上 下
18 / 70
第一部

17話 王都への林道

しおりを挟む
「うわあぁー……」

 私は初めてみる王都の装いに、思わず声をあげた。

 まだ遠目ではあるが、馬車の中から見える王都は華やかに彩られ、カラフルな風船が飛び交い、見たこともない看板や大きな幟があちこちに飾られ、大勢の人の行き来がよく窺える。

 これがパレード!

「リフィルさん。もう少しで着く。あと少し辛抱してくれるかい?」

「はい! 全然大丈夫ですわッ」

 シュバルツ様は馬車を引きながらそう言った。

 てっきりシュバルツ様のお家の従者の方が馬車を引くのかと思っていたので、王都までの道中は馬車の中でシュバルツ様と二人きりかと思ったが、そうではなかった。

 でもそれで少しホッとしていた。

 デート前からすでに心臓バクバクだったのに、馬車の中で何時間も一緒にいたら、私の頭がどうにかなってしまいそうでしたもの。

 おかげで私は少しだけクールダウンする事ができた。

「あとはこの林道を抜ければ王都は目の前……」

 シュバルツ様がそう言った直後。

 ヒヒヒーッンッ! と、馬車馬が唸りをあげる。と、同時にガタガタっと馬車が大きく揺さぶられた。

「な、何事ですの!?」

 私が声を上げると、

「すまないリフィルさん! 怪我はないか!?」

「ええ、私は大丈夫ですわ。それよりシュバルツ様、一体何が……」

「リフィルさんは出てきちゃ駄目だ。馬車の中で待っていてくれッ!」

 そう言って、シュバルツ様が御者の座椅子から飛び降りるような音がした。

 何があったのかと私はそっと、馬車の扉を開いてみる。

 すると。

「え? な、なんですのあの方たちは!?」

 馬車の進行方向でシュバルツ様は十数人の男たちと対峙しているのである。

 私は耳を澄ませてみた。

「よーぉ。この前は世話になったなぁ」

 聞き覚えのあるダミ声。

 まさかアレは……。

「また貴様か。まさか生きていたとはな」

 シュバルツ様が声色をきつくする。

「てめぇのおかげで死にかけたぜ。ざけやがって……伯爵の令息だかなんだか知らねえが、この前はよくもやってくれたなあ? 今日はキッチリ礼を返してやるぜ」

 間違いない、あのダミ声男はこの前私を襲った賊だ。

「用件はそれだけか?」

 シュバルツ様は言いながら腰に帯刀していたやや細身のロングソードを抜刀し、構える。

「いいや、違えな。後ろの馬車の中の女もだ。そいつにも用があるなあ。なあ、みんな!?」

「「おおーーーッ!」」

 ダミ声の男の周りにいる大勢の仲間たちが下卑た歓声をあげる。

「……はっきり聞くが、貴様らのボスはダリアスか?」

 シュバルツ様が問いかけるも、

「ダリアスぅ? 誰だぁそりゃあ? 知らねえなあ!」

 ダミ声の男ははまともに答える気はなさそうだ。

「仕方がない。ならば力づくでも吐かせるとしよう」

 シュバルツ様が戦闘態勢に入っている。

 けれどどう見てもあの人数相手にシュバルツ様一人で太刀打ちできるはずがない。

「シュバルツ様ッ!」

 私が馬車の中から声を荒げるが、

「リフィルさん! 出てくるな!」

 シュバルツ様はそう言って私を静止させた。

「おーおー。相変わらずお熱いねえ? ま、今日はこの前みたいな奇跡は起こらねえだろうがなあ?」

 ダミ声の男は妙に自信たっぷりに構えている。

「行くぜてめぇら! あのキザ男をぶっ殺せッ!!」

「「おおッー!」」

 ダミ声男の合図と同時に大勢の野盗たちがシュバルツ様へと襲い掛かる。

「……っく! っふ! はぁッ!!」

 襲い来る敵からの猛攻をシュバルツ様はなんとか後退しつつ剣で凌ぐも、あれではすぐにやられてしまうッ。

 どうしたらいいの!?

「ひゃっはーッ! 後ろがガラ空きだ、ったぜぇ!」

「【サンダーボルトッ!】」

 シュバルツ様は魔法で背後の敵にカウンターを喰らわす。

「ギャァアーッ!!」

 背後から迫っていた野盗の一人はその魔法で倒れた。

 が、しかし。

「オラオラ! てめぇの相手はまだまだいるぜ!」

「ぐ、くっ!」

 シュバルツ様の左右からは、止むことなく次々に賊が襲いかかる。

 シュバルツ様のサンダーボルトは上位魔法だけあって連発が利かない。一発打てばしばらくのリキャストタイムが必要。

 それに隙も大きいから大人数相手に不用意に放つのは危険でもある。

 どうしましょう……このままでは本当にシュバルツ様がやられてしまう……。

 こうなったら、また私の魔力を注ぐしかない。でも、敵が多すぎてそんな暇があるかわからないし、下手をすれば足手まといになってしまいそう。

 せっかくのデートの日になんでこんな……。

「っうぐ!? しまっ……!」

 次第に押され始めたシュバルツ様が、太もも付近をやや深めに斬られてしまい、態勢を崩してしまう。

 絶体絶命。

「シュバルツ様ぁーッ!!」

 私はいてもたってもいられず泣き叫ぶように馬車から飛び降りた、その時。

「「ぎゃあああああああああーーーーーーッッ!!」」

 突如、数人の野盗たちの叫び声が轟く。

 シュバルツ様の周りにいた、何人かの野盗はあちこちを切り刻まれるような傷跡を残して、その場に倒れ込んでいた。

「な、なんだ!?」

 ダミ声の男が辺りを見回した。

「あっぶねー。間一髪ってとこだったか」

 そう言って、木々の隙間からその姿を現したのは、なんとルーフェンであった。

「ルーフェン!? あ、貴方、どうしてここに……!?」

「あー、リフィル姉様、説明は後だ。とりあえずコイツら片付けちまうからよ。そうっすよね、シュバルツ殿?」

 ルーフェンは跪いていたシュバルツ様に手を差し伸べ、そう言った。

「だ、誰かは知らぬが助かった」

 シュバルツ様はルーフェンの手を取り、よろけながらも立ち上がる。

「俺はルーフェン。リフィル姉様の弟っす」

「お、弟? 確かにリフィルさんには歳の離れた弟がいるとは聞いていたが、キミはどうみても……」

「あーシュバルツ殿。面倒な説明は後でするんで、とりあえずこの有象無象を片づけちまいましょう」


 そう言って、ルーフェンとシュバルツ様は共に再び戦闘態勢を整えるのだった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

処理中です...