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第一部
19話 放っておきなさぁい!
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「はは、リフィルさん。いくらなんでも放っておけるわけがない。奴は私の大切なリフィルさんにとんでもない事をしでかしたんだ。到底許せるものではない」
わ、わわ、私の!?
「ああ、そうだ。奴は俺の大事な姉様を傷付けようとしやがった。ダリアスのクソッタレはできることなら俺の手で直接ヤキを入れてやりてぇぐらいだ」
俺の!?
はああううぅぅぅ……シュバルツ様とルーフェンが本気で怒ってくれているのがとてつもなく嬉しい……。
ルーフェンも凛々しくて、カッコよくなっちゃって、それに本当に凄く強くなってて……。
ちょ、ちょっとだけ、ほんのちょこっとだけ、お母様の言ってた意味がわからなくもなかったり、しなくもなかったり……。
い、いえいえ。何を思っているの! 私はシュバルツ様ひと筋ですわ! っていうか弟にときめいてどうするんですの!
それに、私が言いたいのはそういう事ではなくて。
「い、いえ、お二人のお気持ちは凄く凄く嬉しいのですけれど、私が言いたいのはそういう事ではなくてですね……」
「なあルーフェン殿。やはり裁判に話を持っていくのではなく、いっその事このままこの賊を連れてダリアスに直接詰め寄った方が抑止力になるのではないか?」
「いや、シュバルツ殿。例えそれをしようとしてもそもそもマクシムス家が俺たちにダリアスを会わせてくれないだろう?」
「それならば奴が外出するタイミングを見計らって、その瞬間を押さえてしまうというのは……」
私の話を全然聞いてくれない……。
でも、私もなんて言えばいいのかわからないんですの。
私のこのチカラに関する事はどうあってもお話する事ができない。
だからルーフェンもルーラもみんな、私は上位魔法をひとつも使えない令嬢だと、今も思っている。
でも違うの!
私のチカラによるダリアス様への影響が無くなった今、彼は放っておいても堕落するのは目に見えているのですわ。
だからむしろ、何もしない方がよろしいのですけれど、それをどう伝えれば良いのか、全くわかりませんわーーーッ!
「ううぅぅぅ……」
私がそう悩みあぐねて頭を抱えていると、
「……もうあれだな、なんならアルカード領は独立して南のルヴァイク共和国に流れちまうとかだな。それで堂々と戦争してやるとかな。リフィル姉様を汚そうとした腐れ国家なんぞ、ぶっ潰してやる」
え?
「ふむ。それなら我がフレスベルグ家も一家総出でルーフェン殿らと共にルヴァイク共和国に亡命してしまおう。そして堂々とリフィルさんの問題を公にし、いかにマクシムス家が悪事を働いたかを世間に知らしめてやるのだ」
ちょ。
「ああ、悪くねえな! シュバルツ殿、あんた良い度胸してんぜ。しかもその理由がリフィル姉様の為にってところが最高だ」
ちょちょ?
「何を仰るルーフェン殿。貴殿の素晴らしい知恵と知力と魔力に惚れ惚れしたからこそ、こういった決意もできたというものよ。さすがはリフィルさんの弟君だ」
ちょちょちょ! ちょっと待ってください!
なんだか話がどんどん大きくなりすぎてて、このままでは大変な事になってしまいますわーッ!?
「二人ともー! 私のお話をお聞きなさぁいッ!」
私は思わず声を荒げる。
「ど、どうした姉様?」
「リフィルさん……?」
「えっと、えっとですわね! そーゆーの全部やめてください! そんな事しなくていいんですのーッ!」
「ははは。やはりリフィルさんはとても優しいな。ダリアスの事を気遣っているのだろう?」
「そういう事か。あのなぁ姉様、いくら俺でも許せる事と許せない事ってのがあってだな……」
なに? なんなのこの二人?
どうしてこんなにいきなり仲良しさんになって、こんなに意気投合してるんですの!?
そして揃いも揃って、ぜんっぜん聞く耳持たないんですの!?
「あいたッ!?」
私は我慢しきれなくなって思わずルーフェンの頭をポカっと、叩いた。
「馬鹿ルーフェン! 姉様の話を聞きなさーいッ! シュバルツ様もちょっと聞いてください!」
「「へ?」」
「えっとですわね! もう本当に、マクシムス家の事はこちらから何にもしちゃいけませんッ! 報復とか、痛めつけるとか、訴えるとか、そーゆーの全部無し! 終わりにしてくださいッ!」
「姉様、何言ってんだ! そんな事……あいたッ!?」
反論してきたルーフェンの頭をもう一度私は叩く。
「だまらっしゃいですわ! 私がいいって言ってるんですから、もういいんですの! 私は……私はもう……こんな事で誰かが傷ついたり、シュバルツ様が危険な目に遭うのが……耐えられませんの……アルカードとエリシオン王国が戦争だなんて……嫌ですの……」
「リフィルさん……」
「シュバルツ様ッ!」
今度はシュバルツ様へと向き直り、彼の顔を見据える。
「は、はい」
「私の事を想って行動してくれるのは凄く、すごーく嬉しいですわ。でも、私の気持ちも考えてください。私は、貴方がこの野盗たちに殺されそうになるところを何度も見せられて……胸が張り切れそうでしたのよ……」
「リフィルさん……でも、私は……」
「お願いしますわ。シュバルツ様、私の事を思うなら、どうかご自身の命を第一に考えてください。そうでないなら、私も自分勝手にしますわッ!」
「……む、むう」
「それにルーフェンもッ!」
「お、おう」
「アルカード全部を私の事だけで引っ掻き回さないでください! 貴方、それでもアルカード領の領主なんですの!?」
「そ、そう言われちまうとな……まあ……」
「二人とも、私の考えを聞いて。私たちは今後一切、こちらからマクシムス家に何か手を出したりはしない。そして最後に……野盗さん!」
私は最後にダミ声男の野盗を睨む。
「ん? お、俺?」
「ええ! 貴方にはやってもらう事がありますのッ!」
「な、なんだよ……俺に何させようってんだ?」
「野盗さん、貴方にはやっぱりダリアス様の所へ帰ってもらいますわッ!」
わ、わわ、私の!?
「ああ、そうだ。奴は俺の大事な姉様を傷付けようとしやがった。ダリアスのクソッタレはできることなら俺の手で直接ヤキを入れてやりてぇぐらいだ」
俺の!?
はああううぅぅぅ……シュバルツ様とルーフェンが本気で怒ってくれているのがとてつもなく嬉しい……。
ルーフェンも凛々しくて、カッコよくなっちゃって、それに本当に凄く強くなってて……。
ちょ、ちょっとだけ、ほんのちょこっとだけ、お母様の言ってた意味がわからなくもなかったり、しなくもなかったり……。
い、いえいえ。何を思っているの! 私はシュバルツ様ひと筋ですわ! っていうか弟にときめいてどうするんですの!
それに、私が言いたいのはそういう事ではなくて。
「い、いえ、お二人のお気持ちは凄く凄く嬉しいのですけれど、私が言いたいのはそういう事ではなくてですね……」
「なあルーフェン殿。やはり裁判に話を持っていくのではなく、いっその事このままこの賊を連れてダリアスに直接詰め寄った方が抑止力になるのではないか?」
「いや、シュバルツ殿。例えそれをしようとしてもそもそもマクシムス家が俺たちにダリアスを会わせてくれないだろう?」
「それならば奴が外出するタイミングを見計らって、その瞬間を押さえてしまうというのは……」
私の話を全然聞いてくれない……。
でも、私もなんて言えばいいのかわからないんですの。
私のこのチカラに関する事はどうあってもお話する事ができない。
だからルーフェンもルーラもみんな、私は上位魔法をひとつも使えない令嬢だと、今も思っている。
でも違うの!
私のチカラによるダリアス様への影響が無くなった今、彼は放っておいても堕落するのは目に見えているのですわ。
だからむしろ、何もしない方がよろしいのですけれど、それをどう伝えれば良いのか、全くわかりませんわーーーッ!
「ううぅぅぅ……」
私がそう悩みあぐねて頭を抱えていると、
「……もうあれだな、なんならアルカード領は独立して南のルヴァイク共和国に流れちまうとかだな。それで堂々と戦争してやるとかな。リフィル姉様を汚そうとした腐れ国家なんぞ、ぶっ潰してやる」
え?
「ふむ。それなら我がフレスベルグ家も一家総出でルーフェン殿らと共にルヴァイク共和国に亡命してしまおう。そして堂々とリフィルさんの問題を公にし、いかにマクシムス家が悪事を働いたかを世間に知らしめてやるのだ」
ちょ。
「ああ、悪くねえな! シュバルツ殿、あんた良い度胸してんぜ。しかもその理由がリフィル姉様の為にってところが最高だ」
ちょちょ?
「何を仰るルーフェン殿。貴殿の素晴らしい知恵と知力と魔力に惚れ惚れしたからこそ、こういった決意もできたというものよ。さすがはリフィルさんの弟君だ」
ちょちょちょ! ちょっと待ってください!
なんだか話がどんどん大きくなりすぎてて、このままでは大変な事になってしまいますわーッ!?
「二人ともー! 私のお話をお聞きなさぁいッ!」
私は思わず声を荒げる。
「ど、どうした姉様?」
「リフィルさん……?」
「えっと、えっとですわね! そーゆーの全部やめてください! そんな事しなくていいんですのーッ!」
「ははは。やはりリフィルさんはとても優しいな。ダリアスの事を気遣っているのだろう?」
「そういう事か。あのなぁ姉様、いくら俺でも許せる事と許せない事ってのがあってだな……」
なに? なんなのこの二人?
どうしてこんなにいきなり仲良しさんになって、こんなに意気投合してるんですの!?
そして揃いも揃って、ぜんっぜん聞く耳持たないんですの!?
「あいたッ!?」
私は我慢しきれなくなって思わずルーフェンの頭をポカっと、叩いた。
「馬鹿ルーフェン! 姉様の話を聞きなさーいッ! シュバルツ様もちょっと聞いてください!」
「「へ?」」
「えっとですわね! もう本当に、マクシムス家の事はこちらから何にもしちゃいけませんッ! 報復とか、痛めつけるとか、訴えるとか、そーゆーの全部無し! 終わりにしてくださいッ!」
「姉様、何言ってんだ! そんな事……あいたッ!?」
反論してきたルーフェンの頭をもう一度私は叩く。
「だまらっしゃいですわ! 私がいいって言ってるんですから、もういいんですの! 私は……私はもう……こんな事で誰かが傷ついたり、シュバルツ様が危険な目に遭うのが……耐えられませんの……アルカードとエリシオン王国が戦争だなんて……嫌ですの……」
「リフィルさん……」
「シュバルツ様ッ!」
今度はシュバルツ様へと向き直り、彼の顔を見据える。
「は、はい」
「私の事を想って行動してくれるのは凄く、すごーく嬉しいですわ。でも、私の気持ちも考えてください。私は、貴方がこの野盗たちに殺されそうになるところを何度も見せられて……胸が張り切れそうでしたのよ……」
「リフィルさん……でも、私は……」
「お願いしますわ。シュバルツ様、私の事を思うなら、どうかご自身の命を第一に考えてください。そうでないなら、私も自分勝手にしますわッ!」
「……む、むう」
「それにルーフェンもッ!」
「お、おう」
「アルカード全部を私の事だけで引っ掻き回さないでください! 貴方、それでもアルカード領の領主なんですの!?」
「そ、そう言われちまうとな……まあ……」
「二人とも、私の考えを聞いて。私たちは今後一切、こちらからマクシムス家に何か手を出したりはしない。そして最後に……野盗さん!」
私は最後にダミ声男の野盗を睨む。
「ん? お、俺?」
「ええ! 貴方にはやってもらう事がありますのッ!」
「な、なんだよ……俺に何させようってんだ?」
「野盗さん、貴方にはやっぱりダリアス様の所へ帰ってもらいますわッ!」
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