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第一部
31話 幸せの時間
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ルーフェンからシュバルツ様の覚醒に関する話を聞いた後、夜遅くに宿へ帰ってきたルーラと共に、ルーフェンは先にアルカード領へと帰って行った。
本当は私を護衛したがっていたルーフェンとルーラだったが、私はこの王都でとある用事が新たにできてしまったのですぐに帰るわけにも行かず、またルーフェンらもアルカード領での仕事が溜まってしまうのは不味いという事で、彼らには先に帰ってもらう事にしたのである。
去り際に、
「ま、今ならめちゃくちゃに進化したリフィル姉様だけの英雄がいるから大丈夫か」
などと言って、ルーフェンはシュバルツ様を揶揄いながら、アルカード領へと帰って行った。
そして私のとある用事とは。
「リフィルさん、どうやらあと三日ほどはかかってしまうみたいなんだ」
「まあッ! そうなんですのねッ!」
「その、大丈夫なのだろうか。リフィルさんも早くアルカード領へ帰りたいというのに……すまない。私が仕立て屋に依頼する前にどのくらいの時間がかかるのかを先に聞いておくべきだったな……」
そう、私のドレスである。
セシリアによって見るも無残な姿となった私のドレスは、とても修繕ができるレベルではなかった。
それを見たシュバルツ様は、王都の仕立て屋さんに赴き、似たようなドレスを私へとプレゼントすると言って注文して来てくれたのである。
しかし彼の言葉通り、新しいドレスが出来上がるまでは三日ほど要するらしい。
「いいんですの。私、帰っても別にやる事はありませんし、それに……」
それに、たった一日で終わってしまう予定だったシュバルツ様とのデートが三日も延長するなんて、夢のようですもの。
「それに?」
「い、いえ! なんでもありませんわ! ではドレスが出来上がるまで、しばらくこの宿でお世話になるようですわね」
「それなのだが、リフィルさん。もしよければ、私の家に来ないか?」
「え?」
「我がフレスベルグの屋敷はこの宿からそう遠くない。小さな屋敷ではあるが、宿泊料金をここで払い続けるよりは良いかと思ってね」
「シュバルツ様の……おうち……?」
「あ! も、もちろんキミがこの宿で良いと言うなら無理強いはしないよ。それにまだその、付き合い始めたばかりでいきなり相手の家に上がり込むのは、リフィルさんとしても怖いだろうし……」
何を言ってるのでしょうシュバルツ様は。
そんなのご褒美に決まっておりますわッ!
「行きます」
「う、うむ。そうであろう。すまない、いきなり私の家に連れ込もうなどとして……決して下心で言ったわけではないのだが……」
アレ? なんか伝わってない。
「行きます、行きます、行きまぁすッ!!」
「ッ!?」
私の怒涛の返事にシュバルツ様は言葉を失う。
「シュバルツ様のおうちに行きたいですッ! お泊まりしたいですッ!! させてくださいッ!!」
「え? ほ、本当にいいのかい?」
「はい! もちろんですわ!」
シュバルツ様が育ったお屋敷、過ごした空間を見てみたい私にとって、お屋敷にお呼ばれされるのは本当に嬉しかったのである。
「その……ちゃんと夜は別の部屋で寝るから安心してくれ」
「あ……は、はい」
シュバルツ様が恥ずかしそうにそう言うものだから、私まで変な想像して顔を真っ赤にしてしまった。
でも私もシュバルツ様も、もう両者公認で正式にお付き合いしているのだから、別に夜に何かあっても良いと思うのだけれど。
って、そうだ、私はまだ15歳だった。シュバルツ様は私が成人するまで待ってくれるつもりなんですのね。
「じゃ、じゃあ早速移動の準備をしようか。私の屋敷までの道中で少し食材の買い物などもしよう。今晩はリフィルさんの好きなものを我が家の料理長に作らせたいからね」
「はいッ!!」
私はウッキウキな声で返事をしたのだった。
●○●○●
それから私は彼と二人で買い物をしつつ、王都の人混みの中を歩いた。
目的はただ食材を買うだけだったが、とても、とても楽しかった。
ずっと二人でおしゃべりしながら手を繋いで歩き、街行く人々を見てはああいうドレスを着てみたいとか、ああいうアクセサリーが好きだとか、そんな大した事のないお話だけで何時間も過ごせた。
だから時間などあっという間に過ぎていった。
こんななんでもないような事が、どうしてこんなにも楽しいのか、本当に不思議で仕方がなかった。
ただ隣に彼がいてくれる。
それだけでずっと、ずっと幸せなのだ。
「……それでな、私は言ったんだ。それはお前の足の匂いだろって!」
「うふふふッ! 嫌ですわ、シュバルツ様ったら!」
「あ、す、すまない。ちょっと下品な話だったか。配慮に欠けていた」
「そんな事ないですわ。とっても面白かったですものッ!」
「そ、それなら良かった! 変な事を言ってキミに嫌われたらどうしようかと思ったよ」
「まあ! 私がシュバルツ様を嫌いになるなんて、死んでもありえませんわ。貴方は私の最愛のパートナーですもの」
「それは私のセリフだ。私にとって、リフィルさんみたいな素敵な女性とお付き合いできるなんて、世界で一番の幸せ者だよ」
「私なんかより、シュバルツ様の方がとっても素敵ですわッ」
「リフィルさん……キミに出会えて良かった」
「シュバルツ様……」
と、気づけばすぐ二人で見つめ合ってしまう。
で、ここは街中だと互いに我に返り、顔を真っ赤にしてまた歩き出す。
そんな事を繰り返していたので、シュバルツ様のお屋敷に着いた頃にはすでに辺りは暗くなり始めていた。
「これが……シュバルツ様のお屋敷……」
彼の住むお屋敷はタウンハウスなだけあって、確かにアルカードのお屋敷よりはやや小さめではあるがそれでも十分に立派なお屋敷だ。
「伯爵、とは言っても私の家系はさほど裕福な貴族でもなくてね。屋敷の大きさも知れている。こんな場所ですまないが……」
「充分すぎます! 私のアルカード領のお屋敷は確かに大きめですけれど、それはあそこが田舎で土地が広いからに過ぎませんもの」
「田舎だなんて、そんな事はないよ。リフィルさんの故郷はとても過ごしやすそうだった。人混みの喧騒もなくて穏やかだったし、できれば私がリフィルさんのお屋敷に専属侍従になって住みたいくらいだ」
「うふふ、変なシュバルツ様ッ!」
「さあ、入ってくれリフィルさん。すでに屋敷の者には伝えてあるから、屋敷内は自由に使ってくれて構わないよ」
「はい、お邪魔致しますわ」
こうして私は兼ねてより念願だった、最愛の彼氏のおうちに初めてお邪魔する事となるのである。(ダリアス様を愛した事はない、という意味合いで)
本当は私を護衛したがっていたルーフェンとルーラだったが、私はこの王都でとある用事が新たにできてしまったのですぐに帰るわけにも行かず、またルーフェンらもアルカード領での仕事が溜まってしまうのは不味いという事で、彼らには先に帰ってもらう事にしたのである。
去り際に、
「ま、今ならめちゃくちゃに進化したリフィル姉様だけの英雄がいるから大丈夫か」
などと言って、ルーフェンはシュバルツ様を揶揄いながら、アルカード領へと帰って行った。
そして私のとある用事とは。
「リフィルさん、どうやらあと三日ほどはかかってしまうみたいなんだ」
「まあッ! そうなんですのねッ!」
「その、大丈夫なのだろうか。リフィルさんも早くアルカード領へ帰りたいというのに……すまない。私が仕立て屋に依頼する前にどのくらいの時間がかかるのかを先に聞いておくべきだったな……」
そう、私のドレスである。
セシリアによって見るも無残な姿となった私のドレスは、とても修繕ができるレベルではなかった。
それを見たシュバルツ様は、王都の仕立て屋さんに赴き、似たようなドレスを私へとプレゼントすると言って注文して来てくれたのである。
しかし彼の言葉通り、新しいドレスが出来上がるまでは三日ほど要するらしい。
「いいんですの。私、帰っても別にやる事はありませんし、それに……」
それに、たった一日で終わってしまう予定だったシュバルツ様とのデートが三日も延長するなんて、夢のようですもの。
「それに?」
「い、いえ! なんでもありませんわ! ではドレスが出来上がるまで、しばらくこの宿でお世話になるようですわね」
「それなのだが、リフィルさん。もしよければ、私の家に来ないか?」
「え?」
「我がフレスベルグの屋敷はこの宿からそう遠くない。小さな屋敷ではあるが、宿泊料金をここで払い続けるよりは良いかと思ってね」
「シュバルツ様の……おうち……?」
「あ! も、もちろんキミがこの宿で良いと言うなら無理強いはしないよ。それにまだその、付き合い始めたばかりでいきなり相手の家に上がり込むのは、リフィルさんとしても怖いだろうし……」
何を言ってるのでしょうシュバルツ様は。
そんなのご褒美に決まっておりますわッ!
「行きます」
「う、うむ。そうであろう。すまない、いきなり私の家に連れ込もうなどとして……決して下心で言ったわけではないのだが……」
アレ? なんか伝わってない。
「行きます、行きます、行きまぁすッ!!」
「ッ!?」
私の怒涛の返事にシュバルツ様は言葉を失う。
「シュバルツ様のおうちに行きたいですッ! お泊まりしたいですッ!! させてくださいッ!!」
「え? ほ、本当にいいのかい?」
「はい! もちろんですわ!」
シュバルツ様が育ったお屋敷、過ごした空間を見てみたい私にとって、お屋敷にお呼ばれされるのは本当に嬉しかったのである。
「その……ちゃんと夜は別の部屋で寝るから安心してくれ」
「あ……は、はい」
シュバルツ様が恥ずかしそうにそう言うものだから、私まで変な想像して顔を真っ赤にしてしまった。
でも私もシュバルツ様も、もう両者公認で正式にお付き合いしているのだから、別に夜に何かあっても良いと思うのだけれど。
って、そうだ、私はまだ15歳だった。シュバルツ様は私が成人するまで待ってくれるつもりなんですのね。
「じゃ、じゃあ早速移動の準備をしようか。私の屋敷までの道中で少し食材の買い物などもしよう。今晩はリフィルさんの好きなものを我が家の料理長に作らせたいからね」
「はいッ!!」
私はウッキウキな声で返事をしたのだった。
●○●○●
それから私は彼と二人で買い物をしつつ、王都の人混みの中を歩いた。
目的はただ食材を買うだけだったが、とても、とても楽しかった。
ずっと二人でおしゃべりしながら手を繋いで歩き、街行く人々を見てはああいうドレスを着てみたいとか、ああいうアクセサリーが好きだとか、そんな大した事のないお話だけで何時間も過ごせた。
だから時間などあっという間に過ぎていった。
こんななんでもないような事が、どうしてこんなにも楽しいのか、本当に不思議で仕方がなかった。
ただ隣に彼がいてくれる。
それだけでずっと、ずっと幸せなのだ。
「……それでな、私は言ったんだ。それはお前の足の匂いだろって!」
「うふふふッ! 嫌ですわ、シュバルツ様ったら!」
「あ、す、すまない。ちょっと下品な話だったか。配慮に欠けていた」
「そんな事ないですわ。とっても面白かったですものッ!」
「そ、それなら良かった! 変な事を言ってキミに嫌われたらどうしようかと思ったよ」
「まあ! 私がシュバルツ様を嫌いになるなんて、死んでもありえませんわ。貴方は私の最愛のパートナーですもの」
「それは私のセリフだ。私にとって、リフィルさんみたいな素敵な女性とお付き合いできるなんて、世界で一番の幸せ者だよ」
「私なんかより、シュバルツ様の方がとっても素敵ですわッ」
「リフィルさん……キミに出会えて良かった」
「シュバルツ様……」
と、気づけばすぐ二人で見つめ合ってしまう。
で、ここは街中だと互いに我に返り、顔を真っ赤にしてまた歩き出す。
そんな事を繰り返していたので、シュバルツ様のお屋敷に着いた頃にはすでに辺りは暗くなり始めていた。
「これが……シュバルツ様のお屋敷……」
彼の住むお屋敷はタウンハウスなだけあって、確かにアルカードのお屋敷よりはやや小さめではあるがそれでも十分に立派なお屋敷だ。
「伯爵、とは言っても私の家系はさほど裕福な貴族でもなくてね。屋敷の大きさも知れている。こんな場所ですまないが……」
「充分すぎます! 私のアルカード領のお屋敷は確かに大きめですけれど、それはあそこが田舎で土地が広いからに過ぎませんもの」
「田舎だなんて、そんな事はないよ。リフィルさんの故郷はとても過ごしやすそうだった。人混みの喧騒もなくて穏やかだったし、できれば私がリフィルさんのお屋敷に専属侍従になって住みたいくらいだ」
「うふふ、変なシュバルツ様ッ!」
「さあ、入ってくれリフィルさん。すでに屋敷の者には伝えてあるから、屋敷内は自由に使ってくれて構わないよ」
「はい、お邪魔致しますわ」
こうして私は兼ねてより念願だった、最愛の彼氏のおうちに初めてお邪魔する事となるのである。(ダリアス様を愛した事はない、という意味合いで)
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