形容出来ない日々は…

桐生優斗

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お姉さん?もうそろそろ起きないとまずいですよ?」
 俺はいつも通りに、彼女を起こしてやる。いまだにこの部屋に寝具の類はこのベッドしかない…前に「いい加減買いませんか?」と言うと、彼女は「最近君なしで寝れる気がしない」なんて言い出すのだから…それ以上とやかく言う気力が湧かなくなった…まったく、どれだけ甘えん坊なのだろうか。と思わなくもないが、別に嫌じゃないしいいかと思うようにした。
「ううっあと五分」
 完全に寝ぼけてる。というか毎日言ってる気さえする。どうでもいいか…
「さっきもおんなじこと言ってたじゃないですか…」
「それに駄々こねてもだめです、朝ごはん食べる余裕無くなっちゃいますから」
「わかったわよ…。」
「はあ、まったく休日くらいはゆっくりしたかったのに」
「コーヒーは」
「いる」
「はいはい」
 そんな、雑な相槌を打ちつつコーヒードリッパーを取り出し淹れるための準備をする。
「ってか、今日って平日じゃなかったっけ」
「知らないわよ…休みなのは間違いない…はず」
「それなら、まあ別にしつこくは言いませんけど」
「そもそもとして先週の休みがつぶれたのが原因なわけだし」
 言われてみれば先週の意日曜日は休日出勤をしていた。
「にしても、やることがないわね」
コーヒーを啜りながら彼女が零す。
「今までは、休みに一気に片付けしてたけど…いまは、君がいるわけだしね」
 そう、俺がここに来たのが約半年前。あの時の部屋の面影はなく、きれいに整頓されている。
にしても、あれから半年か…あの日すべてがどうでもよくなり生にしがみつくことを捨てようとした日。我ながら勘定による思考放棄が雑にもほどがあるなと思う。
「どうかした?」
 と彼女が尋ねる。
「いや、時間が流れるのって早いものなんだなって」
「???」
「なんでもないです」
「それよりも、さっさと食べちゃいましょ朝ごはん」
「そうね」
「いただきます」
 トーストにマーガリンを塗りながら彼女が話かけてくる。
「ねえ、今日どっか出掛けない?」
「いや、でも俺今行方不明になってるんじゃ…」
「行方不明者のうち年少者のような自分で自分を救えないような子供なら警察は必死に探すでしょうけどね 実は、行方不明者の総数のうち三割は行方不明のままになってたりするのよ」
「それって」
「ま、そういうことよね 警察は家出した人間の捜索をするほど暇じゃない。事件性がないようなら、捜査なんてしてくれない」
「だから、行方不明者で見つからない人間が毎年のように出てくる」
 純粋に感心をしていて思わず黙りこくってしまっていた。
「なんでそんなことを知っているのかはさておき、なんで服買いに行くとき注意したんですか…」
「そりゃ、行方不明になったばっかりの人間なんて知ってる人からしてみれば印象に強いでしょ?」
「確かに」
「でも、半年も経てばみんな忘れるとまではいかないけれどそこまで意識もしなくなる」
「そうなれば、あとは適当に簡素な誤魔化しでもそれなりに通用するわ」
 説得力はたしかにある。俺もその立場なら忘れこそしないが、意識はしなくなるだろう。
「まっ、だから適当に眼鏡でもかければばれたりしない筈よ」
「後は君が一緒に来てくれるかだけどね」
と付け加える。
「そんな風に言われたら行くっていうしかないじゃないですか」
「さぁて何のことだかお姉さんわっかんな~い」
「なんなんですかそれ いい歳して」
「そんな淡々と言われると精神にくるからやめて」
「いや、ごめんて つい思わず心の声が」
「フォローになってない!」
 彼女のその反応に思わず笑ってしまう。それに釣られてお姉さんも笑う。
「ってことで、決まりね?そうと決まればさっさと朝食食べきって準備しましょ」
 当人が意識していたのかいなかったのかはわからないが、こうして、俺たちは、お出かけをすることになったのであった。
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