モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy

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ペットではなく

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 アルヴィン・クラッセンとローランド・グラフトンが恋仲らしい——。

 そんな話が王宮を駆け巡って、早数か月。最初は好奇の目を向けられることもあったものの、だんだんと俺たちが二人で過ごしている光景が日常のものになると、それも減っていった。次々と出現する目新しい話題に人々の関心は移っていっている。

 今でも俺は相変わらず落ちこぼれ魔術師だけど、変わったことがある。
 毎日毎日褒めちぎられ、愛を囁かれていると、俺にも少しづつ自尊心というものが芽生えてきた。アルヴィンのような人にこれだけ愛されるのだから、俺ってそんなに駄目な奴ではないのでは、と思えるようになったのだ。

 俺の中に生まれたほのかな自信は、普段の立ち振る舞いも変えたらしい。徐々に周りの反応も変わり、魔術師団は前ほど居心地の悪い場所ではなくなった。俺が使えない魔術師であることは変わらないのに、不思議なものだ。
 魔術師としての力量は変わらないのに、同僚から疎んじられていたのは、なぜだったのだろう。

「前のローランドはさ、何を考えているのか分からなかったからな」

 ふと漏らした俺の疑問に、団長が答える。

「そうですか?」
「魔術師団にいる以上、公にできなくても、お前が何らかの突出したものを持っているのは皆分かっている。でもお前、変にへりくだるだろ。そういう態度に苛つかれてたんじゃないか」
「……俺が出来損ないだからだと思っていました」
「魔力が少なかろうが、お前が王宮魔術師であることは確かなんだ。卑屈になるより、自信満々に俺は有能だ、という顔をしていた方がいい」
「そうですか……」
「俺はお前を出来損ないだと思ったことはないぞ。だからこそ、お前が行方不明になったときも、ローランドなら生き延びているだろうと確信していた」
「団長……」
「まぁでも、今はかなり自信がついたみたいじゃないか。アルヴィンのおかげだな」

 団長の若干冷やかすような口調に、俺の顔は赤くなる。

「はは、順調そうで何より」



 アルヴィンとは恋人になろうと言い合った訳じゃない。でも頻繁に会って、何でもないことを話して、触れ合ったりするのだから、恋人なんだろう。

 今日もアルヴィンの家で過ごしていると、ここで初めて目が覚めたときに入れられていた籠が目に入った。あのクッション、寝心地が良かったんだよなぁ。

「俺、アルヴィンのペットでいる間、本当に幸せだった」

 シトリンとして過ごしたアルヴィンの部屋。置いてあるもの全てが懐かしく、どうしてもあの数日間を思い出してそんなことを呟いてしまう。

「そうだったのか」
「うん。ただただアルヴィンに愛でられて、喰って寝て。それだけでいい生活って最高だったなぁ」
「……別に人間のまま、そうしていいけど?」

 そのまま、ぼす、とベッドに沈められる。

「この部屋でずっと、喰って寝て、俺に愛でられて、そうやって過ごすか?」

 アルヴィンの瞳が何だか剣呑な色で光っている。やばい。こいつ、ちょっとマジで言っている。俺は慌てて起き上がった。

「それは人として、ちょっとどうかと思うので、遠慮します」
「ふっ。そうか」

 若干ビビっている俺に、アルヴィンはちょっと噴き出した。そういう分かりにくい冗談はやめてほしい。
 アルヴィンは俺の髪を、シトリンのときと同じように、優しく撫でる。
 いや、同じじゃない。全然同じじゃない。アルヴィンはシトリンをこんな風に見なかった。愛してるなんて、言わなかった。
 俺がローランドだから、そうしてくれるんだ。

「アルヴィン。俺を好きになってくれて、ありがとう」

 意外そうにアルヴィンは俺を見て、心底嬉しそうに笑った。そのままじっと見つめ合って、キスをした。

(やっぱりペットは嫌だな)

 ペットのモフモフでもなく、友人でもなく。今みたいに恋人として、これからもこの人の隣にいたい。

 夢のペット生活を経験してから、こんな風に思うなんて不思議だ。
 こんなこと、照れくさくて言葉にできるのはいつか分からない。

 俺は衝動のまま、猫のように彼の胸に顔を埋めたのだった。



〈了〉
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感想 4

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みんなの感想(4件)

なっぱ
2025.01.23 なっぱ

面白かったです!!
自己肯定感が低くても、自分の軸を持っていたり、自分なりに頑張っている姿は誰かが見てくれてる、というのをこの作品全体に感じました。
ただのBLというのに留まらない作品だなと思います。
人間愛、そういうものを感じました。
生きていたら、頑張っていたら、何かいいことがあるんじゃないか?理想論ですけれども、そう思わせるような作品で、生きる気力を貰った気がします。
これからも作品作り、頑張ってください!

2025.01.25 risashy

嬉しい感想本当にありがとうございます!!
ローランドとアルヴィンはお互いの存在がお互いの救いになっていたんですね。
結ばれた後は2人とも自信を持って人生を歩んでいけると思います。
亀更新ですが、書き続けていきたいと思っています。お読みいただき、お言葉まで頂き本当にありがとうございました!!

解除
雪川
2024.07.16 雪川

こんにちは。
ずっとローランドもアルヴィンも可愛らしい中で、ネコチャンのシトリンであることを通して、2人とも癒されたり心の中を整理したりして通じ合っていくところが素敵で、こちらまで癒されました。
愛らしい物語で、ほっこりしました。2人ともお幸せに……🥰

2024.07.17 risashy

素敵な感想ありがとうございます(;;)
自己評価が低いローランドと彼を愛するアルヴィンが互いに距離を縮めて幸せになるところを表現したいと思っていたので、そのように言っていただければとても嬉しいです!
とても喜んでいます。本当にありがとうございます(*´ω`*)

解除
みき
2024.07.13 みき

本当に色々BL作品を読んできましたが、こちらは最高でした!!不安になる事もなく一気に読ませていただきました!
じんわり暖かくて、ほっこり優しい気分になりました。
また他の作品も読ませていただきますね!陰ながら応援しております。素敵な作品ありがとうございました!!

2024.07.14 risashy

ものすごく嬉しい感想、ありがとうございます(;;)
たくさんBLを読んでこられた中で最高と言って頂けたら作者としてこれ以上に嬉しいことはありません。
基本的に小説家になろうに投稿しているのですが、ちょっとづつアルファポリスにも転載していこうと思ってます(*^^*)
またお読み頂けたら嬉しいです!

解除

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