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丁度テストが始まって、部活もない。隣に座る茅野に目を合わせないように注意をする。何か言いたげに、茅野が俺を見ているのが分かる。
今日のテストが終わり、足早に靴箱へ向かう。後ろから足音が聞こえた。
「朝賀!」
校門を出て、歩道を歩いていても、ずっとついてくる。俺を呼んでいる。来るな。やめろ。俺を見るな。
「なんで止まってくれないんだよ。一緒に帰らないのか!」
「そりゃそうだろ。お前、昨日のことも覚えてないのかよ」
茅野は顔を真っ青にした。そんな顔をするなよ。
たしかに俺たちは毎日二人で帰っていたけど。あんなことを言ってしまったのに、もういつも通りでいられるわけがないだろ。
たまらず俺は走り出す。それ以上茅野は追いかけてこなかった。
テスト期間が終わり、通常授業が始まっても、俺は茅野を避け続けた。
クラスメイトはそんな俺たちに戸惑っているようだった。毎日べったりくっついていた二人が、急に話さなくなったのだから、そうなるだろう。
喧嘩したのか、仲直りしろよ。茅野のやつ、ずっとお前を見てるぞ。許してやれよ。
喧嘩じゃない。怒ってない。そう言っても、納得されない。部活では、最低限の用事があったら話す。茅野の目を見ないように。
そうして一週間以上が経った。少しは気持ちも落ち着いて、冷静に茅野のことを見られるようになってきた。
このままではいけないのは分かっている。茅野は何も悪くないのだ。俺が、親友でいられなくなっただけ。勝手にあいつを好きになってしまっただけ。
もう少し、もう少し俺の気持ちが落ち着いたら、きっとまた友達になれる。本当にごめん。俺は心の中で、茅野に詫びた。
「千尋。もしかしてお前、とうとう茅野に思いの丈をぶつけちゃった?」
昼休み、唐突に京島が言った。千尋というのは俺の名前である。こうやって俺を下の名前で呼ぶのは小学校から一緒の奴ら数人だけだ。その一人である京島はいつも通り、まるで昨日のテレビの内容を話すような調子で言った。
いつも昼に何となく集まるメンバーは、係の委員会やら部活の用事やらで、今日は二人だ。茅野は一人、自席に座っている。
京島の発言に、俺は口に含んでいた麦茶を吐き出しそうになったけど、何とかこらえた。
「おっ……お前、なに、言って……」
「安心しろよ。気付いてるのは多分俺だけだから」
「いや、なんのことだよ……」
「お前が茅野のこと、引くぐらい好きって話だけど」
京島は人を良く見ていて、色々なことに気が付く奴だ。俺とは長い付き合いである上に、部活も同じ。俺は否定しようとしたけど、こいつの確信を持った言い方に、多分無駄だと悟った。
「……そうだけどォ?」
「ははっ。やっぱなぁ。失恋かー。甘酸っぱ」
うるせぇ、とバシッと頭を小突く。京島は気にした様子もなく笑った。
「そんなに分かりやすかったか」
「うーん。ていうかさ、お前ら元々距離感おかしいんだよ」
「そうか?」
「はいはい、でたよ、自覚なし」
京島が言うには、俺が体育終わりに茅野の髪をセットしてやったり(だって茅野はいつも信じられないぐらい髪の毛が崩れるのだ)、茅野が俺の体を背もたれにして飯を食ってたり(背中が広くて丁度いいらしい)、何かと普段から俺たちの挙動を見ては「近っ」と心の中で突っ込んでいたらしい。
「振られるにしても、ちゃんと茅野と話したか? ほら、あいつ今もこっち見てる」
ひらひらと、京島が茅野に手を振る。茅野はパッと目をそらした。
「……」
「ほら茅野って、俺らといてもお前ばっかだったからさぁ」
てっきり両想いだと思ってた、と京島はのんびり言った。そんな訳ないだろ。
今日のテストが終わり、足早に靴箱へ向かう。後ろから足音が聞こえた。
「朝賀!」
校門を出て、歩道を歩いていても、ずっとついてくる。俺を呼んでいる。来るな。やめろ。俺を見るな。
「なんで止まってくれないんだよ。一緒に帰らないのか!」
「そりゃそうだろ。お前、昨日のことも覚えてないのかよ」
茅野は顔を真っ青にした。そんな顔をするなよ。
たしかに俺たちは毎日二人で帰っていたけど。あんなことを言ってしまったのに、もういつも通りでいられるわけがないだろ。
たまらず俺は走り出す。それ以上茅野は追いかけてこなかった。
テスト期間が終わり、通常授業が始まっても、俺は茅野を避け続けた。
クラスメイトはそんな俺たちに戸惑っているようだった。毎日べったりくっついていた二人が、急に話さなくなったのだから、そうなるだろう。
喧嘩したのか、仲直りしろよ。茅野のやつ、ずっとお前を見てるぞ。許してやれよ。
喧嘩じゃない。怒ってない。そう言っても、納得されない。部活では、最低限の用事があったら話す。茅野の目を見ないように。
そうして一週間以上が経った。少しは気持ちも落ち着いて、冷静に茅野のことを見られるようになってきた。
このままではいけないのは分かっている。茅野は何も悪くないのだ。俺が、親友でいられなくなっただけ。勝手にあいつを好きになってしまっただけ。
もう少し、もう少し俺の気持ちが落ち着いたら、きっとまた友達になれる。本当にごめん。俺は心の中で、茅野に詫びた。
「千尋。もしかしてお前、とうとう茅野に思いの丈をぶつけちゃった?」
昼休み、唐突に京島が言った。千尋というのは俺の名前である。こうやって俺を下の名前で呼ぶのは小学校から一緒の奴ら数人だけだ。その一人である京島はいつも通り、まるで昨日のテレビの内容を話すような調子で言った。
いつも昼に何となく集まるメンバーは、係の委員会やら部活の用事やらで、今日は二人だ。茅野は一人、自席に座っている。
京島の発言に、俺は口に含んでいた麦茶を吐き出しそうになったけど、何とかこらえた。
「おっ……お前、なに、言って……」
「安心しろよ。気付いてるのは多分俺だけだから」
「いや、なんのことだよ……」
「お前が茅野のこと、引くぐらい好きって話だけど」
京島は人を良く見ていて、色々なことに気が付く奴だ。俺とは長い付き合いである上に、部活も同じ。俺は否定しようとしたけど、こいつの確信を持った言い方に、多分無駄だと悟った。
「……そうだけどォ?」
「ははっ。やっぱなぁ。失恋かー。甘酸っぱ」
うるせぇ、とバシッと頭を小突く。京島は気にした様子もなく笑った。
「そんなに分かりやすかったか」
「うーん。ていうかさ、お前ら元々距離感おかしいんだよ」
「そうか?」
「はいはい、でたよ、自覚なし」
京島が言うには、俺が体育終わりに茅野の髪をセットしてやったり(だって茅野はいつも信じられないぐらい髪の毛が崩れるのだ)、茅野が俺の体を背もたれにして飯を食ってたり(背中が広くて丁度いいらしい)、何かと普段から俺たちの挙動を見ては「近っ」と心の中で突っ込んでいたらしい。
「振られるにしても、ちゃんと茅野と話したか? ほら、あいつ今もこっち見てる」
ひらひらと、京島が茅野に手を振る。茅野はパッと目をそらした。
「……」
「ほら茅野って、俺らといてもお前ばっかだったからさぁ」
てっきり両想いだと思ってた、と京島はのんびり言った。そんな訳ないだろ。
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