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6 崩れぬ岩 溶けぬ氷
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「カティア!」
「アーヴィング様!」
「聞いたか!?」
「聞きましたか!?」
カティアとアーヴィングは互いに頷き合う。
お互いほぼ同じタイミングで道の途中でバッタリ出会った。彼らの目的が同じだったからである。
「いったいどうされたのですルイス様は? あんなに仲良しだと思っていたのに突然このような!?」
「うー……すまん、カティア。俺がいらん事を言ったせいかもしれん」
アーヴィングが事の経緯をカティアに話すと、
「……やはりルイス様とお姉様は少し思考回路が独特ですわね。私たちも口喧嘩して別れ話みたいな事を勢いで言ったりはたまにしますけれど、今回のお姉様たちのはなんか違いますわよね。やばいですわよね」
「ああ。俺たちはただの口喧嘩だ。俺はカティアを一番に愛してる。喧嘩してお前なんかとは別れてやる! みたいな事を言ったりした時もあったけど、そんなのは口から出たでまかせに過ぎん。だが、あの兄様たちがこんな事になったのは初めてだ。どうしようカティア。このままじゃ俺、親父に殺される」
「んもう、情けないですわね。でも困りましたわ……このままだと、私たちのお父様やお母様もどんな騒ぎになるやら……」
「や、やっぱりまずいよな何か手を打たねえと……」
「こうなったら奥の手ですわ」
「おお!? 何か良い策があるのか!?」
「ええ。アーヴィング様、私たちも別れましょう!」
「は!? 何故だ!? 嫌だぞ俺は!?」
「演技ですわ演技。いいですか? 私たちも婚約破棄をすれば、お姉様たちが復縁せざるを得ません。お姉様たちが復縁したら、私たちも元に戻りましょう」
「な、なるほど……」
「でもそれだけじゃまた別れ話になってしまうかもしれません。なので、こう致しましょう」
と言ってカティアが打ち出した提案、それは――。
●○●○●
――数日後。王立学院隣の大宮殿にて。
今日は月に一度開催される月例舞踏会。16歳を迎えた淑女は今日という日がデビュタントとなる。
大勢の人がひしめきあう中、一際目立つ男女が二組あった。それは目を見張るような紳士と淑女のお似合いのカップルという意味合いもあるにはあるのだが、コレに至っての理由は単純なそれではない。
「おい……アレはどういう事だ?」
「いや、わからん……。マリアージュ家とグランドール家は頭でもおかしくなったのか?」
そんなざわめき、ヒソヒソ声が飛び交う。
何故なら、舞踏会場で目立つその二組はマリアージュ家とグランドール家のちぐはぐな状態のせいであった。
「俺でいいのかカティア」
「ええルイス様。もう私とアーヴィングも別れましたもの」
無骨な岩の男、ルイスのパートナーには妹のカティアが。
「リエラ……ほんっとうにすまない……」
「何を謝る事があるのですかアーヴィング様。私はむしろありがたいですわ」
氷の令嬢、リエラには弟のアーヴィングがパートナーになっていたからである。
これこそカティアが打ち出した作戦。パートナーを入れ替えてリエラとルイスの本心を引き出す作戦だ。
リエラとルイスはどう見ても相思相愛なのをカティアはよく理解している。ただお互いに愛という感情を鈍らせてしまっているのは刺激が足りないからだと思った。そこで互いに別のパートナーが舞踏会で共に居れば、嫉妬心から本心に気づくのではと考えたのである。
そしてパーティは開始され、食事や語らい、ダンスの時間が訪れる。
一斉に男女のペアで踊るワルツの時間だ。
そしてリエラの華々しいデビュタントはまさかのアーヴィングと踊る事となる。
小気味の良い音楽が流れ、ダンスが始まる。
アーヴィングは魔法は苦手だが歌やダンスといったリズム感を必要とするものは得意で、リエラをしっかりサポートし、素晴らしいダンスを披露して見せる。
二人のダンスをルイスと共に見ていたカティアは、チラリ、とルイスの様子を窺う。
「うむ。これでいい」
しかしカティアは誤算であった。
カティアをエスコートし隣にいるルイスは、何故か腕を組んで満足そうな顔をしているのだ。
カティアの予想ではこのワルツをアーヴィングと踊らせる事で、ルイスをやきもきさせてやろうという狙いがあったのに、全く効果がなかった。
「な、なあリエラ」
「なんでございましょう、アーヴィング様」
ワルツを踊りながら、アーヴィングとリエラは小声で会話する。
「さっきからその言葉づかい、やめないか?」
「私はただのいち男爵令嬢にすぎません。公爵令息にあたるアーヴィング様に失礼な言葉は使えません」
アーヴィングは頭を抱えたくなった。
(どう見ても怒ってるじゃんか……)
リエラの表情の変化は乏しくても、その態度はあからさまだ。
そもそも以前までリエラは、ルイスとアーヴィングにはもっと砕けた喋り方だった。
そしてこんな話し方をするのは初めてではない。彼女が何か気に入らない時にしかならない状態なのである。
「アーヴィング様!」
「聞いたか!?」
「聞きましたか!?」
カティアとアーヴィングは互いに頷き合う。
お互いほぼ同じタイミングで道の途中でバッタリ出会った。彼らの目的が同じだったからである。
「いったいどうされたのですルイス様は? あんなに仲良しだと思っていたのに突然このような!?」
「うー……すまん、カティア。俺がいらん事を言ったせいかもしれん」
アーヴィングが事の経緯をカティアに話すと、
「……やはりルイス様とお姉様は少し思考回路が独特ですわね。私たちも口喧嘩して別れ話みたいな事を勢いで言ったりはたまにしますけれど、今回のお姉様たちのはなんか違いますわよね。やばいですわよね」
「ああ。俺たちはただの口喧嘩だ。俺はカティアを一番に愛してる。喧嘩してお前なんかとは別れてやる! みたいな事を言ったりした時もあったけど、そんなのは口から出たでまかせに過ぎん。だが、あの兄様たちがこんな事になったのは初めてだ。どうしようカティア。このままじゃ俺、親父に殺される」
「んもう、情けないですわね。でも困りましたわ……このままだと、私たちのお父様やお母様もどんな騒ぎになるやら……」
「や、やっぱりまずいよな何か手を打たねえと……」
「こうなったら奥の手ですわ」
「おお!? 何か良い策があるのか!?」
「ええ。アーヴィング様、私たちも別れましょう!」
「は!? 何故だ!? 嫌だぞ俺は!?」
「演技ですわ演技。いいですか? 私たちも婚約破棄をすれば、お姉様たちが復縁せざるを得ません。お姉様たちが復縁したら、私たちも元に戻りましょう」
「な、なるほど……」
「でもそれだけじゃまた別れ話になってしまうかもしれません。なので、こう致しましょう」
と言ってカティアが打ち出した提案、それは――。
●○●○●
――数日後。王立学院隣の大宮殿にて。
今日は月に一度開催される月例舞踏会。16歳を迎えた淑女は今日という日がデビュタントとなる。
大勢の人がひしめきあう中、一際目立つ男女が二組あった。それは目を見張るような紳士と淑女のお似合いのカップルという意味合いもあるにはあるのだが、コレに至っての理由は単純なそれではない。
「おい……アレはどういう事だ?」
「いや、わからん……。マリアージュ家とグランドール家は頭でもおかしくなったのか?」
そんなざわめき、ヒソヒソ声が飛び交う。
何故なら、舞踏会場で目立つその二組はマリアージュ家とグランドール家のちぐはぐな状態のせいであった。
「俺でいいのかカティア」
「ええルイス様。もう私とアーヴィングも別れましたもの」
無骨な岩の男、ルイスのパートナーには妹のカティアが。
「リエラ……ほんっとうにすまない……」
「何を謝る事があるのですかアーヴィング様。私はむしろありがたいですわ」
氷の令嬢、リエラには弟のアーヴィングがパートナーになっていたからである。
これこそカティアが打ち出した作戦。パートナーを入れ替えてリエラとルイスの本心を引き出す作戦だ。
リエラとルイスはどう見ても相思相愛なのをカティアはよく理解している。ただお互いに愛という感情を鈍らせてしまっているのは刺激が足りないからだと思った。そこで互いに別のパートナーが舞踏会で共に居れば、嫉妬心から本心に気づくのではと考えたのである。
そしてパーティは開始され、食事や語らい、ダンスの時間が訪れる。
一斉に男女のペアで踊るワルツの時間だ。
そしてリエラの華々しいデビュタントはまさかのアーヴィングと踊る事となる。
小気味の良い音楽が流れ、ダンスが始まる。
アーヴィングは魔法は苦手だが歌やダンスといったリズム感を必要とするものは得意で、リエラをしっかりサポートし、素晴らしいダンスを披露して見せる。
二人のダンスをルイスと共に見ていたカティアは、チラリ、とルイスの様子を窺う。
「うむ。これでいい」
しかしカティアは誤算であった。
カティアをエスコートし隣にいるルイスは、何故か腕を組んで満足そうな顔をしているのだ。
カティアの予想ではこのワルツをアーヴィングと踊らせる事で、ルイスをやきもきさせてやろうという狙いがあったのに、全く効果がなかった。
「な、なあリエラ」
「なんでございましょう、アーヴィング様」
ワルツを踊りながら、アーヴィングとリエラは小声で会話する。
「さっきからその言葉づかい、やめないか?」
「私はただのいち男爵令嬢にすぎません。公爵令息にあたるアーヴィング様に失礼な言葉は使えません」
アーヴィングは頭を抱えたくなった。
(どう見ても怒ってるじゃんか……)
リエラの表情の変化は乏しくても、その態度はあからさまだ。
そもそも以前までリエラは、ルイスとアーヴィングにはもっと砕けた喋り方だった。
そしてこんな話し方をするのは初めてではない。彼女が何か気に入らない時にしかならない状態なのである。
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