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5 奔走の弟
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「お前に言われた事を気にしたのではない。俺は考えた。リエラにはもっといい男がいるのでは、と。俺は魔法や体術、剣術には絶対の自信を持っているが、リエラをエスコートする自信は確かにない。それはつまり俺がリエラを女として見れていないからだと判断した。結果、婚約を破棄するという選択が最も効率的で全ての者にとってプラス方向に働くと結論した」
いや、それ俺が言った事じゃん……と、アーヴィングは内心思いながらも、論点はそこよりも大変なところについてだ。
「兄様。それはリエラは納得してんのかよ? リエラは兄様の事を好きなんだぞ」
「何を言っているんだ貴様は。俺もリエラは好きだ」
「だったら婚約破棄なんてする必要がねえ!」
「馬鹿か貴様は。俺の話を聞いていなかったのか? リエラは好きだが女としては見れない。だから別れたのだ。少しは理解しろ馬鹿者め」
「ルイス兄様に馬鹿よばわりされたらいよいよ俺も終わりだわ。いや……ちょっと待て。なんか死ぬほど嫌な予感がするんだが、兄様、リエラになんて言って婚約を破棄したんだ?」
「女として見れないから別れると言った」
「馬鹿野郎ですかテメェは」
「おい、アーヴィング貴様。兄に向かっ」
「黙れぇぇぇぇえええええええええええッッ!」
結果がこれである。
しかし実際アーヴィングは困っている。
こんな事が厳格な父ディアルガに知れたら、間違いなくアーヴィングは半殺しにされてしまう。ルイスは物理的に強いので言葉でしか説教されないであろうが、アーヴィングは確実にボコボコにされるだろう。貴様が余計な事を吹き込むから、という理由で。
下手をすればリエラたちの父、ガラム騎士団長にも何を言われるかわかったものじゃない。
その凄惨な状況が目に浮かびアーヴィングは青ざめた。
「だが、どうだ? これでリエラはひとりになった。俺と別れた事でアイツはひとりになった。つまり、なんの遠慮もいらなくなったのだ。そうだろうアーヴィング」
何を言ってるんだこのクソ馬鹿は、とアーヴィングは呆れ顔でルイスを見た。
「おい、アーヴィング聞いているのか」
「聞いている! それじゃまずいだろうがッ」
「何故だ。これで万事解決だ」
「いや、だからリエラは納得してんのかよ!? リエラは兄様の事が好きなんだぞ!?」
「馬鹿め、アーヴィング、貴様の馬鹿め。リエラも涼しげな顔で了解したわ」
「く、くそ! リエラもそういやそうだった……ッ」
リエラといえば氷の令嬢と呼ばれるくらい、表情が変わらない、喜怒哀楽の薄い女だと言う事をアーヴィングも思い出していた。
だがアーヴィングはよく知っている。リエラは実は務めて表情を出さないようにしているだけで、実際はこの馬鹿なルイスよりもよっぽど感情を表に出しているという事を。
「俺の方がリエラをよく理解している。そうだろう、弟よ。ん?」
何故かわからないが妙に得意げな顔をするルイスに、超イラっとしながらもアーヴィングは頭をフル回転させ、とにかくすぐに行動しなくては、と思い、
「ちっくしょおおおお!」
涙目になって叫びつつ、アーヴィングは屋敷の裏庭から飛び出していった。
「……何を騒いでいるのやら、我が弟は。だがこれでアイツも満足であろう」
ひとり、うんうんと頷きながら満足げに腕を組むルイスだけがそこに残された。
いや、それ俺が言った事じゃん……と、アーヴィングは内心思いながらも、論点はそこよりも大変なところについてだ。
「兄様。それはリエラは納得してんのかよ? リエラは兄様の事を好きなんだぞ」
「何を言っているんだ貴様は。俺もリエラは好きだ」
「だったら婚約破棄なんてする必要がねえ!」
「馬鹿か貴様は。俺の話を聞いていなかったのか? リエラは好きだが女としては見れない。だから別れたのだ。少しは理解しろ馬鹿者め」
「ルイス兄様に馬鹿よばわりされたらいよいよ俺も終わりだわ。いや……ちょっと待て。なんか死ぬほど嫌な予感がするんだが、兄様、リエラになんて言って婚約を破棄したんだ?」
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「馬鹿野郎ですかテメェは」
「おい、アーヴィング貴様。兄に向かっ」
「黙れぇぇぇぇえええええええええええッッ!」
結果がこれである。
しかし実際アーヴィングは困っている。
こんな事が厳格な父ディアルガに知れたら、間違いなくアーヴィングは半殺しにされてしまう。ルイスは物理的に強いので言葉でしか説教されないであろうが、アーヴィングは確実にボコボコにされるだろう。貴様が余計な事を吹き込むから、という理由で。
下手をすればリエラたちの父、ガラム騎士団長にも何を言われるかわかったものじゃない。
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「だが、どうだ? これでリエラはひとりになった。俺と別れた事でアイツはひとりになった。つまり、なんの遠慮もいらなくなったのだ。そうだろうアーヴィング」
何を言ってるんだこのクソ馬鹿は、とアーヴィングは呆れ顔でルイスを見た。
「おい、アーヴィング聞いているのか」
「聞いている! それじゃまずいだろうがッ」
「何故だ。これで万事解決だ」
「いや、だからリエラは納得してんのかよ!? リエラは兄様の事が好きなんだぞ!?」
「馬鹿め、アーヴィング、貴様の馬鹿め。リエラも涼しげな顔で了解したわ」
「く、くそ! リエラもそういやそうだった……ッ」
リエラといえば氷の令嬢と呼ばれるくらい、表情が変わらない、喜怒哀楽の薄い女だと言う事をアーヴィングも思い出していた。
だがアーヴィングはよく知っている。リエラは実は務めて表情を出さないようにしているだけで、実際はこの馬鹿なルイスよりもよっぽど感情を表に出しているという事を。
「俺の方がリエラをよく理解している。そうだろう、弟よ。ん?」
何故かわからないが妙に得意げな顔をするルイスに、超イラっとしながらもアーヴィングは頭をフル回転させ、とにかくすぐに行動しなくては、と思い、
「ちっくしょおおおお!」
涙目になって叫びつつ、アーヴィングは屋敷の裏庭から飛び出していった。
「……何を騒いでいるのやら、我が弟は。だがこれでアイツも満足であろう」
ひとり、うんうんと頷きながら満足げに腕を組むルイスだけがそこに残された。
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