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11 友人の変化
しおりを挟む俺の友人、朝賀千尋に、彼氏ができたらしい。たぶん。
今日も朝から仲良く登校している疑惑の二人。よく見ると、リュックに色違いのストラップがつけてある。先週はなかったと思う。これは突っ込んでいいやつだろうか。お前ら、そんなベタなことするんだな。隠す気ないのかよ。
背が高く、若干目つきが悪いので怖そうだが、話してみると優しい千尋と、スタイルも顔面もちょっと別世界な茅野。二人が歩いていると目立つ。そのうえ独特の空気が漂っていて、何となく近付きづらい。しかもあいつらは距離が近い。そんなに顔を近づけて話す必要あるか? なんで一々触るんだよ。おい千尋。お前、俺といるときはそんなことしないだろうが。
千尋に声をかけると彼氏(仮)に嫌な顔をされるので、一定以上近付かないように歩く。あいつらが二人でいるときには声をかけない。これは早々に俺が学んだことである。
(あれは痛かったからな)
あの朝も、こんな風に二人で歩いていたのを見た。一週間以上拗れていた二人が仲直りしたと、あぁ良かったなと、何も考えずに俺は声を掛けて。いつもの調子で千尋を叩いたら、茅野が信じられない馬鹿力で俺の腕を掴みやがった。痛いとか言ったらなんだか負けた気がして、平気なふりをしたけど。
茅野は多分、俺が千尋、と下の名前で呼ぶのが気に入らないんだと思う。
(いや、名前で呼びたいならお前もそうしろよ)
お前が呼び方を変えられない理由など、俺の知ったことじゃない。俺と千尋は小学校からの友達で、ずっとそう呼んでいた。だからって、俺は別に千尋に友人以上の感情なんて持っちゃいない。お前だって分かってんだろうが。
茅野の性質の悪いところは、千尋に気付かれないように牽制してくるところだ。面倒くせぇ。嫉妬するならするで、堂々と嫉妬しろや。しかしもっと面倒くさいのは、茅野が自分の気持ちを自覚していないっぽいことである。
千尋のほうが茅野に惚れてるのは、割と早くに気付いた。
ことあるごとに茅野を見ているし、たまに凄く切なげな表情をしている、見てはいけないものを見てしまった、と思うぐらいに。恋というのは凄い。千尋は変わった。茅野と出会ってから、驚くような変化だ。
これまでの千尋は特定の誰かに拘ることはなかった。そんな千尋があんなに茅野にべったりくっついて、嬉しそうに笑うなんて。俺はびっくりだよ。
千尋は良い奴だ。面倒見がいいし、聞き上手だし、基本的に優しい。見た目もイケメンと言っていい部類で、お洒落だ。部活でも、周囲をまとめる力がある。ちょっと怖そうな印象はあるが、話してみたらみんなすぐに千尋を好きになる。昔から千尋の周囲には常に人がいた。
俺が茅野と話すようになったのだって、千尋があいつと仲良くなったからだ。茅野とはクラスも部活も一緒なのにあまり関わりがなかったが、千尋を通じて俺も茅野と交流するようになった。孤立していた茅野は、千尋をきっかけに、だんだんとクラスに溶け込むようになった。
茅野は正直、何を考えてるのかよく分からない奴だった。反応も薄いし、誰かとつるむよりも、一人でいたいタイプかと思っていた。いざ話してみるとただの不器用なやつだった。
茅野は基本的に無表情だ。こいつ表情筋がないんじゃないかと思っていたが、違った。慣れてきたら、今嬉しいんだな、とか、ちょっとウザがってるな、という程度の微妙な表情の変化が分かってきた。
特に笑顔はすごい。ぽやぽやと無防備に笑うあいつは、俺から見てもちょっと破壊力があった。しかもそのぽやぽやは、千尋の前だけ。そりゃ堪らんわな。これは千尋がやられても仕方がない。
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