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第一部
7話 デートのお誘い
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「リフィルさん、本当にここでいいのか?」
「はい。ここまで送っていただければ、もうあとは歩いてお屋敷に帰れますわ」
アルカード領の大街道沿いにある小さな村の入り口。
私はシュバルツ様にそこまで送り届けてもらっていた。
このカラム村は農業に重きを置いている小さな村だが、私の昔馴染みの村でもある。
ここから村の奥にある山道をある程度登れば、アルカードのお屋敷にすぐ到着する。
すでに時刻は夜に差し掛かろうとしていた。
お互い馬車を降りて、目も合わせずにお別れの挨拶をしている。なんとも気まずく、なんともふわふわした、不思議な気持ち。
あれからこのカラム村に着くまで、シュバルツ様とロクに話ができなかった。何か言わないと、と思っても顔が熱くなって、声が出なくて、結局何も言えなかったのだ。
せめてシュバルツ様の方から何か話してくだされば……なんていうのは私の甘えか。
「それじゃあリフィルさん。私はここで」
沈黙に耐えかねたのか、シュバルツ様が心なしかそのお顔を僅かに赤らめてポリポリと頬を掻きつつあさっての方向を見てそう言った。
本当にこのままお別れでいいの?
これでシュバルツ様とお別れしたら、もう会える機会もお話する機会も永遠に訪れないかもしれない。
それで本当にいいの? リフィル!
「あのッ!!」
考えるより早く声が出ていた。
「な、何か?」
シュバルツ様は私の突然の声掛けに驚いている。
言え。
今言うんだリフィル。
今聞かなければ、多分、きっと、二度とチャンスなんてない!
「シュ、シュバ……ルツ様は……ッ。そ、その……」
ああ、駄目だ。
頭がぐるぐる回る。
声が、言葉が紡げない。
「……ッ」
はー、はー。
心の中で、大きく深呼吸してみても言葉が出せない。
息が詰まってしまいそう。
私がそう思って固まりかけた時。
「リフィルさん。今日からちょうど七日後に、王都でパレードがあるのはご存知かな?」
「え? パ、パレード、ですの?」
「うむ。エリシオン王国の王宮設立記念日による祝賀パレードで、年に一度、必ず行われるのだ」
そんなの知らなかった。私がダリアス様と過ごした時間は、正確にはまだ一年経っていない。
それ以前にダリアス様やマクシムス家の者たちから、そんな話を教えてもらった事などなかった。
「そのパレードの時、たくさんの商人たちによる露店や屋台が開かれていて、珍しい物品や食べ物などが売られたりするのだ」
「そう、なんですの?」
「そ、それで、だね。こほん! ん……ひ、一人で……そ、の……見て回るのは、つまらない、というか」
なんだか今度はシュバルツ様の方が先程の私のようになっている気がする。
というより、明らかに体がカチコチに緊張している?
もしかしてこれって。
「もしかして、私をお誘いになってくださって……いますの?」
「うッ……あ、いや、その、えっと、あれ、パレードが……いや、な、なんだったか……そうそう。パ、パパ、パレードに、い、いい、一緒にその、あの……」
明らかに動揺している。
そんな彼を見て、逆に私は安心してしまった。
ああ、私だけじゃなかったんだ、と。
「嬉しいですッ!」
私は彼の目を見て、先走って返事をしてしまった。
「え?」
「私、シュバルツ様と一緒にパレード行きたいですわッ!」
今度は言えた。
シュバルツ様が緊張してくれたから、逆に私が言葉をちゃんと言えた。
「ほ、本当かい?」
「はいッ!」
私は満面の笑顔で頷く。
本当に、本当に凄く、凄く嬉しい。
「……ッ」
シュバルツ様は目を見開いて私の目を見た。
そしてしばし私の顔を見つめながら、その頬を更に赤らめていく。
「……? どうなさいました?」
「あ! い、いや! つい見惚れてしまって……」
見惚れる?
何をだろう。私の変なメイクかしら。
「す、すまない。それじゃあリフィルさん、私も今日のところは一度帰るよ。また七日後の日が一番登る頃に迎えに来ようと思う。お屋敷までの山道、気をつけて帰るのだよ」
「はいッ! シュバルツ様も気をつけて帰られてくださいましね」
「……っ」
シュバルツ様は私の目を直視する事ができなかったのか、顔を伏せてしまった。
「そ、それじゃあ!」
そう言って彼はまるで逃げるように馬車へと踵を返す。
どうしたんだろう、変なシュバルツ様……。
彼が引いている馬車が見えなくなるまで、私はシュバルツ様を見送った。
それにしても大変な……大変な事になってしまった!
あのシュバルツ様とデート、だなんて……。
思わず私は様々な妄想を浮かべてしまう。
えへ……えへへ……。
「なー」
パレードって言ったら、大勢の人がいますわよね。たくさんの人に見られちゃいますから、シュバルツ様が恥ずかしくないような格好にしないといけませんわ。
「なー」
それとメイクもアルカードのメイドにまた教わるか、もしくはやってもらいましょう! 自分ひとりじゃどうせうまくいかないし!
「なー」
昼間は楽しく二人で歩いて、お買い物して、お食事して、それから夜……? え? 夜までシュバルツ様とご一緒なのかしら!?
「なー」
よ、よよ、夜って言ったらアレですわよね? 愛し合う男女が二人きりと言ったらアレですわよね!? え? ど、どうしましょう。私、まだそういう経験ないですし、その、お作法とかもよくわからないですわよ!?
「なーってば!」
で、ででで、でもでも。そうなる可能性も充分ありえますわよね!? そうなっても良いようにちゃんと準備もしなくてはいけませんわ!
そして夜も更けていき、次第に二人は言葉を交わす数も減り、やがて彼がベッドの上へと私を押し倒して、それで……。
「イヤァァァーーーンッ! ま、ままま、まだダメですわシュバルツ様ぁーッ!」
「うおぉッ!?」
「ひゃあッ!?」
奇妙な男の声に思わず驚き、私は変な声をあげてしまった。
っていうか、え? この人、誰?
「な、なんだよ姉様。急にでかい声を出すんじゃねぇよ!」
「はい。ここまで送っていただければ、もうあとは歩いてお屋敷に帰れますわ」
アルカード領の大街道沿いにある小さな村の入り口。
私はシュバルツ様にそこまで送り届けてもらっていた。
このカラム村は農業に重きを置いている小さな村だが、私の昔馴染みの村でもある。
ここから村の奥にある山道をある程度登れば、アルカードのお屋敷にすぐ到着する。
すでに時刻は夜に差し掛かろうとしていた。
お互い馬車を降りて、目も合わせずにお別れの挨拶をしている。なんとも気まずく、なんともふわふわした、不思議な気持ち。
あれからこのカラム村に着くまで、シュバルツ様とロクに話ができなかった。何か言わないと、と思っても顔が熱くなって、声が出なくて、結局何も言えなかったのだ。
せめてシュバルツ様の方から何か話してくだされば……なんていうのは私の甘えか。
「それじゃあリフィルさん。私はここで」
沈黙に耐えかねたのか、シュバルツ様が心なしかそのお顔を僅かに赤らめてポリポリと頬を掻きつつあさっての方向を見てそう言った。
本当にこのままお別れでいいの?
これでシュバルツ様とお別れしたら、もう会える機会もお話する機会も永遠に訪れないかもしれない。
それで本当にいいの? リフィル!
「あのッ!!」
考えるより早く声が出ていた。
「な、何か?」
シュバルツ様は私の突然の声掛けに驚いている。
言え。
今言うんだリフィル。
今聞かなければ、多分、きっと、二度とチャンスなんてない!
「シュ、シュバ……ルツ様は……ッ。そ、その……」
ああ、駄目だ。
頭がぐるぐる回る。
声が、言葉が紡げない。
「……ッ」
はー、はー。
心の中で、大きく深呼吸してみても言葉が出せない。
息が詰まってしまいそう。
私がそう思って固まりかけた時。
「リフィルさん。今日からちょうど七日後に、王都でパレードがあるのはご存知かな?」
「え? パ、パレード、ですの?」
「うむ。エリシオン王国の王宮設立記念日による祝賀パレードで、年に一度、必ず行われるのだ」
そんなの知らなかった。私がダリアス様と過ごした時間は、正確にはまだ一年経っていない。
それ以前にダリアス様やマクシムス家の者たちから、そんな話を教えてもらった事などなかった。
「そのパレードの時、たくさんの商人たちによる露店や屋台が開かれていて、珍しい物品や食べ物などが売られたりするのだ」
「そう、なんですの?」
「そ、それで、だね。こほん! ん……ひ、一人で……そ、の……見て回るのは、つまらない、というか」
なんだか今度はシュバルツ様の方が先程の私のようになっている気がする。
というより、明らかに体がカチコチに緊張している?
もしかしてこれって。
「もしかして、私をお誘いになってくださって……いますの?」
「うッ……あ、いや、その、えっと、あれ、パレードが……いや、な、なんだったか……そうそう。パ、パパ、パレードに、い、いい、一緒にその、あの……」
明らかに動揺している。
そんな彼を見て、逆に私は安心してしまった。
ああ、私だけじゃなかったんだ、と。
「嬉しいですッ!」
私は彼の目を見て、先走って返事をしてしまった。
「え?」
「私、シュバルツ様と一緒にパレード行きたいですわッ!」
今度は言えた。
シュバルツ様が緊張してくれたから、逆に私が言葉をちゃんと言えた。
「ほ、本当かい?」
「はいッ!」
私は満面の笑顔で頷く。
本当に、本当に凄く、凄く嬉しい。
「……ッ」
シュバルツ様は目を見開いて私の目を見た。
そしてしばし私の顔を見つめながら、その頬を更に赤らめていく。
「……? どうなさいました?」
「あ! い、いや! つい見惚れてしまって……」
見惚れる?
何をだろう。私の変なメイクかしら。
「す、すまない。それじゃあリフィルさん、私も今日のところは一度帰るよ。また七日後の日が一番登る頃に迎えに来ようと思う。お屋敷までの山道、気をつけて帰るのだよ」
「はいッ! シュバルツ様も気をつけて帰られてくださいましね」
「……っ」
シュバルツ様は私の目を直視する事ができなかったのか、顔を伏せてしまった。
「そ、それじゃあ!」
そう言って彼はまるで逃げるように馬車へと踵を返す。
どうしたんだろう、変なシュバルツ様……。
彼が引いている馬車が見えなくなるまで、私はシュバルツ様を見送った。
それにしても大変な……大変な事になってしまった!
あのシュバルツ様とデート、だなんて……。
思わず私は様々な妄想を浮かべてしまう。
えへ……えへへ……。
「なー」
パレードって言ったら、大勢の人がいますわよね。たくさんの人に見られちゃいますから、シュバルツ様が恥ずかしくないような格好にしないといけませんわ。
「なー」
それとメイクもアルカードのメイドにまた教わるか、もしくはやってもらいましょう! 自分ひとりじゃどうせうまくいかないし!
「なー」
昼間は楽しく二人で歩いて、お買い物して、お食事して、それから夜……? え? 夜までシュバルツ様とご一緒なのかしら!?
「なー」
よ、よよ、夜って言ったらアレですわよね? 愛し合う男女が二人きりと言ったらアレですわよね!? え? ど、どうしましょう。私、まだそういう経験ないですし、その、お作法とかもよくわからないですわよ!?
「なーってば!」
で、ででで、でもでも。そうなる可能性も充分ありえますわよね!? そうなっても良いようにちゃんと準備もしなくてはいけませんわ!
そして夜も更けていき、次第に二人は言葉を交わす数も減り、やがて彼がベッドの上へと私を押し倒して、それで……。
「イヤァァァーーーンッ! ま、ままま、まだダメですわシュバルツ様ぁーッ!」
「うおぉッ!?」
「ひゃあッ!?」
奇妙な男の声に思わず驚き、私は変な声をあげてしまった。
っていうか、え? この人、誰?
「な、なんだよ姉様。急にでかい声を出すんじゃねぇよ!」
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