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1 女として見れない

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 ――いつかこんな日が来るだろうな。

 前々からそう薄々と勘づいていながらも、多少のショックを受けているリエラは、それでも務めて平静さを装う。

「すまないリエラ。俺にはキミを女として見れない」

 普段から寡黙で優しいルイスが、似合わない程に冷たい言葉でリエラへとそう告げた。

「だから私と婚約破棄したい、と言いたいのね? ルイス様」

「ああ」

 ルイスはリエラから目を逸らさず、まっすぐに見据えて答える。

(そっか……そういう事なら仕方がないよね)

 リエラは胸中で自身に言い聞かせるように思うと、

「わかりましたわ。婚約破棄、承ります」

「そうか。本当にいいのか?」

「だって、ルイス様が婚約を破棄したいのでしょう? それならば下位貴族である男爵令嬢の私ごときにそれを拒否する権利などありませんもの」

「……その言葉づかいはなんだ? キミらしくもない」

「婚約破棄をなさる、という事はルイス様とはもはや他人ですわ。ましてや公爵令息であらせられるルイス様に失礼など、できるはずありませんもの」

「俺は別にそんな事……会話ぐらい、いつも通りでいいだろう」

「良いわけがありませんわ。ご用事がそれだけでしたら、これにて私は失礼させてもらいますわ、ルイス・グランドール公爵令息様」

 リエラはあざといカーテシーで別れの挨拶をし、くるりとルイスに背を向け、すたすたと歩き出した。

「……こんな時でも、だな」

 相変わらずとは、リエラの表情が氷のように動かない事を言っているのだろう、と背後から聞こえる彼の呟きに対してリエラは勝手に察する。

(これで終わりね、私たちも。関係は家柄の付き合い上簡単には切れないだろうけど、それでももう明日からルイス様とは他人。でもこれで良かったのよね、きっと)

 リエラはそう自分に言い聞かせつつも、その表情を変える事はなく、しかし胸に込み上げる何かについては理解しようとはしなかった。


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