバルツ様のお屋敷にお邪魔させてもらい、まず通された応接間にて、シュバルツ様のお父様とお母様が私に会ってくださった。
とても良い匂いのするハーブティーと可愛らしいお菓子も用意され、すぐに私が歓迎されているのだと感じ、とても安心した。
「こ、こここ、こちらこそ、ふ、不束者ですが、シュバルツ様とは不釣り合いかもしれませんけれど、よ、よよ、よろしくお願い致しますわ……」
「ははは! リフィルさん、緊張しすぎだよ。大丈夫、私の父上、母上はそこらの貴族みたいな偏見など持たない主義だ。気楽に構えてくれていいよ」
シュバルツ様の言葉通り、彼らは実に私に朗らかな対応で接して来てくれたので、私も内心ホッとした。
「それにしても驚かされたよ。まさかマクシムス家の婚約者が、気づいたら私の息子の恋人になっている、というのだからね」
やはりシュバルツ様のご両親は知っていた。
それもそのはず。マクシムス家といえば王都では有名な侯爵家。元婚約者の私の名前も当然知れ渡っている。
「あ……なんていうか、その、捨てられた私なんかがシュバルツ様と、なんて……す、すみません……」
私はそこだけは抗いようの無い事実である為、思わず顔を伏せてしまった。
「ちょ、ちょっと父上! そのような言い方は無礼です! すまないリフィルさん、父上は少し、いや、かなりデリカシーのない人なんだ、許してほしい」
「いえ、シュバルツ様。それは本当の事ですから……」
そんな私の力ない言葉に慌てたシュバルツ様のお父様が、
「リ、リフィルくん! すまぬ、私も変な意味で言ったのではないんだ。むしろ、息子のシュバルツを好いてくれている事に感謝したいくらいだ」
とすぐにフォローし始め、
「そうですわ。ごめんなさいねリフィルさん。この人、お馬鹿さんなので女性への気遣いがポンコツなんですの。許していただけますか?」
同時にお母様も私を気遣ってくれた。
「と、とんでもないです! 私の方こそ、なんだか申し訳ありません!」
シュバルツ様のお父様とお母様は本当に素晴らしい方たちだった。
やはりこのご両親からシュバルツ様がお生まれになったのだと納得できるほどの、人格者である。
心優しいご両親の対応と会話に、私もすぐに慣れ親しみ、気づけば私はシュバルツ様のご両親と長い間、たくさんのお話をしてしまっていた。
フレスベルグ家は元々、平民の家系だったらしいが、リドル様の先代、つまりシュバルツ様のお祖父様が見栄っ張りだったらしく、強引にお金で爵位を買ったのだそうだ。
そういうわけでフレスベルグ家は特別魔法の才能に優れている一族ではない為、王都での貴族間交流にはほとほと参っている、とリドル様が笑ってお話していた。
と、そんな普通に考えたら恥ずかしいような家系の歴史まで私に包み隠さず話してくださるご両親のおかげで、逆に私はすぐに心を開く事ができた。
そして三日間お世話になるという事で、簡単にお屋敷内を案内をされた後、私はフレスベルグ家の一室をお借りする事となった。
小さくてすまないが、とシュバルツ様に案内されたお部屋は、確かにこぢんまりとはしていたが、とても綺麗に整えられているし、可愛らしい調度品や飾り付けが成されたお部屋で、私はここがすぐに気に入った。
それから気づけばあっという間に夜になり、食堂でまたシュバルツ様とシュバルツ様のご両親と共に、たくさんお話しをしながらお食事を楽しんだ。
「はあ……なんなのかしらこれは……」
夜も更けて。
「私、こんなんで本当に良いのかしら……」
お借りしているフレスベルグ家の一室のベッドに転がりながら、私はひとりごちていた。
だって、幸せすぎるッ!
イケメンで超優しい彼氏ができたと思ったら、その彼氏は私のおかげとはいえ急成長を遂げ逞しくなり、更にはいきなりおうちにお邪魔させてもらい、おまけに彼のご両親とはとても関係が良好。
え? ちょっと待って?
これ私、幸せの最高潮なんじゃありませんの?
「あーーーん! もう! 幸せすぎますぅ……」
ボフっと枕に顔を埋めて、ひとりではしたなくバタバタと足を暴れさせる。
それにこれって、ちょっとシチュエーションはおかしいけれど、彼と同じ屋根の下でお泊まり……。
こ、これは何かが起きてもおかしくありませんわッ!
宿で一泊していた時はそんな雰囲気ではありませんでしたし、ルーフェンとルーラもいましたけれど、今は違いますッ!
も、もしシュバルツ様が我慢しきれなくなって、私の部屋に夜這いに来てしまったら……。
は、ははは、初めての夜ですの!?
はー。はー。ドキ。ドキ。
わ、わ、私、困りますわぁーーーッ!
で、でも、もしそうなったら変に拒否してしまうのは彼に失礼ですわよね……。
私ももう少しで16になりますし、お、大人への予行練習って事にしてもよろしいのかしら?
それに、私はまだ未経験だからわからないですけれど、もしそんな風に私とシュバルツ様が肌と肌を重ね合わせた状態で私の【魔力提供】を施し続けたら、彼は一体どうなるんでしょう。
きっと、もっともっと頼れる殿方になって……もしかしたらアッチもフリックお父様みたいに逞しくなりすぎたり……。
って!!
私はさっきからなんて妄想ばかりをしていますの!?
こんな事を考えているなんて知られたら、絶対に嫌われてしまいますわ……。
で、でも、そういう可能性も無いとは言い切れないので、先程お風呂はお借りしましたけれど、やはり念の為もう一度お風呂に参りましょう!
そんな風に妄想が止まらなくなった私は、まるで旅行気分のように着替えを持って、また浴室へと向かったのだった。
「はじめまして、リフィルさん。うふふ、こんな可愛らしい彼女を連れてくるなんて、シュバルツさんも隅に置けませんわね。私が母のマリーナですわ。よろしくお願い致しますわね」
シュバルツ様のお屋敷にお邪魔させてもらい、まず通された応接間にて、シュバルツ様のお父様とお母様が私に会ってくださった。
とても良い匂いのするハーブティーと可愛らしいお菓子も用意され、すぐに私が歓迎されているのだと感じ、とても安心した。
「こ、こここ、こちらこそ、ふ、不束者ですが、シュバルツ様とは不釣り合いかもしれませんけれど、よ、よよ、よろしくお願い致しますわ……」
「ははは! リフィルさん、緊張しすぎだよ。大丈夫、私の父上、母上はそこらの貴族みたいな偏見など持たない主義だ。気楽に構えてくれていいよ」
シュバルツ様の言葉通り、彼らは実に私に朗らかな対応で接して来てくれたので、私も内心ホッとした。
「それにしても驚かされたよ。まさかマクシムス家の婚約者が、気づいたら私の息子の恋人になっている、というのだからね」
やはりシュバルツ様のご両親は知っていた。
それもそのはず。マクシムス家といえば王都では有名な侯爵家。元婚約者の私の名前も当然知れ渡っている。
「あ……なんていうか、その、捨てられた私なんかがシュバルツ様と、なんて……す、すみません……」
私はそこだけは抗いようの無い事実である為、思わず顔を伏せてしまった。
「ちょ、ちょっと父上! そのような言い方は無礼です! すまないリフィルさん、父上は少し、いや、かなりデリカシーのない人なんだ、許してほしい」
「いえ、シュバルツ様。それは本当の事ですから……」
そんな私の力ない言葉に慌てたシュバルツ様のお父様が、
「リ、リフィルくん! すまぬ、私も変な意味で言ったのではないんだ。むしろ、息子のシュバルツを好いてくれている事に感謝したいくらいだ」
とすぐにフォローし始め、
「そうですわ。ごめんなさいねリフィルさん。この人、お馬鹿さんなので女性への気遣いがポンコツなんですの。許していただけますか?」
同時にお母様も私を気遣ってくれた。
「と、とんでもないです! 私の方こそ、なんだか申し訳ありません!」
シュバルツ様のお父様とお母様は本当に素晴らしい方たちだった。
やはりこのご両親からシュバルツ様がお生まれになったのだと納得できるほどの、人格者である。
心優しいご両親の対応と会話に、私もすぐに慣れ親しみ、気づけば私はシュバルツ様のご両親と長い間、たくさんのお話をしてしまっていた。
フレスベルグ家は元々、平民の家系だったらしいが、リドル様の先代、つまりシュバルツ様のお祖父様が見栄っ張りだったらしく、強引にお金で爵位を買ったのだそうだ。
そういうわけでフレスベルグ家は特別魔法の才能に優れている一族ではない為、王都での貴族間交流にはほとほと参っている、とリドル様が笑ってお話していた。
と、そんな普通に考えたら恥ずかしいような家系の歴史まで私に包み隠さず話してくださるご両親のおかげで、逆に私はすぐに心を開く事ができた。
そして三日間お世話になるという事で、簡単にお屋敷内を案内をされた後、私はフレスベルグ家の一室をお借りする事となった。
小さくてすまないが、とシュバルツ様に案内されたお部屋は、確かにこぢんまりとはしていたが、とても綺麗に整えられているし、可愛らしい調度品や飾り付けが成されたお部屋で、私はここがすぐに気に入った。
それから気づけばあっという間に夜になり、食堂でまたシュバルツ様とシュバルツ様のご両親と共に、たくさんお話しをしながらお食事を楽しんだ。
「はあ……なんなのかしらこれは……」
夜も更けて。
「私、こんなんで本当に良いのかしら……」
お借りしているフレスベルグ家の一室のベッドに転がりながら、私はひとりごちていた。
だって、幸せすぎるッ!
イケメンで超優しい彼氏ができたと思ったら、その彼氏は私のおかげとはいえ急成長を遂げ逞しくなり、更にはいきなりおうちにお邪魔させてもらい、おまけに彼のご両親とはとても関係が良好。
え? ちょっと待って?
これ私、幸せの最高潮なんじゃありませんの?
「あーーーん! もう! 幸せすぎますぅ……」
ボフっと枕に顔を埋めて、ひとりではしたなくバタバタと足を暴れさせる。
それにこれって、ちょっとシチュエーションはおかしいけれど、彼と同じ屋根の下でお泊まり……。
こ、これは何かが起きてもおかしくありませんわッ!
宿で一泊していた時はそんな雰囲気ではありませんでしたし、ルーフェンとルーラもいましたけれど、今は違いますッ!
も、もしシュバルツ様が我慢しきれなくなって、私の部屋に夜這いに来てしまったら……。
は、ははは、初めての夜ですの!?
はー。はー。ドキ。ドキ。
わ、わ、私、困りますわぁーーーッ!
で、でも、もしそうなったら変に拒否してしまうのは彼に失礼ですわよね……。
私ももう少しで16になりますし、お、大人への予行練習って事にしてもよろしいのかしら?
それに、私はまだ未経験だからわからないですけれど、もしそんな風に私とシュバルツ様が肌と肌を重ね合わせた状態で私の【魔力提供】を施し続けたら、彼は一体どうなるんでしょう。
きっと、もっともっと頼れる殿方になって……もしかしたらアッチもフリックお父様みたいに逞しくなりすぎたり……。
って!!
私はさっきからなんて妄想ばかりをしていますの!?
こんな事を考えているなんて知られたら、絶対に嫌われてしまいますわ……。
で、でも、そういう可能性も無いとは言い切れないので、先程お風呂はお借りしましたけれど、やはり念の為もう一度お風呂に参りましょう!
そんな風に妄想が止まらなくなった私は、まるで旅行気分のように着替えを持って、また浴室へと向かったのだった。
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