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第一部

9話 リアナお母様とルーラ

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「うぇええええぇええぇーーーーんッ! リフィルちゃぁぁぁんんんんーーーッ!!」

 涙と鼻水で見るも耐え難い崩れまくった表情で号泣しまくっているのは、私のお母様であるリアナ・アルカード。

「辛かったわね……苦しかったわねぇ……ひっく……リフィルちゃんの辛さを想像すると、母様は……母様はぁ……ずず、ひっく!」

「お、お母様。わかりましたから、ちょっと離れてください! 何か鼻水なのか涙なのかよくわからない液体が大量に私のお洋服にこびりついているんですの!」

 ――アルカードの屋敷に戻ると、屋敷の正門前で出迎えてくれたお母様は、婚約破棄の事で顔面を真っ青にして落ち着きなく歩き回っていた。

 とりあえずお母様をなんとか落ち着かせて、屋敷の中、暖炉のある居間パーラーにて、私とルーフェンとお母様は、メイドさんたちが淹れてくれた紅茶をすすりつつ、ルーフェンがこれまでの事を全てわかりやすく簡潔にお母様に話した。

 そうしたらこれだ。

「ううぅっ! ううっ! リフィルちゃん……ごめんね、ごめんねぇ! まさかマクシムス家がそんな方々ばかりだったなんて、母様ちっとも気づけなくて……うぅ。ただでさえフリックさんがあんな事になってしまったというのに、これでもしリフィルちゃんまで死んじゃってたらなんて考えたら……うわぁぁーーーーーーんッ!!」

 お母様……そう思ってくださるのは嬉しいですけれど、泣き方が子供過ぎますわ……。

 あと、すりすり顔に頬擦りするのもやめて欲しいですわ……。もう色んなところがビチャビチャなんですけれど……。

「おい、お母様。ちっとばかしうるせえよ。少し静かにしろ」

 と、鋭い口調で窘めたのは弟だけど歳上になってしまったルーフェン。

「今は泣いてる場合なんかじゃねえだろ。今後の事について話す時だ」

「ああ……ルーくん……貴方は本当に逞しくなったわ……ほんの少し前までは、かけっこが大好きな悪戯っ子だったのに……」

 お母様の言う事は間違ってない。

 だって本当に一年前まではそうだったんだもの。

「母様は……ルーくんがこんなに逞しく、イケメンで、ちょっとニヒルな感じに育ってくれて嬉しい……はあはあ……フリックさんには悪いけど、母様、イケナイ恋に芽生えてしまいそう……きゅん」

 いや! お母様ぁッ! それは本当にやめて! マジで! 息子とイケナイ情事とか、性癖に問題ありすぎますからッ!

「冗談言ってる場合か。とりあえず落ち着け。俺から話す事も色々ある。だが二人とも、もう少しだけ紅茶でもすすって待っててくれ」

 ルーフェンが何か含みのある物言いをした。

「どうかしたんですの?」

 私が尋ねると、

「ルーラがもうすぐ帰ってくる。その時に家族会議といこう」

「そういえばルーラがおりませんわね。ルーラはどこに行ったんですの?」

「なんともまぁ、奇妙なタイミングだがな? アイツは今日精霊の森でテロメア様と初めての上位魔法の契約を結んでるところだ」

「え!? ルーラも!? だってあの子もまだ7歳ですわよね!? 7歳で上位魔法を覚えられるなんて、そんな天才はルーフェンだけかと思いましたけれど……」

 私は今15歳で後一年で成人の16となる。なのに覚えられた上位魔法は結局ひとつだけ。

 そんな私の弟、ルーフェンは実際なら今8歳、そして妹のルーラは7歳のはずである。

 ルーフェンは【先駆者ザ・パイオニア】という上位魔法で大人になってしまっているけれど。

「ルーくん。リフィルちゃんにまだ話していなかったの?」

 鼻水と涙を大量に垂れ流していたそのお顔をメイドさんにめっちゃふきふきされながら、お母様がそう言った。

「……まだ姉様にはまだ言ってなかったな」

「なん、ですの?」

 二人の会話にキョトン顔で私は尋ねた。

「実はな、ルーラは……」

 ルーフェンが説明をしようとしたその時。

 ドォォーーンッ!!

 と、すぐ近くに何かが落っこちてきたような震動と鈍い音が屋敷中に響き渡る。

「なな、なんですの!?」

 私が慌てていると、

「帰ってきたな……」

 ルーフェンが外を見て冷静に呟く。

 そして、玄関の大扉がガチャーンっと、勢いよく開かれる音がするや否や、バタバタバタバタッ! と激しい足跡がこの居間パーラーに近づく。

 そして。

「ちょっとッ! 姉様が帰ってるってホントなんです!?」

 そんな大声で現れたのは、私のよく知るルーラ。

 ……ではなくて。

「リフィル姉様ッ!!」

「え……え? まさかとは思いますけれど……え、ええ!?」

 私の頭はもはや理解が追いつかない。

 私の事を姉様と呼ぶ女の子の声。

 その声は間違いなく私の可愛い妹のルーラ。

 だけどその見た目は。

「ほ、本物……の……リフィル姉様ですぅーッ!」

 そう言って私のもとへと飛びついてきたのは、私よりも背の高い、細身で出るところはしっかり出ているスタイル抜群の、金色ロングヘアーがよく似合っている、軽鎧を装着している美女。

「ル、ルーラ……ですわよね?」

「うん! うん! そうです姉様! ルーラです! うわぁんッ! 帰ってきてくれて嬉しいですぅーッ!」

 ルーラも愛情表現たっぷりに私を抱きしめてくれた。

 ただ……妙にでかくなってしまっている胸部のアレがぐいぐいと押し当てられ、私よりも発育が良さそうなのが少しだけガッカリさせられた。

「もしかして、もしかしなくとも……?」

 私がルーフェンを見て問いかけると、ルーフェンはこくんと頷き、

「ああ、そうだ。ルーラにも俺の【先駆者ザ・パイオニア】を掛けちまってる」


 と答えたのだった。


 
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