君の恋人

risashy

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「それで、俺たちはさっき恋人になったわけだが、一体何をするんだろう」

 茅野の家で、俺たちは向かい合っている。壊れていたエアコンは修理されたのか、今日はちゃんと涼しい風が出ていた。
 茅野が出した議題は、恋人について、だ。こんなこと本気で話し合うつもりか、と思ったけど、どうやら茅野は真剣らしい。

「いまいち恋人というのが分からない。お前の良い恋人になれるように頑張りたいのに」

 そんなことも分からずに付き合おうとか言いだしたのかよ、こいつ。そういう俺だって、誰とも付き合った経験はないのだけど。一応俺は茅野の疑問に答える。

「……誰よりも一番連絡取り合ったり、一緒にいたり、時間が合う日に遊んだりするんじゃねぇの」
「それ、今までと変わらないだろ。今までだって、俺が一番一緒にいたのはお前だ」
「いや、恋人としてするんだから、ぜんぜん違うだろ」

 茅野はいまいち腑に落ちない、という顔になった。
 これだけきれいでモテるのに、茅野は今まで誰かと付き合ったことはないと言っていた。たぶん、人を好きになったこともないのだろう。だからこんな疑問が沸くのだ。

「手をつないだり、……キスとかさ。そういうこともするんだろ」

 恋人っていうのはそういうことだ。本当にお前、俺と付き合うつもりか。確認も込めて、俺は言った。
 俺は茅野の決断をどこか疑っていた。恋人になろうと言っても、実際に——異性に対して持つような感情を、こいつが俺に抱くはずがない。俺と違って。
 今だったら、何もなかったことにしてやれる。
 しかし茅野はそうか、そうだな。と納得したように頷いて、俺を見上げた。

「しよう。キス」
「えっ」
「恋人をするんだから、やろう」

 だから恋人をするって、なんだよ。急に進めようとすんな。ついていけねぇよ。
 茅野はじっと俺の顔を見た。多分、唇を。

 俺は固まって、茅野に釘付けになって動けない。茅野が音もなく顔を近づけてくる。やがて、唇が重なった。
 すごく柔らかい。重なったところから伝わる茅野の熱が、俺の胸をこれ以上ないほど熱くする。俺は今、茅野とキスをしている。そう思うと心臓が暴れるように動き出し、それがあんまりうるさくて茅野に気付かれやしないかと不安になった。
 茅野はゆっくりと唇をはなすと、微笑んだ。

「なんか、安心する」
「安心……?」
「いいな、キス。これからもしよう」

 初めてのキスなのはお互い同じだったはずなのに、茅野はあまりに俺と違った感想を持ったらしい。

 安心だと。俺とのキスで、こいつは安らぎを持ったという。

 俺とは正反対だ。茅野の顔がすぐそこにあって、こいつの赤い唇が俺と重なっていて、俺はもう心臓が出てくるんじゃないかと思うほどドキドキした。そして……嬉しいと思った。
 俺の戸惑いなんて気づいていない茅野は、満面の笑みを浮かべていた。


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