1 / 22
1
しおりを挟む真夏に近付いた季節の教室は、うんざりするほど暑い。
もう少し暑くなればエアコンが入るらしい。まだその時が来ていない教室では、窓を開け、下敷きをうちわ代わりにしながら何とか暑さをやり過ごすしかない。
例にもれず俺も下敷きをぱたぱたと扇ぎながら、隣の席に座る男に目線をやる。俺はこんなに汗だくなのに、こいつはなぜこんなに涼やかなのだろう。実は見えない壁で仕切られて、この男の周りにだけ涼しい風が吹いているのだろうか。
俺の視線に気付いた男——茅野は、ふわりと微笑んだ。
色素の薄い茅野の目は、グレーにほんのりと青みがかった不思議な色をしている。俺はこの瞳が大好きだ。整った顔に映える茅野の色。何の変哲もない俺のこげ茶の目と、茅野が見ている景色は果たして同じなのだろうか。
茅野は一年のときから、高校の中で目立つ存在だった。
端正な容姿で、スポーツ万能。しかし無口で、何を考えているか分からない男。強烈に周囲の目を引き、気になる存在。誰も彼に近付けない。男どもは皆僻み半分で、あいつは俺たちを見下してるんだ、なんて言い合っていた。
でも茅野はそんな奴じゃなかった。俺が最初に気付いたんだ。誰よりも早く。
今日も茅野は女子から呼び出しを受けている。あれは隣のクラスの坂本だ。クラスメイトの友人たちは「さすがに坂本なら付き合うんじゃねぇ?」「めっちゃ可愛いもんなぁ」と好き放題言い放題である。
茅野に近付こうと試みる女子は多い。あいつが機会を伺っては話しかけられている場面をよく見る。でも当の本人はそういうことに疎い様子で、彼女たちは誰も茅野の特別にはなれない。
茅野の隣にいるのはいつも俺だ。俺だけが茅野の特別だ。お前らはニコイチだな、と言われることは一度や二度ではない。学校でも、部活や休日も俺たちはいつも一緒だ。
渡り廊下で昼飯を食べていると、泣きながら走る坂本が見えた。茅野に振られたんだろう。それを見た友人は「あんな可愛い子でも駄目なのかよ、あいつ。信じらんねぇ」と呟いた。
次に来たのは茅野だ。俺はじっとあいつを見る。
上からクラスメイトが自分を見ていることに気付いた茅野が顔を上げた。周囲の友人たちが「上がって来いよ!」と囃し立てている。
茅野は俺を見ている。俺を見て、口元をほころばせている。
俺はたまらず腕を覆い自分の顔を隠した。周囲にいる友人たちに緩んだ顔を見られないように。周囲にたくさん友人がいる中で、茅野が俺だけを見ている優越感に浸っていることを、誰にも気付かれないように。
「朝賀、俺の家こないか。テスト勉強しよう」
「そうだな、行く」
中間テストがあるから、今週は部活が休みだ。学校の帰り道、茅野が俺を誘う。
今日は家にアイスがあるんだ、一緒に食べよう、と弾んだように言うと、俺を見てまた笑った。
なんでお前は俺にだけ笑うんだろう。これは勘違いじゃない。お前、他の奴らにはこんな風に笑わないだろ。無口なはずのお前が、俺にだけは口数が多くなる。俺はその事実に、親友だからという理由以外の原因を見出したくなるんだ。
友人は茅野に、朝賀とばっかり遊んでないでもっと女の子と話してみろよ、とからかう。
ふざけるな、と言ってしまいたい。茅野の特別は俺だけでいい。他にそんな存在、作らせてたまるか。
でも普通の親友はそんなこと言わない。
70
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

透きとおる泉
小貝川リン子
BL
生まれる前に父を亡くした泉。母の再婚により、透という弟ができる。同い年ながらも、透の兄として振る舞う泉。二人は仲の良い兄弟だった。
ある年の夏、家族でキャンプに出かける。そこで起きたとある事故により、泉と透は心身に深い傷を負う。互いに相手に対して責任を感じる二人。そのことが原因の一端となり、大喧嘩をしてしまう。それ以降、まともに口も利いていない。
高校生になった今でも、兄弟仲は冷え切ったままだ。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
天獄パラドクス~夢魔と不良とギリギリライフ
狗嵜ネムリ
BL
【学園BL】我儘不良と平凡DK、それから時々インキュバス?少し不思議なラブコメBL
平穏な日々を望みながら、無自覚にフェロモンを放ってしまう主人公・炎樽(ほたる)。
そんな炎樽を愛してやまない喧嘩無敗の暴れん坊・天和(たかとも)。
昼休みの度に男達から追い回される日々に悩む炎樽の元に、ある日突然、インキュバスの青年が現れて……。
落ちこぼれ夢魔と二人の男子高校生を中心に広がる、トラブルとファンタジーに溢れたハッピーな学園ラブコメBLです。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。

楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる