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女の悔恨はその地へと

第四十話

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稗田との距離が段々と縮まり、俺は彼女の肩を掴み、そのままこちらへ引っ張り後ろを振り向かせる。

多少なりとも身長差があった為、俺達はそのまま体勢を崩し、俺は稗田を庇ったかのような形で仰向けに倒れた。

「いっ…て…」

背中と腕を思い切り打った。だが、そのおかげで頭は打たずに済んだみたいだ。

『あおい、だいじょうぶ?』

さしもの狐達も俺を心配して顔を覗き込んでくる。

その言葉に、ああ、と返して稗田を抱きかかえながら身体を起こす。

稗田の身体を上から下まで、下から上までと見るが外傷はなさそうだ。その事にほっとして息を吐く。

だが、表情が見えなくて何故か不安になってしまい、彼女の両頬に手を添え、上向かせた。

思わず息を飲んだ。

彼女の目には光は全く映ってなど居ないのに、緑色だけが異様に輝いて見えた。その目が、美しいと思った。

俺はふと違和感に気付いた。

彼女の目の緑色が、最初に会った時とは、何だか違う輝き方をしている事に。

不思議に思ってじっと彼女の目を見ていると、唐突に呆れたような声が俺の耳朶を、脳を刺した。

『何イチャついてんですか』

俺は肩をびくりと跳ねらせ、その声の主、恐らく女を探した。だが、その女は何処にも居なかった。

『だれだ!』

『でてこい!』

狐達が威嚇する。

俺は警戒して、稗田を護るように構え、素早く視線を滑らせる。

どこだ、どこにいる

そんな俺達の様子をどこからか見ているのか、さも可笑しそうにクスクスと笑った。

「何が可笑しい!」

俺はつい苛立ち、声を荒らげる。

『可笑しい、可笑しいですよ、そりゃ』

その声は笑いを含んだかのような言い方だった。

『貴方がたは周囲の人間、妖にどれだけヒントを貰っていても全く気付かない。まあ、彼らが意図的に隠しているのもあるでしょうけど。でも、情けないですねぇ?授けられた加護も、携えられた使命も忘れて、貴方は飄々と其処にいる。本来貴方は並んで歩けるような地位では無いのに』

なんだ、なんなんだ、どういうことだ

次々と指し示される新たな情報に俺は頭を抱える。

『っ!おまえはだれだ!』

『なをなのれ!!』

狐達は珍しく激昂していた。

その様子も女には可笑しいようで、ふふ、と笑って名を告げた。

『私は、“鴉”と申します』
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