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第一部
12話 これから。
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アルカードの家族全員が揃ったところで本格的に今後についての話し合いがようやく進む。
現当主である弟のルーフェンが今後の話を取りまとめてくれた。
私がダリアス・マクシムスに婚約破棄された事により、このアルカード領への資金援助は間違いなく絶たれてしまう。
ルーフェンが言うには正直この一年、マクシムス家からの莫大な資金援助によってこのアルカード領の生活が豊かに改変されていったのは事実だったらしい。
それが今日以降無くなるとなれば、早々に対策を打たねばならないとルーフェンは言った。
私が申し訳なさそうに謝罪すると、
「馬鹿たれ」
とルーフェンに頭をコツンと叩かれて、
「好きでもないやつとこれまで我慢して一緒に居てくれただけでも充分だっつの。当時はお父様は動けないし、俺もルーラもガキだったからどうしようもなかったが、今なら違う」
と、自信に満ちた顔で私を励ましてくれた。
「そうです姉様ッ! 今ならルーラもこんなに強くなりましたッ!」
と言ってルーラは素手で居間の巨大な花瓶を叩き割って、またルーフェンに怒られていた。
マクシムス家の資金援助を軸にこれまでの領地運営をしてしまっていたツケは正直小さなものではない。
だが、それに頼りきりでは不味いと考えたルーフェンは類いまれなるその才能で自らを成長させ、ルーラもそれに便乗し、二人はアルカード領の為に頑張っている。
ルーフェンは今、アルカード領の領主として領民の状況、農作物の生産状況、領地の交易・商会状況、その他の生産状況、街道建設に関する開発状況などを常に把握し、適宜調整、追及、改善など行ない管理し、更には領民からの税のバランス、領地内の魔物退治など、あまりにも数多くの仕事をこなしている。
これらは今までフリックお父様がずっとこなしていた業務だったが、お父様でも手の行き届かなかった部分が多かったそうだ。
それを今やほぼルーフェンがひとりで賄っている。十年間異次元空間で過ごしたせいでマナーや諸々の勉強不足だと言っていたが、やはり彼は何をやらせても天才的だと私は思った。
更にはルーラについて。
彼女も実はとても頑張っていた事を聞かされた。
「実はルーラ、今、何でも屋さんと傭兵屋さんをやっているのですッ!」
ルーラはその優れた体術を活かして、冒険者ギルドに名前を登録し、臨時で傭兵や護衛業を引き受けたり、困りごとを解決したりしていたのだという。
そこで稼いだ賃金を生活に充てたり、領地繁栄の寄付金にしたりしていた。
加えて、獣の肉などもルーラが一人で狩りをして捕まえてきているらしく、アルカード家の台所事情は文字通りルーラ一人の手によってそのほとんどが賄われているのだそうだ。
「ルーフェンもルーラも凄いですわ……」
だから私も頑張らなきゃいけないと思った。
「リフィル姉様。すっげー嫌だろうけど、もう一回マクシムス家に行く勇気はあるか?」
と、ルーフェンに問いかけられた。
私がそれは何故と尋ねると、
「この婚約破棄はどう見ても不当だ。それだけじゃない、姉様を襲おうとした刺客たちについてだ。ダリアスが行なった事は歴とした犯罪行為に他ならない。俺は到底許す気にはなれん。だから俺はマクシムス家を訴える」
と、その表情をこわばらせて強い口調で言った。
「ただ証拠がない。そこで……」
そこでこの私が直接またマクシムス家に行って、今回の件を言及しに行って欲しいとルーフェンは言った。
私は意を決してそのルーフェンの提案を承諾。
私が蒔いた種でもある。出来る限りの事はしたい。
もちろん私ひとりでマクシムス家に行くわけではない。アルカード領の領主として、そして家族としてルーフェンもルーラも付き添ってくれるそうだ。
その会話の端で、
「その前に、俺も新しい上位魔法をもう一つだけ習得しておかないと駄目だな……。幸いまだ俺の魔力のキャパシティは増加傾向にある。この調子ならあと数日で……」
と、そんな事をぶつぶつとルーフェンが呟いていた。
とにかくそんなこんなで家族会議はひとまず無事に終わる。
「……ルーフェンたちの前ではああ言いましたけれど」
私は久々のアルカードのお屋敷、二階の自室。レーススクリーンのある天蓋ベッドの上でゴロン、と転がって一人ぼやいた。
「はあ……。実際、もうダリアス様にはお会いしたくはありませんわ……」
ダリアス様はとても横柄な性格だ。
これで私が彼の所に戻り、この婚約破棄は不当だし私の事を襲わせたのも犯罪だなどと糾弾したところで、素直に彼が言う事を聞くとは思えないし、逆上して何をしてくるかもわからない。
正直言って、怖いのである。
私の話を聞いてそれをわかっているからこそ、ルーフェンも付いてきてくれると言ってくれたけれど……。
でも私としては、もう何もしなくて良いと思っているのだ。
何故ならもう、ダリアス様は落ちぶれるのがほぼ確定的なんですもの。
そう、私の【魔力提供】が無くなったのだから。
でもそれは制約で誰にも伝える事ができない。
だからあの場では渋々ルーフェンの案に頷いたけれど、私としては何もせずにいれば良いと思っている。
「……でも、私だけそんなわがまま、駄目ですわよね」
また溜め息を一つ吐いて、ボフっと枕に顔を埋める。
とりあえずルーフェンの話では下準備やマクシムス家について事前調査もしておきたいと言っていたし、何も明日すぐに行動を起こすわけじゃない。
今日はもう色々ありすぎて疲れちゃったし、考えるのはやめよう。
そう思って瞳を閉じていくうちに、私はいつの間にか眠っていたのだった。
現当主である弟のルーフェンが今後の話を取りまとめてくれた。
私がダリアス・マクシムスに婚約破棄された事により、このアルカード領への資金援助は間違いなく絶たれてしまう。
ルーフェンが言うには正直この一年、マクシムス家からの莫大な資金援助によってこのアルカード領の生活が豊かに改変されていったのは事実だったらしい。
それが今日以降無くなるとなれば、早々に対策を打たねばならないとルーフェンは言った。
私が申し訳なさそうに謝罪すると、
「馬鹿たれ」
とルーフェンに頭をコツンと叩かれて、
「好きでもないやつとこれまで我慢して一緒に居てくれただけでも充分だっつの。当時はお父様は動けないし、俺もルーラもガキだったからどうしようもなかったが、今なら違う」
と、自信に満ちた顔で私を励ましてくれた。
「そうです姉様ッ! 今ならルーラもこんなに強くなりましたッ!」
と言ってルーラは素手で居間の巨大な花瓶を叩き割って、またルーフェンに怒られていた。
マクシムス家の資金援助を軸にこれまでの領地運営をしてしまっていたツケは正直小さなものではない。
だが、それに頼りきりでは不味いと考えたルーフェンは類いまれなるその才能で自らを成長させ、ルーラもそれに便乗し、二人はアルカード領の為に頑張っている。
ルーフェンは今、アルカード領の領主として領民の状況、農作物の生産状況、領地の交易・商会状況、その他の生産状況、街道建設に関する開発状況などを常に把握し、適宜調整、追及、改善など行ない管理し、更には領民からの税のバランス、領地内の魔物退治など、あまりにも数多くの仕事をこなしている。
これらは今までフリックお父様がずっとこなしていた業務だったが、お父様でも手の行き届かなかった部分が多かったそうだ。
それを今やほぼルーフェンがひとりで賄っている。十年間異次元空間で過ごしたせいでマナーや諸々の勉強不足だと言っていたが、やはり彼は何をやらせても天才的だと私は思った。
更にはルーラについて。
彼女も実はとても頑張っていた事を聞かされた。
「実はルーラ、今、何でも屋さんと傭兵屋さんをやっているのですッ!」
ルーラはその優れた体術を活かして、冒険者ギルドに名前を登録し、臨時で傭兵や護衛業を引き受けたり、困りごとを解決したりしていたのだという。
そこで稼いだ賃金を生活に充てたり、領地繁栄の寄付金にしたりしていた。
加えて、獣の肉などもルーラが一人で狩りをして捕まえてきているらしく、アルカード家の台所事情は文字通りルーラ一人の手によってそのほとんどが賄われているのだそうだ。
「ルーフェンもルーラも凄いですわ……」
だから私も頑張らなきゃいけないと思った。
「リフィル姉様。すっげー嫌だろうけど、もう一回マクシムス家に行く勇気はあるか?」
と、ルーフェンに問いかけられた。
私がそれは何故と尋ねると、
「この婚約破棄はどう見ても不当だ。それだけじゃない、姉様を襲おうとした刺客たちについてだ。ダリアスが行なった事は歴とした犯罪行為に他ならない。俺は到底許す気にはなれん。だから俺はマクシムス家を訴える」
と、その表情をこわばらせて強い口調で言った。
「ただ証拠がない。そこで……」
そこでこの私が直接またマクシムス家に行って、今回の件を言及しに行って欲しいとルーフェンは言った。
私は意を決してそのルーフェンの提案を承諾。
私が蒔いた種でもある。出来る限りの事はしたい。
もちろん私ひとりでマクシムス家に行くわけではない。アルカード領の領主として、そして家族としてルーフェンもルーラも付き添ってくれるそうだ。
その会話の端で、
「その前に、俺も新しい上位魔法をもう一つだけ習得しておかないと駄目だな……。幸いまだ俺の魔力のキャパシティは増加傾向にある。この調子ならあと数日で……」
と、そんな事をぶつぶつとルーフェンが呟いていた。
とにかくそんなこんなで家族会議はひとまず無事に終わる。
「……ルーフェンたちの前ではああ言いましたけれど」
私は久々のアルカードのお屋敷、二階の自室。レーススクリーンのある天蓋ベッドの上でゴロン、と転がって一人ぼやいた。
「はあ……。実際、もうダリアス様にはお会いしたくはありませんわ……」
ダリアス様はとても横柄な性格だ。
これで私が彼の所に戻り、この婚約破棄は不当だし私の事を襲わせたのも犯罪だなどと糾弾したところで、素直に彼が言う事を聞くとは思えないし、逆上して何をしてくるかもわからない。
正直言って、怖いのである。
私の話を聞いてそれをわかっているからこそ、ルーフェンも付いてきてくれると言ってくれたけれど……。
でも私としては、もう何もしなくて良いと思っているのだ。
何故ならもう、ダリアス様は落ちぶれるのがほぼ確定的なんですもの。
そう、私の【魔力提供】が無くなったのだから。
でもそれは制約で誰にも伝える事ができない。
だからあの場では渋々ルーフェンの案に頷いたけれど、私としては何もせずにいれば良いと思っている。
「……でも、私だけそんなわがまま、駄目ですわよね」
また溜め息を一つ吐いて、ボフっと枕に顔を埋める。
とりあえずルーフェンの話では下準備やマクシムス家について事前調査もしておきたいと言っていたし、何も明日すぐに行動を起こすわけじゃない。
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