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しおりを挟む夏休みが終わり、以前と同じように見えて、違った毎日が始まった。
クラスでも部活でも顔を合わす日常は変わらないけど、俺は意識してあいつの親友をやめるようにした。いつも隣に座る癖。さりげなくタイミングを合わせて二人で教室を出ること。俺は跳躍、あいつは長距離とチームも違うのに部活帰りの時間を合わせること。
こうしてみると、あいつの特別になるために、これまで俺はなんという涙ぐましい努力をしていたのだろうと思う。
友人は辞めないと約束したのだから、勿論二人きりで話すことも、帰ることもある。そんなときは、さらりとした受け答えを意識する。あいつにとっての安全な友達になるために。
たまに部活終わりに、茅野が俺を待っているときがある。朝賀、ジュース飲もう。と、はにかんで言うのだ。
そんなときは飛び上がるほど嬉しくて、少し苦しい。
茅野の隣を常に陣取っていた俺がいなくなったことで、あいつの周囲は少しづつ様子が変わっていた。入学した当初とは違い、あいつの人となりはもう周囲に理解されている。顔はやたら良いが無口で嫌な奴ではなくなった。茅野と仲良くなりたい奴は男女問わずごまんといるのだ。
茅野の周囲に人がいる場面がちらほらと見られるようになって、部活がない日にどこかへ行こうと誘われているらしいところも見かけた。たまに俺以外の奴に笑顔を見せているときもある。あいつが楽しいのは喜ばしいことだ。友達なら喜ぶべきだ。
腹がねじれるような痛みは悟られないように、ただの友達の仮面をかぶる。
暦上は秋になっても、長くなった夏の残滓はまだまだ消えない。
俺は体育委員として、体育祭の準備に追われるようになった。休み時間も何かとやることがあった。決めるべきことを決め、調整する。藤崎もいつもの賑やかさに陰りが見えるほどやることが多い。
「疲れたぁー。ねぇ千尋。体育祭が終わったらみんなで遊びに行こうよ」
「別にいいけど、三上は呼ぶなよ」
「えぇーなんでよ」
藤崎は隙あらば三上と俺を会わせようとする。その度に俺は「ほんとに今は彼女とか興味ないから」と毎回答える。あんなに可愛くていい子なのに、何でなのと藤崎は不満げだ。
夏祭りから一月ほど経つが、彼女からは未だに連絡がくる。適当に返して終わらせるが、面倒だなというのが正直な気持ちだ。
体育祭当日は裏方として走り回った。
歓声が聞こえて、運動場を見ると、茅野が走っている。リレーだ。いつも通りの綺麗なフォーム。俺は当然のごとく、あいつに見惚れる。
俺と茅野の距離はそう単純なものではなくなっていて、お互いに許されるラインをはかりかねている。二人で歩くのは? 帰るのは? ここまでは大丈夫かと、遠慮がちに相手の反応を確認する。
何度か茅野の家に誘われたこともある。その度に俺は「今日は無理だな」と、決まってありもしない用事をでっち上げた。それが分かっているのか、茅野は寂しそうな顔をした。
俺たちを、京島が心配そうに見ているのが分かる。
茅野が一番にゴールテープをきり、ワッと歓声が上がった。クラスメイトが群がって、中心の茅野はされるがままになっている。俺はそれをぼんやりと眺めていた。
以前よりも随分と距離ができた。
これでいい。望んだとおりになった。そう思っているのも紛れもない俺の本心だった。
暑さもかなり和らいできて、空気の質が変わってきた。半袖から長袖に変わり、ふいに吹く風が涼しい。
この前の席替えで、茅野とは席が離れた。茅野は前方の席に、俺は後ろの方に変わった。この席からはあいつが視界に入りやすい。そうでなくても見てしまうというのに。
茅野の周りに数人が座って喋っている。俺はその様子をぼんやり眺めていた。
「あ、よく見たら茅野の目ってちょっと青いんだな」
「え? うわ、本当だー。綺麗」
「お前本当になんなの。イケメンすぎだろ、ずるいわ」
そこにいる奴らが代わる代わる茅野の瞳を覗き込んで盛り上がっている。茅野の腕に手を添え、顔を近づけて……
「千尋?」
「トイレ」
京島が心配している。でも堪えられそうになくて、俺は教室を出た。
あいつの瞳がほんの少し青いことは、俺が一番初めに気付いたんだ。努力家で、口下手で、笑うと可愛いのも。少し天然で、ずれた受け答えをしてしまうことも。何に対しても一生懸命で底抜けに優しいことも。全部、俺だけが知っていれば良いことだったんだ。
茅野に顔を近づけていいのは俺だけだ。やめろ。触るな。茅野に触るな。
大声で叫んでしまいたい。
でも友達はそんなこと言わない。
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