氷の令嬢と岩の令息 〜女として見れないと言われた令嬢と脳筋令息〜

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3 岩の令息

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「おい、アーヴィング」

「ルイス兄様か。どうした? こんな昼間からここに来るなんて珍しいじゃないか」

 無骨な顔でも、この物言いをしてくる時のルイスには何かあると察したグランドール家の次男、アーヴィング・グランドールは、魔力を練り上げていたその手を止めて振り返る。

「珍しいのは貴様だ。学院が休みの日にこんなところでいったい何をしている?」

 アーヴィングのいる場所。それはグランドールの屋敷の裏庭にある魔導鍛錬場であった。
 武に長けたマリアージュ家に対し、彼らは魔のグランドールと呼ばれ、グランドールの一族は皆、魔法の扱いに長けているのだが、中でもアーヴィングは魔法が不得手であった。

 不得手なら努力をすれば良いのだが、基本面倒くさがりなアーヴィングは努力を嫌い、魔法の訓練も疎かであった。つまりルイスの言う通り、魔法の訓練などいつもサボっているアーヴィングがこんな所にいる方が珍しいのである。

「見ればわかるだろう。ここは屋敷の庭で、魔導鍛錬場なんだから、魔法の訓練に決まっている」

「そうではない。何故、突然訓練など始めた? 貴様は魔法の訓練など学院の授業ですらサボるくらいに嫌いであろうが。コニー屋敷の従者から貴様がここにいると聞いた時は驚いたぞ」

「んー……まあちょっと、な。それよりなんだよ? 俺になんか用なんだろ?」

「うむ。俺はリエラと別れたぞ」

「あー、そうかよそうかよ。まーたリエラの話か。だいたいルイス兄様はいっつもリエラのアレがどーだのコレがあーだの、うるせえんだよ。その癖、俺が――」

「おいアーヴィング。話をちゃんと聞いているのか」

「聞いてる聞いてる。リエラとまた遊んできたんだろ? 楽しかったんだろ? でもデートじゃねえんだろ? で、今日はどうしたって?」

「聞いていないじゃないか貴様。俺はリエラと別れた、と言ったのだ」

「……ん? ……は?」

「別れた。婚約も破棄した」

「んー、すまんルイス兄様。俺は夢でも見てるのか? それとも兄様が俺に強力な幻術魔法でも掛けてんのか? 今、リエラと別れたって聞こえた気がするんだが」

「さっきから何度もそう言ってる」

 無骨な表情のまま、ルイスは鋭い眼光でアーヴィングを睨め付けるように言い放つ。

 アーヴィングはてっきりまたルイスのくだらない話なのかと流し聞きしていたのだが、想像の斜めというか遥か上を行きすぎる言葉が飛んできて、理解にだいぶ時間を要した。

 そして遅れる事数秒後。

「な、なにぃいいいいーッ!?」

 と、怒号をあげながらルイスの目の前に飛んできて、

「ば、ばばば、馬鹿か兄様!? いやいや、兄様お前は馬鹿か!?」

「おいアーヴィング貴様。兄に向かって馬鹿とはなんだ。不敬だぞ」

「はい、いつもなら俺が悪いです。すみません。ですが今日は悪くないです。何度でも言わせてください親愛なる兄様、お前様は馬鹿ですか?」

「おい、アーヴィング貴様。兄に向かって馬鹿ですかとはなんだ。敬語にしたからと言って、良いわけではないぞ」

「だあーーッ! んなこたぁどうでもいい! このクソ馬鹿兄様! なんでリエラと別れた!? っつーか婚約まで破棄するってのはどういう了見だ、おい!?」

「おい、アーヴィング貴様。兄に向かって、おい、とは」

「黙れッ! 相変わらず岩のような無骨な顔と言葉づかいしやがって! 前々からルイス兄様は馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、違ったな! 超がつく大馬鹿だったんだな!?」

「おい、アーヴィングきさ」

「やめろッ! それはもういい! 頭がおかしくなる! それよりなんでだ? なんでリエラと別れた!?」

「なんで、と言われても、俺がそうしたいからだ」

「どうしたんだよ!? まさか俺が前に言った事を気にしたのか!?」

「それは関係ない」

 と、ルイスもリエラに負けじ劣らじで表情を崩さず答えるが、長年の付き合いであるアーヴィングにはすぐわかった。

 ルイスは自分に言われた言葉を気にしているのだ、と。

 それなのにこの堅物は表情も変えずに関係ないと言い張る。

(馬鹿兄様め。そんなんだから岩みたいに頑固だって言われるんだ……)


 顔は整っているが、若干目つきが鋭く、いつもしかめっつらをしているので強面に見られがちなルイスは、巷で岩の令息、などと呼ばれているのである。



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